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2020年04月24日

東京都庭園美術館 その一

目黒駅から目黒通りを清正公前交差点、つまり、目黒通りの出発点に向かって歩き出すと、東京都庭園美術館が見えてくる。
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東京都庭園美術館について、米山勇氏(建築史家)が「ア―ル・デコの結晶 東京都庭園美術館」(日本経済新聞「夕刊文化」2018年8月1日)で以下のように解説している。
≪まず訪れたいのが、東京・白金台にある東京都庭園美術館だ。もと朝香宮鳩彦王夫妻の邸宅として1933年に竣工した建物で、25年にパリで開かれ、朝香宮王自身が訪れた「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(通称「アール・デコ博」)の世界を日本で再現した本格的なア―ル・デコ建築である。
玄関正面に待ち受けるガラス・レリーフ扉はルネ・ラリックの作品。翼を広げた4人の女
神が迎える日本近代建築史上もっとも官能的な玄関である。受付を通ってアンリ・ラパンのデザインによる大広間(第一展示室)へ。イタリア産大理石の暖炉とフランス製の鏡によって格調高く仕上げられたこの空間では、白熱球を差し込んだだけの無造作ともいえる照明が4列×10行も繰り返され、独特の陶酔感をもたらす。建築の工業化を背景としたア―ル・デコの「繰り返しの美学」の真骨頂である。
大広間の南側には次室(つぎのま)が配される。中央に立つのはフランス・セーブル社製の香水塔(ラパン作)。金でふちどられた渦巻きの装飾が、典型的なア―ル・デコ。続く大客室(第2展示室)は、建物の中でももっとも華やかな空間だ。シャンデリアはラリック作の「ブカレスト」。
放射状に広がる鮫(さめ)の歯のような表現が、玄関扉の女神像の背景と呼応している点を見逃してはならない。大広間との境に設けられたガラス扉は、ア―ル・デコのパタ―ンをエッチングしたもの。マックス・アングランの作で、ア―ル・デコのもっとも先端的な表現だ。
2階は朝香宮ご家族のための部屋が連続する。それらは一部を除いて戦前の建築精鋭集団、宮内省内(た)匠(くみ)寮の仕事である。まず目を引くのが階段手摺(てす)り子のグリル装飾。フランス人による繊細なア―ル・デコとはひと味違う骨太の存在感がある。鳩彦殿下の書斎と御居間は、この階でラパンが手がけた数少ない空間だ。とくに居間は、各部の精緻なデザイン、ヴォ-ルト(かまぼこ型)天井に合わせて弧を描く鏡と暖炉、古典的なペア・コラム(2本一組の円柱)の柱頭に施された真鍮(しんちゅう)の細工など、ア―ル・デコならではのデザインが随所にちりばめられている。ア―ル・デコに惹(ひ)かれた主(あるじ)にラパンが捧(ささ)げた最高の贈物だろう。

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一方、允子妃殿下の御居間は宮内省内匠寮の仕事だ。鳩彦殿下の御居間と同じくヴォ-ルト天井を採用し、両者のつながりに配慮している。全体的に華美さを抑え、和風の感覚をとり入れた優しい空間で、収納スペースも他の諸室に比べて多い。庭園に向かって開かれたバルコニーも心地よく、「住みよさ」に深く配慮した設計がなされている。建物の竣工後、わずか半年で亡くなられる妃殿下へのつくり手の思いが感じられる感銘深い一室だ。
ラパン、ラリック、ブランショ、アングラン、シューブといったフランス人芸術家たちの競演。そこに日本の誇る精鋭集団、宮内省内匠寮が参戦し、建物はア―ル・デコの一大コロシアムと化す。鑑賞の対象としての美術館では群を抜く存在だ≫

投稿者 Master : 2020年04月24日 09:29

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