« 2011年04月 | メイン | 2011年06月 »
2011年05月19日
2011年5月20日 日本人が豊かになるためには・・・その二
YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年5月20日 日本人が豊かになるためには・・・その二
5月5日号の概要
前号に続きます。前号ではサンフランシスコのベンチャービジネス起業家が、インドに住むインド人に業務を移したことで、アメリカの内需が減るという事と、カリフォルニア・ワインづくりは手作業で、それに要する人件費が地元の人々に給料として支払いされるので、アメリカの内需に結びついて行く。というのが前号の概要でした。
労働生産性の誤解
サンフランシスコに行く前に、50万部ベストセラー「デフレの正体」の著者である藻谷浩介氏の講演を聞き、その後著書を改めて読み成程と思うところが多かった。
まず、藻谷氏は労働生産性への理解が誤解されていると主張する。
日本の経営者は労働生産性を上げるために、人件費を削減する省力化作戦を、労働生産性アップの切り札だと信じ込んでいるが、これが実は問題だとも言う。
経済学での労働生産性とは、労働者一人あたりにつき、どれだけの付加価値を生み出したかどうかを測る尺度のことで、これは「付加価値生産性」とも呼ばれ、各種生産性のうち最も重要なものとされ、具体的な算出方法については
「労働生産性=生産量(付加価値)÷労働量(従業員数)」
で産出される。
付加価値とは何か
では、この付加価値とは何かという理解が重要である。付加価値とは企業等の生産者が生産活動によって作り出した生産額から、その企業などの生産者が購入した原材料や燃料などの中間投入物を差し引いた金額である。
したがって、コストとしての賃金・利子・地代・家賃等と、利益が付加価値の内容を構成する。つまり、人件費として支払いされた給料は付加価値の重要な一部になっているのである。
極論を述べれば、人件費を高く支払えば、付加価値は増加するという事になる。勿論、利益が出ない経営では倒産するのであるから、本来の付加価値としての給料が払えないという事になってしまうので、健全経営体を想定した場合の人件費であるが、この考え方は大事である。
つまり、労働生産性を上げようと、インドに業務移管することは、アメリカの付加価値を下げる事になってしまうのである。勿論、起業家の利益が付加価値としてアメリカのGDPに加算されるので、国家としてのGDPは減らずにすむ。
ところが、今まで働いて給料を得ていたアメリカ人は失職するので、その人が生活するために支出していた消費としての内需は減る事になる。
利益を上げた経営者が、失職した人の分まで余分に消費すれば問題ないが、人間だから食べる量には限界があるように、減った内需を補うまでには至らない。
金は天下の回り物
江戸時代のことわざに「金は天下の回り物」がある。
お金は流通しているという意味で、今自分が所持しているお金は、あたかも自分のもののようであるけれど、実は流通の一環としてたまたま今自分のフトコロにあるだけのもの。お金は使わなければ意味を為さず、入った金は出て行くもの。出て行くからこそ巡り巡ってまた入ってくる。
そうしてお金が回っているから世の中は成り立つ。人の暮らしが成り立つ。という経済の成り立ちを意味している言葉だという。
これはお金に執着し過ぎることを戒める意味となって、使える時は使え!という教訓である。
ところが、無人化設備のハイテク工場とか、薄利多売で機械設備だけで人件費を掛けないビジネスの場合は、支払う給料が少ないのであるから、人を通じて工場が立地している地元にお金は落ちなく、したがって、付加価値が少なくなる。
地元にお金が落ちるビジネスの場合は、支払われたコストは、地元の別企業の売上や従業員の収入となるのだから、地域全体でみればプラスとなって、地域全体が元気になれば、結局、巡り巡って自社の業績につながるのではないか。これが現代版の「金は天下の回り物」という事になるはず。
サンフランシスコのベンチャービジネス起業家が、インド人へ業務移管している事や、機械設備だけで人件費を掛けないビジネスの場合は、付加価値が低くお金が回らない。
付加価値率が高い産業とは
藻谷氏が著書の中で、付加価値率が高い産業として、売上の割にGDPへ貢献する度合が高い産業とは、以下の産業リストのどこであるかと投げかけている。
① 自動車 ②エレクトロニクス ③建設 ④食品製造 ⑤小売(流通)
⑥繊維・化学・鉄鋼 ⑦サービス(飲食業・宿泊業、清掃業、コンサルなど)。
藻谷氏に言わせると、この問いに対する回答は、殆どの人が間違えるという。
実は①の自動車が二割を切って一番低い率なのである。ただし、GDPへの貢献は実額として大きい。付加価値が一番高いのは⑦のサービスであって、付加価値率が高く半分くらい。多くの人は「ハイテク=高付加価値」という思い込みをしているのが大問題だと指摘する。実際には、人間をたくさん雇って効率化の難しいサービスを提供しているサービス業が、売上の割に一番人件費がかかるので付加価値率が高いのである。
この最適例がカリフォルニア州ナパ・ヴァレーのワインづくりである。手作業によって地元の人々に給料が支払いされ、それがこの地の内需に結びついて行くという「金は天下の回り物」が実現している。
日本の実態
藻谷氏は日本の実態についても次のように主張する。
日本のように生産年齢人口が減少している国では、一人当たりで買う量が限定されているような商品、例えば車・住宅・電気製品・外食などは、人口減少に応じて消費者の数が減っていくが、既に生産力が機械化によって維持されているので、供給が減らず、売れ残り在庫が生じ、結果として安値処分か廃棄することになっていく。
すると、その対策として、企業は退職者分を新入社員で補わず、人件費総額を下げる事を当たり前とし、返って付加価値額と率が減少し、不可避的に日本のGDPが減少していく。
逆に、付加価値率を高めるとは、その商品が原価より高い値段で売れて、マージンも人件費も十分にとれるかどうかにかかっている。だから、同じような商品供給で過剰に陥らないようにし、加えて、お客から高い品質評価を受けるようにし、その高い品質評価部分を価格に転嫁できるようにする事だ。つまり、高価格でも売れるようにする事が必要であって、そのためにはその商品にブランド力があるかどうかが、内需拡大とGDP拡大の決め手となるのだというのが藻谷氏の結論。
確かにこれは、何度も例えて恐縮だが、インド人への業務移管と、カリフォルニアワインの実例で証明される。
次は日本人が豊かになるためのプロジェクト検討
今まで述べてきたように、付加価値を高めるためには、人件費を掛けたブランド商品づくりが必要である。
デフレ時代だから何でも安くするというのは、コストを抑えるという事になるので、人件費が下がる事を通じ、一人ひとりの収入を増やさないので、内需を減少させる。
日本が得意とするハイテク品の輸出は、日本全体のGDPを増やす事になるが、国民一人ひとりの豊かさに結びついていない。今の日本人が豊かさを感じていない理由だ。
仏大手出版アシェット社と連携し、世界50カ国書店に「日本の温泉ガイドブック」を配架しようと進めてきたプロジェクトは、結局、温泉の付加価値を世界に妥当に伝えるためのものだったが、今回の東日本大震災でしばらくお蔵入りである。
そこで次なるプロジェクトは、江戸時代に培って、今も日本各地で生き続けているが、多くの人が気づかない付加価値高き存在、多分、それは「日本独自文化」に類するものであるが、それに人件費を十分にかけ外需を稼ぎだす内需産業創りの検討である。以上。
2011年05月06日
2011年5月5日 日本人が豊かになるためには・・・その一
YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年5月5日 日本人が豊かになるためには・・・その一
めまいの街
東日本大震災による余震の「めまい」を引きずって、羽田から直行したサンフランシスコの4月末は結構寒い。この地も地震多く、太平洋プレートと北アメリカプレートが接しているサンアンドレアス断層の上に成り立っている。
105年前の1906年4月18日、この日も肌寒かった朝、サンフランシスコとその近辺の大地が突然に暴れだし、建物は崩壊し、発生した大火は3日間燃え続け、人口45万人のうち20万人が住む家を失った。
さらに22年前の1989年10月17日にも、マグニチュード6.9の大地震が発生し被害に遭っている。
日米修好通商条約の批准のため、万延元年(1860)咸臨丸で勝海舟・福沢諭吉、ジョン万次郎一行がここに初上陸したのは、お互い地震が多い事から、呼び寄せあったのかもしれない。
そういえば、サンフランシスコはアルフレッド・ヒッチコック監督の映画「めまい」(1958年)の舞台だ。高所恐怖症になったジェームス・スチュアート扮する元刑事が、キム・ノヴァク扮する友人の妻を追跡することによって、サンフランシスコを案内する巧みなスリラー物語だが、タイトル「めまい」は地震の街からだろう。
ベンチャービジネス起業家
サンフランシスコでアメリカ人8人と日本式の居酒屋で雑談した。その中の一人、まだ若いベンチャービジネス起業家、彼はツイッターを活用したマーケティング業務を展開している。業務内容はノウハウなので紹介できないが、彼を手伝う人物がインド人で、採用はamazon serviceの紹介で決めたという。
アメリカの最低賃金は、1997年以来アメリカ連邦政府が設定した時給5.10ドルだが、これでは人は集まらず、彼は近くに住む中年アメリカ人女性に、時給12ドル(約970円・81円レート)で、それまで働いてもらっていた。
だが、アマゾンの斡旋でインド・バンガロール近郊に住む若者に変更した。その理由は時給がたったの2ドル(約160円)という安さから。アマゾンにはインド人が多数登録してあって、その中からオークションで決める事ができる。
12ドルから2ドルへ。同じ業務が六分の一というコスト。英語は正確で仕事は出来るし、このインド人に下請け業務のインド人もいるらしい。2ドルで複数人が使えるというのだ。
また、この2ドルには、アマゾン経由の送金支払い手数料とルピー両替費用も含んでいるという。これにしばし言葉も出ない。
二つの愕然
さらに、このインド人はカースト制階級の下の方の人物らしいが、頭がよく、世界情勢に関心高く、東日本大震災に20ドル(約1600円)義援金支出したともいう。時給2ドルだから10時間以上の収入を日本のために支払ってくれたのだ。これにも愕然とする。
この愕然には二つの意味がある。インドでは2ドルの時給でも義援金が出せるという事と、アメリカ人はコンピューターテクノロジーを開発したために、アメリカ人が仕事を奪い取られているという事実だ。
つまり、本来アメリカ人に支払われるはずの人件費が、ただ同然の金額で外国に逃げ、アメリカ人の仕事がなくなって、とうとう起業家の彼のところに、一日20ドル(約1600円)でもよいから仕事させてくれと言ってくる人もいるという。
起業家のビジネス労働生産性は向上して、企業としての利益は増加するが、従業員として働いていたアメリカ人の収入は減るのだから、その人の生活消費は減少し、内需は増えなく、景気回復は難しいという事になる。
では、今後アメリカ人に残る仕事は何か。産業が少ないアメリカでは医者か、弁護士か、それになれない場合は軍隊に行くしかない。これはジョークではなくアメリカにとって大問題ではないか。そういうことがアメリカ社会に隠されていると感じる。
しかし、この事例は日本でも当てはまるだろう。日本企業が労働生産性を向上させようと、無人化工場を建設し、新たなる産業システムを稼働させたとすると、企業利益とGDPは増えても、当然ではあるが従業員は激減し、そのために人件費という人へのお金の支払いはなくなって、生活消費という内需は減るだろう。
日本もアメリカと同じ事を行っているのだ。
ケンゾーエステイト
サンフランシスコから帰りのJAL、機内誌を見ていたら「ケンゾーエステイトのワインをお楽しみいただけます」とあり、カリフォルニア州ナパ・ヴァレー奥の深い森に包まれて、誰の目にも触れることなく、ひっそりと美しい清らかなワイナリーが「ケンゾーエステイト」であると紹介されている。
ここは日本人の辻本憲三氏が20年前から開発していたエステイト(土地)。この土地のワインを食事時に飲んだのかと思いつつ、もう一度、改めて「紫鈴2007赤」と「あさつゆ2009白」を少し味見してみると、かなりいけるような気がする。
ワインについては、フランス各地のワイナリー訪問と、パリ農業祭で毎年金銀銅メダルのワインを試飲しているし、今回はシアトルでクマモトオイスターと合うワインコンテストにも参加したので、一応味は分かるのではと思っているが、この「ケンゾーエステイト」もなかなかである。
カリフォルニア・ワイン
元々カリフォルニア州ナパ・ヴァレーで、ワインづくりを始めたのはフランシスコ会の神父だった。
元来アメリカ人はステーキに代表されるアメリカ的料理で、ウイスキーとかビール中心であったのが、第二次世界大戦後ヨーロッパ的料理がアメリカに入り込んできて、ワイン需要が増えナパ・ヴァレーに多くのワイナリーが誕生。それも弁護士、学者、医者などが趣味でワイナリーを作りはじめ、次に大資本も入ってきて、現在約120のワイナリーがある。
さて、この地のワインの品質はどうなのか。1972年にパリで開催されたワイン品評会(Paris tasting)で、赤はボルドーを押さえ、また、白はブルゴーニュを押さえそれぞれ“1番”に輝き、この時から世界的に高い評価を得たわけで、その物語が日本では未公開だが「ボトルショック」という映画になっている。
その後も「ロバート・モンダビ」「オーバス・ワン」や「ケンゾーエステイト」のような優秀なワイナリーが誕生し、今では世界のワイン業界で確固たる位置づけとなって、アメリカを代表するワインブランドとして、一大産業になっている。
さらに、これは秘密でも何でもないが、ワイン造りには重要な条件がある。それは機械化をなるべく避け、ワインの苗を手作業で手入れするという事である。ぶどうの苗木に茂る葉の一枚一枚を日差しからコントロールするのを、人間の手で行う事。これが良質なワイン造りの当然の作業となる。
ということは、その手作業に人件費が膨大にかけられわけで、その結果として働く地元の人々に給料が支払いされ、それがこの地の内需に結びついて行くのである。
また、この手作業という結果は、価格を高くするという事になって、ロバート・モンダビのティスティングは四品で30ドルと15ドル。
オーバス・ワンのティスイングは一杯30ドルで一品だけ。高いが試してみると香りが豊かで、グラスを持って階上のテラスに行くと、ワイン畑が遠くまで見渡せ、ロスチャイルド家とロバート・モンダビが共同でつくりあげた物語と共に、グラス一杯だけなので、ゆっくり味わうから、なおさら美味いと思わせる。舞台づくりが上手なのだ。
このようなワイン造りは、地元の土地で行うので、インドに住むインド人には代替できない。したがって、完全なる内需産業であり、輸出する事で外需も稼げるのである。
日本人を豊かにする企画プランつくりへ
仏雑誌出版社アシェット社と世界50カ国書店に「日本の温泉ガイドブック」を配架するプロジェクトは東日本大震災で頓挫したので、次なる企画を検討中。次号へ。以上。