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2009年10月28日

2009年11月 特別例会のご案内

川越・サツマイモビール見学会

今年上半期放送のNHK朝の連続テレビ小説「つばさ」の舞台となった埼玉県・川越市。
江戸の情緒を残す蔵づくりの町並とさつまいもで知られるこの町に、地元の観光土産のひとつに過ぎなかった商品を世界ブランドに仕立て、栄えある賞を受賞し続けている会社があります。

その名は株式会社協同商事、ブランドは『COEDOビール』。
今回の例会は、協同商事様の、川越の地ビールを世界ブランド構築へ戦略転換された経緯やさつまいもビール開発秘話などを、社長の朝霧氏より伺い、モンドセレクション最高金賞の他、多数受賞のブランド『COEDOビール』を堪能します。
せっかく川越に行くのですから、蔵づくりの町並散策も欠かせません。
盛りだくさんの企画、是非お出かけください。

開催要項
【日 時】2009年11月25日(水)
【見学地】 コエドブルワリー三芳工場  埼玉県入間郡三芳町上富385-10
【懇親会】 コエドブルワリー「小麦市場」  埼玉県川越市福田59-1
【参加費用】 オブザーバー会員 10,000円
       ※懇親会費は別途(2,000円程度、一部ご負担分)
【募集人数】 10名様限定
【お申し込み最終期限日】 2009年11月17日(火)
【お問い合せ】 経営ゼミナール事務局・田中達也
        TEL:03−6806−6510
        FAX:03−5811−7357

【内 容】
12:30 東武東上線鶴瀬駅集合  タクシーにて工場へ
13:00 コエドブルワリー三芳工場見学
      13:00〜13:30 工場見学
      13:30〜14:30 コエドビール(協同商事)
               代表取締役・朝霧社長のお話
      14:30〜15:00 質疑応答
15:30 蔵づくりの街・川越散策 (タクシーにて移動)
      15:30〜16:30 散策
17:00 コエドブルワリー「小麦市場」にてCOEDOビールを味わう懇親会
      17:00〜18:30 懇親会
19:00 終了・解散 (タクシーにて移動・川越駅にて解散)

【集合】
11月25日 12:30 東武東上線「鶴瀬」駅改札付近

お申し込みはこちら

→チラシを見る

投稿者 lefthand : 22:33 | コメント (0)

2009年10月26日

2009年10月例会ご報告

「ミシュラン三つ星・二つ星温泉を訪ねる研究会」ご報告

私ども経営ゼミナールでは、清話会様のご協力を得、今年フランスで発行された「ミシュラン観光ガイド日本版」(以下ミシュラン)で高い評価を受けた温泉を視察し、その評価理由を研究する会を開催しました。

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目的地は九州大分県・別府温泉。
別府にはいくつかの温泉街が存在します。その中のひとつ、鉄輪(かんなわ)温泉にある日帰り入浴施設「ひょうたん温泉」が、ミシュランで三つ星★★★の評価を受けました。国内に温泉地は3,000以上ありますが、高い評価を受けたところはごくわずかです。日本が世界に誇る文化だと私たちが自負する温泉は、何故にこれほど評価されていないのでしょうか。一方、評価を受けた数少ない温泉は、なぜ高い評価を受けたのでしょうか。このことを探求し、今回選考から外れたその他の素晴らしい温泉を世界に紹介する方策を探ろうというのが、今回の企画の目的です。

羽田からJAL1787便で一路別府へ。
天気は快晴。眼下に無数の雲が羊の群れのように悠々と流れていきます。雲の切れ間からは日本のどこかの山々と、それらを縫うように集落が点在します。
大分県へはわずか1時間40分のフライトで到着します。このあっという間の空の旅は、日本が小さな島国であることを気づかせます。同時に、この空は世界と繋がっているのだと感じます。外国人はみんなこうやって広い空を渡り、はるばる日本にやってくるのです。

大分空港からバスで別府温泉に到着。さっそく今回の目的地、ひょうたん温泉へと向かいます。
タクシーの運転手によれば、ミシュラン発刊以来、欧州からの観光客が増えたとのこと。特徴的なのは、欧州の観光客はみんな路線バスか、徒歩で目的地に向かう人が多いそうです。そして、彼らの手には緑や青のガイドブックが。ミシュランガイドやブルーガイド(アシェット社発行の旅行ガイド)の影響力の大きさを感じます。

入口からゆるやかにのぼる駐車場の奥に、ひょうたん温泉はあります。入口の向かいは葬祭場、その隣は食品スーパー。その周りは住宅街。ひょうたん温泉は鉄輪温泉のはずれの、何でもない市街地の片隅に建っています。全国各地にあるスーパー銭湯と何ら変わりはありません。
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この日(日曜日)は「鉄輪温泉夕暮れ散歩」というガイドツアーが開催されていました。さっそく参加。案内してくださったのは、この日がガイドデビューという女性でした。初めてとて侮るなかれ。彼女は鉄輪温泉に生まれ育ち、実家は明治創業の老舗旅館(現在は廃業してギャラリーを営んでいる)という、地元を知り尽くした女性です。彼女にいざなわれ、鉄輪温泉街を散策しました。鉄輪温泉には、いくつもの泉源と無料の共同浴場があります。泉源からは高温(96度)の源泉が激しい蒸気を伴って自噴しています。泉源が至る所に点在し、近隣の旅館や入浴施設に配管されています。あちこちから噴き出す蒸気は、温泉街の雰囲気を演出しています。また、無料の共同浴場は、その二階が必ず集会場になっていて、この施設が地元の住民のためにつくられているものだということに気づきます。もちろん観光客も入浴できます。
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60分の有意義なツアーを終え、あらためてひょうたん温泉に入ります。
ここで、ミシュランガイドの中の、ひょうたん温泉が記述されている部分(和訳)を紹介します。

■Hyotan Onsen★★★ ひょうたん温泉
「鉄輪にあり、駅よりバス33番または34番で地獄原下車、営業時間9時〜1時、料金700¥。
鉄輪バス主要停留所から東に700メートルにある。
この施設は大変心地よい緑に囲まれている。砂場、露天風呂、館内にはひょうたん形の風呂、サウナ、肩のマッサージ用の滝湯、またレストランもある。家族だけで使用できる露天風呂を予約することも可能」

ひょうたん温泉について書かれていることは、これですべてです。ミシュランはこの情報のみを提供し、星を三つ与えているのです。このことを考えつつ、実際に温泉に入ってみました。

入口で料金を払い、奥に進むと、下駄で中庭に出ます。カランコロンと心地良い音色がします。中庭にはテーブルと椅子が配置されており、ここで待ち合わせやちょっとした軽食をとることができます。休憩所を兼ねたレストランも併設されています。
男女別に分かれている入口をくぐると脱衣所があります。ここで衣服を脱いで温泉への階段を下ります。館内はとても広々としていて、高い天井に張り巡らされている板は少し隙間が空いていて、柔らかな日差しが差し込みます。中央には大きな木がそびえ立っており、自然の中で入浴しているかのようです。その周りに数種類のお風呂があり様々な入り方を楽しめます。隣には身体をマッサージする滝湯の部屋があり、階段を下ってたどり着きます。滝湯は10メートルもあろうかという高さから注がれており、強い刺激を得ることができます。外には大きな空と緑の広がる露天風呂があり、とても開放的な気分で入浴できます。奥には低温、高温二種類のサウナ室があり、体調に合わせて利用できます。別室に砂風呂があり、浴衣を着て熱い砂に入って身体を温めることもできます。
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ひょうたん温泉は、本格的な温泉施設を備え、かつ、訪れる方のためのガイドツアーを催すなど、温泉を愛し、大事にしている様子がひしひしと伝わる心温まる温泉でした。ミシュラン三つ星に選ばれたことを店主に持ちかけると、「恐れ多いことです」とお答えになったそうです。そこに、ひょうたん温泉の評価理由の一端を垣間見るような気がしました。

*****

別府のホテルで一泊し、翌日、第二の目的地、ミシュラン観光ガイド日本版(以下ミシュラン)二つ星の「竹瓦温泉」に向かいました。

竹瓦温泉は、別府の海岸近く、北浜海岸付近にあります。
竹瓦温泉は、歓楽街の真っ直中にあります。大きなネオン管がビルの至る所に取り付けてあり、夜であれば極彩色の派手なイルミネーションが通りを賑やかすであろう場所に忽然とその歴史あるたたずまいを横たえています。その風格たるや、決して周りの移り変わる景色に左右されることなく、超然と建つ威風堂々さを感じます。
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竹瓦温泉のミシュラン評も、和訳をご紹介します。

■Takekgawara Onsen★★ 竹瓦温泉
「駅より南西に徒歩10分、営業時間8時〜21時30分、第三水曜定休、料金1000円。
この本物の温泉施設は1879年明治時代に開設。素晴らしい木造建築に入った瞬間、一昔前の時代に引き込まれた感じがします。施設の館内は大変古くやわらかい微光に包まれ、テクノロジーを利用したアイデア商品や雅やかに飾られた他の近代施設に影響されることなく続いています。まず火傷しそうな熱い黒砂風呂に首まで埋まり、その後砂を洗い流し、鉄分を多く含む大変熱い温泉に浸かります」

砂風呂に入るには1000円必要ですが、浴場のみなら100円にて入湯できます。
共通の待合室は、天井が高くゆったりとしています。歴史ある建物の造作とあいまって、とても落ち着いた気持ちになります。男女別の浴場に入ると脱衣所があり、湯船ははるか下方にあります。一階分はあろうかという高低差の階段を下りると、湯船のみが中央に温泉をたたえ、シャワーなどの設備は一切ありません。洗面器で湯船からかけ湯をすると、その熱さに大変驚きます。源泉が直接流れ込んでおり、傍らの水道で水を出し湯加減を調整するようになっています。かけ湯で身体を慣らし、熱い湯船に浸かります。他にすることはありません。

ひょうたん温泉と竹瓦温泉。ミシュランの高評価を得たこの二つの温泉は、ミシュランの評価に違わぬ素晴らしい温泉でした。


ところで、ミシュランで三つ星に選ばれた日本の観光地のうち、温泉地は二カ所しかありません。ひょうたん温泉と愛媛県・道後温泉です。
道後温泉は、日本では説明の必要もないほど名の知れた温泉です。竹瓦温泉と同じく、明治の創建になる荘厳で巨大な、複雑な形をした歴史ある建物です。入浴料360円〜の共同浴場で、観光客はもとより地元の方にも親しまれ利用されています。
また、二つ星に選ばれた温泉のひとつに、岐阜県高山市・奥飛騨温泉があります。
奥飛騨温泉は、川のほとりの野天風呂です。ごうごうと音を立てて流れる蒲田川のすぐ脇に、岩で囲ってつくられています。入浴は寸志で、傍らに脱衣所があるだけの野趣あふれる混浴野天の温泉です。

上記の二つの温泉も含め、ミシュランで高評価を得たこれらの温泉に共通することはどんなことでしょう。
それは、これらはみな共同浴場だということです。

*****

初日にひょうたん温泉、二日目に竹瓦温泉を入浴体験したあと、研究会を開催しました。

ひょうたん温泉と竹瓦温泉、なぜこの二つの温泉だけが、ミシュランの三つ星、二つ星に選ばれたのでしょうか。これら二つの温泉に共通していることはどんなことでしょう。また、これらが他の選考されなかった温泉と異なる点は何でしょうか。そして、まだまだたくさんある日本の素晴らしい温泉をミシュランに評価してもらうには、どんなことが必要なのか。これらのことをディスカッションしました。


この二つの温泉の共通点は、共同浴場だということです。

共同浴場と聞くと、私たち日本人は銭湯のような施設をイメージします。どうして銭湯がミシュランの高評価を受けるのだろう…。温泉関係者の研究会でこのことをお話ししたとき、こんな疑問が噴出しました。ここに、日本人の温泉観が内包されているように思います。
日本では、温泉は旅館の内湯として存在することが普通で、温泉もさることながら、温泉を設けている旅館の評価が、温泉の評価となっているのではないでしょうか。ですから、共同風呂がミシュランの高評価を得たことは、日本人から見れば意外で、ともすれば的外れのような印象を持ってしまうように感じるのです。

しかし、ここで見誤ってはならない重要なことがあります。
それは、ミシュランを編集するのはフランス人だということです。そして、それを見て日本を訪れるのも、またフランス人なのです。すなわち、ミシュランはフランス人の感覚で観光地を評価し、格付けをしているということを、ミシュランの選考基準を考える基礎として、念頭に置いておかなければならないのです。
フランスをはじめとしたヨーロッパの温泉は、宿泊施設と切り離された別個の施設として存在しています。そして、温泉は病気療養のためのプログラムの一環として利用されるという側面も持っています。ここが日本とヨーロッパの温泉の大きな相違点です。ですから、ヨーロッパの温泉利用習慣から見ると、ヨーロッパの人々にとっては共同浴場に行くことの方が自然なのです。ミシュランで高い評価を受ける温泉が、共同浴場に集中していることは、このような事情があるからです。
つまり、日本人が常識と認識している温泉の形態、すなわち旅館の内湯として存在する温泉の形式は欧米には存在しないのです。ですから、フランス人が評価し、フランスおよびヨーロッパの人々向けに発行されるミシュランは、ヨーロッパの人々が見慣れた共同浴場が評価の前提条件になるということなのです。

ヨーロッパの人々の立場で温泉を評価すると、共同浴場が評価されることになる。このことが、ミシュランの評価の結果に反映しているのであれば、日本のほとんどの温泉は評価されることがむずかしいということになります。
しかし、そのように断じてしまうと身も蓋もありません。日本には世界に紹介したいと感じる素晴らしい温泉がまだまだたくさんあります。これらをもっと世界に紹介すべきではないでしょうか。
そのためには、前述のようにヨーロッパでは内湯温泉は特殊なものであることを前提に、これらの日本の温泉形態をミシュランが理解出来るような工夫をすることがポイントとなります。さらに、このポイントを考えるにおいて重要なことは、「世界から日本を見る」、すなわち、外国人の立場から日本を見た情報発信を行うことなのです。
日本の常識は世界の非常識などと揶揄される言葉がありますが、日本の常識が、世界から見ればワンダフルな体験であるという、情報発信の工夫が必要なのです。

「世界から日本を見る」温泉の情報発信とは、どのようなものであるか。
このことを今後の研究課題とし、引き続き検討していくことを結びとし、今回の研究会を締めくくりました。

この研究会で課題としましたミシュラン情報発信検討会を、経営ゼミナールで、伊豆・天城湯ヶ島温泉をモデルに行おうと考えています。時は12月20日(日)〜21日(月)の一泊研究会です。ご期待ください。

(事務局 田中達也・記)

投稿者 lefthand : 13:28 | コメント (0)

2009年10月21日

2009年10月20日 環境条件にあわせる

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年10月20日 環境条件にあわせる

大分県別府駅前の交差点、一匹の猫がゆったりと渡っていて、名門デパートTOKIWAに入ってみますと、シーンと静まりかえり、店員だらけでした。だが、同じ別府市内の鉄輪地区のひょうたん温泉は、県外客と外国人で大盛況、さすがにミシュラン観光ガイド三ツ星の威力と思いました。

ホテルとひょうたん温泉を往復したタクシードライバー、市長が変わるたびに街のお祭り展開内容が変わるとぼやいていました。
時代はグローバル化、すごい速さで変化しています。環境変化にあわせているか、いないか。今号は環境条件にあわせようとしている外国都市事例をご紹介します。

タスマニアは環境島

「世界で一番空気と水のきれいな島。世界一ピュアな風に包まれ、欝蒼と生い茂った温帯雨林、太古の姿を残す動植物。歴史の漂う素朴な町、そこはオーストラリア最南端に浮かぶ島タスマニア。心の赴くまま静かに流れる時を過ごしませんか」という言葉に惹かれ、タスマニアへ行ってまいりました。
タスマニア島はオーストラリアの南東に位置しています。成田からまずシドニー空港に着き、持ち込み品の厳重検査を受けて乗り換え、タスマニアの州都ホバート空港に着きますと、またもや検疫官がいて、生もの食品の持ち込みを見張っているように、オーストラリアは、食べ物持ち込みに厳しい条件をつけていますが、その中でもさらに厳しいのがタスマニアです。
タスマニアは北海道の約80%の面積、人口は約50万人で北海道の9%、その上高い山がありませんから、広々とした景観がどこまでもつながっているところです。
ホバートで、まず、最初に訪ねたのが「タスマニア州第一次産業省水産局」で、ホテルを出ようとロビーを歩いて行くと「コンニチワ」とすごく明るい声で女性が声掛けしてきます。同行する現地の方の知り合いの人だと思い「お知り合いですか?」と尋ねますと「いいえ、知らない人です」との答えです。ホテル前道路を歩いていると、またもや「コンニチワ」です。タスマニアの人々は人情厚く親切で、道で地図を広げていると、必ず「どこへ行くのですか」と声掛けしてきます。これでこの地の人柄が分かりました。
水産局でタスマニアの漁業全般、水産業・養殖業の統計的な数字、漁獲割り当て・資源保護・今後育成すべき分野などの政策的な情報を入手した後、いただいた名刺のデザインを興味深く見ていると、坊主頭の担当官が説明してくれました。
上下の波線は海を表し、縦線はグリーンと森を表し、この二つに囲まれた中に野生動物タスマニアンデビルを描き、その下にスローガン「Explore the Possibilities」、直訳すると「可能性を探検する」だが、一言で述べれば「来てみたらわかる。来なくちゃ分からない」ということだ、と補足します。
この補足説明に納得しました。余計な宣伝はしない。自然環境を守っていることに絶対の自信を持っているので、訪れた人々がタスマニアの事実報告してくれ、それが宣伝になるのだ。つまり、地球環境問題が問われている今の時流に、完全に合致しているという自信なのです。タスマニア各地を回り、その事実を確認して戻ったところです。

パリは観光で持っている街

パリ市役所別館はオステルリッツ駅近くで、環境関連部門が集まっています。現在、パリ市役所に対する外部からの取材は、すべて広報を通すことになっていますが、広報を通すと取材拒否されることがあるし、面倒なので、何とか知り合いの縁を探して、パリ市の環境問題解決方向の実態を聞こうと、緑地環境管理本部の管理職を訪れました。
3階の管理職個室に入ると、髪を後ろに束ね、あごひげをきれいにカットした、50歳代の気さくな感じの柔らかい人が、机から立ち上がって手を差し出してきました。
まず、彼の最初の発言、それは「パリには工場がない」という言葉、これを聞いた瞬間、パリが理解でき、他都市との違いを納得できました。1980年までは工場が市内にあったが、全部郊外か外国に移転した。最後がシトロエン工場であったが、今は公園になっていると補足します。世界の大都市で工場が存在しないところはあるでしょうか。調べていないので断言できませんが、多分、他国の首都では必ず工場ひとつくらいはあると思います。工場を市内から排除すること、これがパリの行ってきた環境対策であり、その目的はパリ市の存在意義に通じるものであり、それを目指してパリをつくってきたのだということが、この工場がないという発言に凝縮しているのです。
また、交通対策も明快だと発言します。それは「なるべく車でパリに入らせない」ようにすることにつき、車排除する代替策は、バスとトラムと自転車の活用であり、その結果、CO2が少なくなり、街を歩く人に安全と健康を提供できることになる。
つまり、これがパリを訪れた観光客への最大のプレゼントになるというのです。フランスには年間、観光客が8,000万人訪れます。その首都であるパリには、企業の本社が多く、観光客も当然多いわけで、パリ市の人口は200万人ですが、パリ市にいる人の数は毎日1,000万人ですから、五倍の人が動いている街です。ここで観光客が支払うホテル代、飲食代、お土産にも当然19.6%の消費税がかかり、シャルル・ド・ゴール空港の免税手続きDetaxe窓口は、いつも人で溢れていますから、パリで高額品のお土産を買う人が、いかに多いかが分かります。
私のように免税手続きをしない、つまり、高額な買い物はしない者も多く、この人たちはホテル代、飲食代に19.6%だけ支払ったまま出国するので、パリ市は膨大な消費税で丸儲けでしょう。観光大国とは外国人から消費税を徴収する大国であるともいえます。
日本も観光大国を目指していますが、フランス並みになれば、財政赤字の軽減効果は大きいわけで、そのためにもパリの観光対策から学ぶことは多いと思いますし、パリの動きは今の時代の地球環境問題対策にも合致している事例と思います。

ニューヨークが挑戦する新しい環境対策

アメリカ・ニューヨーク・マンハッタンのスラム街としては、かつてはハーレムが有名で、犯罪と貧困に喘ぐ地域でしたが、1990年代に行った徹底的な治安改善政策により、環境が驚く程改善され、現在では街の再開発も進み、文化と経済のネオ・ハーレム・ルネサンス期に入っています。したがって、ニューヨーク(NY)市には貧しい人々が住む地区があっても、スラム街はない、と一般的には思われているのですが、今でもNY市にはスラム街が厳然と存在しています。それは、マンハッタンではない地区、イーストリバーを渡ったSOUTH BRONX(SB)地区です。
このSB地区、当然に単独行動では危険な地域であり、夜間はNY市民でも足を踏み入れない地区ですから、何らかの安全策を講じて歩かなければならないと思っていましたら「SUSTAINABLE SOUTH BRONX環境」(持続可能な南ブロンクスSSBx)という案内ツアーがあることを知りまして、一人10ドル支払うと、ボランティア活動しているメンバーが案内してくれるというので、申し込んでSBに向かいました。
このSB地区の失業者は全米9%の失業率に対し、27%の高失業率となっているように、歩いていると、道端からこちらを刺すような眼ざしが大勢います。カメラは大丈夫かとボランティアガイドの女性に聞きますと、私がいるから心配ないとの答えでしたが、タイミングを考えて写真を撮らねばならない地区です。
ガイドの彼女が語りました。ここの環境問題、自分で個人的に解決を図ろうとすればすぐできる。それはここから移住すること、この町から出て行けば解決するといいます。
しかし、それではハーレム改善と同じなってしまう。ハーレムのような解決はしたくない。昔のハーレムはここと同じだった。確かにハーレムは環境が変化したといわれている。犯罪は減り、住みやすくなったが、それは貧困層の人たちを消しただけだ。解決のために新しく計画されたコミュニティは白人中心であり、今まで住んでいた人を追い払う計画であった。そういう解決ではなく、ここに住んでいるコミュニティの人々の生活が向上するような進め方をしたいのだ、と情熱籠めて話してくれます。
さらに強調します。この地区を大事にする都市計画が必要だ。ソーラーパネル、グリーンベルト、野鳥の訪れ、また、この町に文化芸術を根付かせたい。今高校でリサイクルデザインを提唱している。リサイクル品を使用した新しいデザイン。マッカーサー助成金を受けてMIT工科大学の審査を受ける予定だと。
最後に彼女が胸に付けていたバッチをプレゼント受けました。「I GREENED THE GHETTO」(ゲットーをグリーン化する)。数年後のSOUTH BRONXに期待すると共に、住民自ら環境条件を変化させたいという時代の動きと思います。以上。

【11月のプログラム】

11月13日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
11月14日(土)18:30 山岡鉄舟研究会「生麦事件歴史散策研究会」
11月25日(水)18:00 経営ゼミナール(会場)銀行会館

投稿者 lefthand : 15:24 | コメント (0)

2009年10月06日

2009年10月5日 オリンピック東京開催落選

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年10月5日 オリンピック東京開催落選

オリンピック東京開催落選

東京は10月2日のコペンハーゲンで開催されたIOC総会で、2016年夏季オリンピック開催地決選投票の結果、二回目の投票で最下位となり落選しました。
選ばれたのはブラジル・リオデジャネイロで、スペイン・マドリードとの決戦投票では、66票対32票と圧倒的な勝利でした。

前回2012年夏季オリンピック開催地決定のIOC総会は、2005年のシンガポールでしたが、その際はマドリードが三回目で落選、決選投票はロンドンとパリという永遠のライバル都市同士の戦いどおり、ロンドンが54票、パリが50票と接戦でした。
今回の東京落選、その失敗の筋書きは、このシンガポールでの接戦によって誤差を生じたと思います。ここ数年の開催地を結果的に分析すれば、ひとつのトレンド・流れがあり、それを見誤ったと思います。

トレンド・流れで東京落選は当然

トレンド・流れで考えれば東京落選は当たり前でした。落胆する必要もないくらい、当然のこととして東京は当初から対象外だったと思います。
まず、2008年の夏季オリンピックは北京でした。次の2012年はロンドンで、今度の2016年がリオデジャネイロ、いずれも国力上昇期を迎えつつあるというトレンド・流れの中で選出が決定しています。
BRICSの北京・リオデジャネイロは分かるが、ロンドンは国力上昇期ではないのでは、という疑問を持たれると思いますが、選出された2005年時の状況を思い出してください。
当時のロンドンは、サッチャー改革後の金融革命で、灰色経済のイギリスを立ち直らせたというウインブルドン現象の時期でした。当時のロンドン・シティでは、毎晩、蝶ネクタイの紳士が、派手に着飾った女性を連れてパーティに現れる、といった華やかな金融経済絶頂期でした。ですから、当時はロンドン市の収入も莫大だったでしょう。
そのマネー経済成功地の迫力と、元気さを世界にアピールしました。金融という新しい21世紀型産業を興隆させたパワー、これがパリを破ったロンドンの源泉でした。
ということは、今のタイミングでロンドンが挑戦しても、落選は間違いないでしょうし、まず挑戦する気にもならないでしょう。それだけ経済力が落ち込んでいて、2012年の開催費用の捻出は大変だろうと推測します。
因みに2014年の冬季オリンピックは、事前予想で最有力だった韓国の平昌を、ロシアのプーチン大統領がIOC総会で英語とフランス語(IOCではフランス語が公用語)でプレゼンし、開催地をソチにかっさらいました。
ロシアはBRICSの一員で、冬季オリンピックの決定時期は2007年7月でしたから、アメリカのサブプライムローン問題の発生直前、すれすれのセーフタイミングでした。

東京の2016年への挑戦根拠

東京の2016年オリンピック挑戦根拠は何だったのでしょうか。
それについて猪瀬東京都副知事が以下のように今年9月に語っています。
「一言でいえば環境都市を前面に押し出していく。開催都市を決定するIOC総会が開かれるコペンハーゲンでは、2008年12月に気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が開かれ、京都議定書の次の枠組みが決まるので、その流れの中で『環境』を理念とした開催計画を訴える。
東京での開催が決まれば、非常に意義深い。確かにリオデジャネイロの理念『南米初の五輪』にもインパクトがあるが、『環境』を掲げるわれわれは理性に訴えていく。
五輪という将来の明るい希望が出てくれば、後ろ向きな国民の心理が前向きになる。経済活動にも好影響を与え、将来への悲観的な見方からこれまで控えられていた需要も喚起されるはずだ。これは直接の経済効果以上に大きい。
東京で開催することの最大のメリットは、希望や誇りを取り戻すことだ。日本には今、将来のビジョンがない。日本を再び世界をリードする国へとよみがえらせるには、環境と平和を訴えるしかない。優れた環境技術や環境施策を五輪を通して発信し、われわれが生き残る道として見せていくことが重要だ。
ロンドンは『成熟都市の五輪』の姿を示し12年開催を勝ち取った。日本の代表選手である東京がこれに続き、世界の先端にいなければならない。東京五輪は日本全体のためにも必要だ」
(日刊建設工業新聞 09年9月9日水曜日掲載)

東京の戦略的誤り

この猪瀬東京都副知事発言の中に、戦略の誤りを明確に指摘できます。ロンドンは『成熟都市の五輪』だと断定していることです。
ロンドンが成熟都市であることは間違いありません。だが、荒廃化しかけていたイギリス、それを立ち直らせたサッチャー革命以来、金融という武器を新たに手にいれ、再び経済力復興期を迎えていた2005年に選出された、ということを猪瀬さんは述べていません。ここを石原知事も猪瀬さんも見誤っています。
今回のコペンハーゲンでの最終プレゼンテーション「誰に聞いても東京が一番だと言っていた」と報道にあります。それは事実だったのでしょう。
しかし、このプレゼンの素晴らしさという事実を超えた「流れ・トレンド」が世界の人々の気持ちの中にあり、それを斟酌し汲み込んだIOC委員の気持ちがリオデジャネイロに傾き、圧倒的にマドリードを、東京を、そして今最も世界で人気の高い人物、アメリカ大統領オバマ氏とミッシェル夫人が出席プレゼンしたシカゴ、これも簡単に破ったのです。
オバマ夫妻と一緒に写真を撮りたいと、IOC委員が列をつくったというのに、結果は一回目でシカゴは最下位という屈辱的敗退です。オバマ大統領の支持率も下がりつつある中での負けですから、今後の動向に暗雲が立ち込めるかもしれません。

日本の東京という立場からは妥当な戦略

石原知事と猪瀬さんの主張は日本人の立場からは最適解です。妥当で正しい戦略でしょう。だが、勝負の鍵は世界中の外国人が握っているのです。世界の人々が何を判断基準にするか、そのところの事前把握が甘かったと思います。つまり、日本から世界という舞台を見て、戦略構築したのです。
しかし、今はグローバル化の時代であり、IOC委員2人の日本人を除いて、外国人による判断結果で決定します。オリンピックの開催地決定は正にそのグローバル化の中に存在するのです。
ですから、石原知事と猪瀬さんは「世界から日本の東京を見なければいけなかった」のです。それは難しい、と言ってしまえば終わりです。見なかったから落選したのです。
このYAMAMOTO・レターでお伝えしていること、その目的は日本の人たちが「世界から日本を見てもらいたい」という希望もあって続けています。

世界から日本を見る

「世界から日本を見る」という目的をもって、毎月、国内各地と海外各地を訪問しています。その訪問もなるべく行政の中に入り、企業の中に入り、家庭の中に入り、街角のショップやレストランの中で隣の人たちと語り合うことで、日本を世界から見ていき、その結果で世界における日本の成長発展を模索検討し、それを計画化すること、そのような業務を続ける立場から感じた事を月二回お届けしています。

IOC委員に明確な選出基準が無い

最後に、IOCのような組織、そこにはオリンピック開催地への明確な判断基準がないことを指摘しておきます。IOC委員はほとんど個人資格です。一国の政府代表ではありません。したがって、一人ひとり、それは世界中から集まった人たちですから、それぞれ異なる考え方を持ち、その上、単純かつ明確・厳密な選定基準がないのですから、アバウトな暗黙の判断基準で決定していくのです。そうであるからこそ、その時の時流・流れ・トレンドを「つかむ作業」が最も大事なのです。それが東京に欠けていました。

明確な判断基準がある場合と、それが不明確な場合とで戦略構築が異なるのです。以上。

【10月のプログラム】

10月 9日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
10月18日(日)    経営ゼミナール「ミシュラン温泉訪問研究会
10月21日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 07:01 | コメント (0)

2009年10月02日

2009年10月・11月・12月例会のご案内

10月・11月・12月の例会の予定をご案内申し上げます。

10月はミシュラン三つ星・二つ星温泉を訪ねる研究会を、10月18日(日)・19日(月)に大分県別府温泉にて開催いたしますが、お申し込みの期日を8月末で締め切らせていただきましたので、再度のご案内は省略させていただきます。ご参加お申し込みの方々にお礼申し上げ、現地で楽しい視察にいたしたいと思っております。

■2009年11月の例会ご案内
11月の定例会は、11月24日(火)に開催します。
場所は、江戸の情緒を残す蔵造りの街並みが保存され、都心からの日帰り散策に人気の街・川越に、現場見学にまいります。
川越は、「時の鐘」に代表される蔵造りの街並みを大切に保存し、多くの観光客が訪れます。最近ではNHK連続テレビ小説「つばさ」の舞台にもなり、話題となっています。
川越といえば、サツマイモが名産品として知られています。
江戸時代より川越の名産として名高かったサツマイモを原料に、ビールを造った方がいらっしゃいます。様々なご苦労を重ねられ、世界初の特許技術を持ってようやく完成したサツマイモビールは、地元の特産品としてだけでなく、世界の食品コンテスト「モンドセレクション」において最高金賞を受賞されました。
今回は、このサツマイモビール「COEDOビール」の工場を見学し、開発のご苦労と成功秘話をお聞きする会といたします。
詳細は次月のご案内にてご連絡申し上げます。
皆さまのご参加をお待ちしております。

■2009年12月の例会ご案内
12月の定例会は、12月20日(日)・21日(月)一泊二日にておこないます。
観光大国を目指す日本は、様々な戦術を、いろいろな立場で展開する必要がありますが、経営ゼミナールではフランスの「ミシュランのグリーンガイド、アシェット社のブルーガイド」への掲載を希望する温泉と提携し、現場で実践的な検討会を開催いたします。
その温泉は、伊豆天城湯ヶ島温泉「白壁荘」です。
白壁荘は、中伊豆・天城湯ヶ島、狩野川上流に佇む歴史ある温泉旅館です。
白壁荘の案内には、「民話や民芸そして文学の宿」とあります。
各部屋は民話や民芸にちなみ、一部屋ごとにテーマを持っています。また、ここは文豪が愛した温泉場としても知られ、井上靖や川端康成、若山牧水などが定宿としていました。
10月18日・19日にミシュラン三つ星・二つ星温泉を訪問した経験を踏まえ、日本の温泉を世界に向け情報発信する、現場での戦術検討会といたしたいと思います。
詳細は次号にてご案内します。

11月、12月の経営ゼミナールにご期待ください。

投稿者 lefthand : 09:32 | コメント (0)