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2006年03月24日
3月例会ワンポイントレッスン
経営ゼミナールワンポイントレッスン
2006年3月20日
「今の時代を分析する」資生堂宣伝部常勤顧問 水野卓史氏
大学を卒業後、25年間資生堂の宣伝部で活躍、その後独立事務所を25年間経営、ちょうど50年目の節目に、再び資生堂の宣伝部で仕事をすることになったのが水野卓史氏です。年齢は72歳。今の時代はリストラで、50歳以降の人間が肩叩きに合うのが当たり前の企業の実態の中、水野氏は一般の定年は当然に過ぎ、社長でも引退する年齢でありながら、それも感性と感覚が勝負の宣伝という仕事に復帰したわけです。また、資生堂は化粧品企業として、世界のベストスリーに入る著名企業であり、国際化が進んでいることでも知られているわけですから、どちらかといえば若さを求めるはずなのに、今回の水野氏登用は一般的な常識を超えたものです。
どうしてそのような意外な人事が行われたのか。その理由として二つ考えられます。一つは資生堂という会社の社会柔軟性であり、もう一つは水野卓史氏が持つ資質・資性・能力であります。水野卓史氏がデザインという分野で活躍された作品の数々、それを映像とコピーをもって発表していただきました。その作品を拝見し、的確に上手には表現できないのですが、参加者からすばらしいという感嘆の声があがりました。
しかし、時代の一般的風潮に反した水野卓史氏の登用を、その企業の社風と個人能力に帰してしまいますと、この特異な事例は「すごい」という一言で終わってしまうことになります。そうではなく、経営ゼミナールのバックボーンである脳力開発からの分析が必要です。そうしなくては我々の中にこの事例を取り込むことができません。
水野卓史氏は戦略家と判断します。戦略と戦術を理解して駆使されています。水野卓史氏はまず人生の生き方の中で、大学卒業時に一生の目標とすべき「師匠」を定めました。その人物は当時の日本を代表するデザイナーの山名文夫氏です。この人物に出会ったことが水野氏の方向性を決めました。山名文夫氏の持つ繊細な美的感覚とそれを表現する芸術的なイラストレーション、これが水野氏の目標になったのであり、その目標を達成することこそが水野氏の戦略になったのです。師匠としての山名氏を目指し、超える。それを戦略として定めたのです。
次に、戦術として時代を学ぶことにしました。時代感覚がデザインには最も大事です。その時代研究を多くの識者との交流から取り入れていきました。つまり、多くの識者との接点を大事にし、他分野の識者から学んで時代を新鮮に取り込み、それをデザイン発想の源泉としたのです。各分野のエキスパートから情報スキル・技術を積極的に入手していきました。この行動は戦略達成のための戦術にあたります。見事な「戦略・戦術」人生構築が、今回の水野氏登用の背景に物語として存在していること、それを理解したいと思います。人生にも仕事にも成功にはセオリーが存在します。
以上。
投稿者 lefthand : 00:00 | コメント (0)
2006年03月21日
水野先生から学んだこと〜3月例会感想
水野先生の「触覚」は時代をクリエイトする魔法の杖
そして、「触角」は時代をキャッチする魔法のアンテナだった!
3月は資生堂宣伝部常勤顧問、水野卓史氏の発表でした。
現在も現場の第一線でご活躍でいらっしゃる水野先生のお話は大変興味深く、また、先生のクリエイティブに対する姿勢に大変感銘を受けました。クリエイティブは目に見える作品が全てではありますが、そこに秘めたコンセプト、メッセージ、ストーリー、ロマンなど、ひとつの作品を生み出すのにどれほどのことを考え、練って、構築しているかを知り、あらためて水野先生の頭の中の宇宙の深遠さに舌を巻く思いでした。
発表中、先生の作品を拝見する幸運に恵まれました。スゴイ・・・。ほとんど呼吸するのも忘れて見とれていました。私は投影機操作のため機器の近くでしゃがんで見ていたのですが、画面に映し出される強くて、優しくて、美しいストーリーに釘付けになってしまい、終わったとき立ち上がれませんでした。足しびれてたんです(笑い)。
今回の私なりのポイントは2つ。
1つは「触覚」と「触角」。
クリエイティブの現場で自分の感性の出力先となるのは、手であり「触覚」を司る器官です。クリエイティブとしてのスキルを磨くことは、この触覚を鍛えることに他ならないと思います。しかし、水野先生は触覚ばかりでなく、「触角」も使っておられたとおっしゃるのです。
先生は部署や職場が変わるたびに頭からニョキニョキと「触角」を伸ばし、情報を吸収するアンテナを張りめぐらし、環境に対応する作業をなさるのだそうです。ある環境に身を置けば、その環境用のアンテナが生えてきて、今まで自分の感性に引っ掛からなかった事象をキャッチできるようになるのです。
情報の入力端末である「触角」を常にピンと張り、脳を介して出力端末である「触覚」でクリエイトする。一つひとつの器官を鍛え上げることもさることながら、この一連の流れが見事にリンクされて初めて心に残る作品が生まれるのではなかろうかと感じました。
2つ目は、水野先生が質疑応答の場面でおっしゃったことです。
・むずかしいものをやさしく
・やさしいものを深く
・深いものを面白く
このプロセスを経て本物のクリエイティブが生まれる。
この言葉、感動しました。
むずかしいと分かってもらえない→やさしいだけでは忘れられてしまう→ズシッと胸やお腹に響く深いもの→深いだけでは受け入れられない→ウィットに富む、ユーモラスなど面白いものでなければならない、ということなんです。
このことは、これからの私の表現活動の指針にしたいと思います。水野先生、ありがとうございました。
投稿者 lefthand : 19:59 | コメント (0)
2006年3月20日 すべて小さく考えろ
環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年3月20日 すべて小さく考えろ
アイルランドの景気
アイルランドのダブリンに着き、タクシーに乗って街中に向かう道路、いたるとところで道路が掘り起こされ、両サイドの畑では建物が建築中、街中のホテル前も工事中で狭い窮屈な停車スペース状態です。
このアイルランドは空前の景気です。入国パスポートチェックで「ビジネスか」と聞かれます。経済関係の訪問が多いのでしょう。20年前とは大違いです。このアイルランドはケルト文化の色濃く残った静かな落ち着いた国でした。世界的作家を多く輩出しており、ノーベル文学賞受賞作家は四名もおり、小泉八雲はアイルランドの出身です。世界的な数学者も出ているように、薫り高い島というイメージでしたので、司馬遼太郎のアイルランド紀行を持って20年前に訪ね、ケルト文化遺跡を落ち着いた雰囲気の中で楽しみました。
しかし、今は大変化です。空港からのタクシーが妙に話しかけてきます。どこから来たのか。ビジネスか。何日滞在か。どこへ行くのか。気候はどうか。少し煩わしいので本を広げましたが、本を閉じるとまた話しかけてきます。こういうタクシーは危険です。相手を観察し隙を見つけようとしているのです。やはりそうでした。メーターがホテル到着時に23ユーロだったのが、財布からお金を取り出して改めてメーターを見ると28ユーロになっていて、30ユーロを紙幣で渡すと、すぐに30ユーロの領収書を手書きで書いてしまいます。釣りをよこさないのです。お金をとることに執着していることが分かります。帰りはホテル手配のタクシーで、空港まで23ーロでしたので、やはりこのタクシーはいかさましたのです。タブリンに着いたばかりのドサクサに稼ごうとする悪い根性が発生しています。地元の人に聞きますと、最近このようなタクシーが発生しているということで、もともとアイルランドは人柄の良さで知られていたのに残念な実態です。
お金が一番という風潮は経済成長の結果です。EUに加盟して、助成金を受け、それを教育投資に充当注入し、ハイテク産業育成を図ったことが1990年代に入って空前の好景気を招きました。ここ7年間の平均成長率は10%を超えています。政治は保守系が
安定した政権を握っていて、財政は大幅黒字です。
人口不足
ダブリンの目抜き通りの不動産も大変化です。不動産価格、それが10年間で10倍になっています。日本円で億単位の不動産、それも二桁の億単位が並んでいるのです。ということは物価が上がり、人件費も上がり人手不足となったのですが、その対策として外国からの移民、ポーランド・中国・フィリッピン・インドネシアから受け入れました。この人たちは一般的にサービス業に従事しています。全人口の25%が30歳以下という人口構成でありながら、このアイルランドでは人不足なのです。それだけ経済成長がすばらしいということです。
人口不足という意味ではオランダも同じです。ただし、不足する理由がアイルランドと異なります。こちらに来て新聞を見て知ったのですが、オランダはここ100年間で最低の増加率を示したとオランダ統計局が発表しました。理由は三つ。一つは国外移住者の増加、二つ目は移民の減少、三つ目に出生率の減少です。この中で大問題なのは国外移住者です。純粋のオランダ人が自国を捨てて他国に移住していくのです。行き先は暖かい地域、フランス南部・イタリア・スペインなどですが、昨年は12万人もの人々が移住しました。前年比10%増です。世界の国々の人口不足問題も理由がそれぞれだと思いました。日本は出生率逓減から人口が減少していくのですが、オランダでは国民自らが国を去っていくのです。因みにオランダに移民として入ってくるのは、かつてはモロッコ人やトルコ人でしたが、今はポーランド人が激増しています。こうやってみるとポーランド人がヨーロッパに進出していることが分かり、国ごとに様々な要因があり、その対策も国ごとに異なります。
アイルランドもポーランド人の移民増加が多く、それらの人はサービス業に従事しているのですから、レストランに行って注文に対応しているのはポーランド人が多いということになります。こちらにはアイルランド人かポーランド人か、その区別がつかないのですが地元の人に聞くと分かるようです。
そのポーランド人が多いウェイトレス、オーダーを受け、テーブルに皿を運び、テーブルでのカード支払い手続き、これが仕事の流れですが、店によって当然異なります。すばやく手際がよい店と、その反対のレストランがあり、その差は同じポーランド人が担当しているとは思えないほどです。勿論、人によって能力の差があり、行動に較差が発生するのですが、それではない何かを感じます。その何かとは店側の教育であると思います。最初にしっかり伝え、訓練しておくこと、それが出来ているところは客に対して好感度が高く、結果として能率が高いのです。折角移民として受け入れたのですから、生産性の高い行動をとれるような体制とシステム化が必要なのです。
仮に日本が移民を受け入れるという政策を採った場合、その際には事前に日本の生産性保持するための教育が必要条件と思いました。
本音と建前
冬季トリノオリンピックは残念でした。日本の選手は最初から不振でした。目標としていた選手一人一人の力を出し切れず、メダルには届かない結果が続きました。しかしようやく女子フィギアスケートで荒川静香選手が金メダル、これでホッとしました。冬のオリンピックの最大の華での快挙、他の種目の何倍かの効果ある金メダルでした。
荒川選手の金メダル獲得の日にパリに入りましたので、パリで会ったフランス人から祝福されまして、荒川選手金メダルの大きな効果を実感すると同時に、金メダルを獲得するには大きな何かが影響しているはずと感じました。
というのも、先日順天堂大学の沢木教授からお聞きした内容が印象的だったからです。沢木教授はご存知のとおり現役時代陸上名ランナーであり、その後順天堂大学陸上部の監督として何度も箱根駅伝に優勝し、科学的トレーニングを取り入れていることで著名な人です。その沢木教授が夏のアテネオリンピック選手結団式の後で、500項目にわたる心理テスト(TPI検査)を実施し、その結果でオリンピックを予測しました。このテストは本音と建前を探ることができるのです。自主・協働の気持ちになっているか、それともしらけや閉鎖的な気持ちなのか。順応しているのか、萎縮しているのか、反発しているのかが分かるのです。心理テストの結果、女性の場合の建前はよかった。オリンピックに向かって積極的に自主的にやりますと。ところが、本音はそうでない。ちょっとしらけがある。あるいはあの監督は嫌だなと反発している。非常にバランスの悪い結果でした。
一方、男性はどうだったか。これは単純で本音と建前があまり変わらない。ですから陸上男子は入賞者が十一名もいた。女子の陸上入賞者はマラソンの三名のみでしたが、この三名は海外で合宿中でして、心理テストを受けていなかったのです。
ものの見事に事前の心理がアテネオリンピックの成果に表れています。この結果から常識的に考えますと、何かの理由でトリノ日本選手間に建前と本音で乖離があり、それがメダルを取れない、つまり、派遣選手数に対する生産性の低さとなったのだと思います。
すべて小さく考えろ THINK SMALL
トヨタの「カイゼン」運動も、アメリカのウォルマートの創業者サム・ウォルトンが言い続けた「THINK SMALL」も「すべて小さく考えろ」ということで通じます。
強くなるということは企業に例えれば成長であり、売り上げ増で、それを増やすためには三つの方法があります。一つは品揃えを増やすこと。二つは店を増やすこと。三つは一品あたりの売り上げを増やすことです。つまり、生産性を上げることですが、一と二は「増やす」というコンセプト、それに対して三は「変える」ということです。一品あたりの売り上げを増やすのですから、品質を見直し、臨機応変に売り場を変えるなど、その商品の良さを更に追求する単品管理の状態に入っていくことです。
一方、強くなるということを、人に例えれば生産性を高めることになると思います。オリンピックの派遣選手数に対するメダル数、その効果を期待するなら選手を本音と建前が一致する状態にすること、移民政策を採ってもサービスに問題ないようにするためには事前教育が肝心です。
日本が人口減の中で世界的な競争力を持ち、成長し続けていくために必要な条件は、一人当たりの生産性を上げることが最も大事です。そのためには「変える」ことであり、自らの足元を知りつかんで「すべて小さく考えろ」で工夫し、創る変えることです。 以上。