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2011年09月21日

2011年9月20日 ミシュラン空白ゾーンは狙い目だ・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年9月20日 ミシュラン空白ゾーンは狙い目だ・・・その二

前号に引き続き「ミシュラン空白ゾーンは狙い目だ」をお伝えします。

海辺の有名某市に提案した事

前号でいろいろ述べました背景を持って、ミシュランガイド空白ゾーンの海辺有名某市で「外国人観光客誘致」についてお話しました。
お伝えした内容は、こちらの市はもともと豊かな素晴らしい観光資源を持っているのだから、それを外国人用に情報編集し、英語・仏語にする事が必要であるという一点だけ。

しかし、その実現の為には前提があると次のように提案いたしました。
それは「戦略」を構築する事です。また、「戦略」を定めるには、その前に立場を明確に決定しなければいけません。立場を決めないと「戦略」を立てられず、「戦略」無き展開は成功しません。

戦略構築のためには立場を明確にすること

そこで、その戦略構築のためには、次の二つの「立場」があるだろうと説明しました。

① 景気がよくなって、その結果として自然に観光客が来るようにしたいという考え方・立場で、これは「日本がGDP成長すれば」「市が属する該当地域全般を県が活性化してくれれば」「市が画期的事業を展開してくれれば」という、いわば他者に依存する立場です。

② そうではなく、自らの工夫企画力展開で観光客を増やすという考え方・立場で、関係者の主体的行動によって進める立場です。

この二つのどちらの立場にするか、それを観光協会と市の観光課長に尋ねましたが回答はなく無言でした。多分、普段考えていない範疇の問いで、一瞬、答えあぐねたのでしょう。だが、自らの優れた観光財産がありながら、外国人観光客が少ない現状は、日本全国いたるところにあるでしょうが、これは実はフランスでも同様なのです。

フランス・アルカッションの牡蠣祭り事例 

① フランスでも地域によって外国人観光客は少ない

外国人観光客を増やそうという、フランス・アルカッション市の事例を紹介したいと思います。年間8000万人という世界一の観光客を受け入れているフランスでも、地域によっては外国人観光客が少ないところが多々あります。

アキテーヌ地域圏ジロンド県に属する、大西洋岸のアルカッション市も同様で、芳醇な香りを誇るワインで有名なボルドーには多くの外国人観光客が訪れるのに、そのボルドーから60kmしか離れていない牡蠣の町アルカッションには外国人は少ないのです。

そこで、アルカッション市は地元活性化のために、外国人観光客を取り込もうと、同市の特徴である牡蠣をメインに「第一回インターナショナル牡蠣祭り」を企画し、当方に市長から招待状が届きましたので行ってまいりました。

アルカッション市の関係者とは、毎年春先に開催されているパリの農業祭における牡蠣品評会で知りあった関係から招待状が届いたのです。

② 牡蠣祭りが始まった

アルカッション湾は、25,000ヘクタールあるが、湾の入り口は幅3キロメートルしかなく、その狭い水路へ巨大な大西洋から流れ込み、潮の満ち引きにより海へ逆流し、毎日、37,000万立方メートルの水が、毎秒2メートルの速度で出たり入ったりする。水路はそのために変化し、そこに強風が加わると非常に危険で、船乗りたちが恐れる海域です。

さて、祭りの当日、海辺の牡蠣祭り会場入り口に向かうと、既に100人くらい集まっていて、ブラスバンドも演奏を始め、そのあとを市長と一緒にインターナショナル牡蠣祭りの会場に向かいました。海辺の会場には日本、アイルランド、スペイン、フランスの四カ国の牡蠣状況が展示された牡蠣小屋が設置されています。インターナショナル牡蠣祭りといっても参加はフランス含め4カ国にすぎません。これは第一回なので少ないのです。

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③ 牡蠣剥きコンテストは定番

各国の牡蠣小屋を紹介した後は、いよいよ牡蠣祭り会場のテープカットでした。アルカッション牡蠣組合長が晴れがましい笑顔でテープを切ると、花火が上がり盛大な拍手。
その盛り上がった雰囲気の中で、テーブル上に置かれた四個の牡蠣、その産地当てクイズや、牡蠣剥きスピードコンテストが行われます。

牡蠣を生で食べるヨーロッパでは、牡蠣剥きコンテストはやはり牡蠣祭りの定番です。ここが日本の牡蠣祭りとは違うところです。
 
④ メイン会場の盛り上がり

再びブラスバンドを先頭に歩きだす。いつの間にか人数が増え、メイン会場には1000人以上集まっている。メイン会場正面に設置された舞台に、四カ国のメンバーが再び市長から紹介され、組合長が再び挨拶し、市長から四カ国からの参加者と、この牡蠣祭り開催に協力してくれた人たちにお礼の記念品が贈呈される。

これまでがオープンセレモニー。終わると舞台の前にコの字形に配置されたテーブルに参加者が殺到する。牡蠣とワイン・ジュースなどが無料で提供される。

このテーブルの食べ物がなくなったタイミングに、大きなテントが貼られた食事会場に案内される。このテント内の食事、隣の人との会話も不十分なほど、ブラスバンドがテーブルの上に乗って派手に演奏し、会場内を移動していく。とにかく雰囲気はすごい。全員が手拍子。人数も2000人くらいに増えている感じ。 テーブルに運んでくるのは少年少女たちで、これが可愛いし、しっかりマナーをもっている。さすがテーブルマナーのフランス人だと感心する。

このあたりからメイン会場での白ワイン、続くこのテント内で赤白ボルドーワイン、それに会場内の熱気が加わって、酔いが一段と体内を走り回るが、これが翌朝の2時まで続くのだという説明にびっくり仰天。これは体力の限界を超えると、23時前に失礼してホテルに戻った。この調子で明日も祭りが続いたが、このあたりで祭りの状況説明はやめたい。
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海辺の有名某市で伝えた事

以上の状況を海辺の有名某市でお伝えし、注意点も申し上げました。

それは、このアルカッション市のような祭りを真似てはダメだという事です。
いくら盛り上がった祭りでも、アルカッション市の祭りと同じようにしてしまうと、日本の良さは薄れます。フランスには「フランススタイル」があり、日本には「日本スタイル」があります。

ですから、アルカッション市の祭りと同じようにしてしまうと、折角の海辺の有名某市の観光魅力が消えてしまいますし、真似ごとは本場ものに敵わないのですから無理が生じます。日本に外国人が観光目的で訪れるのは、欧米人にとって日本が異文化であるからなのです。

自分達の社会と異なっている自然と生活習慣、その違いを見つけるために日本に来るのです。違いが最大魅力だということを日本の観光地は理解しなければなりません。

ここを考え違いする観光地が時にあります。相手と同じシステムにすると観光客が増えるだろうと、建物・設備・システムを変えてしまうところが時折見ますが、これは誤りなのです。ただし、訪れる外国人がどのような生活スタイルなのかは知っておく必要があります。知った上で、こちらは今のままで、何も変えなく現状のままにし、その現状を外国人の立場に立って編集し、外国語で情報発信する事が、外国人観光客を増やす最大のコツなのです。

このところがミシュラン空白ゾーン地区の狙い目です。

しかし、まだ理解していない日本の観光地が多いうちは、日本の観光大国化は難しいと思いますが、ポイントは簡単ですから、理解され展開されるとその地区に外国人が多く訪れるのは間違いありません。

以上。

投稿者 Master : 05:37 | コメント (0)

2011年09月05日

2011年9月5日 ミシュランガイド空白ゾーンは狙い目だ・・・その一

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年9月5日 ミシュランガイド空白ゾーンは狙い目だ・・・その一

ミシュランガイド東京周辺地図
 ミシュラン旅行ガイドに掲載されている東京周辺地図を見ると「東京」「日光」「高尾山」「富士山」の四カ所が三ツ星で、オレンジ枠で大きく表示されています。高尾山に欧米人が多く訪れるようになった理由は、この三ツ星が要因です。
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イエローで囲まれた二つ星は「鎌倉」「伊豆半島」「修善寺」「下田」の四カ所、黒字に赤線が引かれている一つ星は「横浜」「箱根」「中禅寺湖」「河口湖」の四カ所です。その他星付きではありませんが、地名が書かれているのは「草津温泉」「湯元」「前橋」「高崎」「熊谷」「甲府」「千葉」「木更津」「銚子」「横須賀」「小田原」「三島」等。観光関係者は、ミシュランガイドをよく検討すべきです。
                    
ミシュランガイド空白ゾーン
昔からの有名観光地・保養地でありながら、上図に掲載されていないところはたくさんあります。地図で表示されていない観光地の方が圧倒的に多いのです。どうして掲載され、どうして表示されないのか。その疑問を解く鍵は簡単明瞭です。

それは、このガイドブック作成のライターが訪問していないからです。ということは、ライターの手許にその観光地の情報が届いていないという意味になります。つまり、訪問させるような情報を発信していないという事で、具体的に言えば英語か仏語でのガイドブックが作成されていないのです。掲載されていない事を嘆くより、この当たり前の情報発信を怠っているという事実を認識する方が大事です。

先日、そのミシュランガイド空白ゾーンのある海辺の有名某市に招かれました。観光協会と市の観光課長に「外国人観光客誘致」について解説を求められたのです。一昨年から進めてきました世界の観光ガイドブックに関わる、仏人ライターを招聘した「日本の温泉を世界へ」セミナー開催が効を奏し、伊豆天城湯ヶ島温泉の一旅館がフランス・ブルーガイドに掲載されることになりましたが、そのあたりも含めて説明してまいりました。

野田財務大臣(現首相)の講演

野田佳彦首相が財務大臣であった8月18日に、内外情勢調査会で講演を聞きました。しきりに財政再建、国の借金経営を是正したい、その為には増税も視野に入れていると強調し、その根拠の数字を次から次へと羅列し、これは財務官僚が書いたシナリオではないかと思えるほどの内容でした。

講演が終っての質問で「増税の前に国会議員削減、公務員給与の減額をすべき」と反論があり、それは実行する旨の回答がありましたが、これに首を傾げました。増税に触れるなら政府自らの削減項目を、質問される前に言及しておくのが筋であり、指摘されるまで述べない講演シナリオセンスに、一国のリーダーシップは難しいのではと思ったわけです。

しかし、民主党代表選及び首相就任後の発言は見事です。国会議員削減、公務員給与の減額を行うと言及、加えて「どじょう」から始まって「ミッドフィルター集団が必要」、「思惑でなく思いを」、「下心でなく真心で」、「論破でなく説得を」等の語りが、多くの国民を捉えました。さらに、床屋も10分1000円という低価格店の常連客というのですから、正に「庶民派宰相」で、今のところ支持率も高く、これからの政治力発揮を期待したいと思っています。

さらに、8月18日講演で、次に示したエコノミスト7月30日号表紙にもふれました。このような批判から脱却したいという想いと、8月26日の米ワイオミング州ジャクソンホールで予定される、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長講演に高い関心を示し、アメリカの追加金融策についても言及しました。

エコノミスト7月30日号

 7月30日発売の英誌エコノミストは、 世界が恐れる「日本化japanificationジャパニフィケーション」で、 表紙には和服姿のアメリカ・オバマ大統領と、日本髪のドイツ・メルケル首相の似顔絵が登場しました。

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ジャパニフィケーションとは、90年代の日本のバブル景気崩壊以後「失われた10年」「失われた20年」という「長期的な不景気」「デフレ」状態に、特定国の経済が陥っている状態を指す表現で、欧州のユーロ危機、米国の債務上限引き上げの対応の迷走に対応しきれない欧米の政治家に対して、適切な経済政策を展開しなかった日本の政治家達を反面教師として、同様になってはいけないと批判しているのです。

しかし、この批判には疑問を持ちます。日本の経済政策の失敗によるデフレは、マネーサプライを増やせばたちどころに解決すると、かつて米連邦準備制度理事会(FRB)の幹部や欧米経済学者達がこぞって主張し、それを実行しない日銀や日本の政策当局を責め立てていました。

また、サブプライムローン問題から発したリーマンショクの金融危機も、ジャパニフィケーションを既に20年近く十分研究済であり、金融を迅速かつ十分に緩和すれば対処可能だから、日本のようにはならないと豪語していたはずなのに、ここに至って日本化が心配だというのですから、経済関係の専門家や識者もそれほどでもないレベルと考えます。

ジャクソンホール

さらに、違和感を持ったのは、米ワイオミング州ジャクソンホールへの期待でした。8月26日、ジャクソンホールで米連邦準備制度理事会(FRB)バーナンキ議長が講演しましたが、その中で「何らかの追加緩和策」が打ち出されるのではないかという期待を、事前に野田大臣や世界中が持った事です。

ジャクソンホールは米最古の国立公園イエローストーン公園への入り口として知られ、一度空港に降り立った事がありますが、崖の下に位置する谷あいの町で、ここでカンザスシティー地区連銀が主催するシンポジウムでバーナンキ議長が講演したのです。

期待の講演結果は「FRBには追加で提供できる様々な手段がある」と述べるに止まり、さらに次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で議論を深めるという、全く具体策無きもので、完全に肩透かしで、谷あいの町ジャクソンホールにふさわしく、米経済は深い谷間にいるという事を示唆した講演であり、マクロ経済対策で打つ手に詰まっているというのが正直なところでしょう。

バーナンキ議長講演から学ぶ事は、政府や日銀の経済・金融政策に頼るのではなく、自分の事は自分で解決していくべきだという事ではないでしょうか。

東日本大震災後の企業の大変化

その事を指摘するのは、東レ経営研究所の増田貴司氏です。(日経2011.8.19)
日本企業は、これまで先送りしてきた経営革新や成長戦略に、東日本大震災後の経営環境激変で、覚悟を決めて取り組みだしたのが、以下の三項目であると分析しています。
 
① 新興国市場を開拓目的で海外生産シフトやM&A(合併・買収)を活発化させた。

  ② 過剰な多品種少量生産、過剰品質を見直し、部品を特注品から標準品へ切り替え。

 ③ 国内同士の競争で体力を減らすのではなく、主戦場である海外市場での競争力強化。

 この大変化はその通りと思い、観光関係者が傾注すべきは③でしょう。国内は生産年齢人口の減少を迎えており、消費需要は増えず、少ない観光客の奪い合いになって、体力消耗戦になっているのですから、外国人をターゲットにするのは当たり前の作戦でしょう。
 
これらいろいろ述べました背景を持ちミシュランガイド空白ゾーンの有名海辺某市で「外国人観光客誘致」についてお話しましたが、これについては次号となります。以上。

投稿者 Master : 13:13 | コメント (0)