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2013年08月21日

2013年8月20日 ウォール・ストリート・ジャーナルの関心事(下)

YAMAMOTOレター
環境・文化・経済 山本紀久雄
2013年8月20日 ウォール・ストリート・ジャーナルの関心事(下)

 前号(2013年8月5日)の米国NYウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン支局のエネルギー・司法担当のエディターによる自宅への取材についての続きである。この人物の日本語は日本人並み。さすがにアメリカの新聞記者の人材層は厚いと感じる。

本当の取材意図は別だろう
 エディターと話をしていて感じたのは、前号で紹介した内容で取材に来たのではない。という疑問を持ったので、率直に尋ねてみた。

 その通りで、実は、記事を書こうと考えた背景には、アメリカの実情が隠されていた。
アメリカでは電力自由化となっている。これは電気料金の引き下げや電気事業における資源配分の効率化を進めることを目的としているが、具体的には

• 誰でも電力供給事業者になることができる(発電の自由化)
• どの供給事業者からでも電力を買えるようにする(小売の自由化)
• 誰でもどこへでも既設の送・配電網を使って電気を送・配電できるようにする(送・配電の自由化)
• 既存の電力会社の発電部門と送電部門を切り離すことで競争的環境を整える(発送電送分離)
• 電力卸売市場の整備
などである。

これらの自由化は電気料金を引き下げ競争となるが、それには二つの方法を採る。

• 従来の独占体制下で行われていた総括原価主義によって、無駄なコストを料金に上乗せすることはできなくなる反面、コストを引き下げた企業はその分利潤を増大することができる。このため発電コストを下げる努力を鋭意することになる。
• 電力料金が需給のバランスで決めるので、夏のピーク時間帯の電力料金は高くなる。今まではピーク時間帯の需要に備えて、過大な送電や発電の設備がつくられてきたが、ピーク時を高い電力料金にすることによって、この時間帯の需要量が抑えられると、これまでのような過大な施設は不用になり、結果として設備投資減から、コストが下がり、返ってピーク時以外の時間帯の電力料金は大幅に引き下げられことから、この電力供給企業は需要増になり利益増となる。

 このように個々の電力企業の行動で利益額が変化していくが、ここに今後急増していく太陽光発電での買い取りがどのような影響を与えるのか。

この検討には、日本と違うアメリカ企業の実情がある。アメリカの企業は、常に格付け機関によって企業評価を受け、それによって銀行からの借り入れコストが変わる。また、アメリカでは株主の発言力が強く、常に株主の意向を忖度する必要がある。

つまり、急増する太陽光発電を、電力企業が買い取りすると、格付け機関と株主がそれをどのように評価し判断をするのか、そこを論点として記事を書いてみたいと思っているのだと発言する。

 一例を挙げると、規模が小さい電力企業の場合、供給量の買い取り増加で、配電量と配電先が増加すると、送電線のなどの設備投資を増やさざるを得ない。

加えて、アメリカでは結構停電が多い。その理由は強風で樹木が電線に倒れ、それによって通電ができなくなるという事態で、これを改善しようとすると、更に設備投資がかさむ。

つまり、送電線の強化を図ると投資が増え利益が減り、企業格付けランクが下がり、株主から追及される可能性もある上に、ドイツのように環境破壊という理由で設置地区から反発を受けることも予測される。

という様々な背景があるので、そのところと日本実態を勘案して記事を書き、次にデスクと相談し、どのような編集にするか。そのところを今考えているとの発言。

これにはウォール・ストリート・ジャーナル社が、ルパート・マードックによって買収されたことが絡んでいる。自分は署名記事を書くのだから自己主張をしたいが、経営トップが共和党であり、保守主義的であるから、なかなか自分の主張や筋を通すのが難しい面があるという発言もあって、アメリカの新聞の背面実態を知るよい機会であり、これらを分かった上で、今後、NYタイムスやウォール・ストリート・ジャーナルの記事を読み解くことが必要だと思った次第。

なお、従軍慰安婦問題は、アメリカでは特定の人しか関心を示していないので、日本側は正面から立ち向かわない方がよいのではないかと、先日の昼食会で佐々江大使に申し上げたとも発言。

さらに、原発の再稼働について、当方の見解を求められ、家内にも直接問いかけていたが、これについては主題でないので割愛する。

最後に
 東日本大震災後、電力各社は行政の認可が必要な家庭向けに加え、企業向けや燃料費の上昇を自動的に反映する制度で、料金を順次上げている。

その家庭用電気代は、8月1日に北海道、東北、四国の3電力の値上げ幅が決定され、標準家庭の月額で見た利用金は2013年9月から次のように値上げされる。

 この値上げによる負担増は全体で2兆円(日本経済新聞社試算)を超すという。消費税に先駆けて、既に国民は負担が増えているのであって、この解決策は自ら発電するしかない。

 勿論、太陽光+エネフアーム=ダブル発電のシステムを自宅に導入するには、それなりの設備とお金がかかるが、太陽光発電による売電で、毎月、結構な金額が入金になる実態を経験してみると、値上げに対する反発気分はあるものの、助かったという気持ちも正直ある。

 それと、火力や原子力発電の場合、一次エネルギーの63%が利用されずに排熱されるということで、家庭に届くのは結果的に37%にしか過ぎなくロスが大きい。

 これに対し、エネファームは家庭に設置するので、送電ロスはゼロとなって、エネルギー利用効率は81%と高いので、国家全体の効率化に寄与していることになる。 これらを考えるとエネファームを導入してよかったと思っている次第である。

 だが、「再生可能エネルギーの電源構成が20%に近づくと様々な問題が表面化する」(日経新聞2013.7.29)という指摘もあるので、続けて関心を持って行きたい。以上。

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2013年08月05日

2013年8月5日 ウォール・ストリート・ジャーナルの関心事(上)

YAMAMOTOレター
環境・文化・経済 山本紀久雄
2013年8月5日 ウォール・ストリート・ジャーナルの関心事(上)

ウォール・ストリート・ジャーナルから取材

7月21日(日)、米国NYウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン支局のエネルギー・司法担当のエディターが自宅に取材に来た。彼の日本語は日本人並みである。

 ウォール・ストリート・ジャーナルとは、NYで発行される国際的な影響力を持つ日刊新聞で1889年創刊。その間にピューリッツァー賞を26回受賞し、創業者による編集不干渉の方針が1世紀貫かれてきたが、ルパート・マードックによる2007年の買収により、それまでの分析記事基調の誌面から大衆誌へと変化してきて、2009年から発行部数が米国首位に返り咲いている。保守系・共和党系寄り。

取材までの経緯

エディターとは、事前にメールで日程調整はしたが、どうして日本の個人家庭へ取材をするのかについては、詳しく連絡がなかったので、実際に会い、その背景を聞き、更にビックリした。

それは自宅北道路側に設置した下写真のエネフアーム、この高さ1.8m、幅1.1m、奥行き0.5mの物体が世界にはなく、日本だけに存在しているという事実を、ワシントンから来たエディターから聞くまで知らず、それほどの価値があるものとも認識していなかったから。

では何故に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙ワシントン支局のエディターが自宅に取材に来たのか。他にもっと著名な家もあるし、立派な高級住宅もあるだろうから、当家に来るのは何か理由があるのだと、これを読まれている方は疑問を持たれずはず。

その通りで、お話すれば簡単なこと。実は知人のウォール・ストリート・ジャーナル紙東京支局長夫妻が、先般、娘さんを連れて、建て替え後の当家を見たいと来た際、家の中を案内し、当然に屋根上の太陽光+エネフアーム=ダブル発電、このシステムを説明済みであったので、東京支局長がワシントン支局に当家を推薦したのである。

だが、その時の東京支局長は「ああ、そういうシステムですか」という程度の反応しかなかったので、ワシントン支局から取材依頼のメールがあった時は大変驚いたわけ。

しかし、こちらはエネフアームの仕組みには詳しくない。というのも当家を工事した住宅メーカー、日本で一流といわれている会社であるが、詳しい実践的解説が少なく、概念的な説明を受け設置したので、取材で質問されても答えられない。

そこで、東京ガスの「エネフアーム使用説明担当」に来宅を依頼し、改めて懇切丁寧で分かりやすい説明を受け、ようやく「なるほど」と理解したのである。

次に必要なものは、多分、省エネの実態だろうと考え、昨年と今年の電気とガス料金を比較し、東京電力から入金になっている太陽光発電額も調べウォール・ストリート・ジャーナルを迎えたわけである。

日本でのエネファーム導入経緯

エネファームの日本での導入経緯を調べてみた。

現在、「究極のエコカー」と呼ばれる燃料電池車の量産時代に向かって、日米独自動車メーカーが鎬を削る競争をしているが、この燃料電池原理は1801年に英国で発見されたもの。

エネファームはこの燃料電池原理に基づき、自動車に先駆け、日本が世界で最初に一般商品化したもの。2002年小泉首相(当時)が「燃料電池は水素利用の時代を開く鍵」と施政方針演説を行い、2005年に首相新公邸にエネフアーム一号機が設置され、2009年から「民生用燃料電池導入支援事業」がスタートし、市場導入が開始。

既に43,000台(昨年12月現在)が稼働しており順調に拡大していて、東京ガスは2013年6月11日発表で、累計販売台数2万台を達成したという。エネファームの累計販売台数が2万台に達したのは東京ガスが初めて。

取材の意図

都内のホテルに宿泊しているというので、昼食を招待するから12時に最寄りの駅まで来るよう伝え、車で出迎え、家内がつくったサラダとから揚げ、天ざるそばを食べながら取材を受けた。

① 取材目的の第一
アメリカでの太陽光発電は、2011年の新規導入量は前年比76%増、2012年の新規導入量は世界全体の11%を占め、ここ数年で初めて10%を超えているように盛んである。

ところが、世界全体では2012年は前年比でわずか2%増にとどまっている。その最大の理由は欧州が23%減となったこと。アメリカや中国、日本が伸びる以上に欧州が沈み、このまま推移すれば、2013年の世界全体では11%減ると見込まれているという。

この背景には、欧州が高い買い取り価格を、電気料金に含まれる賦課金などの形で利用者に負担させるので、産業界からは「国際競争力を脅かす」と批判が相次ぎ、一般家庭からも料金値上げに不満の声が出ている。

アメリカではまだ欧州のようにはなっていないが、潜在的な問題としていずれ発生するのではないか。その点、日本ではどういう状況なのかを調べたい。これが第一の取材目的である。

② 取材目的の第二
これは2013年6月7日の日経新聞記事にエディターが関心を持ったこと。

記事は次のように、積水ハウスがゼロエネルギー住宅「グリーンファーストゼロ」の売上が好調で利益増というもの。

この記事の中の「ゼロエネルギー住宅」とは何か、ということに関心を持ち、積水ハウスの本社がある大阪へ行き、取締役本部長と面談しているうちに、初めてエネフアームの存在を知り、大阪ガス作成のパンフレットを入手、本社から紹介された川崎の積水ハウス住宅に訪問した。

この訪問時には神奈川支社の支店長と部長・担当者が同席していた。その翌日に当家に来て、家族だけの取材対応であったので、少し意外な顔していたが、帰りには「その方がいろいろザックバランな話でよかった」とのこと。

このエディター、ワシントン支局であるから、オバマ大統領を訪ねる各国首脳と接する機会もあり、安倍首相がワシントンに来た際に質問したことがあるように、世界の情報を一応持っていると自負している人物であって、日本の外交官などにも会う機会があり、先日も佐々江日本大使と昼食を一緒にしたが、エネフアームが話題なったことはないという。

燃料電池車と同じ原理を活用したエネフアームが、既に一般化商品として日本で普及している事実をエディターは知らなかったわけで、日本人は何故にこのようなシステムを世界にPRしないのか。そこが分からないと何回も発言する。

この発言に同意したい。世界に先駆けて日本が開発普及させたものを、世界に売り込み普及させていくことが必要だと思う。

安倍首相の外国訪問に多くの住宅メーカー社長が同行しているので、海外で売り込み機会は多々あるはず。住宅メーカー・関係業界の問題だ。次号に続く。以上。

投稿者 Master : 08:50 | コメント (0)