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2006年05月31日

香港で日本の温泉文化を紹介

当ゼミナールの会員でおられます、伊豆下賀茂温泉・伊古奈の女将、吉田様が香港で日本の温泉文化を紹介する講演と着物の着付け体験などのイベントに招かれ、女将の視点から日本文化を紹介されました。
吉田様がご活躍でいらっしゃいます、伊豆地区の女将による団体「THE OKAMI」は、世界に日本の温泉文化を紹介する活動と、そのために外国人を日本の温泉に誘客するための環境整備にご尽力されていらっしゃいます。当ゼミナールの代表・山本紀久雄氏も先日招かれ講演させていただいたことは既報の通りです。

日本文化は、マンガ、アニメなどをはじめ、世界に紹介され、高い評価を受けています。
温泉もまた、日本発の文化として世界中に認められ、世界の人々が訪れる場所になることを楽しみにしています。

港日文化交流—女将が伝える日本文化〜について
訪港:2006年4月19日〜4月22日
実施内容:
香港大学日本研究学科のご協力をいただき、大学内で女将の講演と実演(学生向け)。
第1部…女将が伝える日本文化。女将の一日紹介。長唄、DVD上映など。日本人のお風呂の楽しみ方(効能など、実際に温泉を配ったりする)。
第2部…日本研究学部の生徒向けのプログラム。日本の文化として、着物の着付け。桜の押し花しおりつくり−旅の思い出。
第3部…和菓子・つるし雛・折り紙作り。他に小唄、友禅染等で楽しんでいただく。

講演資料
『女将のおもてなし』
私どもは、伊豆半島の中央天城湯ヶ島と、半島の一番南、下賀茂温泉からまいりました。全国の女将のインバウンド組織「日本旅館国際女将会」と 伊豆の外客誘致団体「THE OKAMI」とが初めて、合同で日本の宿と温泉のおもてなしのアピールにまいりました。

日本の持っている、世界に誇れる資源のナンバーワンは、温泉だと思っております。
こんなにも癒され、効能があり、ひとたびいい温泉につかると、その体験は一生脳裏を離れないと思います。あふれる自然の中で入る温泉、近代施設の中で楽しむ温泉、近年とみにはやっている、健康増進媒体としての温泉…。こんなにも温泉が緑の中で密集し、お客様を癒している国もそうないと思います。
ある大先生が、現状の日本を称して「温泉鎖国」と銘うちましたが、温泉のよさと日本旅館を一人でも多くの方に味わっていただきたいと全員おもっております。

東京近郊の温泉地を、日帰りでなく、おかみの付加価値をつけて売っていこうという試みが、1988年より始まり、下賀茂温泉に白羽の矢が立ちました。女将に自由に企画を考えさせる初めての試みではなかったかと思います。連日おもてなしを女将同士で語り合いました。企画商品を生む苦しみをいやというほど味わいました。女将なんて古臭いと思っていたのに、いつの間にか女将の企画商品の売り上げが一番気になるように洗脳されてしまいました。この企画は、女将が、お客様と共有の時間を体験をしながら持つものでした。
そしてそれが、お客様にとって記憶に残る、お子様でしたら学校で誇れる、体験なのだと、お礼状を拝見するたびにこちらが感動しておりました。体験内容は、生花の小サージつくり、アロマキャンドルつくり、押し花のパウチ、絵手紙、炭アート、想いでのキーホルダーつくり、石絵などいろいろでした。宿の原点が、人と人のふれあいであると感じた日々でした。

北は福島、南は兵庫までの女将さんが、この日のために、心を込めてご用意した体験企画を、ぜひご覧になってくださいませ。
女将のお三味線と小唄の中、お雛様に囲まれてお抹茶のたて出しで幕があきます。
お昼のイベントは日本の象徴 桜の押し花を皆様に体験していただきます。
また、日本からお持ちした着物の着付けを皆様に体験していただき記念にしていただきたいと思います。
女性に人気の、美しくなる温泉水のデモンストレーションや、温泉の正しい入り方の
特別メニューは、温泉指導員の資格のある女将たちがご説明しますので、お聞きにならない手はございません。実際女将たちが、出発前直前に取ってきた温泉を、是非肌で感じてくださいませ。中には、口内炎なら一晩で治るような温泉も…。
夜は友禅染めなど、女将体験特別企画をご用意してございます。  
また、女将を知っているということは、旅館の上手な泊まり方ともいえると思います。出会いを大切にしない女将はいないと思います。

お客様に接する前のおもてなしと、お客様がいらしてからのおもてなし、どちらが比重かと問われますと、いらっしゃる前のほうが 顧客満足を高めるために何倍も知力も労力も使います。
調理部との打ち合わせは、旅館の鍵でもあります。
日々研鑽を積んでいる部署との話し合いは、真剣です。
客室係りとの話し合いは、業務向上のために重要で、根気強い客室訓練も、板長と共に行います。 
またアンケートは、一番大切なお客様との接点でもあり、近年とみに回廊とか古い建物に関心を寄せられる方が多いです。
玄関に打ち水をして、お待ち受けの花を飾り、篝火を炊いて、お迎えの準備が整います。
館内巡りツアーは、外人さんにシャッターチャンスが多いことから喜ばれますし、移動の時間にお客様の生のお声がお聞きできるので、これも次回のおもてなしに活用できます。
心から「ありがとうございました」と手をふって頭を下げられたときには、幸せを感じます。

「THE OKAMI」で、何度か外客向けのツアーを企画しているうちに、コンシェルジェの国際組織クレドールの会員の方と親しくなり、会の会合に出させていただいたり、ホテルのVIP向けのイベントに参加させていただいたり、交流が始まりました。 そこでホテルの方々の情報量の多さに驚き、旅館の立ち遅れ、おもてなしの範囲の狭さを感じました。一流ホテルの方々のときに応じたアドバイスやご送客は思ってもなかったことで、今でも深く感謝しております。そして今年、(株)ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツさんの集中予約センター「ロイヤル・アクセス」との業務提携にこぎつけました。
ホテルと旅館と、思いを同じくして誘客・接客にあたり、ホテルにないおもてなしを
伊豆の宿は模索しております。

神話の半島伊豆に古くから伝わる歴史物語、親子代々受け継がれてきた文化、音楽、芸能、料理、それらを、遊びも含めて、より質の高いものとして残せるよう、時間をかけて作り上げ、旅館に泊まって感化を受けるものにまでなれば、今に生きる旅館の道があるように思えます。
そして 何十年も前に当館の前庭を造成された庭師の方に、なくなる寸前まで、伊古奈の庭の木は大きくなっただろうな…といわせる、何十年先までもを思いやって伊古奈を作っていただいた方々を大樹の陰で思い 尊敬し感謝するのです。

本日はありがとうございました。

投稿者 lefthand : 12:16 | コメント (0)

2006年05月24日

経営ゼミナール6月定例会(319回)ご案内

6月の経営ゼミナールは、銀行倶楽部に戻りまして、6月19日(月)に開催いたします。
発表者は、独立行政法人国際交流基金の富岡順一氏です。富岡氏には、昨年3月にフランスのブランド戦略について発表をしていただきまして、大変好評でした。
富岡氏はその後、(株)資生堂を退職され、4月より独立行政法人国際交流基金の文化事業部に勤務されています。独立行政法人国際交流基金のご経験から、「日本の国際文化交流」について発表をしていただきます。

1980年代に「ジャパンアズナンバー1」といわれ経済が好調なときに、余りにも経済やハード面ばかりの日本の進出に、文化的な顔が見えず日本には文化はないのかと批判された時期がありました。その後バブル崩壊、失われた10年の時期を経て、文化性が再び問われるようになりました。
現在では、国際的に文化的な面での日本人の活躍が目立つようになりました。例えば、北野武の映画の人気。直近ではイタリアの第10回ガリレオ2000賞の文化特別賞を北野武が受賞しました。又、蜷川幸雄のロンドンでのシェークスピアのロングラン公演、宮本亜門のブロードウェイ初の東洋人演出家かつトニー賞ノミネートなど、日本人の作品に、高い評価が海外で与えられるようになりました。
和食も人気となっています。従来のてんぷら、すき焼きだけでなく、大衆的な焼き鳥、ラーメンなどがニューヨークやパリに店舗を構え、現地の人たちが好んで食べています。
更にアニメやマンガの人気があります。テーマ性や構成、心理描写などで進化をつづけるマンガは、mangaという日本語がそのままに使われ、国際的に認知され、国内外の美術館でも展示テーマに取り上げられています。
グルーバル化の中で活躍していくためには、経済的な優位性だけでなく、世界の中における日本がどのような国であるのか、より良く理解されることが大切ではないでしょうか。
そこで、今回は、富岡順一氏をお迎えして、文化は外交の手段となることができるのか、日本における国際文化交流について、日本の国際交流を支援する現場から、国際文化交流の現状、未来について発表していただきます。

6月の経営ゼミナールのご参加をお待ちしています。

略歴
1949年8月 神奈川県生まれ
1974年3月 慶応義塾大学商学部卒業
1974年4月 (株)資生堂入社 
1980年6月 資生堂ヨーロッパ(フランス)駐在
1994年2月 資生堂インターナショナルフランス副社長(フランス)
1996年6月 (株)ピエール・ファーブル・ジャポン
        商品開発部ゼネラルマネージャー
2000年4月 外務省在仏日本国大使館一等書記官(広報文化担当) 
2002年6月 (株)ピエール・ファーブル・ジャポン社長
2005年3月 (株)資生堂退社
2005年4月 独立行政法人国際交流基金文化事業部入社。現在に至る

■日時:2006年6月19日(月)
    6時集合(食事を用意しています)
    6時15分より山本紀久雄代表の時流講話
    経営ゼミナ−ルは6時半開始8時半終了予定
   
■場所:東京銀行協会ビル内 銀行倶楽部 4階3号会議室
    千代田区丸の内1−3−1 Tel:03−5252−3791
    東京駅丸の内北口より徒歩5分(皇居和田倉門前)

■テーマと講師:
   「日本の国際文化交流」
    独立行政法人国際交流基金 文化事業部
    富岡 順一氏

■会費:オブザーバー参加の方は、当日会費として1万円をご用意下さい。

■お申し込み:
当ホームページの「例会参加フォーム」よりお申し込みください。
http://www.keiei-semi.jp/zemi_reikai.htm
■問い合わせ 
出 欠:編集工房 代表 田中達也 
電 話:048−229−2122
FAX:048−473−7293
その他は金子 ぬりえ美術館内(03−3892−5391)まで問い合わせ願います。

投稿者 lefthand : 18:00 | コメント (0)

7月の例会予告

7月の経営ゼミナール例会は、7月24日(月)に開催いたします(7月17日が祝日のため、第四月曜日に開催になります)。
発表者には、株式会社テクノエーオーアジアの工学博士 増川いづみ氏をお招きいたします。

電磁波が健康に影響を与えると言われる電磁波公害、電磁波問題をご存知でしょうか。電磁波公害とは「21世紀の公害」といわれ、欧米では関心が高く、予防策もとられている電磁波問題ですが、日本ではなぜかあまり取り上げられることがなく知られていません。
高圧送電線からだけでなく、パソコンやテレビ、携帯電話、そして身の回りの家電製品からも電磁波が出ているのはご存じでしたでしょうか。 その電磁波は、健康を損なう恐れがあると言われています。
これからの健康の維持に影響を及ぼすといわれる電磁波について、長らく研究をされてきた増川いづみ氏から、まだ日本では知られていないこの問題について発表していただきます。
7月の経営ゼミナールをご予定いただきますようお願いいたします。

投稿者 lefthand : 17:15 | コメント (0)

8月以降のスケジュール

今後のスケジュール

8月は、例年通り夏休みとなります。
9月は、講師のご都合で、9月14日(木)に、開催いたします。

変則的になりますので、ご予定の程よろしくお願い申し上げます。

投稿者 lefthand : 16:28 | コメント (0)

2006年05月19日

5月例会感想

5月の例会は、宮城県・東鳴子温泉で最先端の心を学ぶ研修を行いました。
5月の東鳴子温泉は、まばゆいばかりの新緑に彩られた絶好の季節でした。みずみずしい木々が私たちに活力を与えてくれるようでした。

早めに旅館に着くと、湯治のため長逗留されているお客様がいらっしゃいました。もう10日ばかり留まっておられるようでした。5〜6人で談笑されていたのですが、話によると別グループなのだそうです。湯治をしている間に仲良しになり、お互いに情報交換などされるようになるのだそうです。「ピア(仲間)」が形成されているのです。湯治場という旅先の特殊環境の中で生まれる心の変化が、こうした交流を生むのでしょうか。

  
このような清々しい環境の中、今回は「ピア・カウンセリング」というカウンセリング技能を学びながら、現代の「こころ」について考えました。
ピア・カウンセリングとは、「仲間同士のカウンセリング」という意味で、臨床心理士などが行う治療を目的としたカウンセリングではありません。職場の同僚や友人、家族といった、あるグループに属する仲間同士=ピア(peer)の中でのカウンセリングです。そして、ピア・カウンセリングの技能の基本となるのは「傾聴」なのだそうです。
傾聴はコミュニケーション技法なのですが、その本質は「相手の話を聴く」ことです。相手の話を聴くとは、相手が聴いてくれたと感じて、相手との信頼感が生まれる、人と人との絆をつなぐコミュニケーションの技能だということなのです。

研修後の懇親会の席で、妻が夫に離縁されないための100ヶ条という話題が出まして、その1位が「私の話を聴いて!」だったそうです。職場で、友人と、あるいは家庭で、私たちは相手の話を聴けているでしょうか。そんなことを考える機会をいただいた研修だったと感じました。

(田中達也・記)

投稿者 lefthand : 17:19 | コメント (0)

2006年05月12日

講演会の情報

経営ゼミナールの会員でいらっしゃいます、南伊豆・下賀茂温泉「伊古奈」の女将・吉田様よりご依頼いただきまして、当ゼミナール代表の山本紀久雄が講演をさせていただきます。
テーマ:「世界から見た日本の温泉業界への期待」
     ・・・日本文化と食育を通じて・・・

日時:2006年5月16日(火) 15:45〜17:00
会場:伊豆長岡温泉「三養荘」
   静岡県伊豆の国市ままの上270
講師:山本紀久雄
お声がけいただきましたのは、静岡県ホテル旅館生活協同組合の女性部、いわば「女将」の方々からです。女性部の皆様は「the OKAMI」という通称で、日本の温泉を積極的に世界に発信されておられます。
今回の講演は、世界からの視点で見た日本の温泉についてお話しいたします。
取り急ぎ、お知らせ申し上げます。

投稿者 lefthand : 20:38 | コメント (0)

2006年05月05日

2006年5月5日 集団的催眠状態になる日本人

環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年5月5日 集団的催眠状態になる日本人

財政赤字の本質
ゴールデンウイークも後半になって、各地からUターンの渋滞が始まっています。天気は快晴、気持ちよい五月五日ですが如何お過ごしですか。当方は事務所移転後の細かい後始末と、放っておいた草花の手入れと、原稿書きで過ごしております。

先日、自民党の片山さつき代議士のお話を聞く機会がありました。さすがに東京大学法学部卒で大蔵省の主税局勤務、その後フランスの最高レベルのENA(フランス国立行政学院)を修了しただけに、何でも詳しく現在の問題点を解説してくれました。その中で当然ですが、国家財政の赤字についてもふれ、解決策は行政改革と消費税の増額になるだろうとの見解でした。国と地方を合わせた2005年12月末の債務残高は800兆円で、GDP対比
150%程度、この改善策として外国からは「どこかの時点で増税してリカバリーするだろう」と見られているとも言っておりました。まだ日本の消費税が他国に比較し低いので、その分楽観的に外国から見られているという意味です。
しかし、この内容を聞きながら思ったことは、この巨額の財政赤字を発生させた張本人は、国の財布を管理している大蔵省に責任があり、その大蔵省に在籍していた片山代議士にも当然あるわけですが、その責任云々については一切言及しませんでした。バブル崩壊以後も公共投資重視の、ケインズ型経済政策を採ったのは大蔵省です。勿論、政治の力によって押し切られたとも思いますが、ヨーロッパ各国の非ケインズ経済政策に対して、日本は反対の従来政策を踏襲してきた責任、それについて何ら言及がなかったのです。経済政策の失敗が今日の巨額債務残高に拍車をかけたことへの説明、それが欠如していました。

集団的催眠
日本人は「物事を自分に都合よく動くという夜郎自大的な判断をする」というのが半藤一利氏の見解です。「例えば、第二次世界大戦のガダルカナルの戦い。最初は米軍の本格的な反攻でない、という判断で対策が後手後手に回ったが、これは起きて困ることは起きないという発想だった。ソ連の満州侵攻にしても陸軍は考えたくなかった。海軍は米艦隊を日本近海におびき寄せて撃滅できると夢をみていた。こういう発想を持つのは、小集団のエリートの弊害で、陸大や海大出の優秀な人材が集まった参謀本部や軍令部に絶対的な権力が集中していたからであった。その彼らは作戦を司る軍事学にはたけていたが、常識を教わっていない。ある種の『タコツボ社会』で、失敗してもかばい合って反省が次に生かされない。ノモンハン事件の参謀たちがそのいい事例だ。この戦争の指導者たちが陥った『根拠なき自己過信』は、何もその時代だけのものではない」(日経2006.4.20)。
この見解は巨額債務残高となったことにも重なり合います。終戦後展開してきた経済政策、高度成長時代を支えた見事なケインズ型経済政策、その効果がバブル崩壊という時代が反転した状況下でも通じると過信し、思い込み、それを声高に叫ぶ一部の政治家に圧され、集団催眠にかかったように、巨額の国債発行をくり返したのです。その事実を当時の政治家言動から振り返ってみます。
(小渕首相)世界一の借金王にとうとうなってしまった。600兆円も借金をもっているのは日本の首相しかいない(2000年度予算案提示時1999.12.12)
(宮沢大蔵大臣)大きな歴史から見ると、私は恐らく大変な借金をした大蔵大臣として歴史に残るんだろうと思います(2001年度予算編成記者会見時2000.12.20)
(亀井自民党政調会長)一家の稼ぎ頭の父ちゃんが倒れてしまったのだから、子供から借金しても栄養をつけさせないといけない(毎日新聞1999.11.14)
いずれも世界に類例のなき巨額国債発行であること、それを十分認識しているのですが、その効果を確証出来ず、しないまま、公共投資等を増額すれば経済が好転するという「思い込み」の集団的催眠状態で、国家の政治を推進していたのです。恐ろしい感覚です。
この集団的催眠状態を小泉首相がようやく覚まし、歯止めをかけましたが、残った結果は今日の財政惨状です。政治家と大蔵省の持つ世界的視野での経済認識、ベルリンの壁崩壊以後の世界経済状況激変、そのことに対する事実認識に問題があったのです。
これらの経緯について、大蔵省出身の片山代議士から何も発言がありませんでした。責任の所在を感じていないのだと思います。いずれにしても、日本人は思い込みが強く、いったん燃え上がると熱狂そのものが権威となって、多くの人々を引っ張っていき、引っ張られた人々も頑張り過ぎるということを、昔も今も続けているのです。危険な習性を持つ国民です。

熟成
ある人から連絡がありました。今日が誕生日でこのようなよい季節に生れたしあわせを噛みしめ、これからは更に熟成したいという内容でした。人は年齢とともに熟成していく。すばらしいことです。そうありたいと思っています。しかし、ここで考えなければならないことは、熟成という意味です。言葉として熟成の意味は分かりますが、人間としての熟成という意味をどのように理解するかです。ワインの熟成ならば樽に入っている年数で客観的に判断可能です。だが、人間の熟成はどうやって判断するのでしょう。例えば昨年の五月五日と、今年の同日を比べて、何がどのような変化したのか。それを比べる手段があるのでしょうか。年齢だけは生年月日が戸籍で確定していますから、明確に判定できます。
ところが、人間の内部に関する熟成はなかなか明確にはならないのですが、明らかに人は変化しているはずです。昨年と同じではありえないのが事実です。ですから、必ず人は熟成したいと願って行動していれば、その願いどおりに熟成していくはずですが、その根拠を明確し難いため、熟成度合いの判断は自分で自分を主観的に判断することになって、それは情緒的に自己評価することになります。
つまり、自分を自分で客観的に判断することが出来難いのですから、判断結果にその人の習癖が当然の如く表れることになり、自己流の熟成度合い判断になります。客観性に欠けることになります。半藤一利氏が言う「物事を自分に都合よく動くという夜郎自大的な判断」になります。ですから、自分で自分を熟成させるのはかなり困難で、特に「夜郎自大的な判断」をしたがる日本人には難しく、この習癖は国家運営の政治家にも官僚にも当然当てはまります。

山岡鉄舟の連載
このゴールデンウイークに、月刊ベルダ誌連載の山岡鉄舟六月号を書きました。この六月号でちょうど一年間掲載が過ぎ、二年目に入りました。この一年間、鉄舟の最大の業績「江戸無血開城」について展開し、現在はそのような偉大な業績を挙げ得る人物になれた、幼少年時代について書いております。鉄舟を研究すればするほど、鉄舟の偉大さに頭が下がり、このような人物が現在の日本に存在していたなら、集団的催眠状態に陥りやすい日本人に歯止めをかけてくれたと思います。
歌舞伎役者の八代目坂東三津五郎(1906〜75)も、同様のことを述べています。八代目は、歌舞伎界の故事、先達の芸風に詳しく、生き字引と言われ、随筆集「戯場戯語」でエッセイストクラブ賞を受賞していますが、何と鉄舟にも詳しいのです。
それもそのはずで「慶喜命乞い」の芝居を演じた際に鉄舟を随分研究して、次のように鉄舟を語っています。
「山岡鉄舟先生は、江戸城総攻めの時、あらゆる階級の人たちに会って『おまえたちが今、右往左往したってどうにもならない。たいへんな時なんだけれども、いちばんかんじんなことは、おまえたちが自分の稼業に励み、役者は舞台を努め、左官屋は壁を塗っていればよいのだ。あわてることはない。自分の稼業に励めばまちがいないんだ』と言うのです。このいちばん何でもないことを言ってくださったのが、山岡鉄舟先生で、これはたいへんなことだと思うんです。今度の戦争が済んだ終戦後に、われわれ芝居をやっている者は、進駐軍がやってきて、これから歌舞伎がどうなるかわからなかった。そのような時に、私たちに山岡鉄舟先生のようにそういうことを言ってくれる人は一人もおりませんでしたね」(『日本史探訪・第十巻』角川書店)
時代の混乱時に鉄舟のような偉大な人物が必要であったことを、八代目坂東三津五郎が認識しているのです。仮にバブル崩壊時の経済政策運営本部に、鉄舟がいたらどうであったか。歴史に「仮に」はないことは知っていますが、間違いなく集団的催眠状態からの政治に歯止めをかけたと思います。鉄舟の生き様を研究していると常人とは異なっています。鉄舟は自らの人間完成を戦略目的として生きた人物で、その実現を明治十三年(1880)に「大悟」、悟りの境地に達しました。日本人のような習癖には鉄舟のような熟成人物が必要です。以上。
(5月20日号レターは海外出張のため休刊となります)

投稿者 Master : 16:28 | コメント (0)