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2011年02月19日

情報の区分けが必要

環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年2月20日 情報の区分けが必要

ダボス会議

伊藤忠商事社長の小林栄三社長が、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会、通商「ダボス会議」に参加した感想を、日経新聞(2011年2月14日)の「明日への話題」に掲載しました。内容は会議で日本の話題が出たのはたった二つ、ひとつは日本国債の格付けが下がった話、ふたつ目は中国のGDPが世界第二位になったが、一人当たりGDPは日本の10分の1程度だから、まだまだ中国は成長するという話から、日本の存在感はこれほどまでに薄いのかと非常に残念で寂しい気持ちになった。というものです。

ハワイとサンフランシスコから

元プロ野球巨人の選手で、西武と横浜の監督を歴任した森祇晶氏、現在はハワイに在住ですが、以下のコメントをある企業発行の小冊子に掲載しています。「ハワイのニュースは、日本のことより中国や韓国の話題が多くなったように思う。お家芸の家電が日本へ輸入されるようになったことは心配だ。日本という国が縮小しているように感じる」と。

また、先日のサンフランシスコで車を運転してくれた日本人ドライバーが、次のように発言しました。「日本の位置づけが下がっている。外国にいる日本人は、母国が元気でないと元気がでない」と。

サンフランシスコの日本食店

ところが、経済を離れた分野、特に食文化の面では全く異なる現象です。
サンフランシスコの人気レストラン、料理は洋食系ですが、メニューには「シソ、ユズ、ユズコショウ、ユバ、ウメボシ」とあってビックリしました。
テンプラ、ワギュウ、コウベビーフ、クロブタ、ダシ、ウマミ、コンブなども珍しくなくなってきつつあり、ラーメンやイザカヤも当然のごとく人気ですし、寿司はブームを通り越して、すっかり日常生活の中に定着化しています。週末のパーティに日本人家族が呼ばれるのは、持参してくるであろう「ノリ巻き寿司」が目当てだと現地在住日本人女性が語ります。

牡蠣も前号でお伝えしたクマモトオイスターが一番人気で、一番価格が高いのです。さらに、マガキのパシフイックオイスターで「SHIGOK」というブランド牡蠣を見つけました。販売生産者に意味を問うと「それは日本語ネーミングで、とても素晴らしいという意味だ」というので、辞書を見ますと「至極」という「最上・極上」という意味だとわかりました。何でも日本語にすれば売れると思っているようにも感じましたが、これは一月に訪れた台湾でも同じ傾向で、日本語ネーミング商品が店頭に溢れていました。

日本語を学ぶ子供達

昨年11月、パリのアシェット・フィリパッキ・メディア (Hachette Filipacchi Médias、略称アシェット社HFM)を訪問しました。ここはフランスに本社をもつ世界最大の雑誌出版社で、いまや日本の老舗出版社である婦人画報社を傘下に収め、「婦人画報」をはじめ「25ans」や「ELLE Japon」などの雑誌を発行しています。

ここで旅行出版部門の責任者と、日本の温泉ガイドブック出版の打ち合わせをしたことと、責任者と編集長二人の子供が日本語を学んでいて、子供を連れて家族全員で今年春に日本へ旅行するということは、1月5日号でお伝え済みです。

その後ドイツのカールスルーエ市でも化粧品店オーナーにお会いすると、同様に日本語を子供が学んでいるという発言でした。

これらの事実から推察できるのは、今は海外で空前の日本文化ブームというより、日本人気は世界に定着しているのが時流ではないかということです。

評価高い日本のソフトパワー

自国の生産物をブランド化し、付加価値を高く維持し、それを外国に認めさせることを得意としているフランス、そのフランス見本市協会日本代表のジャン・バルテルミー氏が次のように語っています。(日経新聞2011年2月14日)

「今日ヨーロッパでは、日本のファッションクリエーターやキャラクター名と『みそ』や『ワサビ』までもが幅広い世代に知られている。現代日本の建築家やアーティストの国際的評価はとみに高まっている。国内が萎縮しても、日本ブランドは海外のさまざまな分野で力を発揮しているように思う。

在日フランス大使館の2011年のニューイャーカードのビジュアルは、フランスでも高く評価されている漫画『神の雫(しずく)』。これはまさに、日本の現代文化へのオマージュではないだろうか?」と。

最後のオマージュとは、フランス語でHommage「尊敬、敬意、称賛」という意味になりますから、日本文化を褒め称えていることになります。

神の雫

神の雫は、原作:亜樹直、作画:オキモト・シュウによる日本の漫画作品、2004年に「モーニング」(講談社)で連載を開始し、2011年2月現在、単行本は27巻まで刊行されています。ワインの本場であるフランスでも「フランス人にとっても知らなかった知識が出てくるマンガ」だと絶賛され、2009年7月に料理本のアカデミー賞と言われるグルマン世界料理本大賞の最高位の賞である"殿堂"をパリで受賞しました。

この神の雫に登場する女性と昨年のパリ農業祭で出会いました。ワインブースで偶然立ち寄ったところの女性が、自分はマンガ「神の雫」に登場していると発言したのです。最初は英語で「God Shizuku」と発音したので、よくわからずしばらく考えて、そうか神の雫か思い、本当に掲載されているのかと不審気に尋ねると、翌日、自分が登場しているページをメールしてきました。左がマンガ画面、右がモデル女性です。
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何となく似ているでしょう。このワインは、エリゼ宮の晩さん会で使われたワインだと自慢していましたが、今年もパリの農業祭に参加しますので、彼女と出会うことになると思います。因みに神の雫はパリの書店で大量に平積みされています。

情報の区分けが必要

日本という国が縮小している。日本の位置づけが下がっていっている。といような見解は最近よく聞きますが、その内容を分析すれば全て経済分野です。日本が高度成長した時期、人間でいえば伸び盛りの中高校生でしたが、今は成熟した中高年齢期に入っています。

一方、当時は無視されていた中国や韓国、今は経済躍進著しい中高校生期なのですから、経済状況変化は激しく、その変化が世界に与える影響は大きいので、マスコミが競って報道するのです。人間社会は経済中心ですから当然の事です。

だが、人間生活は一人ひとりの生き方が基本で、生きるための基本要件として安全・安心・教養・食品・環境・長寿というような分野での熟成度が求められます。

実は、この分野で日本は世界で断トツなのです。長い歴史と伝統で培われた文化が、ソフトパワーとして多くの国から迎えられ、私が出会う各国の人々は、その事実を語るのですが、その事はマスコミには出ません。

何故なら、マスコミとは変わったこと、珍しいことを報道するのが商売なのです。ところが、人々の生活・生き方に根ざしている日本の影響については、ジワーと入っていくものであり、急激な変化でなく、数字で判定できるものではないので、マスコミ材料としては不適切ですので、あまり伝える事に熱心ではないのです。

ですから、情報の受け手である我々が、マスコミの立場を知った上で、情報の区分けをして受けとめるべきなのです。これがソーシャル・メディア時代の情報処理の基本です。以上。

投稿者 Master : 11:37 | コメント (0)

2011年02月07日

YAMAMOTO・レター

環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年2月5日 三国一の花嫁

三国一の花嫁とは

広辞苑を引きますと、三国一とは室町時代の流行語で、日本、唐土(中国)、天竺(インド)にわたって第一であることとあり、多くは嫁入りや婿取りの場合に祝辞として用いたとあります。つまり、三国一の花嫁とは「世界一の花嫁」という意味になり、これを先日のアメリカ・シアトルで体験し、日本について考えさせられました。

シアトルの山下英一さん
昨年9月に出版した「世界の牡蠣事情」のシアトル編で、訪問したオイスターバーのシェフから「日本の牡蠣を最初に持ってきたヤマシロさんを知っているか」と聞かれ「知らない」と答えたヤマシロさんが、その後、ひょんなきっかけでシアトル在住の「山下英一さん」と判明しましたので、先月にお詫びかたがたご自宅を訪問いたしました。
シアトル市内の静かな住宅地の角のお宅、ドアをノックすると笑顔の山下英一さんが現れました。1923年生まれですから現在88歳。驚くほどに明瞭な発音で日本語を話します。奥様も小学校でピアノを弾くボランティアをしていて、同様に明確な日本語です。
シアトルに日本の牡蠣を持ってきた最初の人物は「世界の牡蠣王」と呼ばれた宮城新昌氏(1884-1967)で、山下さんの父上が宮城新昌氏から学び養殖業を始め、英一さんが後を継いでいたのですが、第二次世界大戦で日本人は強制収容所に入れられ、養殖業は中断するなどのご苦労話をお伺いしました。

オイスターバー
山下家でいろいろお話をお伺いした後、山下ご夫妻とオイスターバーに出かけました。82歳の奥様が運転されるのには驚きましたが、英一さんも毎日牡蠣養殖場に車で行くという現役にもまたビックリです。
オイスターバーに入りますと、シェフが飛んできます。山下夫妻はシアトルでは有名人なのです。勿論、牡蠣一筋の業界人として知られているのですが、それよりもご夫妻の人間性です。人柄が慕われていることが分かり、日本人として山下ご夫妻を誇らしく感じました。このオイスターバーで食べた牡蠣は、勿論、山下さんの牡蠣で、地元のワシントン州のドライな白ワインとのミックスに満足いたしました。

クマモトオイスターが一番人気
ところでオイスターバーでも、シアトル市民や観光客が訪ねるパイク・プレイス・マーケットでも多くの新鮮な牡蠣が並んでいます。
牡蠣は日本のマガキが主流で、アメリカではマガキをパシフイックオイスターと呼称し、養殖している海域ごとにブランド名をつけて販売しています。しかし、もう一つ「クマモトオイスター」という小ぶりの牡蠣があり、これは勿論、日本の熊本生まれ牡蠣で、この方がパシフイックより二倍近い価格で売られているように、アメリカでは一番人気です。
写真はパイク・プレイス・マーケットのクマモトオイスターです。
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地元の新聞が報じたクマモトオイスターのすごい人気
クマモトオイスターの人気が素晴らしい事を、サンフランシスコの新聞クロニクル紙が報じました。(2002.4.28)
「サンフランシスコにおける生牡蠣は、どこでもクマモトはトップセラーである。このクモ(クマモトの愛称)現象はベイエリアだけに限られない。ロサンゼルスからシアトルにわたる全西海岸のオイスターバーでクモの人気は沸騰している。カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの養殖場から仕入れられたクマモトは、シカゴのショウズ・クラブハウスでは週に800個、マンハッタンのグランドセントラルにあるオイスターバーでは日毎に数百個も売れている。更に、アジアやヨーロッパまで輸出されている」
 この実態は年々高まっていまして、クモは今や人気トップの牡蠣ブランドになりました。

クマモトオイスターの養殖場
クマモトオイスターの養殖場現場に行くため、アメリカで牡蠣販売最大手のテイラー社に向かいました。ここで社長からクマモトオイスターと合うワインのコンテストを毎年開き、今年も開催する、というようにクマモト人気ぶりを確認し、いよいよクマモトオイスターの養殖場に向かいました。養殖方法は日本と違い、海底に地撒きするスタイルですので、海の干潮時でないと実態が分からないので、潮の引く夕方、もう少し暗くなりかけたタイミングに海に行ったのですが、案内役はワシントン大学のジョス・デービス準教授で、テイラー社の指導も行っている、熊本県の海まで調査に行った人物です。
クマモトオイスターの養殖場は素晴らしい景観でした。正に牡蠣養殖場として絶好の自然条件です。湾奥深く位置し、三方を森に囲まれ、一方から外海につながり、かつてはインデイアンの漁獲場だったところで、熊本から嫁入りする場所としては最高のロケーションであり、とても大事に扱われている実態に感激しました。その夕陽の情景写真です。台湾・シアトル・SF2011.1 038.jpg

ところで日本の熊本ではどういう状況か
このようにアメリカ中で人気沸騰のクマモトオイスター、実際の生まれ故郷である熊本ではどういう状況なのでしょうか。前述のワシントン大学のジョス・デービス準教授が
1997年に熊本の海を訪ねていまして、彼の感想は「熊本の現実はとても悲しい」と歎きの一言で、熊本の海で撮影した写真をこちらに渡してくれました。
左が岸壁に蔓延っているクマモト牡蠣で、右は彼が岸壁から採取しているところです。


kummoto oysters on wall.jpg
pure Kumamoto oyster.jpg

アメリカでは三国一、日本では無視
日本は観光大国を目指し、2008年10月に観光庁が発足、2010年6月経済産業省に「クール・ジャパン室」を設置、日本の戦略産業分野である文化産業の海外進出促進、国内外への発信や人材育成等に強化をしています。その成果か、昨年の訪日外国人数は過去最高の861万人となりましたが、日本の多様な魅力を考えると、もっと多くの外国人が訪れる国にすべきでしょう。それへの対策として温泉ガイドブックの世界50カ国書店への配架プランを、既に観光庁に提出しています。
しかし、今回、アメリカで熊本生まれの牡蠣が「三国一の花嫁」として、大事に受け入れられ、アメリカ一の人気ブランドになっている実態を再確認した反面、生まれ故郷の熊本では誰も見向きせず、養殖する人もいなく、市場に出回らず、日本人は一切食べないという無視された姿、この日米格差をどうのように理解したらよいのか。理由はいろいろありますが、日本人は自国の財産を知ろうとしていないのではと思わざるを得ません。以上。

投稿者 Master : 08:27 | コメント (0)