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2010年02月25日

2010年3月例会ご案内

経営ゼミナール2010年3月定例会(360回)ご案内

開催日時  3月15日(月)18:30〜20:30
テーマ   「今の中国事情」
発表者    鴻盛煌商事 代表取締役 内村勇鵬氏

3月の例会は3月15(月)に開催いたします。
ご発表者は、
鴻盛煌商事(こうせいおうしょうじ)代表取締役 内村勇鵬(ゆうほう)氏
です。

中国は、本年度中にも日本のGDPを抜き世界第2位に成長しようとするなど、世界経済を引っぱる経済大国に成長しようとしています。
しかし、その実態はよく分からないというのが実感ではないでしょうか。
それは、我々が目にする情報はメディアからの一面的な情報に留まっていることに起因しているように思います。
今回お話しいただく内村氏は、月の半分を中国で活動され、中国語もご堪能、その行動範囲も各都市〜市町村まで広範囲にご活躍されておられ、共産党の幹部から山奥の田舎の娘やお年寄りの実態まで、中国の表から裏まで知り尽くされておられます。
今回は、実際に現地を体感されている内村氏の視点から、メディア報道では得ることのできない中国の生事情について伺おうと思います。
そのため、あえて題目を設定せず、内村氏のお話を材料にディスカッションしていく形式といたします。
今の中国の生の実態を知り、我々の中国への理解基準を探る絶好の機会です。
3月の例会にご期待ください。


開催日時  2010年3月15日(月)18:30〜20:30

      18:00 集合(食事を用意しています)
      18:15 山本紀久雄代表 時流講話
      18:30〜19:30 内村勇鵬氏発表
      19:30〜20:30 ディスカッション
      20:30 終了 (終了後、1時間程度の懇親会を予定)

テーマ   「今の中国事情」
発表者    鴻盛煌商事 代表取締役 内村勇鵬氏

【内村勇鵬氏略歴】
中国事情に精通しており、外国人研修生の受入事業の設立から管理まで一貫した体制の構築を生かし、中国との貿易事業を展開している若手経営者です。
大学卒業後、輸入担当をこなしたり、営業畑に籍をおいていた時代は、中国地方の集中豪雨被害の時、河川復旧のため資材調達と搬入に尽力した経験の持ち主です。
経歴
1997年3月 広島修道大学 商学部 ファイナンス科 卒業
1997年4月 株式会社 中央冷蔵入社 野菜輸入担当
1999年11月 株式会社 サンロード技研入社 日本道路公団のフェンス営業
2001年7月 株式会社 ヒューマンズ21入社 経営企画
2002年12月 事業協同組合設立 外国人受入事業
2008年4月 株式会社 鴻盛煌商事 中国との貿易・コンサルタント
    代表取締役就任

場所    東京銀行協会ビル内 銀行倶楽部 4階3号会議室
      千代田区丸の内1-3-1 Tel:03-5252-3791
      東京駅丸の内北口より徒歩5分(皇居和田倉門前)
   アクセス:http://www.kaikan.co.jp/bankersclub/access/access.htm

会費  オブザーバー参加の方は、当日会費として1万円をご用意ください。

お問い合わせ 
 出欠ご連絡先:事務局・田中達也 
 電 話:03−6806−6510/090−4899−5973
 FAX:03−5811-7357

お申し込みはこちら

投稿者 lefthand : 08:19 | コメント (0)

2010年4月例会の予告

4月のゼミナール例会は、フランスから日本向け旅行ガイドに携わるジャーナリストをお招きして、一泊二日の講演会を開催いたします。
会場は、昨年12月に「ミシュラン戦略研究会」を開催いたしました、伊豆天城湯ヶ島温泉・白壁荘です。

日本の景気は、外需産業を中心に回復基調にあるとの報道がなされています。
この傾向が示すとおり、日本の景気回復は外需の獲得が必須条件となっています。
このことは、温泉業界においては、外国人観光客の誘致が有効な手段であることを物語っています。
外国人が日本の温泉を観光に訪れる際、その情報源とするのが、自国で発行されている旅行ガイドです。外国人は、旅行ガイドに掲載されている情報を頼りに訪れます。このことは、日本の温泉地にとってみれば、ガイドに掲載されていないと外国人は訪れてこないことを意味します。ガイドに載っているかどうかが外国人がやってくるか否かの鍵を握っていることになるのです。
世界で発行されている日本の旅行ガイドの中でも、そのブランド力で確固たる地位を築いているのが、仏ミシュラン社の発行する『グリーンガイド』と、仏アシェット社『ブルーガイド』です。これらに紹介されるということは、外国人から日本の優れた温泉地として認められたことになるのです。
そこで今回、経営ゼミナールでは、これらのガイド編集に携わるフランス人ジャーナリストをお招きし、講演会を行うことにいたしました。
湯ヶ島の温泉旅館を舞台に、上記二つの旅行ガイド編集に携わるジャーナリストから見た日本の温泉の魅力について語っていただき、ディスカッションいたします。
ガイド編集に携わるジャーナリストと直接話のできる、絶好のチャンスです。
この機会にご関心をお寄せいただき、本会へのご参加をお誘い申し上げます。

○開催概要
期 日:2010年4月23日(金)
場 所:伊豆天城湯ヶ島温泉・白壁荘
    静岡県伊豆市天城湯ヶ島1594 TEL:0558-85-0100
講演者:リオネル・クローゾン氏
講演テーマ:
「フランス人ジャーナリストから見た日本の温泉」
ミシュランガイド編集者は温泉の魅力をどのように見ているか

スケジュール:
15:30 受付開始
16:00 開会
16:00〜18:00 講演会
  1.開会ご挨拶
  2.クローゾン氏講演
  3.主催者まとめ
  4.質疑応答・ディスカッション
18:15〜20:00 クローゾン氏を囲んでの食事会
20:00     終了

参加費:ゼミナール正会員 講演会と食事 10,000円
             講演会と宿泊 25,000円
    オブザーバー会員 講演会と食事 20,000円
             講演会と宿泊 35,000円

お問い合わせ 
 出欠ご連絡先:事務局・田中達也 
 電 話:03−6806−6510/090−4899−5973
 FAX:03−5811-7357(別紙の出欠連絡書をご利用ください)

お申し込みはこちら

申し込み締切:4月15日(木)

【クローゾン氏プロフィール】
リオネル・クローゾン(Lionel Crooson)
アジア、特に日本を専門とするフリージャーナリスト。
これまでに『旅の手帖』に四国の村、またフランスの雑誌に日本の食文化を紹介するなどバラエティーに富んだ内容で日本を世界に紹介している。また、フランスの雑誌『生命と科学ノート』に「日本の海底に埋もれて」と題し、沖縄・与那国島の海底遺跡を紹介している。日本の歴史にも詳しく、『歴史の随想 16世紀〜サン・トロペの侍たち』を著す。これは仙台藩の支倉常長らの使節団がローマに渡航中、フランスのサン・トロペに漂着したときのエピソード。
現在は仏ミシュラン社『グリーンガイド』、アシェット社『ブルーガイド』の編集に携わっている。

投稿者 lefthand : 07:58 | コメント (0)

2010年02月24日

2010年2月例会報告

経営ゼミナール2月例会報告
『資産防衛術講座 先手を打って事業と財産を守れ!!』
中央総合事務所 代表 清水 洋氏

2月の経営ゼミナール例会が行われましたのでご報告申し上げます。
今回は、皆さんの会社や個人の資産をどう守るかということについて、清水洋氏にお話を伺いました。
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*****

清水氏の発表のポイントは、今の時代は「常識」が変わっているのだということです。常識が変わったということを知ること、そして、新しい常識に自分の頭を切り換えることが重要であるのです。
常識とは、日本においては法律を指します。それは、日本が法治国家であるからです。今までの常識では叶わなかったことが、法律の改正によって可能になりました。このことを指して、常識が変わったと、清水氏は述べているのです。
法律の改正は、具体的には債務から企業や個人を救い、事業などに再チャレンジできることを可能にしています。
従来、債務超過に陥った企業や返済できないほどの負債を抱えた個人は、破産することが通常の方法でした。これが、法的手続きを行うことによって負債部分を切り離し、ノウハウや優良事業など健全な部門を残して再スタートを切るという常識に変化したのです。
このことを知識として知っておくことは大変重要なことです。時代の変化の一例を正しく捉えておくことは、その先の行動変化に多大な影響を及ぼします。
先日、年間の自殺者が12年連続で3万人を超えたとの報道がありました(日本経済新聞、2010.1.26)。警察庁のまとめによると、その原因として経済問題が二番目に多い(23%)という結果も分かっています。清水氏の発表内容を知ると知らぬとでは大きな違いがあるどころか、命に関わる問題に至る可能性もあることを思うと、知ることの重要性を痛感せずにはいられません。
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清水 洋氏

清水氏の講演は、本年度内にもう1回、秋ごろ行う予定です。
ひとりでも多くの皆様に、知ることの意義を実感していただきたいと願っています。
次回の清水氏の講演も、ご期待ください。

(事務局 田中達也・記)

投稿者 lefthand : 22:51 | コメント (0)

2010年02月21日

2010年2月20日 日本の貧困率について

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年2月20日 日本の貧困率について

立場の違いから消費実態が異なる

内閣府から、2009年10月から12月のGDP速報値が発表されました。実質のGDP年率換算で4.6%とプラス成長、名目でも年率換算で0.9%とプラスになりました。プラス要因の大きな項目は輸出ですが、個人消費も実質でプラス(名目ではゼロ)となりましたので、改めて、この消費支出実態を考えてみたいと思います。と言いますのも、どうも立場の違いで判断が異なるのではないかと思われるからです。

例えば、現在最も人口ボリュームゾーンが多い団塊の世代、この人たちが若い時であった頃の消費行動は「若いので一般的に裕福でなかったから、モノへの所有、特に高額なモノを持つことへ憧れがあり、それを獲得するのが最高の自己実現手段」でしたので、この感覚を持ったまま今のゼロベース消費を見て「経済が低迷している」と判断するのではないでしょうか。
ところが、今の若い世代は「生まれた時からモノがあふれている環境で育ったため、モノの所有を自己実現とすることへはこだわりが薄く、モノの効用が薄れてしまっている状態」ではないかと推察します。ということは、バブル崩壊以後の経済低迷時代しか知らない若い人たちは、今が消費不況だとは、特に感じていないと思うのです。
また加えて、デフレ現状で価格が下がっていくので、ローンを組んでまで、今すぐに焦って高額なモノ、自動車等を買う必要性を、若い世代は感じない、ということは日本の若者が、デフレ時代を生きていく知恵を身につけているといえ、インフレ時代の生活から抜け出せない団塊世代よりも、よほど賢い消費者といえるのではないでしょうか。

スペインの新聞に出た日本の貧乏記事

今月の初め、スペインに滞在していた時、地元の人から次の新聞記事を見せられました。

(クリックで拡大)
新聞タイトルに「6人に1人の日本人が貧乏に苦しんでいる」とあり、これはカタルーニャ州の新聞ラ・バングアルディア紙の2009年10月22日付で、同紙はカタルーニャ地方で最も歴史のある保守系の新聞社です。
この写真、どこかの劇場のポスターの前で寝ている若い人で、貧乏実態を表現するために使ったのでしょうが、これを見たスペイン人は「日本は貧困国だ」と判断したでしょう。

貧困率の上昇

ここで使われた基資料は、実は日本の厚生労働省が昨年10月20日に発表したもので、海外に次のように伝達されました。
「【10月21日 AFP】厚生労働省が20日初公表した「相対的貧困率」で、日本国民の6人に1人近くが貧困状態で暮らしていることが明らかになった。2006年の貧困率は15.7%で先進国の中でも極めて高い水準。相対的貧困率は、全人口の可処分所得の中央値の半分未満しか所得がない人の割合。1997年は14.6%だった。長妻昭(Akira Nagatsuma)厚生労働相は同日会見し、日本の貧困率が、経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development、OECD)加盟国の中でも最悪レベルだと述べた。08年の世界的な金融危機に端を発した景気低迷を受けて、給与額が減少していることから、現在の貧困率はさらに悪化している可能性もある」
スペインの新聞に掲載されたのは、日本政府が「日本は貧困」と認定したからです。

収入は減っているか

そこで、実際に給与額は減っているのか。それを国税庁のホームページで公表されたデータから見てみました。(平成20年)
(1)給与所得者数は4,587 万人(対前年比1.0%増、45 万人の増加)であるが、その平均給与は430 万円(同1.7%減、76 千円の減少)となっている。
(2)これを男女別にみると、給与所得者数は男性2,782 万人(同0.0%減、0.1 万人の減
少)、女性1,806 万人(同2.6%増、45 万人の増加)で、
(3)その平均給与は男性533 万円(同1.8%減、97 千円の減少)、女性271 万円(同0.1%減、2 千円の減少)となっている。
という状況で、確かに収入は減ってはいますが、年間で男性が10万円弱減額ですから、極端に大きくは減っているとは思えません。

年齢階層別の平均給与

次に、若い世代の給与が少ないのではないかという視点から、国税庁データから平均給与を年齢階層別にみますと、確かに19歳以下が平均給与134万円、20歳から24歳までが248万円ですからかなり低い実態です。
しかし、年齢が上がって45歳から49歳ですと511万円、50歳から54歳では506万円と高くなっています。特に、男性では55 歳未満までは年齢が高くなるに従い高くなり、50~54 歳の階層では670 万円と最も高くなっています。この意味するところは、日本ではまだまだ年功序列制で給与が支払われている、ということです。

業種別給与

では、次に「業種別の平均給与」を見てみます。最も高いのは電気・ガス・熱供給・水道業の675 万円、次いで金融業,保険業の649 万円で、最も低いのは宿泊業,飲食サービス業の250 万円となっています。また、この宿泊業,飲食サービス業では、給与100万円以下が全体の24.8%、200万円以下が27.1%、この二つの階層で合計51.9%ですから、かなり低いというのが実感で、ここで気がつくのは、最近の飲食店料理メニューの単価ダウンであり、弁当がさらに安くなっているという事実で、このような業態で働く人は、パート・アルバイトか外国人でしょう。国税庁のデータ説明にも明確に、従業員とはパート、アルバイトを含むとあり、日本の貧困とは直接結びつかない感がします。

貧困率の計算方法

ここで厚生労働省の貧困率計算式を以下に図示しました。

(クリックで拡大)
この計算式は全体の50%以下の所得の人を貧困と定義するものです。ここが問題です。日本は既に見ましたように年功序列給与が実態ですから、年齢層が低く、給料が安い世代は、いずれ高くなっていきますし、加えて、アルバイト層が低くさせている実態ですから、この計算のみで貧困率が高いと決定づけるには無理があるように感じます。日本が貧困であるかどうかの検討判断は、もっと多角度から見た方が妥当でしょう。
しかし、確かに若い世代の消費行動は変わっていますから、マーケティングを変化させることが必要で、そのためには常に今の時流や、人々の意識を検討すべきでしょう。以上。
(3月5日のレターはパソコンが使えない地区への出張ですので休刊します)

【2010年3月のプログラム】

3月12日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
3月15日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
3月17日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 17:13 | コメント (0)

2010年02月05日

2010年2月5日 ロールモデルなき人口減政策

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年2月5日 ロールモデルなき人口減政策

日本と中国の同一性

日本は島国である。これは誰もが認めるだろう。ところが、中国も島国だという見解もある。中国は広大な国土であり、人口も世界一であるから、とても島国とは思えない。

しかし、次の地図をよく見てみると、中国は海に面していない地域が通過不能な地形や荒れ地に囲まれている。北方には人口まばらで横断が困難なシベリアとモンゴル草原地帯、南西は通過不能なヒマラヤ山脈、南部国境はミャンマー、ラオス、ベトナムと接する山と密林地帯、東は大洋で、西部国境だけがカザフスタンと接し大移動が可能だが、もし行おうとしたら大変な苦労が伴うであろう。その意味で中国は日本と同じく島国といえる。

(クリックで拡大)

もう一つ同一性は鎖国である。日本の江戸時代は鎖国をしていた。しかし、中国も同様に鎖国をしていたことを理解する人は少ない。元々日本の鎖国は中国を見習ったものであった。清国が鎖国(海禁政策)をしていなかったなら、日本が鎖国をしたかどうか疑わしい。当時の日本は中国をロールモデル(お手本)にして取り入れることが多かった。

開国結果は異なった

だが、この両国の鎖国は、19世紀半ばから始まった、欧米列強のアジア進出で開国を迫られ、お互い鎖国から開国へと国是を変更させられたが、その結果は大きく異なった。
清国は、沿岸部を侵略占領植民地化され、その回復には第二次世界大戦の終了まで待たねばならなかった。一方、日本は幕末維新時代に他国に侵略されず鎖国を終え、その後の成長発展に開国を結びつけることができた。この差の要因はどこに起因するであろうか。勿論、それは国内の戦争、官軍対幕府軍の本格的戦いを避け得たことで、仮に内戦をしていたら、独立国として維持できたか、歴史に「たら」はないが、今考えてみても恐ろしい。

何故に内戦にならなかったか

それはいくつかの要因が重層的に重なり実現されたものである。
まず、徳川慶喜の勤皇精神と時代感覚が大きかった。慶喜は戦いを避けた勇気なき将軍という評価もあるが、日本を外国勢に侵略されないよう、自ら将軍の地位を去り、和平路線に戦略を転換したことが最大の理由である。ということは、慶喜が持つ当時の政治と世界の動向把握力が鋭敏であったことに起因する。ここで争っては清国の二の舞になる、その時代感覚が慶喜の恭順路線となり、江戸城を捨て、上野寛永寺に謹慎蟄居という行動になったのである。
では、何故に慶喜将軍はこのような時代感覚を要し得たか。それは、それまでの将軍とは行動する舞台が全く異なっていたからである。歴代の将軍は江戸城奥にて政治を行っていた。ところが慶喜は将軍就任時も、それ以降も、また、14代家茂将軍時代にも、慶喜の居住は京都であった。何故なら幕末時、すでに政治の中心は京都・大坂の地に移っていて、ということは天皇が政治に関与しだしたという意味であるが、そのためには京阪の地に将軍が常住する必要があった。その結果として、慶喜は時の情勢の中に身をおき、時代感覚を肌で感覚できる環境にあった。
これが慶喜将軍の強みであり、弱みであって、結局、戦わずして江戸城を官軍に引き渡すという意思決定に結びついたのである。

人事が日本の危機を救った

鳥羽伏見の戦いに敗れ、将軍になってはじめて江戸城に戻った慶喜は、上野寛永寺に謹慎蟄居を判断する前、今後の帰趨を決める重要人事を断行した。勝海舟を陸軍総裁に任命したことである。
ご存知の通り海舟は咸臨丸でサンフランシスコに行ったように、ずっと海軍育ちである。新たに陸軍を預かることなぞ、今までの海舟履歴からしてあり得ない。また、陸軍は元来、海舟の政敵たちの牙城であった。その中核には陸軍奉行並小栗上野介がいて、歩兵奉行の大鳥圭介がおり、さらにその背後にはフランス公使のレオン・ロッシユと教法師(宣教師)メルメ・デ・カション以下の軍事顧問団がいる。その上最悪なのは、第一次長州征伐以来、陸軍は連戦連敗であり、まさにその劣等感がとぐろを巻いているような部隊であった。
このような陸軍を海舟が抑えられるか。それが慶喜の打った人事の要諦であった。何故なら、慶喜が恭順を実行に移すために必要な第一歩は、なによりもまず幕府内の主戦派の抑制でなければならなく、それを行うのが海舟に課せられた最大の役目であった。
しかし、実は、もっと重要な要素、海舟が陸軍総裁にならなければならない必然性が存在した。それは官軍側に送る外交シグナルである。主戦派を抑え、恭順派によって幕府内を握らしたというサイン、それが慶喜にとって必要だったからである。
さらに、この人事の背景には、もうひとつ国防に対する認識があった。それは、この時期、日本にとって守るべきは内乱であり、海外からの脅威ではないということ、つまり、海防ではなく、幕府対官軍の全面衝突という戦いと、幕府内の対立抗争という二つの争い、それは内乱であるからして当然に陸軍を抑えるという戦略となり、そのためには恭順派の代表的人物の海舟が任命され、それは海舟が事実上幕府の全権を背負ったという意味になるが、その不可避の人事を成したのは慶喜であった。
敗軍の将軍、慶喜の時代感覚は結果的に冴えていたといえる。

その後の発展要因

このように内戦を避け得た日本は、幕末維新時を巧みに切り抜け、近代国家として変身した成功要因については、すでに十分に分析され、語られているが、もっとも背景条件として大きかったのは人口増であろう。幕末維新時約三千万人であった人口が、現在一億二千万人、四倍に増加している。これが国力を大きく発展させたことは容易に判断できる。人口増なくして今日の成長はなかったのである。
しかし、時は変わり、今は人口減に向かっている。未だその減少実数は少なく、全体への影響は顕著になっていないが、いずれ大きな問題となっていくことは確実である。

ロールモデルなき人口減政策

世界について考え、将来の出来事を予測する手法を地政学という。地政学は二つの前提で成り立つ。一つは、人間は生まれついた環境、つまり、周囲の人々や土地に対して自然な忠誠心をもっているという前提。この意味は、国家間の関係が、国民意識と非常に重要な側面を持つ。二つ目は、国家の性格や国家間の関係が、地理に大きく左右されると想定すること。この二つの前提で、一国は国民意識によって結ばれ、地理の制約を受けながら、特定の方法で行動することになる。中国は中国でしかない特定の方法で行動するということで、日本も他国も同様である。
日本を地政学的に考えれば、地理的に隔離された資源輸入国であり、日本人は実力本位で登用された支配層に対し従おうとする統制された国民意識があり、それらから国家の分裂を避けようとする社会的・文化的影響力を内在し、短期間のうちに秩序正しい方法で頻繁に方向転換できる民族で、これが明治維新に端的に顕れたのである。
しかし、ここで地政学的見地の別角度から指摘しなければならないのは、日本人は外国人を移民として受け入れること、これに強い抵抗感を内在させている国民であること。それが前号レターのサンパウロ日系三世女性の発言で証明された。
これが日本人が持つ大問題であり、この内在要因を抱えつつ、日本は世界にロールモデルなき先端人口減政策を展開しなければならないが、解答を見いだせない問題です。以上。

【2010年2月のプログラム】

2月12日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
2月15日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
2月17日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 07:01 | コメント (0)