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2012年06月21日

2012年6月20日 Japan Rising Again(後)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年6月20日 Japan Rising Again(後)

インドネシアで成功している日本企業を訪問して

 インドネシアは、人口と国土の優位性を未だ発揮していないが、20年間も続く人口ボーナスに成長がともなえば、迫力あるエンジンとして作動するわけで、先進国になるかどうかの鍵は、この人口ボーナスを活かした政策を採れるかにかかっている。

また、それはインドネシアに進出する日本企業にとっても同様で、巨大人口を活用する展開方法が採れるかどうかが成功の鍵である。

だが、もうひとつクリアしなければならない重要な問題がある。それは、インドネシアは多様性ある国家の宿命で、政府当局が経済成長のために選択する政策は、当然に多様性に富み、頻繁に変更していくので、これに対応することが出来るかどうかであるが、今回、ここをクリアしている日系現地企業を訪問したので紹介したい。

トヨタなどの日系企業が多くいるNORTH JAKARTA地区のあまり大きくないビル。ここがこの企業の事務所である。受付に入ると、二階からゼネラルマネージャーが駆け下りてくる。まだ若い。30代後半だろう。既に20年間インドネシアに在住し、バリ島ではスーパーの店長を5年間勤めたといい、インドネシア情勢に詳しく、携帯電話での応答は当然にインドネシア語である。

この企業は、本来は食品卸専門業だったが、資金回転が悪いという卸のマイナス点をカバーするため、日銭を稼ぐ目的で小売業に参入、今ではスーパー6店舗、コンビニ10店舗を展開している。同社が卸しているジャカルタ中心のPLAZA INDONCIAのフードホールに行ってみると、豆腐コーナーは広く、その他の日本食の品ぞろえも豊富で、岡山のパン屋や小樽のバームクーヘンも出店していて、美味しいと評判高く、照明も明るく、価格も日本並みであるが、金持ちのインドネシア人が買いに来るので売り上げは順調とのこと。

さて、この日系企業は大儲けしているらしい。勿論、具体的な数字は教えてくれないが、マネージャーのもの言いからも推測つくし、儲かっているという他社からの情報があって訪問したわけで、その背景には複雑なインドネシアの諸税法体系を巧みに活用していることがわかった。

実は、インドネシアには所得統計がなく、中央統計庁の家計支出統計「国民社会経済サーベイSUSENAS」でもなかなか実態は分からない。そこで手がかりになるのは個人所得税の納税額であるが、この徴税捕捉率も低く、個人所得税の納税者が85万人(2008)しかいないということから推測すると、各企業も納税率は低いのではないかと推測されるが、これは脱税とは違うらしいのである。

インドネシア政府当局が打ち出す政策と税体系を常に注視し、それを巧みに取り入れて行くと税金は
支払わないですむらしいのである。

リーマンショックの時にインドネシアは影響を受けなかったが、それは政府が輸入規制をかけて国内品で固めたためといわれているように、政府の方針が弾力的で、すぐに国民に伝わりやすい国である。

加えて、為替相場も激しく動くという環境下でビジネスを進めるには相当の変化対応力が問われ、この変化対応力に優れているとビジネスは成功するし、諸税法体系を熟知把握し駆使すると大儲けできるというのがインドネシアビジネスなのである。

静かな成熟大国日本

 インドネシアから戻った日本は騒音が少なく、街中にはゴミがなく、渋滞は稀で、自宅駅でホームに降りるとエキナカで、そこでは高齢者が元気で大勢買い物を楽しんでいる。

 明らかにインドネシアとは異なる。そこで、改めて日本の特徴を整理してみたい。

① 騒音が少なく、街中にはゴミがない

 騒音が多い街とはどういう意味を持つだろうか。多分、犯罪の多い街であろう。犯罪者が多いところは、必然的にパトカーが唸り声を挙げ、人々は落ち着かず、そのような街はどうしてもゴミが多くなる。 ところが、日本は5月22日に発表された経済協力開発機構OECDの「より良い暮らし指標」で「安全」が一位、「教育」が二位と高い評価を受けている。治安に良さは、人々の教養に裏づけされているのだ。

② 酷い渋滞は稀だ

 NYタイムスに今年一月、フォーブス誌・フィナンシャル・タイムズ紙の元編集者であるエイムン フィングルトン氏Eamonn Fingletonによる「失われた20年は真っ赤な嘘だ。日本社会は米国よりも豊かだ」という記事が掲載された。

 その中で特に強調しているのは「日本は絶えずインフラを向上させている政策を採ってきた」と高く評価して、そのインフラの一例としてインターネット・インフラを挙げている。米アカマイ・テクノロジーズ社の最近の調査によると、世界最強のインターネット接続環境にある50都市のうち、日本の都市は38もあるが、米国の都市は3つだけだという。

さらに、「失われた20年」に東京に建てられた高さ150m以上のビルは81棟だが、同時期にNYでは64棟、シカゴでは48棟、ロサンゼルスでは7棟しか建設されていないという。

 また、以下の実態を日本人の多くは認識していないが、欧米主要都市の鉄道駅と、日本の東京・大阪駅とシステム構造の違いである。

 欧米主要都市の鉄道駅はターミナル駅、漢字にすれば「頭端駅」となって、駅舎は宮殿のように立派だが、この駅ですべて列車が行き止まりとなる終着駅となっている。

例えばパリには6つの駅があるが、それがすべて終着駅である。したがって、ボルドーからTGVでモンパルナス駅に着いて、リオンに行こうとしてリオン駅へ向かうためには、地下鉄・バスかタクシーを利用するしかない。大きなバックを持っている場合はタクシー利用になるだろう。

 ところが日本の東京駅、仙台から大阪に行こうとするならば、東京駅で東北新幹線から東海道新幹線へと東京駅構内で乗り換えることが出来る。このような駅のことを「総合通過駅」という。

どちらの駅システムが便利で効率的か。比較にならないほどの明白さであり、移動にタクシーを使わないのだから道路上の車使用は、移動分だけ少なくなっていて、眼には見えないが渋滞発生を防いでいる。日本のインフラ整備は優れていると認識したい。

さらに、最近ではエキナカというショップがあって、そこにはデパチカにはないアイテムが並び、自宅へのお土産を買って帰ると家族に喜ばれる。世界中でこのような便利で快適な駅を見たことがない。

③ 高齢者が元気

 厚生労働省は31日、日本人の平均寿命などをまとめた完全生命表を発表した。昨年7月に発表した簡易生命表の確定版で、2010年の平均寿命は女性が86.30歳、男性は79.55歳となった。前回調査の05年から、それぞれ0.78歳、0.99歳延びた。主要国・地域の直近の統計と比べると、女性は世界一、男性は4位である。

 この報道を聞いて日本は改めてすごいと感じる。寿命が延びるという意味は、国民一人ひとりの生活状態がよく、医療制度が充実していることを示しているからであって、お目出度いことであるが、そう思わない人もいるらしいが、そのような人は変わった人物だろう。人間は元気で長生きし社会に貢献するのが一番だと思う。
 
インドネシアと日本は国の状況が異なるので比較は出来ない

 インドネシアの道路上は渋滞で、クラクションが鳴り、鉄道は少なく、地下鉄はようやく工事をはじめたところである。つまり、基本的なインフラ整備がこれから行われる国である。さらに、人口状態が全く異なる。1950年時の人口は日本が8400万人、インドネシアは7700万人とほぼ拮抗していたが、2050年の人口予測では日本が8833万人から10360万人(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2006年)と推計されているが、インドネシアは29300万人(2010年国連人口推計・中位推計)とされているので、インドネシアは日本の三倍近い人口となる見込みである。

 対する日本は「人口減」と「失われた20年」という認識から、多くの識者が日本に対して悲観的な言動をする場合が多いし、前号で紹介した観光庁作成のポスター「Japan Rising Again」、これには何がどうすれば「Again」になるのかが明確になっていない。

つまり、「Rising」できれば「Again」になるとしたら、「Rising」の定義をしなければいけないが、その定義を人口減という現実から構築しないといけないだろう。それが明確化しないままに標語化している。

チャールズ・ダーウィンが150年以上前に述べているのは、

「生き残る種というのは、最も強いものでもなければ、最も知能の高いものでもない。変わりゆく環境に最も適応できる種が生き残るのである」

これを基に「JAPAN Rising Again」に代わる標語を検討したらどうか。インドネシアから戻った感想である。以上。

投稿者 Master : 06:32 | コメント (0)

2012年06月07日

Japan Rising Again(前)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄

2012年6月5日 Japan Rising Again(前)

Japan Rising Again

ジャカルタから成田空港第二旅客ターミナルに着き、第一旅客ターミナルへサテライトで移動しようとして、ふと上を見ると観光庁作成ポスターの「Japan Rising Again」という文字が目に入った。

観光庁はこの鯉のデザインを表に、裏に「Thank You」と印字した名刺サイズのカードをつくり、東京マラソン、京都マラソン、館山トライアスロンへの外国人参加者、全国の国際空港等において配布している。大変よいことだと思いつつ、何か引っかかるものが残った。
                        
それは、このスローガンは東日本大震災からの復興を意味するのだろうから「Japan」ではなく、外務省の英文ウェブサイト「 the Great East Japan Earthquake」に準じて東日本を入れるべきではないか、そうしないと日本全体の復興と勘違いされてしまう。

しかし、もしかして敢えて「 East」を外して、日本全体の「Rising Again」を意図していると勘ぐって考えてみるならば、かつての高度成長時代思考が抜け切れていない認識で、日本の経済実態を捉えているのではないかという疑問をもつ。

東京スカイツリー
 
高さ634メートルの世界一高い電波塔「東京スカイツリー」が5月22日開業した。出足は好調で予測集客人数の1.5倍だともいわれている。

勿論、展望デッキに上がるのは予約制なので人数に制限があるが、商業施設の「東京ソラマチ」には大勢の観光客が押し寄せている。 

オープン前日の前夜祭に出かけ312店舗が入っているソラマチを見て回り、スカイツリーを見上げながら食事した際、これは他の日本観光地は大変なことになると思った。

 事業主の東武鉄道が公表した年間来場者数は3200万人で、これは東京ディズニーリゾートの年間来場者数2500万人を上回る。大阪万博(6カ月間開催)の総入場者数6421万人とは比較にならないが、2005年の名古屋万博(6カ月間開催)の2204万人を超える集客数であるから、多分、今年以降の国内各観光地は集客数減という甚大な影響を受けるだろうと予測され、各観光地はビジョン再構築を含めた観光政策の見直しが必要であろう。
  
日本とは比較が出来ないインドネシアという国

5月のゴールデンウィーク明けに訪問したインドネシアと日本と比較検討してみたい。
① 多様な国家
インドネシアという語は「インド」に、ギリシャ語の島の複数形「ネシア」をつけたもので「インド諸島」や「マレー諸島」に代わる地理学、民族学上の学術用語として、1850年に新たにつくられたものである。
したがって、インドネシアという語は一世紀半の歴史であり、国の一体性もせいぜい一世紀ほどの歴史だが、この地域にはそれぞれ島ごとに異なる2000年の豊かな歴史・文化があり、それを象徴するかのように、1128の民族集団と745の言語が確認できるという。

また、インドネシアは6000あまりの無人島を含む17504の島々からなる世界最大の群島国家である。

② 交通渋滞の酷さ
インドネシアの首都ジャカルタに着いての第一印象は、道路渋滞のすごさである。今まで訪れた都市での渋滞ワーストスリーは、一位がカイロ、二位がモスクワ、三位がサンパウロとランク付けしているが、ジャカルタはここに食い込むだろうと思うほどの酷さである。ジャカルタの人々は「一日の三分の一はベッドの上、三分の一は職場、残りの三分の一が道路上」と半ばあきらめ顔でいうが、車も二輪車も売れに売れている。

車は一種のステータス・シンボルなので「渋滞が酷いから」という理由で車を買い控えようという発想はなく、二輪車は車間をぬって効率よく動けるので、渋滞が酷いほどよく売れるということで、保有台数はますます増えている。

その結果、2011年度の新車販売数は前年対比17%増の89万台、二輪車は初めて800万台を超え、ともに過去最高を更新した。したがって、トヨタもスズキもインドネシアに新工場を建設し生産能力を高めている。

 渋滞理由はインフラ整備遅れにあるが、どうしてインドネシアではそのような結果となっているのであろうか。

インフラ整備に必要な資金はあったはずである。というのも第二次世界大戦後、日本はインドネシアとサンフランシスコ平和条約に準じる平和条約を結んで、多額の賠償を支払っているのであるから、このお金でインフラ整備をしておけば今日のような渋滞は発生しなかったと思われるが、それがそうならなかったのには複雑な背景が存在している。

 これらを説明しだすと紙数が足りなくなるのでやめるが、ご関心ある方は「経済大国インドネシア」(佐藤百合著)を参考にされたい。なお、現在でもジャカルタ市内地下鉄工事、新空港と国際港湾建設は、日本の支援で進めている。

③ インドネシアは人口ボーナス大国
 インドネシアの人口は2.38億人(2010年)で世界4位。国土面積は191万㎢で世界16位であるが、海洋大国であるから領海が陸地の二倍近い320万㎢もあって、東西の長さは5100kmに及ぶ海域で、ちょうどアメリカの陸地部分がすっぽり入る大国である。

 しかし、この人口と国土の大きさに比して、GDPは7070億ドル(2010年)で世界18位と少ないのであるが、今後は大いに期待できる要因がある。

それは、生産年齢人口という人口ボーナス、日本は既に減少期に入って、中国も韓国も近々減少期に突入するのに対し、インドネシアは1970年頃から2030年頃まで60年も続くから、今後20年間の国内需要増加が大いに期待される。

④ 旧日本軍への評価
 ここで戦後賠償しなければならなくなった旧日本軍の評判を振り返ってみたい。
ネガティヴな面の多いといわれている旧日本軍政で、褒められるのは「言語統一」くらいである。というのもオランダ統治時代は、オランダ語を公用語としてインドネシア語を無視していたが、旧日本軍が今通用しているインドネシア語に改めている。この他にはあまり評判がよろしくない旧日本軍の進出背景思想には、いわゆる「南進論」があった。

●日本の生命線は南方にある。端的にいえば油の問題、蘭印からとるより仕方ない
●インドネシアは経済的には「未開発の厖大な資源が放置」されている
●政治的には「オランダの支配下で隷従」を強いられている
●文化的には「きわめて低い段階」と認識し
●それ故に「アジアの解放」を国家目標に掲げて
●「世界で優秀な民族」である日本人によって現状を打破する必要性がある

という論理構築で、この論理を一言でまとめれば「南方圏をただたんに資源の所在地と捉えて、そこの歴史も文化も民族も無視する」ものであった。世界のどの地域にも、豊かな歴史と文化があるというのが普遍的な事実で、日本だけに長く豊かな歴史に基づく文化があるという観念的思考をもつことは大問題である。

正しくは、日本の文化は豊かで優れている、同様に日本とは異なる豊かな優れた文化がどの地にも存在している。このように理解し認識すべきなのである。

⑤ 現在の日本への評価
一方、現在のインドネシア人の日本観はどういうものか。ここでインドネシア人の最新修士論文(2010年)から引用してみよう。(「経済大国インドネシア」佐藤百合著)この論文は旧日本軍の進出を起点として日本観変遷を6段階に分析している

1.占領者としての日本 2.従軍慰安婦を強いた日本 3.開発資金提供者としての日本 
4.先進国としての日本 5.ハイテク国の日本 6.ポップ文化の日本

この中で1と2が区別されているのは、従軍慰安婦問題の責任と補償が今なお未解決の問題として認識されている事実を示している。インドネシアのすべての生徒たちは1と2について小学六年と中学二年で必ず学ぶようになっているという。

 だが最近は5と6によって、世界中の多くの国と同様の「クールジャパン」現象で、日本の人気は高く、日本愛好家(プチンタ・ジュパン)が増えている。

次号ではインドネシアで成功している日本企業についてふれ日本の課題を検討する。以上。

投稿者 Master : 10:18 | コメント (0)