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2011年08月20日

2011年8月20日  移住先で自分に合った新しい人生を築く(2)

YAMAMOTO・レター
環境・文化・経済 山本紀久雄
2011年8月20日  移住先で自分に合った新しい人生を築く(2)

東日本大震災の外国での表現

世界各地で日本人と分かると東日本大震災のことで尋ねられる。フランス・トゥールーズのタクシードライバーも「日本での住いは北か南か。家族は大丈夫だったか」と聞いてくるように、世界中の話題になっているが、東日本大震災という公式表現、これが諸外国ではどのように訳されているか調べてみた。

ニューヨークタイムスはTohoku earthquakeと書き、CNNでは統一されていなく、ドイツではTohoku-Erdbeben2011とかErdbeben JAPAN等といわれていて、気になっていた大震災の「大・グレート great」が使われていないので少しホッとしている。

新しく決めたところは廃墟

さて、前号に続くフランスの生き方事例です。イギリス人の彼が最初に買った家は広かったので貸家にしたが、いろいろ煩わしいことも多く、別のところに住もうと探し出し始め、スペインやポルトガルやイタリアにも行って調べたが、やはりフランスがよいと現在地に決めたのだが、そこは当時廃墟状態であったことは既に紹介した。

とにかく屋根はなく、壁も崩れており、家の中から木が伸びていたほど。それを買ったのだから近所の人々はびっくり、どうするのかと興味津々で見られた程だった。

この廃墟状態の母屋の後ろに元は馬小屋だった建物があり、そこに前住民が住んでいたが暖房設備もなく、いろいろなところを修理補修しながら五年住み、ようやく一応の家になったので、いよいよ廃墟母屋の改修に取り掛かったのが五年前。

元々イギリス人は家を大事にする国民で、その素質もあると思うが、廃墟を住める家に変身させたいと思った一番の理由は、自分が考える家造りを一人で出来るという楽しみ、それで廃墟を買ったのだという。加えて周りの景観が素晴らしいこともあったともいう。
     
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また、敷地も広いので、庭造りも進めたが、これは奥さんの担当で、イギリスはイングリッシュガーデンと言われるように庭づくりの国。

もうひとつ重要な環境条件は、フランスでは地震がないことだ。だから煉瓦の積み上げだけで家は大丈夫なので、古い石造りの家がたくさん残っている。ここが日本と大きく異なる環境条件だ。

まずは模型造りから

最初は家の模型を木でつくった、と大事そうに奥から持ってきて見せてくれる。細かく刻んだ木材で屋根も窓もドアも玄関も丁寧にできていて、この模型が最も大事だと補足する。だが、この模型造りは単なる素人ではできないだろうと尋ねると、自らの経歴を吐露してくれたので、ようやく納得できた。

彼は農業大学卒で、父親が従業員を十数人雇用し農場経営をしていたので、それを卒業後手伝って、会計や農産物の品種選定から設備投資と修理、それと牛飼い小屋や作業小屋等の建物造りも日常業務として行っていたのだ。いわば農産物づくりと、それに付随する建物造りや修理について総合的な経験を積んでいたことになる。
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過去経験の集積化

この経験が大きい。全く素人では家造りは不可能だろうし、もともと家を造ろう、それも廃墟状態のものをひとりで手造りしようとは思わないだろう。

家の中を案内してもらう。暖炉、階段、手すり、風呂、寝室、書斎、特に床は税関事務所の解体時に出た材木4000ピースを買ってきて、それを全部磨いて削り、すべて同じ大きさにして一個一個貼っていったのだという。家の中も靴で歩きまわる生活スタイルなので、当然ながら頑丈でなければならないので、しっかり貼ったとのこと。聞いただけで気が遠くなる作業だ。

さらに、プールも掘って、さすがに掘るのは業者にしてもらったが、後は全部自分で作業して完成させたという。そのプールサイドでアペリティフの白ワインいただき、次にキッチンに面したテラスで夕食となった。テラスの池には鯉が泳ぎ蛙もいる。猫が足許でじゃれついてくる。

夕食ではガイヤックGAILIAC2008年赤ワインをいただく。上品な味わいで、これが店頭価格で5ユーロだというのだから、毎晩一本飲んでも安いものだ。今の気温は27度で、湿気がないので汗は掻かなく、ほろ酔い気分が快適。
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家づくりで苦労したことはないのかと質問すると、全くなく、すべて楽しみだけだったといいながら、眼を屋根方向に向けて、一番の工夫はあれだと指さす。それは1.5m×1mの煙突で、屋根上の中心点に設置してあるが、あの作業には頭を使った、あれだけ大きなものを屋根に上げたのは、エジプトのピラミッドを古代人がつくったのと同じ原理だと、本当に嬉しそうに大きく笑う。

好きなことを通じて新しい人生を築く

この時、瞬間的に彼は「今の時代の高齢者として理想的生活を送っている」のではないかと感じた。その意味は過去に自分が経験したこと、それも若い弾力性ある時代に身につけたものの中で「好きだった」ことを、高齢者という「円熟味を増す」段階になって、再び自らの中から引き出す作業をしているということだ。

それも移住した国・場所で、完全廃墟状態の建物を蘇らせたいという発想を持ち、その実現のために過去経験の集積化に、日夜脳細胞を駆使し活性化させる工夫を加味し、明日への作業を夢見る毎日を続け、今もガレージ造り作業に励んでいる。

これぞ正しく、若い時代の発想や価値観を見つめ直し、自分の好みに合致した新しい人生を築いているのだ。

彼こそが、好きなことを通じて新しい人生を築くというテーマの実践者であろう。以上。

投稿者 Master : 06:41 | コメント (0)

2011年08月06日

2011年8月5日  移住先で自分に合った新しい人生を築く(1)

YAMAMOTO・レター
環境・文化・経済 山本紀久雄
2011年8月5日  移住先で自分に合った新しい人生を築く(1)

今号と次号では、先般フランスで出会った長寿社会において、参考となるイギリス人の生き方事例をお伝えします。

毎朝の散歩

毎朝、ビーグル犬の散歩をするのが日課で、同じく犬を連れた男女とは「おはようございます」と挨拶しあう。ところが、深く帽子を被り、向こうから速足で来る独り歩きの男性とは挨拶ができない。60歳後半から70歳前半だろうが、眼を正面に見据え、風を切るシャープな歩きで、一様に声をかけることを拒否する雰囲気を漂わせている。ひたすら歩くことが人生目的であるように。

長寿社会の実現

日本人は戦後60年余りの間に30年ほど長寿になって、2010年の平均寿命が女性86.39歳、男性が79.64歳になったと厚生労働省から発表された。(2011.7.27)

女性は26年連続で世界一、男性は世界第四位というおめでたい話だが、定年の方はわずかしか延長されていないので、定年後の儲けものといえる期間は一段と長くなっている。

勤め人として働いている間は、何かと束縛されていたのだから、今までの生活をリセットし、自由で人生最高の楽しい日々がおくれるはずで、20年もあればもうひと仕事出来る可能性もある。また、仕事はしなくても、若い時代の発想や価値観を見つめ直し、自分の好みに合致した新しい人生を築くことも可能だ。

「円熟味を増す」という言葉がある。年齢を重ねると肉体の衰えに反し、過去経験の集積化によって出てくる英知が育ち、人格はもちろん精神的能力など総合能力は若い時代とは格段にちがっている。

だから、仮に「歩くことを人生目的」だとしても、脚を鍛えることで賦活させた健康を何かに活かさないともったいない。また、その活かすヒントは「自分の好きなことをする」ではないかと思って、世界の中でその実践者を訪問している。

仏トゥールーズ郊外へ

7月上旬はフランス南西部オート=ガロンヌ県北部に位置する都市トゥールーズ郊外の、人口160人という小さな村に住むイギリス人邸宅を訪ねた。

トゥールーズは、地中海と大西洋とを往復する重要路の途上にあって、ピレネーから発したガロンヌ川が、北東の湾曲部にあたるトゥールーズで方向を変え、北西の方角に流れて大西洋に注ぎ、市街の南端からピレネー山脈の山並みが見渡せる。

気候は温帯に属する海洋性気候、地中海性気候、大陸性気候が交差する特殊性で知られ、暑く乾燥した夏、晴天が続く秋、涼しい冬、激しい雨と嵐のある春と一年が多様性に富んでいる。この郊外に今回の主人公が移住したのだ。

南仏プロヴァンスの12か月

ところで、1,989年にイギリス紀行文学賞を受賞したピーター・メイル著の世界的なベストセラー「南仏プロヴァンスの12か月 A YEAR IN PROVENCE」をご存じだろうか。今は大分下火になっているが、出版された頃から20年くらい、この本を族行者の多くがガイドブック代りに小脇に抱えプロヴァンスを訪ね、多くの外国人が当時この地に移住した。

今の人々はどこの国に移住したいのか。アメリカの調査会社ギャラップが、世界148カ国の人々に「自由に移住できるとしたら、どこの国に住みたいか」というアンケートを2007年から2010年にかけて実施した結果、最も人気が高かったのはシンガホールであった。政治・社会情勢が安定、医療水準が高い、英語が公用語、加えて交通渋滞の少なさ等が背景要因であるが、20年前まではピーター・メイルの本のおかげで南仏プロヴァンスが一番人気であったと思う。

 イギリス人のピーター・メイルは、旅行者として何度もプロヴァンスを訪れるうちに、陽光溢れる南仏の豊かな自然と変化に富む食生活、純朴な人心・風土に魅せられて、ついにロンドンを引き払い、二百年を経た石造の農家を買い取ってこの地に移り住み、近隣の農夫や改築を請け負ってやってくる職人たちとの交流を中心に、今様に言えばカルチャー・ショックを体験しながら、次第にプロヴァンスの暮しに馴染んでいく過程を、月々の気侯の移り変りに沿って「南仏プロヴァンスの12か月」として十二編のエッセーにまとめのである。

7月のプロヴァンスは大渋滞

そこで改めて、この本の7月を開いてみると冒頭に
「友人がサントロペから数キロのラマテュエルに家を借りた。真夏の殺気立った交通渋滞に車を乗り入れるのは考えものだったが、会いたい気持ちはお互い同じだった。私が折れて、昼までに行くと約束した。
ものの三十分も走ると、もうまるで他所の国で、右も左も大挙して海を目指すトレーラーハウスやキャンピングカーでいっぱいだった」

とあり、7月は国内外から大量に訪れる観光客による車大渋滞状況が延々と綴られていて、この月だけは温暖な気候、美しい自然、おいしい食事とワインがあるプロヴァンスという憧れの地とは思えない描写となっている。

トゥールーズ郊外の邸宅

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これに反し、トゥールーズの中心地からタクシーで向かった郊外への40分間、渋滞なぞ全く関係なく、なだらかな美しい眺望の丘陵地帯の中、ひまわり畑が連なり、古い教会前を通り過ぎ左折すると、そこはアプローチの美しい素晴らしい石造りの邸宅前であった。

昔は廃墟だった

さて、ドライバーに64ユーロ(112円レートで約7000円)支払い、まだ陽射しが強い16時過ぎに邸宅に入ると、ご夫婦が笑顔で出迎えてくれる。ご主人は70歳だが、年齢より若い。イングランド東部のノーフォーク州の州都ノーリッジNorwichからフランスに移住したのが20年前。フランスに移住しようと思った経緯はいくつかあるが、ひとつは太陽へのあこがれであり、次はフランスの文化と食べ物の豊かさであり、もう一つは家の価格がイギリスに比較し安く20年前は三分の一だったと笑う。ピーター・メイルの「南仏プロヴァンスの12ヶ月」は関係なかったのかと尋ねると、影響があったかもしれないともいう。

フランスで最初に住んだところは、ここではなく少し離れた別の地区でシャトー付きの大きな建物を買ったが、40室もあったので、自分たちが居住しないスペースは貸家にした。この家は入居前に完全リフォームしてあって、約10年住んだが、貸家はいろいろ煩わしいことも多く、別のところに住もうと探し出し始め、スペインやポphoto06.jpg
ルトガルやイタリアにも行って調べたが、やはりフランスがよいと現在地に決めた

しかし、実際に探し決めたところは、当時写真のように廃墟状態であった。次号に続く。
              以上

投稿者 Master : 05:11 | コメント (0)