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2013年06月19日

日本の魅力は「一般社会システム」が優れていること(下)

YAMAMOTOレター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2013年6月20日 日本の魅力は「一般社会システム」が優れていること(下)

フランスTGVに乗車して

5月の半ば、羽田からシャルル・ド・ゴール空港に朝着き、そこから列車でベルギーのブリュッセル南駅Gare de Bruxelles-MidiまでTGVで行くことにした。
 
バックを持って高速列車はこちらへという表示に従ってエスカレーターを上り、下がり、ようやく大きな列車表示板の見えるところに着き、その裏側が出発案内となっているので、ブリュッセル南駅行き8:07発を探すが表示されていない。

そこでさらにホーム側のフロアに行くと、そこでようやくTGV専用の電光掲示板に出合い、ここにブリッセル南駅行きと書いてあり、ホーム表示は発車15分前に出すとも書いてある。大分待ってようやく5番ホームと分かる。

ホームに降りるにはエスカレーターの前に立つと、一人の黒人が大型バックを二つ持ち、肩にカバンを掛けている。見ているとひとつのバックをエスカレーターの足元に乗せ、もうひとつを手に持ち、スタートした途端、先のバックが倒れ、急速に音を立て滑り落ちていく。
危ない。ホームにいる人にぶつかってしまうと思ったら、ずり落ちていく激しい音が大きかったので、ホーム上に立っていた人々が一斉に逃げ、避けることができたが、危険なことで、日本では考えられないバックに対する扱い方だ。

ホームに着いて、羽田空港JALカウンターで発行されたAF7181と表示された列車乗車券、それをエアフランスAFの看板表示板をもって立っている若い男に見せると、そこにいるTGV係員に尋ねろと言うので聞くと、TGV係員はAFの係員に聞けと言う。

どうなっているのか、と困っていると、向こうから女性二人、AFの制服姿が歩いてきたので列車乗車券を見せると、手元のリストで筆者の名前を確認し、TGVの一等指定乗車券を渡してくれる。この乗車券に列車番号はどこに書いてあるかと見ていると、再び先ほどのAF制服女性が走ってきて、これと交換だと別の乗車券を差出し、先ほどの乗車券をスリのようにサッと持ち去る。差し替えられた乗車券は3号車で26シートである。

しばらく待つとようやく列車が入って来たが、乗車券に搭乗時刻は7;47と表示されているのに、既に10分遅れている。その時、ホームと列車入り口が平行だと気付く。ヨーロッパでは初めてだ。改善したなと思いつつ、大勢が大きな荷物持って争って乗車するなか、専用置き場にバックを置くことができ、ようやく指定席に座る。

ホッとした途端、列車到着が遅れたのに8:07の定刻に走りだす。郊外は黄色い花が一面に咲く田園風景。奇麗だなぁと見とれていると、突然、途中の駅に止まる。これはブリュッセル南駅まで直通のはずだ。途中駅で乗り換えするはずがない。

何かアナウンスがあり、こういう場合全てフランス語で行われるが、乗客全員がざわざわと立ち、バック持って降り出す。そこで前座席の黒人に聞くとチェンジだという。えっ・・・。終点のブリッセルまでこのTGVは行かないのかと聞くと「そうだ」と頷く。

訳が分からないが全員が降りるので、一緒に降りて、降りた44ホームに立つと、表示板に発車時間が表示される。見ると9:07ブリッセル南駅Bruxlles Midi行きとある。既に時間は9:20である。隣にいるベルギー人夫婦に聞くと「フランスに10日間バカンスに行って帰るところだが、行きのTGVでブリッセルからパリに入るのに、ずっと遠くを大回りしてようやくたどり着いたように、このような事例は普通に起きることだ」という。間違いなくブリッセルに着くのかと聞くと「大丈夫だ」とウィンクする。

しばらく待っていると44ホームに停まっていたパリ北駅行きがスタートした後、空車の列車が入って来た。突然、ベルギー人夫婦が向こうに走り出す。自分も慌ててついていく。到着した車両の前で争って乗客が荷物をもって入るが、この列車の入り口はいつものヨーロッパスタイルで、ホームより二段ほど高くなっているからバックを持ちあげるのが大変。ようやく引き上げて車内に入るとバック置き場は既に一杯。そこで空いている座席に座り、バックは通路におくと、すぐに発車である。心配なので隣席の男性に尋ねると「問題なくブリッセルに着く」という。郊外を見ていると少し眠くなる。ここで寝てしまうと危ない。我慢していると10:02にブリッセルに到着した。9:42到着予定が20分遅れであるが、ようやく何とか着いたという感じになる。

こういう経験をすると、当然ながらフランスTGVへの信頼感はなくなる。それもしばしばあるということであるから、列車管理はどうなっているのか。事故へ結びつくような気がしてならない。安全対策が不十分で心配だ。

 宇野常寛氏が「この街のファンづくりに徹すれば、人口が少なくても生き残れる街になる」という主張、その通りと思うが、フランスで経験したTGVの実態は宇野常寛氏の提案とは逆事例で、フランスでTGVを利用しようとする観光客は少なくなっていくだろう。

その点、日本はTGVのような事例が発生することはまずない。素晴らしい列車システムを持っているので、とにかく一回でも日本に来させて新幹線を体験してもらえば、日本のファン化につながり観光客が増え、日本の「人口減対策」として有効な対策になる。

ドイツの実態 

 ブリッセルから各地を回ってドイツに入ったが、ここで昨年日本に旅行したという若い女性と話す機会があった。

 日本の何が一番よかったか、と尋ねると「新幹線の列車が決められたところに停まるのでビックリした」という。日本では当たり前だが、これはドイツでは考えられないことなのである。

 フランクフルト国際空港駅からICEインターシティエクスプレスに何回も乗車しているが、毎回、ホームに表示されている停車位置には困惑させられる。指定席の列車番号がホーム上の表示板にアルファベットで掲載されているので、その指定された停車表示のところで待つが、大体違うところに停車する。それも結構離れて停まる。したがって、大型パックを持ってホーム上を走ることになる。

これがドイツの工業技術を結集して、東西ドイツ統合後の1991年に颯爽とデビューした高速列車ICEの運行実態である。

しかし、ドイツ人はこれをあまり気にしない。列車が到着すると、ホーム上を客が右左走り回るのが常識である。停車位置なぞ関係ないように思っているのかもしれないし、この状況が世界で普通だと考えているのかもしれない。

だから、日本に旅行して新幹線ホームで指定券に示された車両位置扉の前に立っていると、誤差が殆どなくピタッと停まるので眼を丸くすることになる。

日本ではピタッと指定場所に停車でき、EU世界で経済の一人勝ちのドイツでも出来ていない。この要因を語り出すと長くなるので止めるが、この事実は日本に来ないとわからないから、日本では普通のことが、ドイツでは実現していないことの不可解さに気づかず、結果として日本の素晴らしさが日常の社会システムに存在することにつながらない。

このような交通システムに関わる日本と世界の常識違いは、日本以外の殆どの国でいえることだろう。それだけ日本は素晴らしい交通システムを保持しているのだ。

アベノミクスを機会に日本の社会システムをPRすることだ

 世界がアベノミクスに関心を持ち、為替が円高修正というタイミングに、日本の社会システムが素晴らしいことをPRしたい。特に新幹線の素晴らしさ、それを実態通り正しく伝えることができれば、それを体験したいという観光客も増えるだろうし、世界各国が計画している鉄道市場への強力な輸出武器にもなるだろう。 

経済産業省によれば、2007年に約16兆円だった世界の鉄道市場は、2020年には22兆円まで拡大する見通しであるから、ハードとしての車両だけでなく、運行管理や保守を含めたシステム提案を行っていけば、日本の輸出への貢献度は大きい。

 特に、新幹線は素晴らしいシステムなので、とにかく一回でも東京発の新幹線を体験させれば、日本へのファン化につながり、東京以外の場所である「地方の活性化」に結びつき、観光客増加は日本全体の「人口減」につながる。今は円安状態が続いているから絶好のチャンス到来である。アベノミクスによって20年間のデフレから脱却し、世界から「日本化」と揶揄されている実態から抜け出し、加えて、日本へのファン化を図って「地方の活性化」と「人口減」対策へとつなげたい。

2013年を日本が過去から脱却し未来に向かうチャンスの年にしたく願っている。以上。

投稿者 Master : 05:14 | コメント (0)

2013年06月06日

日本の魅力は「一般社会システム」が優れていること(上)

YAMAMOTOレター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2013年6月5日 日本の魅力は「一般社会システム」が優れていること(上)

白から黒へ

「白から黒へ」とは、勿論、日本銀行が白川方明元総裁から黒田東彦現総裁に代わったことを意味しているが、その結果、日本経済の変化は著しい。
今までの日本は20年間デフレに喘ぎ、低成長に甘んじていたが、インフレ目標を2%と掲げ、異次元の金融政策を黒田総裁率いる日銀が実施し、安倍政権によって機動的な財政政策を開始し始め、さらに、これからの成長政策への期待もあって、為替は円高修正、株価も回復してきて、企業も個人投資家も息を吹き返しつつある。

だが、この変化、まだ社会一般につながっていはいない。それはそうだろう。安倍首相が就任してまだ7カ月、20年も喘いで、世界から「日本化」と揶揄されていた状態から一気には変わらないのは当然であろう。時間が必要であることを我々は理解し受け入れないといけない。
と同時に、アベノミクスを継続強化・成功させたとしても、まだ残るだろう「地方の活性化」と日本全体の「人口減」問題、それへの対策を考えなければいけない。

観光客は東京に集中

5月22日、東京スカイツリーが一周年を迎えた。展望台への入場者数は638万人で、商業施設を含めたスカイツリータウンの来場者は5080万人に達したという。
当初、事業主の東武鉄道が公表した年間来場者数見込みは3200万人で、これは東京ディズニーリゾートの年間来場者数2500万人を上回って、大阪万博(6カ月間開催)の総入場者数6421万人には及ばないが、2005年の名古屋万博(6カ月間開催)の2204万人を超えていたが、この当初見込みを1.6倍も上回っている。

ということは日本人観光客だけでなく、634メートルという高さとともに、海外でも話題になって、円高修正とともにスカイツリーに観光客が押し寄せ、その影響で東京各地の観光地にも客が増え、結果として東京地区の一人勝ちといえる現状となっている。

地方の立場から考えれば、東京の一人勝ちに対して何らかの対策を講じないと、この東京集中傾向はさらに進むことになるだろう。

そのひとつはソラマチに進出することだ

 ソラマチの4階に行くと、ソフトクリーム専門店がある。店の名は「東毛酪農63℃」。東毛とは群馬県の東部を表すが、東毛の太田市を中心にした酪農家約30軒が加盟する東毛酪農業協同組合が、広告企業と組んで東京に初めて出した店である。スカイツリーのある墨田区と東毛は、東武伊勢崎線でつながっている縁もある。

 店の名前についている63℃とは、牛乳をセ氏63度で30分間殺菌する手法を意味している。この方法は欧米では普通だが、日本では高温殺菌が主流のため少ない。だが「たんぱく質の熱変性が少ないため、臭みが少なく、自然な味がする」と普及活動をしていて、ソフトクリームだけでなく「牛乳も知ってもらいたい」と名づけた。そのソフトクリームの売り上げは予測よりも25%多い50万本と上上である。

 ソラマチには他にも今治タオルなど地方を売り物にする店があるように、東京に続々できる商業施設が個性を出すため地方企業を誘致している。地方企業にとっては、東京で「地方ブランド」を磨く好機ととらえ、東京と張り合うのではなく、東京を利用・活用する戦略が大事だといえ、その一例がソラマチの「東毛酪農63℃」である。

もうひとつはマスコミの力を借りて集客を増やすことだ

昨年9月、兵庫県朝来市和田山のホテルに宿泊しようと、チェックインすると本日は満室で、このところ連日団体客が入り満室が続いているとフロント女性が発言した。

どうして観光客が来て満室なのか。それは直ぐに分かった。JR山陰本線和田山駅にも、ホテルロビーにも竹田城址のポスターが貼ってあるからである。竹田城址への観光客が急増しているのである。
急増化した背景は、高倉健主演の映画「あなたへ」で竹田城址が登場した結果である。亡くなった妻から「故郷の長崎県平戸の海へ散骨して下さい」という絵葉書での遺言と、その妻の真意を知るため、旅に出る男の話だが、その旅の途中で竹田城址に立ち寄るのである。
 
竹田城址は、標高353.7メートルの山頂に位置し、豪壮な石積みの城郭で、南北400メートル、東西100メートルにおよび、完存する石垣遺構としては全国屈指のもの。

この竹田城址周辺では秋から冬にかけてのよく晴れた早朝に朝霧が発生し、雲海に包まれた竹田城跡は、まさに天空に浮かぶ城を思わせ、この幻想的な風景が「あなたへ」で巧みな映像と共に紹介され、それを一目見ようとたくさんの人々が訪れるようになったのである。

実は、この城址は以前から但馬地方では知られていたところだが、全国的にはそれほど有名でなく「あなたへ」のヒットで脚光を浴び、ホテルが満室状態という結果にしたのであるが、これはNHK大河ドラマや朝ドラ舞台として取り上げられたところは、同様に観光客急増となるから、マスコミ対策も必要であろう。

本命は自分らしさを追求することだ

 しかし、以上の対策をできない地方の方が絶対的に多いのが現実だ。

これに参考になるのが、宇野常寛氏「新時代を読む」(毎日新聞5月15日)で、宮崎県高千穂町の町おこしについて面白い提案をしている。

 「僕が提案したのは一言で言うと『街が栄える』とは何か、を問い直すべきだということだ。他の多くの地方都市がそうであるように、高千穂町は産業の衰退と人口減少に直面している。しかし、高千穂町『らしさ』を確保し、発展させていくために必要な人口はいったい何人だろうか。私見では、それは数千人以内に収まるはずだ。棚田と森林を維持し、神社と伝統芸術を守り、観光客にサービスを提供する人間さえいれば、高千穂は高千穂でいられるのだ」

 「僕の考えでは、これから高千穂に住むのは、こうした高千穂らしさを保持していくために必要な人と、高千穂でなければ生きていけない人々だけでいい。そしてたとえ人口が1000人でも、街の外に、世界中に10万人ファンがいればそれでこの街はたぶん成り立っていくはずなのだ。それが、ほんとうの意味で『街が栄える』ということだと僕は思う」

 「地方が生き残るとはその街の個性、つまり自然や文化が生き残ることであって、決して不相応な人口を養うことでない。たとえば高千穂のような観光の街の場合は、1万人の人口を維持することよりも、人口1000人で10万人のファンがいる街を目指すことのほうが、ほんとうの意味で地方の町が『生き残る』ことなのではないだろうか」

 街に来た人をファン化し続ければ、その街に住む人が減って行っても、街そのものは生き続けるというのである。その通りと思うとともに、これは日本の「人口減」への打開策に通じるものだろう。

世界に冠たる日本の列車システム

 日本の新幹線が素晴らしいことは日本国民なら全員認識しているが、世界中の人々が認識しているかとなると、まだ十分でない。何故、伝わっていないのかという要因の一つに、世界の実態を日本人は認識していないので、比較して日本の素晴らしさがわからないから、日本人が日本の良さを十分にPRできない。したがって、日本のファン化につなげられない。

風景や食やアニメ・キャラクター人気だけでなく、列車システムが代表する日本の一般社会システムは世界に冠たる存在であることを認識するためには、外国の列車システムの実態を知ることが必要であろう。次号でフランスとドイツの事例を紹介検討したい。以上。

投稿者 Master : 09:51 | コメント (0)