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2012年03月20日

2012年3月20日 日本のギリシャ問題を考える・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年3月20日 日本のギリシャ問題を考える・・・その二

日本はギリシャ化するか

 2005年1月、日本の財務省はロンドンとニューヨークで戦後初の海外投資説明会(IR)を開いた。海外の機関投資家に日本国債の「魅力」をPRし、購入してもらおうとしたもので、その後も定期的に欧米、アジアの大都市で同様の海外IRを開催している。

その結果、海外投資家保有比率は2008年9月に7.8%となった。しかし、その後は低下し2010年末には4.8%にとどまったが、2011年6月末には5.7%に上昇した。これはギリシャ危機などの影響で海外投資家の日本国債への投資が増えたものである。 では、この海外投資家保有率が増えるとどうなるか。

ここでギリシャ国債の海外投資家保有比率を見てみよう。2005年から10年の平均で約71%である。ギリシャ国債の高金利につられて外国の銀行などが買っているのだ。

 しかし、デフォルト(債務不履行)の危機になったので、一斉に売って逃げ出そうとする。だが、誰も買わないので、ECB(欧州中央銀行)が「売り逃げ」の受け皿として引き受けている。

 ここを注視したい。日本国債の海外投資家保有比率が仮にギリシャ並みになって、日本がデフォルト危機に陥れば、市場は日本国債の売り一色になるが、どこが引き受けてくれるのか。日本の場合、ギリシャにとってのECBはない。 日本国債の海外投資家頼みは、ギリシャ以上に危険であろう。
 
明治天皇がご存命ならば

3月11日の政府主催の東日本大震災追悼式で、台湾代表に献花の機会がなかったことについて、「本当に申し訳ない。行き届いていなかったことを深く反省したい」と野田首相は12日の参院予算委員会で陳謝したが、台湾からの震災義援金は官民合わせて約200億円と世界トップクラスであり、親日国であることを考慮に入れない民主党政府の外交神経の雑さに問題だと感じる。

また、自民党の世耕弘成氏から、追悼式で、天皇、皇后両陛下がご退席になる際、場内が着席していたとして、「どこの国でも全員起立するものだ」と批判され、藤村官房長官は「(議事進行は)事務方で詰めてきたものを直前に聞いた。おわびするしかない」と謝ったが、民主党の尊皇神経の雑さには困ったものだと感じるが、その問題はさておき、明治天皇が外債発行に反対された事例を紹介したい。

今上天皇陛下と明治天皇では、そのお立場が異なるので比較は出来ないが、仮に、明治天皇がご存命ならば、国債の海外投資家への発行は、直ちに禁止する聖断を下されたであろう。明治十三年(1880)五月、大隈参議は財政難を救うため外債5千万円発行しようと閣議に諮ったが、賛否相半ばして大混乱に立ちいたった。そこで明治天皇に裁断を仰いだところ、次のような直筆の沙汰書で拒否されたのである。

「朕素ヨリ会計ノ容易ナラザルヲ知ルト雖、外債ノ最も今日ニ不可ナルヲ知ル。去年克蘭徳(グランド)ヨリ此ノ外国債ノ利害ニツイテ藎(じん)言(げん)猶耳ニ在リ。・・・中略・・・勤倹ヲ本トシテ経済ノ方法ヲ定メ、内閣所省ト熟議シテ、之ヲ奉セヨ」

 この克蘭徳(グランド)とは、明治十二年(1879)に来日した米国前大統領U・S・グランド将軍のことであるが、当時、明治天皇は二十六歳、グランド五十七歳、通訳と三条実美のみを伴った会談が八月十日、二時間に渡って浜離宮で行われ、その際にグランドは特に外債について強調し警告した。

「外国からの借金ほど、国家が避けなければならないことはない。弱小国家に、しきりに金を貸したがっている国があることはご承知かと思う。そうすることで優位な立場を確保し、不当に相手を威圧しようと狙っている。彼らが金を貸す目的は、政権を掌握することにある。彼らは常に、金を貸す機会を窺っている」

 この助言を明治天皇は深く理解しており、大隈参議への拒否となったわけである。

川北隆雄氏試算Ⅹデー

 以下の表は川北隆雄氏(中日新聞・編集委員)が試算したものである。

 
約10年後に、政府債務残高が個人金融資産を食いつぶす。しかし、これは計算上なので、別枠で復興費、交付国債という形で増やしているから、現実にはもっと早まると推測し、そのタイミングは自民党の「Ⅹ-dayプロジェクト」の指摘した「今後七、八年以内」と川北隆雄氏も想定している。

だが、冒頭の日経新聞報道に見る如く「世界の多くのヘッジファンドが、今回は自信を持って売りを仕掛ける方針だという」という状況では「Ⅹデーは早まる」可能性も否定できない。

誰が被害をもっともかぶるか

 財政が破たんした場合、誰が責任を取るのか。歴代首相や財務大臣か、政治家か、財務官僚か、彼らは責任を取らないだろう。政治家も官僚も破たんした場合、それなりに年金は大幅にカットされ、物価も急騰するから生活は苦しくなるだろうが、彼らは情報が豊富に入るのであるから、事前に対策を講じていくだろう。

 ところが、一般人の大多数はそのような逃げ方ができない。では、どうなるのか。それは、自らが暮らす地方自治体の体力具合で影響度が違ってくるものの、大体はカリフォルニア州ヴァレーホ市の実態となるであろう。

「ブーメラン」最後のまとめ

 マイケル・ルイスは「ブーメラン」の最後に以下のようにまとめている。

「返済がむずかしいほどの、もしかすると返済不可能なほどの額まで借金を重ねていくとき、人の行動は同時にいくつものことを語っている。明らかに語っているのは、手持ちの資金で購(あがな)える以上のものが欲しいということだ。やや控えめに語っているのは、現在の欲求はとても重要なものだから、それを満たすためなら、将来ある程度の財政難をきたすのも致しかたないということだ。

しかし、実際にそういう取引を行う時点で、人が暗黙に語っているのは、いざその財政難が訪れたら、なんとか切り抜けてやるということだ。当然のことながら、いつも切り抜けられるとは限らない。

しかし、切り抜けられるという可能性を排除することは誰にもできない。そういう楽観主義は、どれほどばかげたものに見えようと、それを胸に宿した人間にとっては、じゅうぶん賭けてみる価値があるものなのだ。ぞっとする話ではないか」

このまとめを深く胸に刻み、併せて、ヴァレーホ市新任の市政担当官が、いちばんの問題は、財政上の問題は症状にすぎず、その病根は文化にあると発言し、どうやって、市全体の文化を変えるのかの問いに、「まずは、自分の内面に目を向けることです」という言葉を再度振り返りたい。

我々日本人一人ひとりの人間性と借金に対する常識に通じる指摘と考えたい。

最後に提案したいことは、一人ひとりが自らの財政状況に応じて、今からシミュレーションし、その日が来ても慌てないようにすることが最も大事と思います。以上。

投稿者 Master : 10:34 | コメント (0)

2012年03月05日

2012年3月5日 日本のギリシャ問題を考える・・・その一

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄

2012年3月5日 日本のギリシャ問題を考える・・・その一

日本国債への仕掛け

 日経新聞「大機小機」(2012.2.18)が
「これまで安全資産として買われてきた円が、2012年には円安への転換点を迎える可能性が高いうえ、過去に日本の国債売りを仕掛け、ことごとく失敗してきた多くのヘッジファンドが、今回は自信を持って売りを仕掛ける方針だという」と、世界からの日本経済への見方が変わってきたことを述べた。

 では、ヘッジファンドはどうやって売りを仕掛けるのか。それにはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というデリバティブ商品を使う。CDSとは債権のデフォルト(債務不履行)をヘッジするための金融商品である。
 
例えば、日本国債を持っている人がいて、日本が倒産したら日本国債はボロ値となる。しかし、日本国債のCDSを買っておけば、それを売った人から損失分を貰えるというもので、その為にはCDSを買う人が、最初に決められた保険料、仮に日本国債を100億円保有しているとして、年間1%の保険料であったら、1億円ずつ支払えば、日本が倒産しても損しないのである。

 また、日本国債を保有していない人でも、このCDSを買える。この場合、年間1億円払えば、日本が倒産したら最大で100億円儲かることができる。

つまり、これはギャンブルである。 他人の家に火災保険を掛けて、他人の家が燃えるのを祈るような賭けであって、債権がなくても、デリバティブ商品の売り手と買い手がいれば成り立ち、無限大の大きさの市場を作り出せるのである。

これがアメリカのサブプライムローンの仕掛けで、ヘッジファンドが住宅ローン仕組み債を空売りし、巨万の富を得た手法である。

この手法でいよいよ自信を持って日本国債に仕掛けてくるのだという。

アメリカの中のギリシャはどこか

 日本国がギリシャのような倒産状態に陥った場合、そのようなことはないと思うが、仮に発生した場合、日本のどこが、誰が、最も損害を被ることになるのだろうか。

その注意喚起のために、事前にシミュレーションしておいた方がよいと思うので、それをマイケル・ルイス著の「ブーメラン」(2012年1月)の中から紹介したい。

書名の「ブーメラン」とは、サブプライムローン仕掛けで、欧州が被った損失が、ブーメランのようにアメリカに戻って、地方都市に住む人々の生活を直撃しているという意味である。「世紀の空売り」(2010年)、映画になった「マネーボール」(2011年)に続くマイケル・ルイスの力作である。

まず、「ブーメラン」は最初にアメリカ全体の問題を述べる。
① 2002年から2008年にかけて、州は住民と足並みそろえて債務を積み上げた。住民の負債額は全体で見てほぼ二倍、州の支出は約一・七倍になった。

② 1980年には、州の年金原資のうち、株式市場に投資されたのは23%にすぎなかったが2008年には、その割合が60%にまで増えている。

③ 財政の穴は数兆ドルに広がり、その穴を埋めるには、ふたつの選択肢・・・公共サービスの大幅縮減か債務不履行か・・・の一方もしくは両方を実践するしかなかった。

④ この国はどんどん、財政的に安定した地帯と危ない地帯に色分けされていくだろう。お金があって引っ越しできる人たちは、引越しする。お金がなくて引っ越しできない人たちは、引越しせず、最終的には州や自治体の援助をそれまで以上に当てにする。それが、事実上の“共有地の悲劇”(多数者が利用できる共有資源を乱獲することによって資源が枯渇すること)を招く。

このようにアメリカの全体的な状況を述べた後、いちばん憐れむべき市としてカリフォルニア州サンフランシスコのベイエリア内にあるヴァレーホ市Vallejoを紹介している。
① 2008年、多数の債権者との折り合いが付けられず、ヴァレーホ市は破産を宣告し、2011年8月、スタンダード&プアーズがアメリカ国債の評価を格下げしたのと同じ週に破産申請が認められた。最終的に、ヴァレーホの債権者の手もとには1ドルに対し5セント、公務員の手もとには1ドルに対し20ないし30セント程度の金が残された。

② 破産の宣言以来、警察署と消防署の規模は半分に縮小された結果、自宅にいても安心できないと訴える人がかなりいて、その他のサービスは、事実上、まったく実施されなくなった。

③ したがって、どこにでも駐車することができ、違反切符を気にする必要はなくなった。駐車違反を監視する婦警もいないからだ。

ここまで「ブーメラン」を読んでハッと気づいた。そういえば昨年1月末にナパ・バレー NAPA VALLEY、ここはカリフォルニアワイン産地として有名なところだが、ここを訪問した際、途中二店舗のスーパーに立ち寄ったことがあった。

初めに行ったのがウォルマートで、次に行ったところの名前は覚えていないが、古く大きく暗いイメージのメキシコ人を対象にしたようなスーパーで、ここの所在地がヴァレーホ市だった。

その時地元の人からざっと聞いたメモを見なおしてみると、ヴァレーホ市の年間赤字は1600万ドルで、主な理由は歳入8000万ドルのうちなんと80%を警官、消防士等の人件費に充てていたとある。もともと労働者階級の多いあまり安全な地域ではなかったが、警官が減らされたことから、地元の人がボランティアで警備にあたっているが、犯罪は多くなり、売春婦が急増したともメモにある。

再び「ブーメラン」に戻ってみたい。
④ 新任の市政担当官は、ヴァレーホ市がかかえるいちばんの問題は、財政上の問題は症状にすぎず、その病根は文化にあると次のように発言した。

⑤ 要するに、人間の問題なのです。互いへの敬意、誠実さ、そして、美質を獲得しようという気概、そういうものを学ぶことです。文化はおのずから変わります。しかし、人間は意思的に変わらなくてはなりません。意思を曲げて納得しても、それは意見を変えたことになりません。

⑥ 著者が「どうやって、市全体の文化を変えるのですか」と聞くと「まずは、自分の内面に目を向けることです」と市政担当官が答えた。

破産したヴァレーホ市について市政担当官は、問題の根源を人間にあると判断しているのである。これを的外れと考え、財政問題と直接関わらないと思うか、それとも人間性の本質を突いた鋭い指摘と捉えるか。その受け止め方は様々であろうが考えさせられるポイントである。

次は日本について検討してみたい。

日本の財政悪化シミュレーション

 2011年6月1日、自民党の「Ⅹ-dayプロジェクト」(座長・林芳正政調会長代理)は、衝撃的な報告書を発表した。「今後七、八年以内」に日本国債の発行は限界に達する、というのだ。つまり、日本財政破綻のⅩデーは七、八年後というわけである。(参照 川北隆雄著「日本国はいくら借金ができるのか?」)

 このプロジェクトは、民主党のバラマキ政策による財政の悪化に懸念を抱いたメンバーが、関係各分野にヒアリング調査を行って報告書をまとめたもの。

 現時点での日本財政は、豊富な国内金融資産などを背景に、国債市場は安定しているが、家計貯蓄率の低下や、経常収支の黒字幅の縮小などを原因として、国債を国内の投資家だけで消化できなくなるというものである。

 国債などの政府債務残高を国内貯蓄だけで賄えなくなると、どうなるか。日本国債の市場価格が下落し、長期金利が高騰する。この因果関係は一般に熟知されている通りである。

 だが、話はこれだけでなくなる。まず、国債を大量に保有している金融機関の財務状況が悪化し、破綻する可能性が生じ、預金者は引き出しを求めて、金融機関に殺到する、いわゆる「取り付け騒ぎ」が起きるだろう。加えて、銀行の機能が低下するので、資金調達面で難しくなり、投資が抑制され、債務を抱えた企業の倒産が続出する。

さらに、日本国の国債金利の上昇は、金利利払い費の増加を意味し、既に苦しい財政を一段と悪化させていく。

アメリカがサブプライムローンを仕掛け、世界中に経済恐慌損失を与えた結果、ギリシャの国家破綻問題として現れ、アメリカにもブーメランとして返っていったのがヴァレーホ市実態である。では、ヘッジファンドが狙う日本経済、我々はどう対応すべきか。次号続く。以上。

投稿者 Master : 13:42 | コメント (0)