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2011年12月23日

2011年12月20日 ユーロ危機で分かったこと・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年12月20日 ユーロ危機で分かったこと・・・その二

戦後66年、EUの盟主はドイツになったこと

ユーロ参加主要国との比較でドイツだけが経常収支が黒字であることを前号で述べました通り、ドイツ一人勝ちなのです。何故にドイツが経済的勝利を得たのか。

それは簡単な背景です。EU体制がスタートして、ドイツの第二次産業の強さが発揮されたのです。EU体制前は、ドイツからヨーロッパ各国への機械類等の出荷は輸出扱いでした。各国毎の関税がかかっていましたが、今は関税なしで「域内出荷」となったことから、各国が優秀なドイツ製品を購入しやすくなり、一気に経常収支がよくなりました。EU体制が味方したのです。


表はユーロ諸国の経常収支で、一番上の青線がドイツです。これを見るとドイツは2000年のユーロ発足までは経常収支が赤字でした。1989年の東ドイツの統合の後、赤字に転落し、90年代を通じて問題でしたが、ユーロ各国の経常収支.JPG
ユーロ成立後、急速に黒字を拡大し始めたのです。

ですから、ユーロ加盟16カ国はドイツのお金が目当てで「メルケル詣で」し、その結果は「本来ユーロ17国で物事を決めるべきだが、ドイツが言ったことに他国が従う」(米コロンビア大ジェフリー・サックス教授)という実態になっているのが現実です。

もう一つ大事なポイントは、国民性というものがあるような気がしてなりません。
ドイツの一主婦から以下のメールを頂きました。

「今ヨーロッパは嵐のような状態です。ギリシャのみでなく、イタリアもどうなることか、はらはらさせられます。フランスは依然としてユーロ紙幣の増刷を主張しますが、怖い考えだと思います。”フランス人は考えずに走り出す”とはこのことでしょうか」

このメールには現在検討されている「ユーロ共同債」構想に対し、メルケル首相のみが反対している姿が反映しているのです。

メルケル首相は「国の競争力によって金利の格差がつくことが重要だ」と強調していまして、これは当たり前のことであり、この常識的なことをなくそうとする他国に対し牽制しているのですが、ここにもドイツ人の国民性が顕れています。

ハンブルグのミニチュア・ワンダーランド

そこで、今回訪問したドイツ各地で出会い、見聞きしたいくつかをご紹介し、ドイツ人の「しっかり度」を確認してみたいと思います。

まず、最初に感じるのは、訪問する企業・団体・大学・研究所等での対応の差です。ドイツでは大体のところで「説明するための資料が用意されている」のですが、他国では説明時にこちらから要求しないと資料は提供してくれないのが普通です。

ギリシャなぞは、後で送ると言いながら、送ってこないので催促すると「まだ、送ってありません」という返事だけで、その後も何も資料は届かないのが普通です。これが当たり前のギリシャビジネスの実態らしいのです。こちらが諦めるのを待っているのです。

今回、特にドイツ人の素晴らしさを実感したのはハンブルグの「Miniatur 
Wunderland ミニチュア・ワンダーランド」でした。

海辺に近い倉庫街につくられたもので、今やハンブルグの人気スポットなっています。ここのアイディアは昔からある普通の発想で「ある場所のミニチュア版」を展示するというものですから、世界各地に同様な展示会場があると思います。日本にもあるでしょう。

しかし、それらとは違う魅力が会場に入ると一瞬にして分かります。倉庫を使っていますから、建物内は無造作なもので、内装なぞ全く綺麗さという点では劣りますが、本来的な素晴らしさがあるのです。

その一番目は、入口におかれているパンフレットです。16カ国の言語でつくられています。その中の日本語パンフレットの日本文を、慎重にチェックして読みましたが、全く違和感がなく正確に書かれていました。果たして、日本で同様の外国語パンフレットを作成した場合、どの程度の正確さが保たれているか心配します。多くのところで見ましたが、日本語を直訳した固すぎる英語になっているのが多いと思います。

二番目は、ミニチュアの緻密さです。以下の写真をご覧ください。
104.JPG

105.JPG
 
写真は実物はたった1.5cmの大きさを拡大したものです。アルプスの雪風景の中にあったものを撮影したのですが、屋根から雪下ろししていて、転落した様子がリアルにつくられているのです。このような細かい部分にも手を抜かず「しっかり」つくられています。従って、もう一枚の写真のように子供が身を乗り出して楽しむということになります。

まだたくさん説明したいことがありますが、このくらいにしてまとめますと

①古い発想で新しい創造⇒新鮮
②面白い・エンターティメント    
③驚き・サプライズ

という三点になり、結果として本物としての魅力を感じるので、ここに人が集まり、収益が上がるのです。ドイツ製品がユーロ地域の他国に買われるのもこの理由と同じです。

日本人が見習うべきこと

このハンブルグの「Miniatur Wunderland ミニチュア・ワンダーランド」、技術的には日本人にも可能でできるでしょうが、日本人には②面白い・エンターティメント ③驚き・サプライズという二項目が全体的に欠けていると思われてなりません。

このところを外国人と提携して相互助け合うなら、世界中から観光に訪れる施設ができるのではないかと思っています。

最後に日本人が反省しなければならないことに、ドイツと日本は同じように経常黒字国でありながら、何故に純政府債務残高がドイツは57.6%で、日本は117.2%なのかという背景です。日本の国債発行は20年前のバブル崩壊時にとった財政政策に起因しています。簡単に述べれば「パル崩壊時の経済対策を、構造改革で乗り切るべきだったのに、景気対策を繰り返した」ことが今日の結果を招いていることは間違いない事実です。

当時のことを少し振り返ってみます。政権を握っていた自民党の政調会長だった亀井静香氏が次のように語っていました。

「坂道を転がり落ちている。支えねばならない」「トンネルを怪我人なしで抜け出たい」
「一家の稼ぎ頭の父ちゃんが倒れてしまったのだから、子供から借金をしても栄養をつけさせないといけない」(毎日新聞 1999年11月14日)等と言っては、景気対策の規模をどんどん拡大させていったのです。

また、当時の小渕首相は、1999年12月12日に「世界一の借金王にとうとうなってしまった。六〇〇兆円も借金をもっているのは日本の首相しかいない」と語ったのですが、今はその二倍に近づいているのです。

つまり、政治家の誰も構造改革を進めずに、小渕政権時代の自民党政権のままに国家経営をしてきた結果が、ドイツとの大きな純政府債務残高となっているのです。

ドイツのメルケル首相のみが、検討されている「ユーロ共同債」構想に対し反対している姿をみると、日本人と日本の政治家の戦略性なき国民性が問題だと痛切に感じ、日本人は「未来から今を見る」という思考力は皆無に等しく「先をあまり見ないで、今のところで頑張り続ける思考力」の国民だとつくづく思っています。真面目に努力する前に、未来を描き戦略を構築する脳細胞にする必要があります。

今年の日本は大変な年でした。このような年はしばらくないでしょうから来年は期待できると思っています。

皆さんの愛読に感謝です。以上。

投稿者 Master : 08:29 | コメント (0)

2011年12月06日

ユーロ危機で分かったこと・・・その一

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年12月5日 ユーロ危機で分かったこと・・・その一

フリクションボールのお土産で恥かく

 11月は仏独に2週間出張しました。ドイツの知人に企業訪問時のお土産に「フリクションボール」をお土産にどうだろうと尋ねたところ、文房具店で販売しているが、日本からわざわざ持参したといえば歓迎されるだろう、という回答だったので東京駅前オアゾ・丸善書店で買い、贈答用に包装してもらい持参しました。

 「フリクションボール」をご存じでしょうか。「消えるボールペン」のことです。昨年、パリで日本の消えるボールペンが話題なっていると聞きましたので、まだ新鮮だろうと考えてお土産にしようと思ったわけです。

 ドイツで訪問した企業の社長にお土産ですと言って差し出すますと、すぐに袋を開けて一言「中学生の娘が3・4年前から使っている」というではありませんか。

 ビックリし、それからいろいろドイツ人に聞いてみると全員が「子供が使っている」という回答です。日本に戻って大人の日本人に聞くと「フリクションボール」なぞは知らない、という方が多く、これはどうしてなのだろうかとパイロット社に問い合わせしてみると「2006年にヨーロッパで日本に先駆けて販売したところ大ヒットした」とのことで、その理由として「ヨーロッパでは義務教育では鉛筆使用が禁止で、万年筆かボールペンを使用させているのでヒットしたのだ」という回答です。
 
改めて仏独の義務教育の実態を調べてみると「しっかり明確に字を書くよう鉛筆使用が禁止」ということが分かりました。

 なるほどと思いましたが、今まで何回もヨーロッパに行き、小学校・中学校にも訪問しているのに、鉛筆使用禁止ということは把握していなかったわけで、随分知らないことが多いと反省しているところです。これはユーロ危機でも同様です。

ユーロ危機で分かったこと

 今回のユーロ危機で分かったことは、
 (1)ギリシャという国は特殊であること
 (2)戦後66年、EUの盟主はドイツになったこと
ではないかと思います。

(1)ギリシャという国は特殊であること 

ギリシャが特殊なことは、既にお伝えしておりますし、新聞紙上で毎日のように問題点が取り上げられていますので、十分ご存じだと思いますが、大事なことをひとつだけ述べれば「今のギリシャ人には古代ギリシャ人の血が一滴も流れていない」というドイツ人学者の見解です。(内山明子著 国立民族学博物館『季刊民族学』123号2008年新春号の『ギリシャ・ヨーロッパとバルカンの架け橋』)

 これが発表された時にはギリシャ国内に衝撃が走りましたが、実際にギリシャ各地を歩いてみた感じでは、古代ギリシャ人の血が入っていない、というのは事実ではないかと実感しています。 

つまり、カール・ヤスパース(独)が言う「人類の枢軸の時代」、紀元前500年頃を中心とする前後300年の幅をもつ時代を「枢軸時代」と称し、人類の歴史に多大な影響をもたらした大いなる賢人がずらりと出現し、中国では孔子と老子が生まれ、中国哲学のあらゆる方向が発生し、墨子や荘子や列子や、そのほか無数の人びとが思索し、インドではウパニシャット(宗教哲学書)が発生し、仏陀が生まれ、懐疑論、唯物論、詭弁術や虚無主義に至るまでのあらゆる哲学的可能性が展開されました。

イランではゾロアスターが善と悪との闘争という挑戦的な世界像を説き、パレスチナでは、エリアから、イザヤおよびエレミアをへて、第二イザヤに至る予言者たちが出現し、ギリシャでは、ホメロスや哲学者たちパルメニデス、ヘラクレイトス、プラトン、更に悲劇詩人たちや、トゥキュディデスおよびアルキメデスが現われたのです。

以上の賢人たちが、地域が異なりながら、どれもが相互に知り合うことなく、ほぼ同時的にこの数世紀間のうちに発生したわけで、この時代を「人類の枢軸の時代」というのですが、この栄光ある古代ギリシャ人と、今のギリシャ人は血でつながっていないということを知り、改めて、今回のユーロ危機発生がギリシャ国家の粉飾決算から始まったことと結び付けると「なるほど」と深く納得したわけです。

「ギリシャ人のまっかなホント」(アレキサンドラ・フィアダ)という1999年に出版されたコミカルな本があり、同書で「これだけは断言できる。EU定数にギリシャ人を巻き込んだシステムは、じきにギリシャ的になる」と、EU加盟国はいずれギリシャに感化されていい加減になっていくと”予言”していました。(2011年7月2日週刊ダイヤモンド 加藤出氏)

また、ユーロ発足時のブラックユーモア「THE PERFECT EUROPEAN SHOULD BE...」直訳すれば「あるべき完璧なヨーロッパ人とは……」となり、「こういう各国の人々が集まっているのだからEUの将来も万々歳だよね」という皮肉を述べていました。
DRIVING LIKE THE FRENCH
      (フランス人のように運転マナーがよく)
HUMOROUS AS A GERMAN
      (ドイツ人のようにユーモラスで)
CONTROLLED AS AN ITALIAN
      (イタリア人のように自制的で)
SOBER AS THE IRISH
      (アイルランド人のように酒嫌いで)
HUMBLE AS A SPANIARD
      (スペイン人のように謙虚で)
ORGANIZED AS A GREEK
      (ギリシャ人のように整理整頓好きで)
 ギリシャに対して、様々な忠告・提言が行われていますが、多分、その内容は実行されないと思います。

 2008年の金融危機を予測していたルービニNY大教授がが「ギリシャのユーロ離脱は時間の問題だろう」と語っていますが(日経新聞2011年11月18日)、これが当たる可能性は大であり、ギリシャは「元々ユーロを導入する資格がない国だ」と日経新聞の「大機小機」(2011年11月25日)でも述べているように、ギリシャは異質な国であり、ギリシャを除くユーロ加盟16カ国は、ギリシャ一国に翻弄され、それが他国に影響波及することは必至ですから、ギリシャ排除をするのではないでしょうか。

(2)戦後66年、EUの盟主はドイツになったこと

 ギリシャ問題から発生したユーロ危機で分かったもう一つの重要なことは、ドイツの強さです。今や各国首脳が毎日のようにドイツ・メルケル首相をベルリンに訪ねています。「メルケル詣で」という現象です。
 どうしてなのか。それは次表で明らかです。
各国財政実態表.JPG

 ヨーロッパ主要国との比較でドイツだけが経常収支が黒字なのです。ドイツ一人勝ちなのです。何故にドイツが経済的勝利を得たのか。
 現在、日本で激しい議論が交わされているTPP(環太平洋戦略的経済提携協定)問題にも通じますので、他国制度の実態状況を把握は大事ですので、次号で分析続けます。以上。

投稿者 Master : 06:02 | コメント (0)