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2008年09月29日

10月例会のご案内

経営ゼミナール2008年10月定例会(344回)ご案内

10月の例会は、10月20日(月)に、株式会社エコメイト代表取締役の福原美里氏をお招きいたします。

テーマ:「一点の青空・復活を信じて」

福原美里氏は満州からの引き上げを経験されていらっしゃいますが、1962年にご主人と会社を立ち上げられ36年間(株)光工業社を継続経営されてきました。
1989年に代表取締役に就任し、翌年社名を株式会社光に変更、その後営業権を(株)タニックスに譲渡するなどの経緯がございましたが、2000年に、ご自身単独で株式会社エコメイトと名前を変えられ営業活動を再開されました。その間には厳しい経営体験もされてきました。
ところが奇跡と思われる出来事などが起き、現在は4名体制で業務を推進し、ネット通販サイト「椅子道楽」やホームページの制作と管理並びにシステム構築も含めての受注活動をされています。「椅子道楽」の業績についてもアップしてきました。
10月は「一点の青空・復活を信じて」と題しまして、どのような奇跡が起こったのか、最近の株式会社エコメイトの経営の経緯と経営姿勢などについて、発表していただきます。
 
1.日時 2008年10月20日(月)
     18:00 集合(食事を用意しています)
     18:15 山本紀久雄代表の時流講話 
     20:30 終了予定
   
2.場所 東京銀行協会ビル内 銀行倶楽部 4階3号会議室
     千代田区丸の内1-3-1 Tel:03-5252-3791
     東京駅丸の内北口より徒歩5分(皇居和田倉門前)
     アクセス:http://www.kaikan.co.jp/bankersclub/access/access.htm
3.テーマと講師
  「一点の青空・復活を信じて」
    株式会社エコメイト 代表取締役
    福原 美里 氏
略歴
1933年 神奈川県藤沢市鵠沼海岸にて生まれる。
1934年 旧満州新京市に移住し、家族5人と共に10年余滞在。
    終戦のため1946年秋に引揚げ者として日本に帰国。
1946年 旧満州国 新京市八島小学校卒業。
1952年 青山学院女子高等部卒業。
1956年 青山学院大学文学部英米文学科卒業。
1957年 YWCA秘書科卒業。
1957年 米国貿易株式会社に入社、6年間貿易業務に従事。
1962年 夫、福原光雄と共に資本金30万円にて(株)光工業社を設立し、
    物品棚を主体とする施工を伴う販売活動を行う。
    業績の拡大に伴い、オフィス家具も含めての卸販売を首都圏を
    対象として36年間継続経営。
1989年 代表取締役に就任し、翌年社名を(株)光に改める。     
1998年 (株)光の営業権を(株)タニックスに譲渡し、2年間余休業。
    その間タニックスに在籍。
2000年 社名を(株)エコメイトと改め、12月より事業形態を直販とし、
    単独で事業を再開。 
営業内容はオフィス家具の販売及びホームページによる通販をもって現在に至るが、昨年より仲間が増え、ただ今は4名体制をもってホームページ制作と管理並びにシステム構築も含めての受注活動を行っている。

*会費  オブザーバー参加の方は、当日会費として1万円をご用意下さい。
*問い合わせ 
 出欠:編集工房 代表 田中達也
 (転居により、電話・FAX番号が変わりました)
 電 話:03-6806-6510
 FAX:03-5811-7357
※10月は金子が海外出張で留守になりますので、出欠以外のお問い合わせも田中までお願いします。

投稿者 lefthand : 17:59 | コメント (0)

11月例会の予定

11月の例会は、11月17日(月)に開催いたします。

講師には、麗澤大学済学部教授で元警察庁国際部長の大貫啓行氏をお招きいたします。

大貫啓行氏は昭和42年4月に警察庁に入庁し、内閣官房、外務、防衛などの各省庁へ出向経験をしながら、中国を主とした国際情報分析一筋のご経験をされてこられました。
長崎県警本部長時代は雲仙普賢岳噴火災害警備を指揮し、警察庁国際部長時代は阪神大震災やオウム真理教によるサリン事件も経験されています。
ご担当であった中国は無事北京オリンピックを終了しましたが、その後の中国の情勢には皆様の関心も高いことと思われます。

現在アメリカ発のサブプライム問題が世界を揺り動かしていますが、新興国を代表する中国の動向如何が世界の大問題となる可能性があります。中国のこれからの動きによって日本は大きな影響を受けることになります。

従って経営ゼミナールでは、9月の北川宏廸氏の発表におけるアメリカ金融問題に引き続き11月は中国問題について、大貫啓行氏をお迎えして皆様に忌憚のない内容を発表していただく予定でございます。
11月17日(月)の経営ゼミナールのご予定をよろしくお願いいたします。

投稿者 lefthand : 17:52 | コメント (0)

2008年09月24日

9月例会の感想

9月22日(月)、経営ゼミナール例会が執り行われました。

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今月は、経済アナリストの北川宏廸氏をお迎えして、今の世界経済の混迷の「カラクリ」を分かりやすく教えていただきました。

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北川氏のお話にはいくつかポイントがあったように思います。
ひとつは、サブプライム問題。
これは債権者が不良債権をかかえてしまったということで、その債権者は保険によって守られるシステムに、アメリカではなっているのだそうです。それよりも、このサブプライムというシステムは、アメリカの弱者救済のシステムであり、その基本思想を理解しないで、ただ大変だと騒ぐのは大いにお門違いである、ということなのです。

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今回の主題は、我が通貨「円」は世界経済の中でどのような役割を果たすべきか、ということでした。
その中で、大変興味深い定理を教えていただきました。
それは、「トリレンマの定理」です。

グローバル化した金融市場においては
【1】国内物価の安定(インフレの抑制)
【2】為替相場の安定
【3】自由な資本移動
これらの3つの政策目標を同時に達成することは不可能である。

このような大原則があり、すなわちこれらのどれかひとつの政策目標を犠牲にしなければならない、ということなのです。
ですから、政策において為替相場の安定を犠牲にしなければならないことは必至なのだそうです。グローバル経済の中で、為替相場のコントロールは不可能だということです。

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その他、リーマン・ブラザーズ、AIGの破綻の原因と破綻の構造の解説など、今回は盛りだくさんの内容で、とてもすべてのエピソードをご紹介することができないのが残念です。会員の方は是非、講演記録をご一読ください。

(田中達也・記)

投稿者 lefthand : 08:00 | コメント (0)

「『円通貨』はどこに行くべきか・・・経済アナリスト・北川宏廸氏」

経営ゼミナール ワンポイントレッスン 2008年9月22日
「『円通貨』はどこに行くべきか・・・経済アナリスト・北川宏廸氏」

今年の夏は猛暑で、9月に入っても暑さが続く中、米金融問題が連続発生しました。

9月7日 経営難に陥っていた住宅金融公社、ファニーメイとフレディマックの二社を政府の管理下に置く
と発表
  15日 米証券四位のリーマン・ブラザーズが破綻
     バンク・オブ・アメリカが米証券三位メルリリンチ買収で合意
 16日 米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を米政府とFRBが救済に踏み切

  17日 株式の空売り規制の強化を発表
  18日 日米欧の主要銀行と協調してドル資金供給で合意
  19日 米政府が不良債権の買い取りを含む総合的な金融安定化策に乗り出す

救済、破綻、そして救済・・・当局の方針は揺れ動き、世界各国の株価は乱高下し、これだけ立て続けて大問題危機が発生すると、一瞬、普通の会話が止まります。

「大丈夫なのか」という不安感が先立ち、この12日間日常会話がこれに振り回されました。

この漠然とした「不安」に対し、北川氏が冷静に解説してくれました。それは日本のバブル崩壊後との比較です。約100兆円といわれた日本の不良債権、その解決に10年を要しました。

今回の米国発の金融問題も約100兆円、それが明らかになってからまだ1年2ヶ月、しかし、米国当局の対応は凄まじい程のスピード感で処理対応策を図っています。

この速さ、それが7日からの12日間で現れたと理解すると、日本人の処理スピード感覚とのズレが、漠然とした「不安感」になっているのではないか、との指摘。

なるほどと思います。我々は問題に冷静に対処することは承知しています。だが、そこに異例の速さが加わった場合、平静さを保ちえるか。それと同じことが今回の米金融問題と感じます。まず、この点を理解したいと思います。

今回の問題の本質は、すでに多くのところで語られ、北川氏からも指摘がありました。問題の本質追及は勿論大事です。

しかし、それより今回の大問題が日本企業にどのように影響してくるのか。そこの方がより大事です。
これについても具体的な提案がありました。

結論的にいえば、強みのある分野の更なる強化と、コストダウンを更に進める、ということでした。

最後に、我々は米国の不動産関係の商習慣が日本と大きく異なる、ということを理解しないまま問題分析しています。彼我の国情把握が前提条件と痛感しました。以上

投稿者 Master : 05:09 | コメント (0)

2008年09月20日

2008年9月20日 文明と文化の衝突

文化×環境×経済 山本紀久雄
2008年9月20日 文明と文化の衝突

旧中山道の大ケヤキ

京浜東北線与野駅東口近く、旧中山道の交差点真ん中に、一本の大ケヤキがあります。江戸時代には、この大ケヤキ下に、関東六国の山々が見渡せるという「六国見」の立場茶屋があり、旅人が一休みする名所でした。今でも地元の人々、つまり、私を含む交差点を通る人たちは、この大ケヤキを誇りに思い、いつも敬愛の眼差しで見上げます。

また、大ケヤキの根元には、春夏秋冬、その季節の花が小奇麗に咲いていて、幹にリボンがかけられているようなイメージを与えています。さらに、この交差点では、ゴミがなく、タバコの吸殻もなく、清潔に路上が保たれていることも、大ケヤキ交差点の魅力となっています。誰かが花を咲かせ、道路を綺麗に掃除してくれているのです。

誰か。それは、交差点に面しているビル一階の床屋さんご夫婦です。このご夫婦が、樹齢数百年という大年寄りとなった大ケヤキを見守り、交差点の路上整備をいつもしてくれているのです。

先日、そのご夫婦から質問を受けました。「このケヤキは大丈夫でしょうか」と。質問の意味は「与野駅前再開発によって伐り倒されるのではないか」という心配で、市政に詳しい人を知っていたら聞いてほしいという依頼です。

駅前再開発 

早速、市関連福祉施設で評議委員会があった時、会長の大物市会議員に尋ねてみました。

確かに再開発計画はありました。というより、もうずいぶん前からの課題で、いろいろ問題があって今まで進んでいなかったものが、ようやく来年春を目途に再開発計画を作り、市民に提示されることになっているとのこと。

さて、心配の大ケヤキ、文化財的な意味合いがあるので残したいが、すでに幹の中は半分空洞化して、もう寿命も長くなく、何かのタイミングで倒れる危険もあるので、伐りたいとの意向です。

ただし、伐るにしても地元の人とジックリ相談したいので、大ケヤキ委員会を作り、多くの方の意見をお聞きし、なるべく遺伝子を遺すような文化的対応を図りたいということでした。

そこで早速、床屋さんご夫婦に報告したところ「そうですか。そうだろうなぁ。再開発だから仕方ないなぁ・・・。もう少しだからケヤキを大事にしてあげないと・・・」と、肩を落としながら、小さな声でつぶやくのが精一杯でした。

交差点を毎日通る一人としても、大ケヤキが消えるのは残念ですが、問題の多いままとなっている駅前が再開発され、整備されるという、いわばこの地区一帯の改革変化ということも大事です。

例えれば、駅前再開発は文明の潮流変化であり、大ケヤキは文明潮流によって変化させられていく文化遺産ということでしょうか。

米国金融の急変化
 
昨年8月のサブプライムローン問題表面化から一年、問題は落ち着くどころか、ますます混迷の事態となってきました。9月に入って20日までの動きを振り返ってみますと、米金融当局が経営難に陥った金融機関の処理に追われたことを示しています。

9月7日 経営難に陥っていた住宅金融公社、ファニーメイとフレディマックの二社を政府の管理下に置く
と発表
 15日 米証券四位のリーマン・ブラザーズが破綻
     バンク・オブ・アメリカが米証券三位メルリリンチ買収で合意
 16日 米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を米政府とFRBが救済に踏み切

 17日 株式の空売り規制の強化を発表
 18日 日米欧の主要銀行と協調してドル資金供給で合意
 19日 米政府が不良債権の買い取りを含む総合的な金融安定化策に乗り出す

救済、破綻、そして救済・・・当局の方針は揺れ動き、世界各国の株価は乱高下しました。

市場が米政府に対応を迫る21世紀型の危機管理です。

世界全体への影響  

このように米国の金融危機は、世界の経済に逆風を巻き起こします。

 「米金融危機による実体経済への悪影響は、まだ一、二合目にすぎない。米国の家計部門が過剰債務の圧縮に走るため、米経済は五年近くゼロ成長の低迷が続き、世界経済は2%程度の成長に鈍化する」(三菱UFJ証券・水野和夫氏)という見解もあり、2007年に5%近い成長だった世界経済が、一気に2%にダウンすれば、日本を含めてグローバル化した世界経済は大きく影響を受けることになります。
   
日本経済   

日本経済はご承知の通り、2002年2月から緩やかな景気回復過程に入って、2006年11月に60年代後半の戦後最長「いざなぎ景気(57カ月)」を超えた今回の「新いざなぎ景気」は、70カ月弱(約6年弱)続き、GDP成長率は2003年度から2006年度まで4年連続で2%台に乗せ、復調ぶりを示しました。

だが、昨秋「屈折」し景気停滞局面となり、2007年度は1.6%に減速、2008年度については、政府は1.3%と見込んでいますが、4月から6月期実績がマイナス0.6%となったので、さらに悪化する可能性がある、というのが一般的見通しです。

つまり、簡単に結論付けすれば、2000年ごろから続いた世界規模の高成長によって、日本経済も順調に伸びてきたものが、世界全体がおかしくなってきて、それと同じ傾向になったのです。

外需によって成長し、外需で低迷するのです。

文化潮流が変化しているのではないか  

外需によって日本経済が変動するということは、日本だけの現象でしょうか。そうではありません。これは世界中同様なのです。まさに世界の経済はグローバル化という一体化になっているのですが、かつてこのような事態は存在したことがあったでしょうか。これは、世界が初めて迎えた事態です。 

また、ついこの間まで「デカップリング論」がもてはやされていました。「デカップリング論」とは、米国経済が停滞しても、新興国経済が成長するので、世界全体は問題なく成長していくというもので、多くの識者が喧伝したものです。

しかし、米国経済がサブプライムローン問題で躓くと、あっという間に世界は同時停滞化に向かおうとしている実態、これは明らかに「デカップリング論」は時期尚早の議論だったということになります。

このように経済専門家の予測を超える何かのもの、それは過去と異なる新しいうねりであり、大きな流れであり、世界の文明潮流ともいえるものが、世界の底流にうごめき始めているような気がしてなりません。

日本独自の潮流

そこで、世界の文明潮流が脈動し始めている、という理解に立って、もう一度日本を見つめてみれば、そこに日本独自の大きな潮流変化が、事実として浮かび上がってきます。

それは人口です。人口推計が見直され、2050年の日本人口は約8900万人(低位推計)と予測され、これと同じ人口をたどってみれば1955年(昭和30年)であり、石原都知事の「太陽の季節」が大ベストセラーになった年、人口は8927万人でした。

つまり、戦後60年を経て2006年に12,700万人に増えた人口が、44年かけて約50年前の昔に戻っていくのです。回帰するとも言ってよいと思います。

明らかに、日本は高度成長や大阪万博、東京オリンピックに象徴される「躁の時代」を終え、バブル崩壊後10年の低迷期を経て、「欝の時代」文化になっていきます。

どう対応するか

このように、我々が今まで生活してきた文化スタイルは、外部要因としての文明潮流で変えさせられていく事態となっています。しかもその変化原点は長期潮流にあるのですから、対応策を簡略に組み立て、手軽に結論付けしてはいけないと思います。

中山道交差点に位置する江戸時代からの大ケヤキ問題は、文化を遺しながらその適切な対応策を地元民が考えることです。同様に、世界の文明潮流と日本独自の人口減によって生じる文化との衝突は、一人ひとりが責任もって考えるべきことです。以上。

投稿者 Master : 12:08 | コメント (0)

2008年09月05日

2008年9月5日 ネット化でヒトはバカになるのか?

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年9月5日 ネット化でヒトはバカになるのか?

太陽の塔

 大阪モノレールの万博記念公園駅を降り立つと、真夏の陽射しが強く、それが高さ65メートルの「太陽の塔」に当たり、照り返し、未だに1970年・昭和45年の熱気を感じさせます。当時の日本は高度経済成長の真っ直中にいました。まさに「躁の時代」のシンボルが大阪万博で、テーマは「人類の進歩と調和」、入場者数6400万人という博覧会史上最高の人数でした。
 それから35年後、2005年に開催された名古屋万博、こちらのテーマは「自然の叡智」、入場者数2200万人で大阪の約三分の一、明らかに低成長経済を示し、日本は「鬱の時代」に入っていることを証明する人数です。

国立民族学博物館

 万博記念公園駅を降り立ったのは、国立民族学博物館の図書館に行くためでした。8月初旬と中旬の二回訪れました。訪問目的は、現在取り掛かっている研究のためです。
 この図書館の蔵書は60万冊。文化人類学・民族学関係の資料を収集している図書館としては、日本最大規模を誇っていることもありますが、最も素晴らしいのは直接書庫に入ることができ、自ら書棚から書籍を取り出せ読めることです。
東京の国立国会図書館は、検索用端末で調べた書籍を閲覧請求するシステムで、書庫内には入れません。ところが、民族学博物館は自分で書棚から探せるのです。ということはテーマとキーワードで検索用端末から探す以外に、五層建てになっている書庫内を自由に歩き、関係すると思われる分野の書棚に行き、それを見つめているうちに、そこに新たなる資料発見があって、思わぬ収穫が期待できるのです。
 これをやりだすとその醍醐味に取り憑かれます。今まで想像もしていなかった資料に出合え、それを抱えて書庫内の片隅にある机で読み出すのですが、この繰り返しをしていると時間の経つのも忘れ、館内に響く終了時間のアナウンスでハッと気づくまで、濃密な時間を過ごせます。図書館を後にして、駅に向う緑多き万博公園内を歩いていくと、何か昔に戻った懐かしさに溢れ、豊かな気持ちになります。

現代人は何かを失っていないか

 多くの現代人は、何か分からないことがあるとパソコンで検索し、ネット情報を集め、さらに、そこから短くまとめてある一節を探しだし、ざっと走り読みするようになっているのではないでしょうか。ある人は、この状態をスタッカート(一音ずつ短く区切る奏法)といっています。当然、私もそうなっています。
 これに対し、インターネットが普及する前はどうだったのでしょうか。何かを調べるには図書館に通い、そこに所蔵されている本に没頭したり、保管されている長い記事に読みふけったりすることが一般的であったと思います。
 また当時は、テレビや新聞紙上で展開される長い議論にも、それほど抵抗なく一緒に議論できたのではないでしょうか。さらに、トルストイの「戦争と平和」を一心不乱に読んだように、長い文章を何時間も夢中になって目で追い続けたのではないでしょうか。

簡単に検索で知ることが出来る

 国立民族学博物館の図書館内には、ごく僅かの人だけが訪れてきます。ここに勤務している人よりずっと少ないのです。ですから、書庫内はいつも深閑としています。
 かつては図書館に何日も通って調べなければ分からなかったものが、今は簡単にネット検索によって、数分・数秒で必要な情報が入手できるのですから、調査で図書館に行く人は少ないのです。便利になったものです。分からないことはすぐに知ることが出来る素晴らしい時代になっています。
今や、ネットは「複合的メデイア」になっていて、目と耳を通じて意識に多くの情報を伝えてくれる媒体として有効で、膨大な情報が瞬時に手に入るメリットは多いと思います。グーグルやヤフーでちょっと検索をし、いくつかのリンクをクリックするだけで、必要な情報や、使える引用句を見つけ出せることが出来ます。
さらに、メールマガジンを読み、ブログの投稿をチェックして、リンクからリンクへと簡単な旅が出来、その楽しみは大変なものです。

人間の脳は可塑性があるから危険性が高い

 しかし、この結果は人に何をもたらしていくのか、何かの危険を最近感じています。
 例えば、仕事関係者に懸案事項を調べるよう依頼した場合、ネットで検索し見つからないと「調べた結果わかりませんでした」と答えることが当然化し、それで業務責任を免れることかできると思っている事例が、多々発生しています。
 これは、ネット検索以外に調べる術を失っていることを証明しているもので、人間が持つ本来思考力が、ネットによって侵食され始めているのではないかと怖れています。
 私の師、故城野宏が「脳力開発」を提唱した当初は、脳の神経細胞は140億個といわれていました。今はそれが1000億個を超えるといわれています。また、脳細胞のシナプス結びつきパターンは、成人するころにはほぼ固まっていると考えられていましたが、脳の研究が進んで、常に可塑性、つまり、大人の脳でも変化していくことが分かってきました。ということは、脳は常に古いつながりを破壊しては、新しいつながりを形作っていることになりますので、ネットの普及と活用は、ネット用の脳に作り変えている可能性が高いのです。
 ですから、ネット検索結果のみで「調査終了」という指令が、脳回路に新たに組み込まれてしまう結果になるのです。

クジラたちが船に激突死

 世界各地でクジラが船舶と衝突して、死んでいく事例が多くなっています。
 フランスの生物学者が、貨物船と衝突した二頭のマッコウクジラを調べたところ、敏感なはずの聴覚機能が著しく損傷していたと発表し、それは、おそらくスクリューが水をかき回す音に常にさらされていたせいだろう、と生物学者は推測しています。
 海洋生物学者の間では、高性能の軍事用ソナー(音波探知機)が海洋生物に致命的な影響を与えていることが知られています。海軍が低・中周波ソナーを使うことで、クジラやイルカが音響に混乱して浜に打ち上げられ、死んでいくという事態が頻発し、ソナー使用の論争が激しく繰り広げられているのです。
 また、エンジンやボイラーの音などによって、海は40年前に比べて10倍ほどもうるさくなっていることが分かってきました。
 勿論、自然界にも、もともと騒音は存在しているのですが、それらと音の種類が違うので、クジラたちは今まで経験したことのない騒音によって、脳の探知力が衰えていくと考えられるのです。つまり、クジラたちの脳も可塑性があるからこそ、聴覚脳が組み替えられ、結果として船舶に激突する危険性が高くなっているのです。

パンケーキになるな!!

 国立民族学博物館の図書館からの帰りに、何か昔に戻った懐かしさに溢れ、豊かな気持ちになったのは、久し振りにネットから離れ、集中して活字の海に潜れたからではないかと思っています。
 仕事柄、本を読む機会は多いのですが、知らず識らずにネットの持つ便利性と速さに満足し、そこに表現されている文脈と、内容の真偽妥当性を十分検討しないまま受け入れてしまうという、知識の単純処理業務をくり返している日常となっているのです。
本来、集中して読み込むということは、著者が持つ知識を集めることでなく、著者が発する文字による言葉が、こちらの意識に知的な共振を生じさせ、自分の中に連想と独自性の考えを浮かばせ、結果的に豊かな思考力を養わせるものではないでしょうか。
 ニューヨークのアンダーグランド演劇界で活躍しているリチャード・フォアマンは、「膨大な情報に接するようになって、薄く拡がっていくパンケーキ人間になる危険を冒している」と警鐘を発しています。
 その通りと感じます。ネットが、我々を助けてくれ助長する読み方、それは「効率性」と「即時性」を強化してくれるものであって、我々が昔に獲得していた「思考に結びつく読み方技術」を失う結果を生じさせる、という危険があるように感じています。
 そのような気づきを、真夏の国立民族学博物館図書館の静寂が教えてくれました。
                              以上。

投稿者 lefthand : 08:33 | コメント (0)