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2012年02月21日

2012年2月20日 台湾総統選挙から日本を考える・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年2月20日 台湾総統選挙から日本を考える・・・その二

派手な選挙戦だったが争点は単純

今回の訪問で、台南の民進党の蔡英文候補陣営事務所に訪問してみました。事務所内には大きいポスターが一面に張られ、当然ですが留守番担当女性しか残さず、街中を選挙カーが10台以上連ねて連呼している姿を見ると、一見激しい派手な選挙であったことは認めます。

しかし、両者の主張は「対中国スタンスは大事にする」という点でお互い同じであって、差は「中国との関係構築づくりでどちらがより有利か」という視点、それは「経済的にどちらの方が今の台湾にとって有利か」に言いかえられますが、あくまでも経済面からの対決だけだったように思えるのです。

つまり、二候補主張の違いは「中国との立ち位置の差」なのです。かつての「大陸と統一か」「大陸から独立か」という二者択一をめぐった激しい舌戦とは異なっていました。それは行政院が2011年11月に実施した意識調査結果を、二候補が尊重して選挙に臨んでいるからです。

調査結果では「統一・独立」問題について、「現状維持」を望む層が86.6%もいるのです。大陸との関係で、今の状況を変化させたくないというのが圧倒的世論なのです。

たとえ話

大陸との関係を台湾20歳代女性に、大陸を剛健な男性になぞらえて展開してみます。

●「台湾ちゃん」・・・「確かに彼は(大陸)は、体が大きくて強い(人口・国土面積・資源力)が、まだまだお金持ちじゃないわね(一人当たりGNP)。それと荒っぽいでしょう(軍事力シャカリキ増強・南シナ海での行動)。相手にもっと優しくしないともてないわね」

●「大陸中国君」・・・「最近魅力的になったなぁ台湾ちゃん(大陸に進出企業)は、お金(経済力)と、おしゃれ感(技術力)もあるので大歓迎だよ。長いこと別居していた香港と、よりを戻して結婚(1997年香港が大陸に返還)してみたが、あいつらはインターナショナルな金持ち(国際金融市場保有)で、美人で高慢ちき(英国仕込み)だから、そろそろ新しい愛人(台湾)が欲しいなぁとずっと思っているよ」

●「台湾ちゃん」・・・「正妻のほかに愛人が欲しいなんて失礼だわ。私のお金と(経済力)とインテリ度(ハイテク産業力)の魅力に憧れるのは分かるけど、一度愛人になってしまうと大陸得意の虐待(税などで収奪)が始まるので、いくらうまい話をしてもうかうかのれないわ」

●「大陸中国君」・・・「そんなこと言っても、国連が台湾ちゃんは俺のものだと言っているぞ。早く来ないと一生男と縁がなくなるぞ」

●「台湾ちゃん」・・・「そんなことは分かっていわ。国連の意見は分かるけど、簡単に結論(統一か独立)は出せられないわ。だって今はお金があるし、世界中へ旅行出来るし、アメリカや日本と親友だし、とにかく快適な生活しているのよ。しばらく今のままでいいと思っているの」

●「大陸中国君」・・・「じぁ、まぁこちらもいろいろ問題(チベット等)を抱えているので、ジックリ長期戦で待つことにするか。その間にこっちはもっとよくなるから、その時台湾ちゃんにもてるような条件を出すので、いずれ愛人になること約束しようよ」

●「台湾ちゃん」・・・「そこが大陸君の欠点なのよ。すぐに結論を出そうとするから近隣(周辺国)から嫌われるのよ。私の今の気持ちを黙ってやさしく見守ること出来ないの」

●「大陸中国君」・・・「こっちも今年の11月には親父が代わる(主席交代)から、それまではお互い喧嘩しないでいくしかないなぁ。ただし、代わった親父(習近平)の考え方いかんでは、ちょっと乱暴になるかもよ」

●「台湾ちゃん」・・・「よくおぼえておいて。私の気持ちは当分今のままが良いの。そっとしておいてよ」

この「台湾ちゃん」の気持ちが台湾経済界の発言です。選挙前、創業者が急進的な台湾独立の主張で知られる、台湾化学大手「奇美実業」の寥錦祥董事長が「中国との安定した関係の発展は今後も続けるべきだ」と発言し、国民党支持を表明しました。今までの考え方を変えたのです。また、その他の大手有力企業の多くも、馬英九総統支持を明確にしました。民進党の蔡英文候補では、対中国関係が経済面で一抹の懸念が残ると考えているからです。

これは今まで企業が政治的発言を慎んできた台湾では見られなかった現象であり、ここに今の台湾人の気持ちが顕れています。

今や台湾人は、昔の「外省人⇒1945年以降に台湾に渡って来た漢族系の人=大陸との統一派=国民党」と、「本省人⇒1945年以前に台湾に来ていて台湾語を話す人=大陸からの独立派=民進党」という対立図式は、表面上時代遅れの感覚になりつつあると感じます。

フォルモサを考える時が来ているのではないか

しかしながら、台湾の国民生活にとって経済だけでよいのか、もっと大事なものがあるのではないかと強く感じます。そのことをついたのが日経新聞の特集「台湾の選択」(2012年1月16日から18日)でした。

この中での最後の結論見解で負けた民進党に対し「国民党よりも魅力的な政策を打ち出すしかない」と結んで、後は経済政策ではなく、他の面での魅力的な政策主張が必要だといっているのです。その通りと思います。

今回、高雄の国立中山大学 に行きました。台湾高速新幹線の高尾駅から、タクシーで大学構内の研究所建物前に行きますと、女性教授が階段を身軽に笑顔で降りてきました。とてもフレンドリーで、こちらの大型旅行バック見ると、今日宿泊する大学内のゲストハウスホテルへ、生徒に運ばせると非常に分かりやすい英語で語ってくれます。

研究室でもいろいろ親切に説明してくれ、資料も提供してくれ、昼食もゲストハウスでご馳走になり、ここでも「親日」を強く感じました。

夕食は町に出て、中華レストランで教授を招待したいと伝えると素直に頷き、楽しい会話を続けましたが、途中で当方から「台湾はフォルモサFormosaという 麗しの島」と称されるべき島ですね、と話題を提供すると、一瞬、顔が曇り、眉間に皺を寄せました。

実は、その表情変化の背景には、教授の専門が存在しているのです。

教授の専門は台湾近海に生育している「イボニシ(疣辛螺・疣螺) Thais clavigera」 の研究です。イボニシとは、腹足綱 アッキガイ科 に分類される肉食性の巻貝の一種。極東アジアから東南アジアの一部まで分布し、潮間帯の岩礁に最も普通に見られる貝の一つであって、他の貝類を食べるため養殖業にとっては害貝であるが、磯で大量に採取し易いために食用にされたり、鰓下腺(パープル腺)からの分泌液が貝紫染めに利用されたりしています。

ところが、環境ホルモンの影響によって、生物の生殖システムに与える危害は大きく、種の生存に大きな脅威となっていて、その証明としてイボニシの性別が乱れているらしく、その研究を手伝った助手、6か月の赤ちゃんがいる女性ですが、あまり海のものは食べないようにしていると発言しましたように、近海環境に懸念が残ります。

そういえば、高雄郊外の川辺を通った際、すごい数の煙突地区があり、あれは何かとドライバーに聞くと、製油所だという答えでしたが、空気が悪く窓は開けられなく、公害問題がまだ十分に改善していないというのが実態だと思います。

台湾人にとって魅力的な政策とは

教授とお酒を飲みながらレストランで一緒に食事し、胸襟を開いて話し合ってみると、ようやく台湾の位置づけが分かって来ました。

かつてフォルモサ・麗しの島と称されるべき台湾が、現在は経済優先・成長のために開発島にしてしまって、かつての公害日本と同じ道を辿っていると分かりました。

日経新聞の特集が示した結論見解「魅力的な政策」とは何か。それは、この教授が「これでよいのか」と、眉間に皺がよった問題ではないかと思います。つまり、それはフォルモサ・麗しの島に戻ることではないかと推察したいのです。

経済での豊かさ追求は必要でしょう。しかし、それを求めるあまり、海に囲まれた台湾が、肝心の海を汚して国民生活を脅かしてはいけないのではないかと思います。

しかし、3:11の福島原発で海洋投棄をした日本としては、大きな声では言えないのですが、敢えて述べれば、台湾の人々が、現在の経済重点思考を持ちながらも、自然環境も視野に入れた快適な生活島としてのフォルモサに戻る方向へ、ギアチェンジが必要なタイミングが来ているような気がしてならない。それが今回の台湾訪問の感想でした。

この課題は日本にもそのまま当てはまる

台湾の未来アイデンティティー検討と同じことは日本にもそのまま当てはまります。

日本は人口減を迎えて、いずれは1億人を切る人口数となりますが、その時の姿は今の経済構造社会では成り立ちえないでしょう。

日本人は新しいアイデンティティーを創造する必要があり、それを世論として構築していくことが必要です。

映画「山本五十六」は、マスコミに煽られ世論を間違えた事実を我々に伝えています。同じ過ちはしたくありません。

他国の選挙から自国の課題も考える習慣を身につけたいと台湾を事例にお伝えしました。以上。

投稿者 Master : 06:48 | コメント (0)