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2007年11月25日

「私の事業継承」

経営ゼミナール ワンポイントレッスン 2007年11月19日
「私の事業継承」
株式会社東邦地形社 会長 山本浩二氏

 東邦地形社の山本浩二会長のご発表が終わって、ご参加者の感想は、皆さん「勉強になった」の一言で示されたように、貴重な事例のお話でした。
 といいますのも、このような社長の後継者を探し決めるということ、それはどの企業にとっても最重要事項であり、その結果で企業の将来が決まるものです。だが、その後継者決定のプロセスをなかなか明らかに出来ない、つまり、もろもろの条件が重なり合い、複雑化するので、このようなテーマでの勉強会は少ないのが実態です。しかし、経営者にとってはもっとも大事なテーマですから最大の関心事でもあるのです。


 山本会長から、昨年、社長を社内から選任されたプロセスについて詳しくご説明いただきました。実は、この決意は数年前から検討されおり、静かに諸要件を研究した結果、その実行を2006年にされ、その結果がある程度明確になった時点で、これは新社長になってからの経営実績が数字として把握できる、というタイミングでのご発表でした。結果はベストでした。新社長は期待通りの活躍を示し、測量事業という性格上、公共事業が減る状況下で苦しい業界の中にあって、立派な業績をつくったのです。期待以上とも発言されました。任された新社長は、その信認に答えたのです。
 
経営者は企業の発展を考えるのが最大の業務ですから、当然に後継者について常に関心を持って考えています。その考える方向性は
1.最後まで自分が社長を続ける。
2.家族に継承する。
3.社内から後継者を選定する。
4.外部から選任する。
になると思いますが、中小企業の事例を見ますと、多くは家族への継承が行われています。上田先生から「興銀時代に中小企業の後継者問題で多くの事例を見てきたが、山本会長の決断は新鮮な驚きである」との発言がありました。この発言がなされた背景には、後継者を社内から選任するということの前提条件として、常日頃の経営に様々な工夫がなされていることを指摘しているのです。例えば「経理の完全オープン化」などですが、これによって企業実態を全員が共有できるシステムになっているので、社内幹部が後継者志願をし易いという、社内雰囲気良循環を発生させていること、このような日ごろの積み重ねが、今回の成功決断の背景に存在していると考えます。
いずれ、新規事業の展開も含め、山本会長には再度ご登場いただきたいと考えておりますので、またその際は新しい驚きを体験したいと思います。
東邦地形社の経営システムは時代が向かう新しい姿のひとつを示しています。
以上

投稿者 Kzemi : 11:42 | コメント (0)

2007年11月23日

2008年1月例会の予定

 1月の例会は、1月21日(月)に開催いたします。
経営ゼミナール代表の山本紀久雄より、年の初めのご挨拶と発表をいたします。

サブプライムローンの問題の発生により、世界経済は不透明になっておりますが、
その世界経済を回復させるにはBRICsと中新興国の力によるものと予測しております。
 2007年に山本紀久雄が訪問したBRICsのブラジル、ロシア、インド(中国は未訪問)とベトナムについて、現地調査内容に基づき、各国の状況とそれらの国々が世界経済に与えていく影響と今後の方向性につきまして、予測をしてまいります。
2008年はどのような展開になっていくのか、来年度の経営予測のお役にたちますので、ぜひ、1月の経営ゼミナールに参加のご予定をお願いいたします。


経営ゼミナール・1月の例会のご案内

1.日時 平成20年1月21日(月)
6時集合(食事を用意しています)
6時15分より山本紀久雄代表の時流講話 
経営ゼミナ-ルは6時半開始8時半終了予定

2.場所 東京銀行協会ビル内 銀行倶楽部 4階3号会議室
千代田区丸の内1-3-1 Tel:03-5252-3791
東京駅丸の内北口より徒歩5分(皇居和田倉門前)
アクセス:http://www.kaikan.co.jp/bankersclub/access/access.htm
* 会費:オブザーバー参加の方は、当日会費として1万円をご用意下さい。

3.テーマと講師
   「年の初めのご挨拶と発表」
経営ゼミナール
代表 山本 紀久雄

1月21日(月)開催の例会に、多くの皆様のご参加をお待ち申し上げます。

投稿者 Kzemi : 15:52 | コメント (0)

2007年11月21日

2007年11月20日 すべてに戦略が優先する

環境×文化×経済 山本紀久雄

2007年11月20日 すべてに戦略が優先する

アジア王者

サッカーのアジアのクラブ王者を決めるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)は、14日に決勝を行い浦和レッズがセパハン(イラン)を2-0で下し初優勝しました。

この日の埼玉スタジアムは59,000人が入って、全体が赤で埋まり、そこに星印の人文字が一段と鮮やかでした。

スタジアムに行けなかった、さいたま市浦和区民の多くはテレビに釘付け、永井選手が思い切り打ったシュートが先制点となって、さらに追加点を加え終了すると「ウィーアーレッズ」の歓声があちこちの街角で爆発しました。早速、伊勢丹や10月オープンしたばかりの浦和パルコなどが「浦和レッズおめでとうセール」を実施し、そこに人が集まって、NHKテレビがニュース報道するほどです。

もともと浦和レッズは、熱心なファンとその人数の多さ、収入も大きく、以前から黒字で、立派なクラブ経営をしていました。しかし、かつては実力なき人気先行で、
2003年にはJリーグ最下位になり、J2に陥落したときは終わりかと思いましたが、よく復活し、今年のJリーグ優勝も目前です。

何故に、このように強くなったのか。それにはいろいろ要因が重なっていますが、それをひとつに絞って理由を挙げれば「戦略思考」です。野望ともいえる「アジアから世界へ」という目標を掲げたことです。世界の一流クラブのACミランなどと戦い、それに勝って、世界の王者になる。それが浦和レッズの戦略なのです。この野望「戦略思考」を持ったこと、それが今回のアジアチャンピオンを獲得させたと思います。


橋本高知県知事

NHKから地縁のない高知県知事に転じ、地方自治に新風を吹き込んだ橋本大二郎知事が今期限りで引退します。

その橋本知事に県議会の決議が大変なことを突きつけました。それは「今期分の退職金(約2700万円)返上を求める決議」を賛成多数で可決したのです。

決議に強制力がないため、知事は受け取る意向を示していますが、どうしてこのように知事の仕事を全面拒否する姿勢を、県議会は示したのでしょうか。

11月15日に行われた守屋武昌防衛省前事務次官に対する、参議院外交防衛委員会における証人喚問では、本人から「退職金は返納する」と明言発言がありましたが、これは過去8年間にゴルフ接待が300回以上、1500万円以上という明白な倫理規定違反であり当然です。

だが、橋本知事はこのようなスキャンダルはありません。かえって4期在任中に打ち出した斬新な施策は多いのです。例えば、官官接待の全国初の廃止、職員の勤務年数などを基準に上の階級の給与を支給する「わたり給与」の廃止、個人・法人から一律

500円を徴収し森林整備に当てた森林環境税を全国初の導入、同時に情報公開も進め、従来からのしがらみを断ち切り、さまざまな業界団体の圧力・要求をはねつけるなど、評価する県民も多いのです。

では、何故に、議会から退職金返上を求められる決議を受ける結果になったのでしょうか。それは「高知県経済の低迷」の一言に絞られます。県経済は「足踏み状態が続き、よいところがみつからない」(四国銀行・青木頭取)という見解が示すように、確かに各経済データでも全国最下位に近い実績で、議会は知事の経済政策の妥当性に疑問を呈したのです。では、どうして、4期にわたった県知事時代に経済が浮上しなかったのか。

勿論、高知県が持つ構造問題もあるでしょうが、県幹部が「知事の経済政策には戦略がなかった。悪く言えば行き当たりばったりだった」という指摘、これが重要です。

橋本知事が16年間、改革派知事の先駆けとして、一生懸命に仕事をした。新しいことも多々取り入れた。だが、経済政策行動に一貫性が欠け、県民の生活基盤である経済が不振で、「橋本知事では経済再建は期待できない」という評価になって、退職金返上議決となったのです。厳しいものです。

もし仮に、16年前の就任時に、経済を中心においた適切な戦略を構築し、それを議会に提案し、了解を得て進めていたならば、たとえ、現在と同じ経済実態であったとしても、退職金返上決議という結果とはならなかったでしょう。

物事を進めるに当たっては、最初に戦略構築を図ることが必要で不可欠です。


スーパーオオゼキ

 先日訪問したスーパーのオオゼキ、その好業績にはビックリしました。多分、このオオゼキという名前、東証二部上場企業ですが、殆どの方が知らないと思います。新聞雑誌に一切記事が出ません。しかし、業界では知られた優良企業として著名です。

経営実績は18期連続増収増益で、平成19年2月期の売上高626億円(前年比

12.2%増)、経常利益46億円(前年比10.8%増、売上高比7.4%)、純利益27億円(前年比13.6%増、売上高比4.4%)という見事さです。

店の数は29店舗。出展地域は世田谷区、大田区、目黒区、品川区に限って、方針は①個店主義、②お客様第一主義、③地域密着主義の三つです。

 好実績を支えている実態は、食品スーパー業界の各指標から証明できます。 

1.経常利益率は業界トップ。

2.生産性が抜群で1平方メートル当たり売上高はトップ。

3.従業員一人当たり売上高は2位。

4.在庫回転率はトップ。

5.売上高販管費比率は3位という低さ。

6.総資産利益率(ROA)は第2位。

 店舗運営について補足します。

   1.開店時間は10時、閉店時間は21時ですが、お客さんが来れば開けるし、いれば閉めない。

   2.正社員比率は70%。 

   3.各店は独立採算。店頭価格設定は各店舗に任されている。

   4.本社要員は僅か10名で、年間150人の採用を行っている

   5.業界初のキャッシュバック式ポイントカード発行、現在70万枚。

   6.休日は元旦と2日のみ。

 実際の店頭で、いろいろ説明を受けている間に分かったことは、ここは「個店主義」と「お客様第一主義」を本当に貫いているということです。

食品スーパーに来るお客さんは何を求めるか。それは時折スーパーに買い物に行く、自らの経験で分かりますが、食品の鮮度であり安全です。

 一般的に、大型スーパーでは、本部が一括大量仕入れし、流通センターから各店に配送され、その時は価格が決まっています。つまり、仕入れと価格設定は本部の仕事であり、流通センター経由ですから、そこに時間がどうしてもかかります。

 ところが、オオゼキは違います。29店にそれぞれ仕入れ担当者がいて、毎日、築地と大田市場に行くのです。その日に仕入れたものを、その日に販売するシステムです。 一見、無駄なことのようです。29店分をまとめて仕入れした方が、人手もかからず、仕入れ値も安いと思いますが、そうしていないのです。ということは、その店ごとに、その日に仕入れた魚や野菜が店頭に並ぶのですから、当然ながら鮮度が違います。それが魅力で、その事実を分かっている人によって集客が図られ、結果として生産性が上がって、経営は好実績となるのです。つまり、「個店主義」の展開と、鮮度を求める「お客様第一主義」を追及するという「戦略方針」の徹底実行が、オオゼキの結果を示しているのです。一度、買い物されながら、実態見学されると勉強になると思います。

時代は不透明だから戦略が優先する

サブプライムローン問題、半年前までは、例え問題が発生しても、金額的に見てたいしたことなく、リスクは限定的で、全体の中でコントロールできるものであるといわれていました。ところが8月9日の問題発生から、一転してアメリカだけでなく日本も含めた国際金融市場は大荒れです。リスクを広く薄く分散させる金融新技術が、結果的にリスクがどれほどのリスクであるのかがよく分からない、という恐ろしい結果なのです。

正に時代は不透明で、巨大なヌエです。こういう時代に何がもっとも大事で重要か。それは自ら向う方向性の確かさで、戦略がすべてに優先するという思考です。以上。

投稿者 staff : 18:39 | コメント (0)

2007年11月18日

2008年正会員募集のご案内

謹啓
 
 今年も残すところわずかとなりましたが、皆様におかれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます。
当経営ゼミナールは、皆様のお蔭を持ちまして開催回数が、来年1月で336回を迎えることとなりました。これも偏にご参加の皆様方のご支援、ご鞭撻によるものと、謹んで御礼申し上げます。
 以下に、2008年の経営ゼミナールの企画方向性をご案内申し上げますので、ご検討いだきまして、来年の正会員にお申し込み賜りたくご案内方々お願い申し上げます。

時代は難しいが、つかまねばならない
 昨年当初は、新しく発足した安倍政権が「安倍首相が小泉政権を引き継ぎ、社会システムの諸問題解決」を行うため、「経済の風景」「社会の風景」変化を起そうとし、そのために様々な改革を実行していくものと予測いたしました。
 しかし、安倍政権がわずか1年という結果を誰が予想できたのでしょうか。
次に誕生した福田政権、参院選の大敗から生じた「ねじれ国会」は、厳しい政権運営となっており、福田首相自ら「背水の陣内閣」と称していますように、今後の舵取りによっては、大変な時代になることも予測されます。

一方、日本経済を日本市場のみから検討していては、完全に事態を誤ることが改めて明確になりました。突如発生したサブプライムローン問題、これは欧州を含め世界に大影響を与え、日本経済にも大きな重しとなって、各指標に表れてまいりましたが、この事態を誰が的確に予測していたでしょうか。著名な経済学者、アナリストの殆どがサブプライムローン問題を過小評価していたのですが、結果は今でも問題が続いております。
時代の方向性をつかむことの難しさを感じます。

しかしながら、難しい経済状況ではありますが、何らかの指針を持って進まないことには、実際の経営は進められません。また、時代の進展は予測を超える場合があるとしても、我々は常に明日以降を推測し、それに基づく対応を図っていかねばなりません。
そのためにも、先進国が低成長化の中、世界経済を引っ張っていくBRICsと新興国について常に関心を持つ必要があります。
そこで、新年のゼミナールは、代表の山本紀久雄が、今年訪問し実態調査してまいりましたブラジル、ロシア、インドとベトナムの状況につきご報告し、併せて2008年の方向性につきまして予測いたします。


ゼミナール展開三つの方向性
この時代変化に対応していくため、「経営を現場から考察する」という考えの下、経営ゼミナールの2008年度は、以下の三つの方向性で推進してまいりたいと存じます。

1.社会変化の兆しをつかむ 
世の中がどのようなに変化しているのか、その把握のために有効なのは、最先端での変化、兆しの現場を視察し、その眼で改めて自社を見つめ直す現場視察を進めます。

①「海から広がる日本の未来」
日本は、海に囲まれた国でありますが、長い間の鎖国という環境から思考が内陸的であります。しかし今の日本に残された資源は海ではないでしょうか。日本全国の海が整備され、開発していく先に広がる未来を探しに行きます。
日本全国の港にヨットハーバーが整備されると、フランスのようにバカンスをヨットで全国各地を回る、つまり、オートキャンプの海ヨット版が生まれ、新しいバカンススタイルが広まり、新規需要創造を期待できます。その現状をヨットハーバーが整備された千葉県保田港で確認いたします。

②「キッズビジネスタウン市川」視察
「キッズビジネスタウン市川」は、小学6年生以下の児童、幼児が市民となり、皆で働き、学び、遊ぶことで、共に協力しながら街を運営し、流通や社会のしくみを学び、働く楽しさ、相手を思いやる気持ちを学ぶ教育的行事です。このキッズタウンが子どもたちの人気となっています。千葉商科大学が生涯キャリア教育の一環としてとりくむ、「キッズビジネスタウン市川」で、子供たちの学びの新しい兆しを視察いたします。この他にも、時代の兆しを感じられる現場を訪問視察いたします。

2.世界から日本を見る 
昨年に引き続き、世界から日本を見てまいります。
 マイケル・ムーア監督の最新の映画「シッコ」が話題になっています。アメリカ人の患者をキューバに密入国させ、キューバにて無料で治療をしてもらうという映画ですが、今キューバは、WHOも太鼓判を押す医療大国であるのです。
その上、ソ連の崩壊とアメリカの経済封鎖という、ダブルパンチの危機的状況下で、農薬も化学肥料もなしで、首都を耕し、結果として200万首都において、有機農業で野菜を完全自給することに成功している国であるということをご存知でしょうか。
このキューバについて専門家をお迎えしてお話をお聞きします。
また、2007年にお呼びしたアジアに詳しい増田辰弘氏の発表も予定しております。

3.時代の動向分析
時代の動向分析として、2008年も様々な分野の専門家や実務家、経営者の方に登場していただく予定でございます。
また、代表の山本紀久雄が2,008年に訪問する世界各国の実態と、そこが世界経済に与える影響などを、毎月の時流講話とYAMAMOTOレターでご報告いたします。

2008年度も経営ゼミナールは、皆様の経営の現場に役立つ場として活動してまいりますので、今年も正会員へのお申し込みをしていただきますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。


正会員のお申し込みはこちらからお願いいたします。

投稿者 Kzemi : 13:08 | コメント (0)

2007年11月05日

2007年11月5日 そう単純でない

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年11月5日 そう単純でない


BRICsとブラジル人

BRICsのブラジルは日本から遠い。成田からNY経由の直行便利用で24時間、ようやくサン・パウロのグアルーリョス国際空港に到着しました。空港から市内中心部に向かう道路は四車線の広さですが、一日中渋滞していて、経済実態が順調なことを、車の増加による渋滞が示しています。

ブラジル経済成長率は1995年が2.9%、06年が3.7%、07年1月から6月は4.9%、年々成長率が増えてきて、以前は資源輸出中心でしたが、07年1月から6月の家計支出は5.9%増、民間建設は4.3%増となっているように内需中心に成長しています。このようにBRICsのブラジル・ロシア・インド・中国の成長が、先進国が成長鈍化しつつある世界経済を引っ張っていることは、よく知られています。

そこで、その事実を確認してみようと、ブラジルでお会いした多くの人にBRICsについて話題を向けてみたが、思わぬ答えが帰ってきて驚くばかりでした。

まず、BRICsという言葉、それを全く知らない。こちらが解説しても、眼は疑いを持って納得しない顔つきを示す。そこで、ブラジル地理統計院発表の経済データを示すと、今度は「そのようなことはテレビで発表されていない」「政府が知らせないようにしているのではないか」というような疑問系で反論してきます。

では、海外からブラジルはどのようなイメージで受け止められているのか、という質問をすると「余りよいイメージはないだろう」「治安が悪く、貧しさが目立ち、文化面が遅れている」という答えに、今度はこちらが唖然とするばかりでした。

この体験をサン・パウロの日系企業幹部に話してみますと「その通りだ。殆どBRICsということを知らない」との回答でしたから、まず、ブラジル国民は全く認識していないといってもよいと思います。

日本では、毎日のようにBRICsが話題となって、関連するデータや資料が多く出回っていますが、当事者のブラジル人は無関心ですから、現地でBRICsと関連づけようと一般の人々に聞いても、世界が認めているBRICsブラジルの背景要因を、「そう単純」に現地でつかめません。


現代美術とヘリコプター

MASPサン・パウロ美術館には、中世以降の世界の作品絵画約1000点の名画が並んでいます。ここの建物は特徴があって、四ヶ所の角柱でしか建物を支えていない構造となっています。したがって、一階は外と連動した吹き抜け。二階からの展示場も柱なしの美術館で民営です。

ここで展示されている現代美術作品を見ましたが、作品の意味背景が分からない。そこで学芸員のパウロ・ポルテラさん、小柄なイタリア系の親切な人ですが、ガイドブックを持ってきて説明してくれました。

例えば、黒色の四角が九つランダムに壁に貼られている作品、これは上空からビルを撮影すると、屋上は四角形で建築されていることが多いので、その四角をヒントにしたものであり、現代美術のアイディアの基は現代の実態にあることを示している。これがパウロ・ポルテラさんのガイドブックを見ながらの説明でした。

なるほどと思いつつも、サン・パウロの実態を知ってみると、作者はもっと違った風刺的要素で創作しているのではないか。サン・パウロのもつ現代矛盾を表しているのではないか、「そう単純」な思考から作品を創作していないと推測しました。

現在、サン・パウロの自家用ヘリコプター機数は世界一で、その利用者は富豪者であり、用途は日常の移動手段という実態です。

ブラジルは、約500の家族が、一年に生産される国富の5分の2を蓄財し、残りを1億8000万人が分け合っている、と言われている格差大国です。特に、サン・パウロはブラジルで最も豊かな街であると同時に、最も貧しい街です。

ここでの富豪者たちは、酷い交通渋滞とスラム街が同居している街中には、なるべく足を踏み込まないようにし、誘拐・強盗からの防衛もかねて、200以上ものヘリポートを使って、タクシーを乗り回すようにヘリを活用しています。

また、ブラジル人は海が大好きで、週末は市内から70km離れた海岸に向う高速道路は大渋滞となるのですが、ヘリだと30分で到着するので、金曜日の午後は数百機のヘリが海岸に向います。さらに、サン・パウロでは、最高級のスポーツジムやレストラン、銀行などはすべて高いところにあって、富豪者たちは、騒音や悪臭とは無縁なもう一つの空中都市で生活しているのです。

つまり、サン・パウロでは、上を見上げる人と、下を見下ろす人の生活が区別されていて、上空ではヘリによって自由に飛びまわっている社会。一方、庶民たちは予定時刻に来たことがないバスを待ちながら、停留所でひしめき合っている社会。それが混在している街がサン・パウロです。

MASPサン・パウロ美術館に展示されている、黒色四角現代美術作品の背景要因を、ビル屋上から発想するにしても「そう単純」ではない視点があると思いました。


東洋人街の日本語看板

サン・パウロの日曜日、地下鉄で東洋人街があるリベルダージ駅に向かいました。改札口を出ますと、そこは緩やかな階段であり、その途中のベンチに座っているお年寄り夫婦の日本語が耳に入ってきて、日本人の多い東洋人街に来たという雰囲気になります。

階段を上りきったところは狭い広場で、日曜日は屋台がたくさん出ています。ヤキソバ、今川焼き、お好み焼き、焼き芋、天ぷら、民芸品、革製品、銀細工など。観光客よりはサン・パウロ住民が多勢繰り出して、広場は歩くのに苦労するほどです。

この広場から商店が並ぶガウバオン・プエノ通りには、両側に赤い柱に提灯型の街灯、日本語の看板が並んでいます。昔の日本の駅前商店街という感じですが、日本とは活気が全然異なって人が多勢歩いています。通りに面した小さい丸海スーパーに入ってみますと、日本の食料品が何でも揃っています。出口にはレジが七台もあって、土日は店内に入りきれないほど客が来ます。

ところが、この日本語看板の商店の多くが日系人経営ではないのです。客が溢れている丸海スーパーは中国人経営であるように、今や日系人経営は化粧品のIKESAKI、着物の美仁着物、宝石の明石屋、それと地下鉄駅前書店の太陽堂くらいです。

そのことを聞いてすぐに「経営の失敗か」と想像しましたが「そう単純」ではない状況が背景にあり、そこに日本経済が関係していました。

1988年から90年にかけて、日本はバブル絶頂期で人手不足でした。そこで各企業は人材を海外に求め、法務省が認める日系人、それは日本人の親族がいることで、それに合致すると労働ビザが下りるので、ブラジル日系人の間で日本行きが一大ブームになりました。確かに、日本で一年も働けば相当のお金が溜まり、ブラジルは当時不景気で超インフレ、一年間の貯金を持って帰ると一大財産となり「日本は宝の山」と言われたのです。その結果、日本行きの斡旋会社がたくさん出来、そこに1000USドルから1500USドルの現金を払っても、日本に行きたい希望者が殺到した上に、日系人と結婚したいブラジル人が多数発生しました。日系人花嫁求めるという新聞広告も出るほどのブームで、日本までのエアーは常に満席。空港は日系人で一杯。週二便のJALだけでは足らず、週二便のブラジルVARIG航空、加えてヨーロッパ周りで日本へ行く便の利用もあったくらいの過熱ブームだったのです。

その日本行き大ブームに、東洋人街の商店主も乗り、店の権利を中国人に売って日本に行った結果、日本人経営が少なくなりました。勿論、その他の理由もあり日本人経営は少なくなったのですが、いずれにしても、その後、日本のバブルが崩壊し、一転、不況になると、働いても残業は減り、収入の伸びは少なく、為替の変動もあり、「日本は宝の山」神話は崩れ、ブラジルに帰った人もいましたが、日本に長く住み続けて、子供の教育問題や、ブラジルに戻っても失業率が高いので適切な仕事先確保が難しく、結局、そのまま日本で働いている人が30万人くらいいます。

日本移民として始めてブラジルに渡ったのは1908年。ブラジルに「金のなる木」があると言われ、これはコーヒーのことでしたが、多くの日本人が農業移民として渡って、来年は移民100周年となります。ところが、今になってみると、当時とは反対の「ブラジル日系人逆移民時代」ともいえる現象となっているのです。

現実実態の背景に「そう単純でない」要因が存在することを実感いたしました。
以上。

投稿者 staff : 18:43 | コメント (0)