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2009年07月29日

8月は夏休みです

経営ゼミナール 今後の予定

【8月】夏休みです。
【9月】9月7日(月)18:00〜 於:銀行倶楽部
   ※発表者のご都合で、第一週の月曜日に行います。
   「世界から見た日本の医療の実力と課題」
    東京医科大学国際医学情報センター教授
    J. P バロン氏
【10月】10月18日(日)・19日(月)特別例会
    ミシュラン三つ星・二つ星温泉を訪ねる研究会
    ※詳細は右上の画像をクリックしてください。

暑い日が続きますが、呉々もお身体にお気をつけてお過ごしください。

投稿者 lefthand : 10:26 | コメント (0)

2009年07月21日

2009年7月20日 想魂錬磨

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年7月20日 想魂錬磨

1Q84
村上春樹の小説「1Q84」が大ヒットです。理由はたくさんあると思います。ストーリーが時代感覚に溢れている。幅広く深い知識・知見を論理的に巧みにつなげている。各章毎の予測つかない展開。文章はやさしく読みやすいなど。
しかし、この理由だけでは日本人のみならず、世界中の書店に並べられている村上春樹小説の背景を説明できません。何か他に重要な要素があると思います。

解答のあり方が物語的に示唆される

月刊ベルダ誌の書評に「今、世の中のある物事の在り様を、新聞・雑誌、新書、ネットなどに求めれば、眼からウロコが落ちるように、解答を見つけることができる。だがそれは、教養を深めることに役立つかもしれないが、今ここにある魂に安らぎを与えるものでない、今ここにある不安を鎮めるものではない。村上春樹の新作を求めた多くの人々は『解答のあり方が物語的に示唆される』方を望んでいるのではなかろうか」とありますので、「今、世の中のある物事の在り様についての解答」を、新聞記事から確認してみたいと思います。

麻生降ろしについて

日経新聞のコラムニストである田勢康弘氏が、自民党の麻生降ろしについて、次のように述べました。(2009.7.13)
「政党はどうすれば選挙に勝てるかだけを基準にすべてを考える。だれならば戦えるのか。顔を変えれば、まだ多くの人々が自民党を支持してくれるとでも考えているのだろうか。国民の政治を見る目は、それほど複雑ではない。ただ一点、政党や政治家の言動がうそ臭いかどうかを見つめているのである。顔の売れている人物を党の顔にする。これほどうそ臭いものはない。どの政党が政権の座に就くか、というのは政治家が考えるほど国民は意識していない。ほんとうの政治、国民のためになりそうな政治をするかどうかを見ているのである」
これになるほどと思います。

トヨタF1GP中止

トヨタ自動車の子会社、富士スピードウェイが2010年以降、「F1」の開催をやめます。これについて日経新聞編集委員の中山淳史氏が次のように述べました。(2009.7.13)
「自動車メーカーではホンダが昨年末、F1撤退を表明しました。日本を代表する二社がF1を負担と考え、相次ぎ距離を置き始めたのは偶然ではありません。時代の変化を感じているのです。トヨタとホンダが今、投資を必要としているのはハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車です。内燃機関の象徴であるF1を見直すことでこれからの100年に向けた決意宣言をした。そう言えないでしょうか」
この解説にもなるほどと思います。

世界の経済成長の中心がアジアにシフトするか

一橋大学の北村行伸教授が、21世紀の世界の経済成長の中心がアジアにシフトするかどうかについて、以下のように述べました。(日経新聞2009.7.13)
「少なくとも19世紀の英国、20世紀の米国を見る限り、持続的な経済成長を続けるためには、技術革新に基づく生産性の上昇と同時に、中流階級の安定的な所得の確保、すなわち雇用の安定、そして漸進的な中流階級の生活水準の向上が必要であった。これを踏まえれば、21世紀の世界の経済成長の中心が中国・インドなどアジア諸国にシフトするかどうかは、これらの国でどれくらい広範な産業労働者が生み出され、技術進歩に貢献し、生活水準を引き上げることができるかにかかっているといえよう」
これにもなるほどと思います。
このように、今、世の中のある物事の在り様について、解答を見つけられたとしても、多くの人々が今、持つ不安を鎮め、魂に安らぎを与える解答にはつながりません。
 
虚空蔵求聞持法

先日、比叡山・高野山・大峰山で1200日間荒行修行された、市川覚峯氏(経営コンサルタント)からお話を聞く機会がありました。
その際、虚空蔵求聞持法について触れられました。虚空蔵求聞持法とは、弘法大師空海が真魚という名であった19才の時、室戸岬の波打ち際の洞窟(御厨人窟みくろど)にこもり、虚空蔵菩薩への祈りを唱え続けていた時、突然光が飛び込み、その瞬間、世界のすべてが輝いて見え、洞穴から見える外の風景は、「空」と「海」だけでしたが、その二つが、今までと全く違って、光り輝いて見え、そのときから、真魚は「空海」となり、虚空蔵求聞持法を悟り、会得し、無限の智恵を手に入れました。また、それまで四国のけわしい山々で修行したところが「四国八十八ヶ所」のお寺になりました。
ここでいう虚空とは宇宙のことであり、蔵とは人が持つ幸せ・財・知恵などが入っているところで、蔵の中味は人によって異なっています。つまり、すべての人はそれぞれがもつ特性、即ち、持ち味・強み・コアコピタンス、要するに美点を持っていますので、それを求め追及することが大事だというのが、空海が悟った虚空蔵求聞持法であると、市川覚峯氏は噛み砕いて解説してくれました。

セオリーがちりばめられている

村上春樹は「1Q84」の中で、主人公に向かって次のように述べています。
「何を書けばいいのかが、まだつかみきれていない。だから往々にして物語の芯が見あたらない。君が本来書くべきものは、君の中にしっかりあるはずなんだ。ところがそいつが、深い穴に逃げ込んだ臆病な小動物みたいに、なかなか外に出てこない。穴の奥に潜んでいることはわかっているんだ。しかし外に出てこないことには捕まえようがない」と。
自分の中にある美点を探しなさいと述べているのです。このような「生き方セオリー」文章がタイミングを見計らっていくつも意図的に登場することで、当面している問題とすり合わせができた読者は「解答のあり方を物語的に示唆してくれている」ということになります。

女優・浜美枝さん

「あの時代と比べようもないほど、今は豊かだ。ものはあふれ、飢える人は少ない。けれど『働けば豊かになれる』という希望が今は見えないと誰もが口を揃える。確かにそうかもしれない。が、ここでまた、私は思ってしまう。では、戦後、豊かさを求め、辿り着いたのはバブルだった。そして今、また同じ豊かさを目指すのか。そうではないだろう。私は自分がよって立ちうるものを必死に求めていて、何かに導かれるように民芸に出会ったのではないかと今になって思う。これからの社会に必要なのは、そうした身の丈の豊かさではないだろうか」(日経新聞2009.7.11)
自らの蔵の、穴の奥に潜んでいた美点を探し求めた結果、浜美枝さんは民芸を一生の目標にし得たのです。

想魂錬磨

100年に一度、未曾有の体験などという、今の時代を表現する枕詞が各方面で使われていますが、本当にそうでしょうか。
今から141年前の明治維新改革、日本は封建社会から近代社会に切り替える大革命を行いました。武士は全員失業しました。政治体制は抜本的に変わりました。大変化でした。
第二次世界大戦の敗戦、今から64年前です。殆どの人が今日の食べ物に窮し、海山川へ食べ物を求め歩き回りました。餓死する人も出ました。酷いという一言でした。
この二度の体験と、今の時代と比較してみれば、今の経済低迷などは、既に十分豊かさを確保した中でのことですから、根本的な問題とはいえません。
問題の中心は一人ひとりの生き方なのです。経済的豊かさが、幸せを持ってこなかった。返って魂に安らぎを与えてくれず、不安を鎮めてくれず、自分はどうしたらよいのか分からない、という時代になっているのです。
その答えを、市川覚峯氏は「想魂錬磨」に解答を見出すしかないと主張します。虚空蔵の中に一人ひとり異なる美点があって、蔵から出ることを切望している。だから自分の蔵に何があるかという探索をする、それは自分の想い・魂を尋ねることで、引き出したらその想魂を必死に練り磨き続ける、これしか解答はないというのです。その通りです。村上春樹の小説が大ヒットしている背景には、小説の各場面にちりばめられた「生き方セオリー」をヒントに、自分の想魂を探し求めようという人達が多い、ということではないでしょうか。以上。

【8月のプログラム】

8月は夏休みです。9月のプログラムをお楽しみに。

投稿者 lefthand : 19:01 | コメント (0)

2009年07月05日

2009年7月5日 村上春樹の背景にあるもの

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年7月5日 村上春樹の背景にあるもの

作家「村上春樹へのインタビュー内容」

村上春樹の7年ぶりの長編小説「1Q84」は、5月29日に発売され、一週間で上下巻合わせて100万部を突破しました。

この村上春樹、日本のメディアには一切出ないことで知られていますが、スペイン北西部のガルシア地方サンティアゴ・デ・コンポステラ、ここはあの聖ヤコブの遺骸が祭られているため、古くからローマ、エルサレムと並んでカトリック教会で最も人気のある巡礼地であり、世界中から巡礼者が絶えないところですが、そこの高校ロサリア・デ・カストロから賞を受賞したので、はじめてスペインを訪れ、地元紙の取材に応じ、いろいろ語った中に次のような発言がありました。
「日本人はいま、自分たちのアイデンティを模索しているのだと思います。戦後、日本は徐々に豊かになり、1995年までほぼ右肩上がりの良い時代を生きました。けれども90年代になってさまざまな危険に直面し、大きな揺らぎを体験しました。そのようなことは戦後、一度もなかった。それまではおおむね経済的繁栄が私たちを幸福にし、心を満たしてくれると考えられていました。でも日本は大変豊かになったけれど、我々は幸せにはなれなかった。そしていま、我々は改めて問い直しています。我々は何をすべきなのか。幸せへの道は何なのか。いまも我々はそれを探っているのです」と。

村上春樹の評価

村上春樹は、特定の国民性に捉われず、世界文学へ貢献した作家に贈られるフランツ・カフカ賞を2006年に受賞し、以後ノーベル文学賞の最有力候補と見なされていて、その小説は現在、世界中で読まれています。
その理由をスペインのインタビュアーが、次のように解説しています。
「広がりに広がって、いまではハルキ・ムラカミに魅了されない国がないほどです。しかしそれは、異国趣味、つまり日本への憧憬でなく、あなたの小説の内容に親しみを感じるからです。あなたの小説に登場する日本人の女の子のバッグのなかには、どんな国の都会の女の子のバッグにも入っていそうなものが入っています」と。
「1Q84」の書評に「今、世の中のある物事の在り様を、新聞・雑誌、新書、ネットなどに求めれば、眼からウロコが落ちるように、解答を見つけることができる。だがそれは、教養を深めることに役立つかもしれないが、今ここにある魂に安らぎを与えるものでない、今ここにある不安を鎮めるものではない。村上春樹の新作を求めた多くの人々は『解答のあり方が物語的に示唆される』方を望んでいるのではなかろうか」(月刊ベルダ誌)。
日本を舞台に、日本人を主人公に書いた小説でありながら、世界の人々が求める普遍性への解答になっているのでないか。このように理解できるのです。

「100年に一度」

普遍性といえば「100年に一度」もです。これは、グリーンスパン前FRB議長が「リーマン・ショック」前の2008年7月31日に、CNBCテレビで「100年に一度起きるかどうかの深刻な金融危機だ」と述べたことからで、以後、多くの場面で今回の金融危機を形容する枕詞として、また、他の問題にも引用されています。
「100年に一度」の金融危機は、ご存じのようにサブフライムローンという危ない住宅融資を行い、その担保証券を格付けの異なる証券と組み合わせ、効率のよい証券化商品であると、世界中に売りさばいたことが要因で、アメリカ人が行ったものです。
 アメリカ人はどうしてこのようなバカなことを起こしたのか、それが以前から不思議でしたが、次の発言を知って納得しました。

ボーイング・ジャパン社長の発言

日経新聞「ビジネス戦記」で、ボーイング・ジャパン社長のニコール・パイアセキ女史が次のように述べていました。(09.6.15)
「米国では、ビジネスでは唯一結果を出すことだけが重要とされる。短距離走のようにできるだけ早く目指すゴールに到達することが最大の価値を持つ。『終わりよければすべてよし』。その過程はさほど問われることはない」と。
この女性社長はアメリカ人の本音を語り、これがサブプライムローン問題の本質に内在しています。米国型市場主義は「市場が決める価格が正しい」という前提で、利潤拡大を目的として行動し、最終的な利潤極大の局面にたどり着くまで引き返すことはありません。
だが、この利潤極大化がいつなのか、そのことが利潤を求めている過程では判断不可能です。利潤が増えている間は、もっともっと増やしたいという気持ちだけで、その儲けの仕組みが悪であろうが、そのプロセスに踏み込んだら、目をつぶって山を登るのです。利潤が上がっている今が、9合目か、又は5合目か、それとも頂上直前なのか、分からなくなっているのです。ここで引き返したら、その時点が5合目だったかも知れない。もしそうなら、残りの半分の利潤が獲得できないことになります。
ですから、前へ前へと進み、頂上に登りつめて「市場が決める価格」が下りはじめる時、それは問題が明確になった時点ですが、そこまでいかないと利潤極大点が確認できないのです。つまり、「100年に一度」という深刻な金融危機に陥り、これ以上利潤極大化が不可能時点になって、急に「この仕組みは問題だった」と気づくことになるのです。
しかし、その時は世界中に問題がまき散って、世界中の人々の生活に変化を与え過ぎていた、というストーリーなのです。これがアメリカ人の生活習慣思考方法だと、前述の女性社長が見事に語っているのです。

産業再生機構

日本はバブル崩壊から多くの企業が経営不振となったことから、2003年に国策機構の「産業再生機構」をつくり、大きいところではカネボウから、小規模では金精旅館のような従業員10人程度のところまで、41社の再建を行いました。
その産業再生機構で代表取締役だった冨山和彦氏から、先日ご体験をお聞きしたときに「再生をするためには、一流大学出身とか、アメリカのMBA資格を持つ人は返って問題で、実際の現場で必要とする人材は、情と理の衝突に耐え、現実と理念の相克を超えることのできるタフネスさと、哲学を持ち合わせた強い人だ」と明言しました。
 つまり、アメリカ型の経営手法なぞは役立たず邪魔で、必要な能力は、相手と痛みを分かり合える日本的な思考で行動できる人でしか、企業再生はできなかったのです。

難解な日本の「舞踊」

ここでもう一度、前述の女性社長の発言に戻ります。
「ところが日本では、迅速に結果を出すことはもちろん重要だが、それだけでは『正しい』という評価が得られない。仕事の過程での微妙な人間関係や手続き、配慮が重要視されるからだ。それが私にはあたかも、リズムやニュアンスを持つ所作で美しさを表現する『舞踊』のように思える。実際、勝負に勝つことがすべてというビジネスの流儀が身に付いた米国人からみれば、日本でのビジネスで求められる『過程』は、本当に難解」と。
振り返ってみれば、日本は敗戦によって、64年前から民主主義という名の教育の下、アメリカ型がGHQによって強制されてきました。
しかし、この女性社長の発言は、変わった新しい戦後の教育が行われたのに拘らず、日本的思考習慣システムが依然として強く残っていて、それがアメリカ人には理解し難いという事実を指摘しています。この事実を再認識すべきと思います。
我々のDNAには、しっかりとした日本風土が潜在していて、それを基盤哲学として発揮できる人材のみが企業再生を可能にすると、冨山和彦氏も指摘しているのです。

村上春樹の背景

今、世界経済は「100年に一度」から、正常な状態に戻すための様々な対策がとられていますが、簡単にはいかないだろうというのが現実です。ところが、日本では90年のバブル崩壊があり、その後の「失われた10年」があって、経済停滞は世界に先駆けて経験済みという事実を再認識したいと思います。今後、世界経済の停滞が長引き、それによって世界が「失われた10年」といえる状態になるとしたら、世界の人々は「我々は何をすべきなのか。幸せへの道は何なのか」という村上春樹発言が持つ意味を理解しようと、日本のことをテーマにした小説であって、日本人が書いたものであっても、その背景に今後の世界が持つ普遍性があると理解し、受け入れているのではないかと思います。以上。

【7月のプログラム】

7月10日(金)16時   渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
7月17日(金)14時 温泉フォーラム研究会(会場)上野・東京文化会館
7月27日(月)18時経営ゼミナール例会(会場)皇居和田蔵門前銀行会館

7月19日(日)9時 山岡鉄舟研究会(特例)飛騨高山にて鉄舟法要研究会

投稿者 lefthand : 11:50 | コメント (0)