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2013年10月06日

2013年10月5日計画された偶発性(2020年への戦略)・・・その一

YAMAMOTOレター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2013年10月5日 計画された偶発性(2020年への戦略)・・・その一

「2020」twenty-twenty

 東京オリンピック開催「2020」の英語はtwenty-twentyとなり「正常視力の」という形容詞になる。視力1.0の人が20フィート離れて識別できる文字が、検査で実際に20フィート地点から見えるということで、よく見通せるという意味に捉えるとよいと思う。

だが、今からオリンピック開催年の2020年を見通すことは難しいだろう。先々、消費税をはじめとして予定された政策課題の推移と、想定できない出来事も多発するので2020年の戦略など出来るはずがないという意見になると思う。

しかし、時間の経過は正しく、時間軸通りに2020年は訪れる。そこで、そこまでの7年間、計画・目標をつくり過ごすのか、それとも出たとこ勝負で毎日を過ごしていくのか。その判断は自由であるが、我々の行動は気分・気持で決まっていくのであるから、先々の2020年には「こうなりたい。こういう状態にしたい」というイメージを持つか持たないかで、日々の日常行動が変わっていく。

折角オリンピック招致が決まったチャンスに、人生の価値を改めて捉えなおし、気分・気持ち再整理し、基準をつくり直し、積極的なたくましい方向へ転換させて行った方がよいのではないかと考える。さらに、計画をつくって行動していると、当初予想もしていなかった成功や幸運が訪れるという偶発性にめぐまれることが多いことは知られている事実である。

今号と次号では、2020年への戦略構築について触れてみたいが、まずは前回オリンピック開催都市ロンドンの変化を確認したい。

ロンドンは変わった

2013年7月、ヒースロー空港「ターミナル5」に着いた。ここは2008年3月開設のBA専用で新しく気持がよい。さて、入国審査に向かったが、ここヒースロー空港の入国審査はかなり厳しいことを思い出す。今まで何回もここで入国審査を受けたが、不法入国ではないかと、最初から疑ってかかる目つきでの対応で、気分が悪くなる空港の代表であった。

ところが、今回は違った。妙に愛想がいい。カウンター内の中東系と見られる若い男性がニコニコ笑顔で尋ねてくる。職業を聞かれ、答えると、パンと判を押しパスポートをこちらに返してくれる。これだけで終わった。

随分、変わったものだと思い、ロンドンに長く住む人に聞いてみたら、2012年のオリンピックを機会に、入国手続き業務を民間企業に委託してから、全くよくなったのだと笑う。

ヒースロー・エクスプレス

 バックを持ってロビーに出ると、少し先の何となく品がよい表示が眼についた。近くに行ってみるとヒースロー・エクスプレスである。

ああ、これがあの便利な列車かと思いつつ、乗車券代20£をカードで払う。ヒースロー・エクスプレスは、ヒースロー空港とロンドンヒの主要ターミナル駅のひとつであるパティンドン駅との間を、日中15分間隔、所要時間21分でダイレクトに結んでいる。 2009年11月時点での定時運行率は99.9%とロンドンの地下鉄と比べて高い。最高時速160km、車内は十分な座席と荷物置き場が確保されていて快適で、最も速くロンドン市内へアクセスできる。

パディントン駅に着き、右手側のなだらかな坂を上がると、宿泊するヒルトンホテルである。パディントン駅とヒルトンホテルを利用すると、ヒースロー空港から25分でホテルの部屋に入れくつろげるのだ。大変身である。

今や世界一という評価

それを証明するのが「2012年・都市総合ランキング」(森記念財団調査・日経新聞2013.9.14)で紹介されたにロンドンの第一位というランクである。オリンピックをチャンスに都市整備を進めた結果である。
東京は第四位、2020年には一位になっていることを期待したいが、ロンドンが評価された背景に日本の鉄道技術が存在することを認識したい。


日立製列車の貢献

 今回、イギリス国教会の総本山であるカンタベリー大聖堂があるカンタベリー駅から、サウスイースタン鉄道でセントパンクラス駅まで乗ってみた。このサウスイースタン鉄道の車両が日立製なのである。

日立は2009年から「ジャベリンJavelin」の名で知られる高速列車Class395を製造、冬季に他の列車が全てストップした際も、運行を続けるなど高い信頼性が評価されて、2012年8月には英国の鉄道インフラを管理するNetwork Railから、英全土への導入に向けた運行管理システムのプロトタイプを受注し、日立が英国で受注した車両は計866両となり、受注総額は58億ポンド(8800億円)にのぼり、日本企業が海外で受注した車両数としては最大である。

さらに、日立は車両の製造と併せて27年半の保守を行うのであるが、これには日本の鉄道が誇る「時間通り」「事故を起こさない」「プラットホームの指定位置に停車」「環境に優しい」などで高い評価を受けたという背景がある。

昨年のロンドンオリンピック、セントパンクラス駅からメーンスタジアの最寄り駅のストラトフォードまで7分で直通運転したのも日立製ジャベリンで、マスコミ陣から渋滞によるロスもなく、時間通りの取材が出来たと高い評価を受けた。

この日立製列車のイギリスへの導入、長期戦略・目標の最適例ではないだろうか。

失敗から学ぶ

 2020年東京オリンピック開催が決まって、猪瀬東京都知事は次のように語っている。

「東京に五輪を招致できて、心が晴れ晴れしている。スポーツの力で何年も失われてきた日本の活力を取り戻し、心のデフレを払拭できる。だが、僕自身が考えてきた真の招致成功の意味は、世界最高のスポーツの祭典を東京で開く栄誉や、東京、日本の力を世界に示す好機という以上に、日本の構造改革をスタートさせられることだ。

五輪は開催そのものが一つの目的ではあったけれど、それがすべてではない。五輪を一里塚にして、日本全体を変えていく、というのが僕の発想だ。最も大きいのが縦割り行政の解消、省益至上の官僚主義の解消だと思っている。

今回の招致成功で僕は何度も『オールジャパンの勝利だ』と言ってきた。経済界、スポーツ界のほか、五輪を担当する文部科学省、パラリンピックの厚生労働省、外交交渉を担う外務省、それに宮内庁、内閣。特に役所では、それぞれが管轄するピラミッド型の行政システムが、過剰な縄張り意識を生み、互いに情報を隠し、国家戦略として『何をしたいのか』がさっぱり分からない状態が続いてきた。

復興庁が有効に機能していないのは縦割りの弊害そのものだし、さかのぼれば太平洋戦争突入の決断だって、その最たるものだ。

 僕は著書『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)で東條英機内閣が開戦直前、ひそかに省庁や陸海軍、民間の若手エリートを横断的に集めて日米開戦のシミュレーションをさせた総力戦研究所の姿を描いた。それぞれが組織の資料を持ち寄って分析し『必敗』と結論づけた。だが、報告は握りつぶされて戦争回避につながらず、戦況はほぼ分析した通りに推移した。縦割り官僚国家の中枢がまったく機能しなかったわけだ。

 それが今回、五輪招致で、できた。情報を共有し、一つの目標のために力を合わせた。日本の中枢が機能を取り戻し、国家として勝った。

僕が言ったオールジャパンとはそういう意味だ。大げさでなく、近代日本史上、まれにみる快挙だった。中枢が機能すれば物事は前に進む。被災地で、福島原発で何をすべきで、どう動けばよいか。招致成功は意思実現のモデルになったはずだ。あとは成功の経験を、官僚がどう生かすか、だ」
 (中日スポーツ2013年9月21日付の連載コラム「月刊猪瀬直樹」より)

 その通りだが、見過ごしてはならないことがある。オリンピックの招致成功から学ぶべき、全ての組織・個人が参考にすべきセオリーのことである。次号でお伝えしたい。以上。

投稿者 Master : 2013年10月06日 11:41

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