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2013年01月06日

2013年は脳力を絞る(上)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2013年1月5日 2013年は脳力を絞る(上)

新年明けましておめでとうございます。

元旦の日経新聞社説

 日経新聞元旦の口切りは厳しいものでした。
「日本の国の力がどんどん落ちている。GDPはすでに中国に抜かれた。強みを発揮してきた産業も崩れた。巨額の赤字を抱える財政は身動きが取れない。政治は衆院選で自民党が大勝したものの、夏の参院選まで衆参ねじれの状況は変わらない。

手をこまぬいていては、この国に明日はない。閉塞状況を打ち破り、国力を高めていくための手がかりをつかまなければならない。
 
まず大事なことは目標を定めることだ。どんな国家にしようとするのか、どのように経済を立て直していくのか、どんな社会をつくっていこうとするのか----という思いの共有が求められている」
 最も主張で、反論する余地はない。

目標を持つことは大事だが、問題解決と同一視してはならない
 
目標を持つことが大事なことは誰でも知っている。また、人によって目標が異なるのは当然である。
だが、国家がどのような目標を持つか、という選択肢になると、個々人の目標とは異なる。国家目標は政治によって共有化をはかり、それに向かって政治力を発揮させ、国民を引っ張っていくしかない。
そうしないとそれぞれ国民各自が国家目標を述べあい、その異なる目標ごと達成への方法論が異なって、結果的にまとまらず、国家として統合的な成果は得られなくなる。

さらに、もうひとつ大事な視点は、目標と問題を同一視してはならないことである。いつの時代にも問題は多々あって、その時々の問題解決を第一目標にした場合、問題解決がひとつ片付いたとしても、世の中は複合的に絡み合っているから、必ず新たなる問題が次の目標として現れるのが世の常であり、結局、問題のモグラたたきに終始することになる。

そうではなく、諸問題の上部に位置している上位概念を目標とすべきであって、その目標が達成されれば細部の微妙な問題は多々のこるとしても、国家としての大きな成果が得られる結果、諸外国との比較で国民の満足度が向上し、国民マインドは今より満たされることにつながる。

政治力

 もう少し日経新聞の元旦社説を続けてみたい。

「目標を達成していくためには政治の安定が欠かせない。何よりも、06年以降、7年連続で毎年、首相が交代している政治指導者の大量消費時代と決別しなければ世界に相手にされない」と述べている。これにも反論の余地はない。

同様なことは、タイのバンコクポスト編集長も述べる。(日経新聞2013.1.4)

「近隣諸国は政権交代のたびに一歩下がって様子見を繰り返してきた。今の日本を一言で言い表せば「quiet(物静か)でpassive(消極的)」。批判的な意味ではないが、積極的な中韓とは対照的だ」と。

 日本人は元来、荒々しい粗暴な人種ではない。穏やかで、物柔らかで、しなやかな民族である。だから、危機に対して冷静な行動がとれる。

新渡戸稲造「武士道」第二章は、「仏教は武士道に、運命に対する安らかな信頼の感覚、不可避なものへの静かな服従、危険や災難を目前にしたときの禁欲的な平静さ、生への侮蔑、死への親近感などをもたらした」と述べ、これがその通りに東日本大震災時の行動に顕現され、世界から称賛された。
したがって、バンコクポスト編集長によって、日本人が静かで受け身的であるという指摘を受け入るとしても、それが首相の交代と関係づけられ、論じられることは筋合いのものではない。

タイ編集長が言いたいことは、首相が毎年代わるような事態では、目標もコロコロ変わる上に、その目標達成へ向かう日本の「やる気」が疑わしいという意味と理解したい。

やる気、脳の働き解明へ・・・Sunday Nikkei

 では、一体「やる気」とは科学的にはどのように整理されているのだろうか。

 「やる気」についても、タイミング良く日経新聞のSunday Nikkei(2012.12.16)が紹介している。タイトルは「やる気 脳の働き解明へ」である。

「仕事や勉強、スポーツで、やる気や効率にかかわる脳の働きが少しずつ分かってきた。これまでなら気持ちの問題と片付けられそうだが、最新の科学で脳の巧みな振る舞いをとらえようと仕組みの解明が動物実験で進んでいる。脳は、頑張るためにどんな手を使うのだろう」という前置きがあり、長文で展開しているのでその内容を整理してみた。

1. 産業技術総合研究所が動物実験で、気が進まないとか、憂鬱という感情は、大脳の扁(へん)桃(とう)体という部分の活動が変化することから生ずると突き止めた。

2. 沖縄科学技術大学院大学の研究グループは、ネズミ実験結果から、辛抱強さとはセロトニン神経の活動にあると解明。

3. 自然科学研究機構・生理学研究所は、サルにリハビリテーションさせて、運動機能の回復促進に、大脳辺縁系の側坐核と強い関連があったと発表。

4. 理化学研究所・脳科学総合研究センターは、ネズミの実験で短期記憶は小脳皮質にでき、休憩があると近くの小脳核に長期記憶が形成されると推測指摘。

5. 最後にコラム的記事で、脳は約1000億個もの脳神経細胞(ニューロン)からなり、それらが複雑なネットワークを形成していると説明。

如何でしょうか。この記事で「やる気」の要因が解明されたでしょうか。全くタイトルの「やる気 脳の働き解明」になっていなく、ただ単に各研究機関の解明・指摘・主張を書きならべているだけで、読むだけ時間の無駄であり、私が日経新聞編集長ならこの記事はボツにしたでしょう。これほどお粗末な紙面はないと深く感じた次第。

澤口俊之氏の講演を聞く

このどうしようもない日経記事の四日前、昨年12月12日ですが、人間性脳科学研究所長の澤口俊之氏の講演を聞く機会があった。

フジテレビの「ホンマでっか!?TV」に出演している澤口氏、その言動に一部から批判的コメントもあるようだが、一時間半の講演、パワーポイントのつくり方が工夫され、話し方も楽しく、新鮮な情報が多い上に、面白く編集されていて、とても興味深く聞くことが出来た。

講演で最も驚いたのはその内容である。日経記事とは全然違っている上に、今まで様々な学者の講演や資料などで知っていた内容とも大きく異なっている。

従来から主張されている脳科学は、約1000億個もの脳神経細胞が人間の思考・行動を支えているという全般的な視点から説明されていて、これはSunday Nikkeiでも同様であるが、澤口氏は異なる。

勿論、脳細胞の話であり、脳についての研究成果であるので、脳が関係していないのではなく、大いにかかわっているのであるが、今までの諸研究者と全く異なる主張、それは脳の一部に対象を絞っていることである。

念のため、著書を数冊読み、成程と思うところを確認したので、目標達成に活用すべきではないかと考えている。

澤口氏の脳理論は、どこが従来理論と異なるのか

まず、長期的な目的を持ち、未来に向かって努力するための脳、これは、大脳の一部である前頭葉(おでこの内側の部分)の「前頭前野」であると断定していることである。

「前頭前野」は大脳皮質の15%ほどの面積を占め、人間は他の動物と比較にならないほど「前頭前野」が発達しているので、ここが「人間性知能HQ(humanity quotient)」を掌る。つまり、HQが賢者の役目を担い、総合コントロール機能を担当していると説く。

したがって、自分の脳をうまく操作し、他者の脳も適切に操作し、目標を達成したいなら「前頭前野」を活用することが一番だ、という理論なのである。

どんな国家にしようとするのか、どのように経済を立て直していくのか、どんな社会をつくっていこうとするのか----という思いの共有が求められているのが、2013年の時流としたら、「前頭前野」のHQ活用が重要なキーワードであろう。次号でも検討したい。以上。

投稿者 Master : 2013年01月06日 08:40

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