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2012年09月07日

日独交歓音楽祭(上)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年9月5日 日独交歓音楽祭(上)

異業種交流会にて

先日、異業種交流会で講演する機会があった。中小企業経営者などが多く、熱心に聞いていただいた。講演後、参加者と名刺交換し、質問を受けて気づいたことがあった。
それは、当然とはいえ、改めて確認したことであるが、「日本から日本を見る」という思考になっているということである。

当方は、毎月海外に出かけているので、必然的に「世界から日本を見る」という思考を展開すべく心掛けているが、やはり「そうか」と感じた次第である。例えば、世界的に有名なバラの花をテーマに起業したベンチャー経営者と名刺交換し、その事業概要をお聞きしたので、「その花はパリのブローニュの森のバガテル公園が著名ですね」と伝えると、怪訝な顔をする。初めて知ったらしいのである。

外国とつながりをつける

新しい事業を始めるに当って、まず必要なのは「集める」作業、つまり、自らが狙う市場の情報を集めておくことだろう。

また、その情報は世界中にあるわけで、日本国内にとどめておくことは、狭い範囲での「集める」作業になってしまうから、発想に広がりを欠く傾向になりやすい。
だが、それらを補って余りあるのが、起業家の凄まじいまでの意欲と、工夫努力であり、これを武器に強力に国内で事業を展開している事例を多く見る。

しかし、その工夫と努力によって、他企業に差をつけようとしている内容を少し深く分析してみると、その差異は「外部からみてあまり違いの分からない、ちょっとした内容」になっているように感じる。

その上、日本国内の流通サービス業における客対応力は、世界的にみて高く評価されているように、細やかな気配りがきいた上質レベルであって、この対応に慣れ切った日本の消費者を相手にするのであるから、差異化へ投入するエネルギーと、そこから得られるアウトプット果実を比較すると、あまり効率的ではない。

ということで、情報を「集める」作業は、国内だけでなく、外国の情報も集め、その過程で外国人とつながりをつくり、それをきっかけとして外国進出も検討した方がよいのではと、名刺交換したベンチャー起業経営者に話したのであるが、「話は分かるが外国とのとっかかりがない」ので無理だという顔をする。

多分、このような起業家が多いのではないかと推察する。そこで、今号では、先日開催した「日独交歓音楽祭」、これは民間外交として展開したのであるが、その経緯をお伝えすることで、外国人との接点はこのようにすると出来るという事例を紹介したい。

縮小していく国内市場対策として、外国進出が大事であることをすべての経営者は知っているが、そこへの道筋に悩んでいる方への一つの事例として参考にして頂きたい。

ドイツ・カールスルーエの合唱団

ドイツ南西部に位置するバーデン・ヴェルテンベルグ州の都市カールスルーエ(Karlsruhe)は、日本ではあまり知られていない。日本人には温泉保養地として著名なバーデン・バーデンの方が知られている。そのバーデン・バーデンから29キロメ-トル、急行列車でたったの15分のところにカールスルーエは位置している。

カールスルーエは城を中心に町がつくられており、街並みを歩いていくと、城の両側の側面から延びる道路が、城を基点として扇形に延び、その扇形の中に中心市街地が入っているので「扇の街」と呼ばれていることがよくわかる。

また、街の中心にはマルクト広場があるが、この広場を設計したのがヴァインブレンナ-で、バーデン・バーデンのクアハウスも設計したヨ-ロッパで屈指の設計家であり、市民はこの広場でくつろぎ、お祭りに興じるのである。

このカールスルーエには、ここ10年くらい毎年訪問しているが、カールスルーエには国際的に著名な国立音楽大学があり、世界中から留学生が集まっていて、その教授陣に二人の日本人がいることが分かってきた。

一人はドイツ・リート歌唱で国際的に高い評価を得ている、声楽科歌曲クラスの白井光子教授、もう一人はベルリン・フィルハーモニーホールをはじめとする世界の一流舞台で活動を重ねる打楽器奏者の中村功教授である。

白井教授とは、カールスルーエ市街の散策中や日本食レストラン、マルクト広場の合唱団コンサート会場などで何度もお会いしているが、この白井教授に師事した有馬牧太郎氏がカールスルーエ「独日協会」の合唱団を指揮・指導している。

有馬氏は東京芸術大学卒業後、カールスルーエ音楽大学に留学、卒業後、同大学の声楽科講師を兼ね、現在いくつかの合唱団の指導もしていて、カールスルーエの合唱団も有馬氏の指導下にある。
この合唱団は、マルクト広場でのお祭りには必ずゲストとして歌を披露、それも全員が着物姿で登場し、最後には必ずソーラン節で盛り上げるので、客席から盛大な拍手が鳴り響く実力派である。

実は、この合唱団の有力メンバーであるチズマジア・三樹子さんが、筆者の通訳を担当してくれている関係で、自然に合唱団のメンバーとも親しくなり、自宅へ訪問し、ビアホールでお会いしているうちに、メンバーが合唱団に入るキッカケの実態が分かってきた。

最初は、日本に対する興味からで、その興味と関心内容は人によって異なるが、結果として日本語を学びたくなり、どこへ行けば日本語を教えてもらえるかを調べているうちに、「独日協会」の日本語教室を見つけ、そこで日本語を勉強しているうちに、日本の童謡等が歌われている合唱団の存在を知ることになる。

「独日協会」とはドイツ国内各都市に存在し、日独友好関係に寄与している民間組織であって、日本ファンの集まりである。

さらに、合唱団は既に2007年に東北地方を中心に日本公演をしているように、合唱団に参加すると憧れの日本へ行けるチャンスもあるので、日本の歌を通じて熱心に日本語を勉強することになり、一段と日本に対する興味を強くもっていくのである。

この独日協会合唱団が、再び2012年の夏に日本公演を計画していると三樹子さんから二年前に聞き、加えて、東京でも公演したいという希望があると聞き、ふと東京・日本橋で合唱団を主催・指揮している高橋育郎氏を思い浮かべた。

日本童謡歌唱コンクール

高橋氏とは長い友人であって、童謡の世界では知られている作詞家である。童謡とは広義には子供向けの歌を指し、狭義には大正時代後期以降、子供に歌われることを目的に作られた創作歌曲を指すように、我々が幼年期からよく馴染み、歌ってきたものである。

しかし、高橋氏はこの古い歴史のある童謡範疇を超えた、新しい現代感覚の作詞を創作していて、代表作として「大きな木はいいな」がある。

その高橋氏から一昨年11月、第25回日本童謡歌唱コンクールで「大きな木はいいな」が歌われると聞き五反田の会場に出かけた。

童謡歌唱コンクールとは日本童謡協会主催で、「子供」「大人」「ファミリー」の三部門があり、まずテープによる審査を各ブロック単位で実施し、その上位者が8月から9月にかけて行われるブロック決勝大会を経て、金賞受賞者が11月のグランプリ大会に出場し、金賞・銀賞・銅賞が決定するシステムで、テレビ朝日系列で放映される。

一昨年のコンクール会場で一番前の席に座り、全国から勝ち抜いた童謡を聞いたが、さすがに皆さん上手いなぁと納得し続けていると、「大きな木はいいな」を歌う東海・北陸ブロック代表の宮内麻里さんが登場し、細身の体を少し傾け歌いだした。その瞬間、彼女のソプラノが、奥深き山の深淵から湧き出てくる清らかな澄んだ水の流れのように、ステージから会場の奥まで通り抜け、歌い終わったときには、これは「グランプリだ」と確信したわけだが、結果はその通りで、みごとに大人部門の金賞を受賞した。

また、彼女の歌い方で特に感銘したのは「みんなではくしゅを してあげよう」というフレーズであり、後日、彼女に確認すると「ここが最もこの歌で好きなところ」という。次号続く。以上。

投稿者 Master : 2012年09月07日 16:13

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