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2012年07月10日

2012年7月5日 考えるという脳作業・・・前半

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年7月5日 考えるという脳作業・・・前半

日本人は「考える」ことについて具体的教育を受けていない
我々は幼少時に、親から「考えろ」と言われ続け、学校でも「考えなさい」と言われ続け、社会生活でも様々なタイミングで同様の指摘を受けることが多いのだが、この「考える」ということは、具体的にどういう脳作業なのか、それについては親も学校も会社の上司・先輩も教えてくれないままになっていると思う。
このあたりでもう一度「考える」ということを、洗い直し、自らの日常生活に取り入れていくことで、日常習慣化していく、というようなことを検討しないと、世界から「日本人は考える力が弱い」と指摘受ける結果となるだろうと懸念している。

伊藤穰一MITメディアラボ所長の指摘
伊藤穰一MITメディアラボ所長が、NYタイムスの社外役員に就任した。(日経新聞2012.6.23)

伊藤氏は1966年生れ46歳であり、日本におけるインターネット普及の第一人者で、MITメディアラボ所長には、2011年9月に約250名の候補者の中から抜擢された人物である。
その伊藤氏が次のように語っている。(クーリエ2012年1月号)

「従来のビジネスというのは、ある程度学んで効率を良くして、なるべく同じ作業を繰り返すことで生産性を高め、おカネを蓄積する。で、それを守る。だから、学びを止める。効率良く同じことを繰り返し、財産を蓄積するのが”オトナ“の世界なんですよね。

でも、変化の激しい現代の社会では、そのやりかたはもう通用しない。変化に応じて、効率は良くないかもしれないけれど常に学び続ける。偶然性だとか複雑性のなかで自分が生きるための学びの力とかネットワークの力を蓄積して、どうやって活動するかを考えることがすごく重要です。これは個人も組織もそうなんですが、それがいまの日本は弱いような気がしています」

と、今の日本人は「常に学び考え続ける」という段階が弱いと述べている。日本テレビ事業が世界競争で敗退した事実から考えると、この指摘は当たっているのではないかと思う。

日本のテレビ事業敗北要因

日本の大手家電メーカー三社、パナソニック、ソニー、シャープが巨額の赤字を出したが、その主因は薄型テレビ事業での敗北だと分析されている。

その背景として、急激な円高や、電力料金の高さなどのインフラコストに加え、海外メーカーは優遇税制の恩恵を受けているなど、一企業ではコントロールできない逆風要因があるのは事実だが、戦略的に考えてみると「テレビを戦う素材商品」と選択し、そこに巨額の投資をし続けたというところに、根本的な要因があるのではないか。

テレビ事業は世界的に見れば成長市場である。2011年の世界販売台数は22,229万台で前年比6%伸びていて、主に新興国で売れている。ところが、価格は年率30%を超える下落が続いているから、中国・韓国・台湾の安い製造コストに日本企業は敵わなくなる。

今のテレビは大型の製造設備さえ備えれば、比較的容易に製造でき、品質も均一化出来る存在であるから、付加価値も少なく、唯一の差別化要因は「価格」になってしまう。

そうなると相手を上回る巨額の設備投資をして、さらにコスト競争力をつけた「規模型事業化」した企業が生き残るということになり、結局、いずれは世界で一社か二社が圧倒的シェアをもつ寡占化業界になっていく商品である。

つまり、一台あたりわずかな利益しか計上出来ないのであるから、世界中の市場を相手に売って、膨大な販売台数を確保し、それで採算をとるという、極めてリスクの高い面白みのない業界がテレビ事業であって、そのような時流変化に気づかず、相変わらずテレビに投資し続けたという経営判断、そこが妥当ではなかったと思っている。

日本型モデルの敗北か

多くの日本企業は技術を重視しているが、その技術とは、全く新しい商品の開発よりは、既存製品の機能改善やコスト改善が得意という特性を持っている。また、その進め方も開発から製造まで自社で抱え、それらに横たわる各部門間で調整して仕上げる方法である。

ところが、今の世界的製造業は、部品がどの企業の製品であれ、標準規格の部品であれば、それを組み合わせて製品にするという「モジュール化」が進んで、メーカー間の差は薄れ、コストも下がるので、大量生産と低賃金というアジア勢に価格競争力で対抗できない。

一方、米欧はアップル社のiPhonに代表されるように、革新的な商品を開発してきて、とうとう日本は安いモノづくりでアジア勢に負け、斬新な商品開発では米欧の負けるという結果で、稼げるアイテムが狭くなっている。ということで「日本型モデルの敗北か」と、毎日のように識者が評論をしているのが現在の日本である。

意味的価値を開発することだ

この状況下をどう解決していくか。二人の識者が提案している方向性を紹介したい。

1. 延岡健太郎・一橋大学教授(日経新聞・経済教室2012.5.28)
昔も今も、ものづくりの目的は価値づくりである。以前は優れたものづくりが、そのまま価値づくりに結びついていたが、それが乖離したのには二つ理由がある。

① どんな優れた技術・商品でも独自性がなければ、同じような商品が他社から購入出来るので、その商品の存在価値は低く、過当競争から価格が下がる。

② 日本企業が創る新機能や高品質に、顧客が喜ばなくなった。高い価格を支払っても欲しいと思う真の顧客価値になっていない。

と指摘し、では、どう取り組むべきか。これにも二案の提案がされている。

① ものづくりよりは、真の顧客価値を創出できる技術経営への変革である。特に、単純機能を超えた意味的価値を持つ商品は下図のように過当競争になりにくいので、それを提案できる人材と、それを評価できる経営プロセスが必要。

② 各社が独自の戦略的視点から、特定の技術・商品分野に集中して取り組むことだ。日本企業はリスクを恐れて横並びになる傾向があるが、今はそれこそが最大のリスク要因である。

2. 遠藤功・早稲田大学教授(日経新聞・経済教室2012.5.30)
経営とは「際立つ」ことである。自社ならではの独自価値を生み出し、競争相手と一線を画す「際立つ存在」を目指すことが経営の主題であって、中途半端に「体格」を競うのではなく、「体質」で勝負する時代を迎えている。そのためには、高い技術力や独自の現場力を生かすことができる事業を、戦う土俵として選択することが必要である。

このように二人の識者が提案している内容、それは価値づくりであり、それによって「際立つ存在」になることであって、そのためには単純機能を超えた意味的価値を考えださねばならないわけだが、これは、日本人に「考える作業の見直し」が必要だと言っているのである。では、考えるとはどういうことなのか、それを具体的に次号で検討してみたい。以上。

投稿者 Master : 2012年07月10日 03:58

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