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2012年08月06日

2012年8月5日 小国大輝論(上)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2012年8月5日 小国大輝論(上)

消費税増税

消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案に対して、国民からは厳しい意見が多い。日本経済新聞社とテレビ東京が7月27日~29日に共同で実施した世論調査では、野田内閣の支持率は28%と急落し、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案への賛成は41%、反対が49%である。

また、これを無党派層に限れば賛成が30%にとどまり、反対が57%になっている。この背景に「5%増という数字ばかり先に決まっていて、肝心の中味がない」という風評誤解があるという見解が多い。

確かに2015年10月に消費税が10%に引き上げられた場合、増税分5%の内訳は、国の年金国庫負担金を引き上げるための財源に1%、高齢者増加による社会給付財源が3%、消費税増税に伴う物価上昇に対応するための給付維持分が1%というように、基本的な大枠は決まっているので、増税だけを先に決めたという批判は的を得ていないという見解もあるが、一般的国民の気持ちは「まずは増税ありき」となっている。

ノルウェー・ベルゲン

7月上旬はノルウェー・ベルゲン、ハンザ同盟の商館がある世界遺産の旧市街と、フィヨルドの観光基地でもあるが、その一企業を訪問した。

社長に日本で消費税が話題となっているので、ノルウェーの25%という消費税について負担になっていないかまず聞くと「全く問題としてない」という明確なもの。ちょっと期待外れであったが、日本のインターネットで検索してみると以下の内容と同じであった。

(質問)なぜ、スウェーデンやノルウェー、デンマークは消費税の税率が25%と高いのですか?

(回答)福祉や公共サービスが充実しているからです。高福祉高負担といって高い税率が掛かるかわりに老後は貯金が無くても問題なく生活が送れる社会な為、国民からも不満がでません。日本はとにかく借金を返す為に消費税を上げようと福祉や公共サービスのプランが見えない増税を打ち出している為、国民からの反発も強くなかなか増税にはつながりません。日本の政治家も目先ではなく20年30年後のビジョンをしっかりもって政治をしてほしいものですね。

この回答からも、日本国民の野田政権に対する支持率下落の要因が分かるが、もうひとつ紹介したいのはアメリカの新聞記事である。(Inc・クーリエジャポン2012年7月号)

タイトルは「税金が高いノルウェーのほうが、なぜ米国より起業しやすいのか?」という記事で、その中で油田採掘現場に人材派遣する会社を起業した社長の言葉として次のように書かれている。

「いい税制ですよ。公平ですからね。税金を払うのは、商品を買うようなものです。だとすれば大切なのは商品に対する金の払い方でなく、商品の品質でしょう」と。

 この社長は政府のサービスに満足していて、自分の払っている対価は妥当だと考えていることがわかる。もう少し紹介する。

「ノルウェー国民として、彼は連邦政府に所得の50%近くを納め、その他にも純資産のおよそ1%に相当するかなりの額を税金として払っている。さらに25%の消費税も払っているのだ。 2010年、この社長は所得と資産に対して個人として10万2970ドルの税を納めた。私がこんな細かい数字を知っているのは、納税申告書がウエブ上に公開されていて、誰でも、そしてどこからでも調べることができるからだ。納税者が有名なスポーツ選手であれ、お隣さんであれ、調べるのは難しくない」

 つまり、ノルウェー人は税金の支払いを「購入」、つまり、サービスの対価と払うことだとみなしていることであで、明らかに日本人とは異なる。

日本に戻って何人かの経営者にノルウェーで経験したことを伝えると、皆一様にビックリする。日本では税金を「お上に取られるものだ」と認識しているのであって、考え方の違いは大きい。

小国大輝論を読んで

 先日、上田篤著「小国大輝論」を読んでみた。なかなか深みのある内容で参考になったが、特に感じたのは以下の内容である。著者は元建設省技官であるから官僚であるが、その官僚が日本の官僚の問題点を三つあげている。

「かれらの政策決定において非所掌者である他の官僚たちの賛同をうるために、しばしば『経験主義』『物質主義』『鎖国主義』ともいうべき議論がおこなわれる。だがそのために、しばしばおもいがけない陥穽におちいることがある。

 第一に、経験主義であるために経験しなかったことに弱い。未来もすべて過去の経験でしか推しはからないからだ。だから地震予測もすべて過去の経験による。したがって経験しなかったことについてはまったくお手上げである。こんどの大震災で『想定外』ということばが乱発されて国民の顰蹙をかったわけだ。

 そういう経験主義だから直観ということは排される。しかしさきにのべたように現場にでれば津波は直観できるのだが、だが、誰もそれをやらないから官僚は『未来痴』である。

 第二に物質主義であるから、孔子ではないが『快刀乱神』といったものは避ける。神や仏というものをまったくみとめない。したがって今回の大震災でも、貞観十一年(869年)に仙台平野でおきた大津波のことは考慮されなかった。

なぜなら、それをつたえる『日本紀略』そのものに神や怪異の話がおおいからだ。したがって貞観津波が無視されただけでなく、そのとき津波の到達時点につくられた波分神社の存在もみなかった。その波分神社から海側は『貞観津波がやってきた』目印だったのだが、それも無視して開発はすすめられた。すなわち『鬼神』を避ける『鬼神痴』とわたしはみる。

 第三に鎖国主義である。日本は島国だから、だれでも国内のことなら知らない土地でもおおよその見当がつく。しかし外国となるとさっぱりということがおおい。

 今回も、2004年12月にインドネシアのスマトラ沖でおきた『マグニチュード九・〇の地震、それによる高さ十メートルの津波、三十万人の死者』は日本にはおよそ関係ない、とみていた。それは調査の結果でなく、はじめから『別世界のこと』で『外国痴』である。

 以上の『未来痴』『鬼神痴』『外国痴』つづめていえば『未痴』『鬼痴』『外痴』の三痴は、すぐれた近代官僚をもつ日本の役人の、いわば泣き所といってもいいものなのである」

パイの拡大方針

 もう少し上田篤著「小国大輝論」の紹介を続けたい。

「そのけっか、原発の『経済性・効率性』を追求するあまり、今回、役人のこの『三痴』の欠陥をつかれて『想定外という未経験』『貞観津波の無視』『スマトラ沖津波の無知』という悲劇の結果になったのである。それら罹災状況の一部始終をみていた国民は、さきにものべたようにこれを『人災』とみ、これから長くつづくであろう結果の恐ろしさに当惑している。ために日本社会はふかい沈滞におちいっている。

 ではこれからどうするのか? 問題は『人災』ということである。それについてはすでにいろいろのことがいわれているが、わたしはその元は『パイの拡大』にあるとおもう。

 だれがかんがえてもわかることだが、なにごとも『パイの拡大』つまり単純な成長主義をつづけていけば、さいごは破局である。

 『パイの拡大』つまり国内総生産を高めるのも結構だが、それは単純にどこまでもつづくものではないだろう。人間には欲望があるから『関係者はパイを拡大したい』とおもうだろうが、しかし『パイの拡大』の最後は破局に決まっている。

であるのに、なぜパイを拡大するのか? 問題は破局にみちびくような『パイ拡大をよし』とする思想にある。それあるかぎり、破局への道程はかぎりなくある」次号へ続く。以上。

投稿者 Master : 2012年08月06日 17:03

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