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2012年06月07日

Japan Rising Again(前)

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄

2012年6月5日 Japan Rising Again(前)

Japan Rising Again

ジャカルタから成田空港第二旅客ターミナルに着き、第一旅客ターミナルへサテライトで移動しようとして、ふと上を見ると観光庁作成ポスターの「Japan Rising Again」という文字が目に入った。

観光庁はこの鯉のデザインを表に、裏に「Thank You」と印字した名刺サイズのカードをつくり、東京マラソン、京都マラソン、館山トライアスロンへの外国人参加者、全国の国際空港等において配布している。大変よいことだと思いつつ、何か引っかかるものが残った。
                        
それは、このスローガンは東日本大震災からの復興を意味するのだろうから「Japan」ではなく、外務省の英文ウェブサイト「 the Great East Japan Earthquake」に準じて東日本を入れるべきではないか、そうしないと日本全体の復興と勘違いされてしまう。

しかし、もしかして敢えて「 East」を外して、日本全体の「Rising Again」を意図していると勘ぐって考えてみるならば、かつての高度成長時代思考が抜け切れていない認識で、日本の経済実態を捉えているのではないかという疑問をもつ。

東京スカイツリー
 
高さ634メートルの世界一高い電波塔「東京スカイツリー」が5月22日開業した。出足は好調で予測集客人数の1.5倍だともいわれている。

勿論、展望デッキに上がるのは予約制なので人数に制限があるが、商業施設の「東京ソラマチ」には大勢の観光客が押し寄せている。 

オープン前日の前夜祭に出かけ312店舗が入っているソラマチを見て回り、スカイツリーを見上げながら食事した際、これは他の日本観光地は大変なことになると思った。

 事業主の東武鉄道が公表した年間来場者数は3200万人で、これは東京ディズニーリゾートの年間来場者数2500万人を上回る。大阪万博(6カ月間開催)の総入場者数6421万人とは比較にならないが、2005年の名古屋万博(6カ月間開催)の2204万人を超える集客数であるから、多分、今年以降の国内各観光地は集客数減という甚大な影響を受けるだろうと予測され、各観光地はビジョン再構築を含めた観光政策の見直しが必要であろう。
  
日本とは比較が出来ないインドネシアという国

5月のゴールデンウィーク明けに訪問したインドネシアと日本と比較検討してみたい。
① 多様な国家
インドネシアという語は「インド」に、ギリシャ語の島の複数形「ネシア」をつけたもので「インド諸島」や「マレー諸島」に代わる地理学、民族学上の学術用語として、1850年に新たにつくられたものである。
したがって、インドネシアという語は一世紀半の歴史であり、国の一体性もせいぜい一世紀ほどの歴史だが、この地域にはそれぞれ島ごとに異なる2000年の豊かな歴史・文化があり、それを象徴するかのように、1128の民族集団と745の言語が確認できるという。

また、インドネシアは6000あまりの無人島を含む17504の島々からなる世界最大の群島国家である。

② 交通渋滞の酷さ
インドネシアの首都ジャカルタに着いての第一印象は、道路渋滞のすごさである。今まで訪れた都市での渋滞ワーストスリーは、一位がカイロ、二位がモスクワ、三位がサンパウロとランク付けしているが、ジャカルタはここに食い込むだろうと思うほどの酷さである。ジャカルタの人々は「一日の三分の一はベッドの上、三分の一は職場、残りの三分の一が道路上」と半ばあきらめ顔でいうが、車も二輪車も売れに売れている。

車は一種のステータス・シンボルなので「渋滞が酷いから」という理由で車を買い控えようという発想はなく、二輪車は車間をぬって効率よく動けるので、渋滞が酷いほどよく売れるということで、保有台数はますます増えている。

その結果、2011年度の新車販売数は前年対比17%増の89万台、二輪車は初めて800万台を超え、ともに過去最高を更新した。したがって、トヨタもスズキもインドネシアに新工場を建設し生産能力を高めている。

 渋滞理由はインフラ整備遅れにあるが、どうしてインドネシアではそのような結果となっているのであろうか。

インフラ整備に必要な資金はあったはずである。というのも第二次世界大戦後、日本はインドネシアとサンフランシスコ平和条約に準じる平和条約を結んで、多額の賠償を支払っているのであるから、このお金でインフラ整備をしておけば今日のような渋滞は発生しなかったと思われるが、それがそうならなかったのには複雑な背景が存在している。

 これらを説明しだすと紙数が足りなくなるのでやめるが、ご関心ある方は「経済大国インドネシア」(佐藤百合著)を参考にされたい。なお、現在でもジャカルタ市内地下鉄工事、新空港と国際港湾建設は、日本の支援で進めている。

③ インドネシアは人口ボーナス大国
 インドネシアの人口は2.38億人(2010年)で世界4位。国土面積は191万㎢で世界16位であるが、海洋大国であるから領海が陸地の二倍近い320万㎢もあって、東西の長さは5100kmに及ぶ海域で、ちょうどアメリカの陸地部分がすっぽり入る大国である。

 しかし、この人口と国土の大きさに比して、GDPは7070億ドル(2010年)で世界18位と少ないのであるが、今後は大いに期待できる要因がある。

それは、生産年齢人口という人口ボーナス、日本は既に減少期に入って、中国も韓国も近々減少期に突入するのに対し、インドネシアは1970年頃から2030年頃まで60年も続くから、今後20年間の国内需要増加が大いに期待される。

④ 旧日本軍への評価
 ここで戦後賠償しなければならなくなった旧日本軍の評判を振り返ってみたい。
ネガティヴな面の多いといわれている旧日本軍政で、褒められるのは「言語統一」くらいである。というのもオランダ統治時代は、オランダ語を公用語としてインドネシア語を無視していたが、旧日本軍が今通用しているインドネシア語に改めている。この他にはあまり評判がよろしくない旧日本軍の進出背景思想には、いわゆる「南進論」があった。

●日本の生命線は南方にある。端的にいえば油の問題、蘭印からとるより仕方ない
●インドネシアは経済的には「未開発の厖大な資源が放置」されている
●政治的には「オランダの支配下で隷従」を強いられている
●文化的には「きわめて低い段階」と認識し
●それ故に「アジアの解放」を国家目標に掲げて
●「世界で優秀な民族」である日本人によって現状を打破する必要性がある

という論理構築で、この論理を一言でまとめれば「南方圏をただたんに資源の所在地と捉えて、そこの歴史も文化も民族も無視する」ものであった。世界のどの地域にも、豊かな歴史と文化があるというのが普遍的な事実で、日本だけに長く豊かな歴史に基づく文化があるという観念的思考をもつことは大問題である。

正しくは、日本の文化は豊かで優れている、同様に日本とは異なる豊かな優れた文化がどの地にも存在している。このように理解し認識すべきなのである。

⑤ 現在の日本への評価
一方、現在のインドネシア人の日本観はどういうものか。ここでインドネシア人の最新修士論文(2010年)から引用してみよう。(「経済大国インドネシア」佐藤百合著)この論文は旧日本軍の進出を起点として日本観変遷を6段階に分析している

1.占領者としての日本 2.従軍慰安婦を強いた日本 3.開発資金提供者としての日本 
4.先進国としての日本 5.ハイテク国の日本 6.ポップ文化の日本

この中で1と2が区別されているのは、従軍慰安婦問題の責任と補償が今なお未解決の問題として認識されている事実を示している。インドネシアのすべての生徒たちは1と2について小学六年と中学二年で必ず学ぶようになっているという。

 だが最近は5と6によって、世界中の多くの国と同様の「クールジャパン」現象で、日本の人気は高く、日本愛好家(プチンタ・ジュパン)が増えている。

次号ではインドネシアで成功している日本企業についてふれ日本の課題を検討する。以上。

投稿者 Master : 2012年06月07日 10:18

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