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2010年04月21日

2010年4月20日 脱近代化は今の条件を活かすこと

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年4月20日 脱近代化は今の条件を活かすこと

アイスランドの火山噴火

アイスランドの火山灰がヨーロッパ上空を襲い、各国で空港が閉鎖されています。旅行客が空港に泊って何日も過ごすことになり、様々な場面で問題が出ています。

アイスランドは人口32万人、ここには1990年3月に行きました。家庭の水道が全て温泉ミネラルウォーターで、その水の良さのためか、街中を歩く、といっても地上が雪と氷でしたから、地下街で出会う女性の肌がきれいなことが印象に残っています。
その後のアイスランドは金融大国化へ大きく国策を変化させ、一時は国民一人当たりGDPで世界五位(2006年)となりましたが、2008年に発生した世界金融危機によって経済危機という状態です。
元々、国の中心産業であった漁業を、GDP対比6%まで減少(2006年)させた国策を、アイスランドの自然が怒り狂って、今回の噴火を起こしたのではないかと思えるほどです。

パナソニックの戦略

パナソニックが、新興国市場への開拓を加速するとの報道がなされました。(日経新聞2010.4.16)このパナソニックの戦略は遅きに失したと思います。
まず、世界市場でシェアを獲得するためには、ブランドイメージの定着が基本ですが、社名を「松下」や「ナショナル」と「パナソニック」に地域や用途に応じて使い分けていて、ようやく2008年後半にパナソニックに統一しました。これがイメージの定着化にマイナス要因で、連結売上の海外比率は47%にとどまっています。
ライバルの韓国サムスンは80%、ソニーは70%ですから、その差は大きいものがあります。今回のアイスランド火山噴火で空港に足止めされている人々が、状況を確認しようと見るロビーのテレビは、世界中の空港でサムスン製のテレビに切り替わっています。
以前は、ソニーであり、シャープでありナショナル製品だったのですが、今や完全に空港はサムスンに占拠されました。この背景には、もうひとつ決定的な要因があります。

上海の街中

アイスランドの火山噴火のタイミングに上海に行きました。今回は家族との観光でした。ここ数年、上海には度々訪れていますが、仕事でしたので観光地には出かけませんでした。
今回は、まず、上海郊外の七宝老街に行き、北宋時代を再現した水路や石橋など楽しみ、名物の臭豆腐を食べ、小舟にも乗りましたが、土曜日なので人でいっぱいです。土曜日休日の企業が多いということがわかります。
次に向かったところは豫園です。ここは更に人ばかりで、欧米人が多く、ヨーロッパに火山噴火で帰れないので、仕方なく観光地に来ているのかなと推測しましたが、南翔饅頭店の小龍包には驚きました。余りに人が列をつくっているので、試しに最後尾に並んでみました。立ち並ぶこと40分、ようやく手に入れた16個入り小龍包、価格は12元約200円と安く、味もさすがに超人気だけのことがあり、店頭応対も問題なしです。
最も驚いたのは公衆トイレです。七宝老街も豫園でも綺麗に掃除されていて、自動水洗とウォシュレット、手洗いも自動でペーパー&温風つき。1992年に家族と廈門と深圳に行った時は、公衆トイレには入れなかったほど不潔だったのですが、今の上海は道路のゴミ掃除もしっかりなされ、見事に万博開催にふさわしい都市に変化しています。 
 中国全体は、先進国へのキャッチアップ過程にあるとしても、上海の観光地のトイレを見る限り、万博開催都市としての目標は達成したと感じます。
残されたのは空気で、空はいつもどんよりスモッグで、環境問題が最大の課題です。

中国と韓国のタクシー料金

上海でタクシーに乗りました。豫園からホテルまで渋滞もあり40分乗車し42元で約670円。3月の韓国でもタクシーを利用しました。ホテルから釜山駅まで20分乗って5,900w494円。ソウル駅からタクシーでホテルまで25分6,100w511円です。
いずれも日本の一区間料金以内という安さで、ドライバーの対応も問題ありません。
韓国の新幹線の高速鉄道KTXも利用しましたが、料金は釜山からソウルまで最速2時間40分で、普通席47,900w4,014円、一等席67,100w5,622円で、サービスも問題なしです。
対する日本の新幹線、東京から新大阪まで13,750円、名古屋まで10,580円ですから、韓国KTXは日本の新幹線と比較にならない安さです。

中韓のキャッチアップ

実は、ここに韓国サムスンの伸びた理由があります。日本の技術を導入し、品質面での差が少ない上に、コストが安いので、価格が安く、結果として世界の普及価格帯商品ゾーンで、圧倒的なシェアを獲得できたのです。
対する日本は、高コスト体質ですから、パナソニックが普及価格帯商品で反転攻勢をかけようと意気込んでも、価格問題がネックとなって、シェア奪回はかなり困難でしょう。
また、上海観光地の公衆トイレ、万博を開催しようと意図した時から、今の清潔さをキャッチアップ目標におき、先進国のメンテナンス体制を導入して実現したと思います。
つまり、先進国を真似て取り入れるキャッチアップの好事例が、今の中韓の実態と判断します。

脱近代化を目指すこと

日本が高度成長を遂げた時代は、今の中韓と同じでした。先進国へのキャッチアップ過程がうまくいき、経済大国化へ走ったのです。GDPを増やして国民の暮らしをよくするという途上国型だったのです。
しかし、キャッチアップ過程を経て、GDP世界第二位になって、日本が近代化チャンピオンという勲章を受けてみると、既に、世界から見習うものが少なく、導入する産業がなくなった時点で、この体制は破綻し、もうキャッチアップという目標はとれない、という事実が分かったのです。
そこで、日本が改めて成長しようとするならば、他国ができないことを創り出すこと、他国と差をつけることしかあり得ず、これは脱近代化ということですが、今はこの目標段階に来て、新たなる自らの創造力をもって、日本を創るべきなのに、それが実現できないため、日本は低迷を続けているというのが今日の実態と思います。

脱近代化を図る方向性

脱近代化を、日本が目指す方向性と理解すれば、日本の現状に根差し、日本人の持つ個性をヒントに、一人ひとりが創造性を生み出すことで、日本全体の活性化を図ることが必要になってきます。
そういう理解でなく、脱近代化を、政府・行政が行うことだ、企業が中心になって開発することだと解釈すれば、その時点で一人ひとりの創造性とは結びつかず、実生活と離れた方向に向かい、今と同じく不活性な低迷を続けることになるでしょう。
ここは是非とも一人ひとりが参加する脱近代化を方向性とすべきと考えます。

公民館でお話したこと

先日、地元の公民館で講演しました。テーマは「地域は脳の活性所」で、高齢化社会に対応するには、地域に住む我々の脳を活性化させることが第一条件だ、という内容です。
このヒントは三菱総合研究所の小宮山宏氏が、高齢化社会こそが新しい需要を生み出し、
高齢化社会こそが「創造型需要は国内新産業技術開発」という目標を創り出すのだという主張からでした。
具体的には、本格的に高齢化社会を研究する過程から、生み出すべき新しい新技術・新商品、例えば「超安全自動車・ロボットスーツ・家事支援ロボット・自助介護ハウス・デジタルメガネ・眼や歯の再生技術・医療技術者支援製品群」等によって新産業を興し、介護や医療の負担を減らし、高齢者の社会参加を可能にすることを通じ、日本の活性化を図るというものです。
つまり、高齢化という地政学的な条件を活かすことで、新産業を生み出し活性化を図るわけですから、当然ながら各地域に住んでいる我々市民の「日々の暮らし」中に、日本の活性化のキーワードが存在しているのです。アイスランドが自国の地政学的条件とは異なる国策をもって経済成長を目指し、結局、困難化した事例に学ぶべきと思います。以上。

【2010年5月のプログラム】

4月21日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

4月23日(金)15:00〜 経営ゼミナール 特別例会
『日本の温泉、世界ブランド化への道筋』
 於:伊豆天城湯ヶ島温泉・白壁荘

5月14日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
5月17日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
5月19日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2010年04月21日 06:54

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