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2011年03月06日

日本人は武士道を理解しているか

環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年3月5日 日本人は武士道を理解しているか

ザッケローニ監督が気づいたこと

日本のサッカーはザッケローニ監督就任以後、アジア杯で優勝する等、素晴らしい活躍で国民に明るい話題を提供してくれています。
そのザッケローニ監督が記者会見で語る言葉、なかなか参考になります。

例えば、
① 欧州への選手供給源だったアフリカの立場を「アジアが取って代わりつつある」と分析。
② 日本選手の「俊敏性」「勤勉さ」をチーム強化に生かしたい。
③ 攻撃では「サイドに展開したら、もう別サイドには運ばなくていい。そのサイドで縦へ行け」
④ 日本選手が「荷物を自分で運び、試合後の後片付けまでする。今まで見たことがない」と感心。
⑤ 日本人の武士道を学びたい。
等ですが、この最後の「武士道」発言は大事です。日本人のエートスに気づいたのです。

ボルドー魂

一月は、サンフランシスコ近郊に広がるNAPA VALLEY ナパバレーに行きました。ここはカリフォルニア・ワインの産地として有名で、その名を世界にとどろかせたのは、1976年フランスのワイン品評会(Paris tasting)での優勝でした。

赤ワインはボルドーを押さえ、白ワインはブルゴーニュを押さえ、それぞれ“1番”に輝き、フランスのワインが世界一だと自負しきっていたフランス人の鼻をへし折り、映画にもなりました。題名は「ボトルショック(Bottle Shock)」です。

二月は、パリ農業祭に行き、前号でお伝えしたマンガ「神の雫」に登場する、ボルドーワイナリー女性経営者と会いましたので、ナパバレーで見たアメリカ流ワインマーケティングを伝えますと、「全く興味ありません。当方は家族経営方針を貫くだけ」ときっぱり一言です。彼女は、今年も農業祭ワインコンクールで金賞を獲得、この金賞メダルと「神の雫」を武器にし 加えて上品なフランス式応対話法で、日中韓国に営業に行き成果を上げている姿を見ると、根源に何か「ボルドー魂」といえるものがあると感じます。

最後の忠臣蔵

昨年11月、パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris)で、日本公開に先立って映画「最後の忠臣蔵」が放映され、パリ在住の若い日本人男性が見に行きました。この男性とは、映画終了後食事する予定でしたので、レストランで待っていましたが来ません。翌日、どうしたのかと聞きますと、映画の最後の切腹場面がリアルだったので、何も食べられず寝てしまったというのです。

そこで、「最後の忠臣蔵」を観てみました。確かに切腹場面は激しく厳しいのですが、食事をとれないほどではなく、改めて彼にいろいろ尋ねてみると、どうも日本で上映されたものと、フランスで事前公開された映画では、最後の切腹シーンが異なっているようでした。フランスの方がよりリアルで、切腹場面の時間も長かったらしいのです。

この映画の制作はアメリカのワーナー・ブラザースなので、海外用は日本版と異なるのかと思いましたが、最後に表示されたタイトル、それが「最後の牢人 ラスト・ローニン LAST RONIN」であったことに興味を持ちました。

ラストサムライ

「ラスト」という表現は、映画「ラストサムライThe Last Samurai」でも使われています。これもワーナー・ブラザース制作ですから、アメリカから見た日本の心・武士道を描こうとした場合の普遍性用語かも知れません。

「ラストサムライ」は2003年の公開、主人公を演じたトム・クルーズのモデルは、江戸幕府のフランス軍事顧問団として来日し、榎本武揚率いる旧幕府軍に参加し、箱館戦争を戦ったジュール・ブリュネで、物語のモデルとなった史実には、西郷隆盛らが明治新政府に対して蜂起した西南戦争(1877年)や、熊本の不平士族が明治政府の近代軍隊に、日本の伝統的な刀剣のみで戦いを挑んだ神風連の乱(1876年)であろうといわれています。

ところで、今話題のソーシャルメディアのフェイスブック、当初、「The Facebook」としていたのを、「The」を取って単に「Facebook」とネーミングにしたことが、今日の躍進につながったという話も聞きましたので、タイトルは重要です。

さて、この機会に再び「ラストサムライ」をジックリ観てみましたが、感じるところ多々ありました。それはアメリカ人が武士道を理解して行くプロセスをストーリー化していることです。トム・クルーズが捕らわれ、武士達と生活を共にして行くうちに、武士階級に根ざしている武士道に興味と関心を持ちはじめ、最後には「無 ノーマインド」感覚までも意識して行く。アメリカ人にとって、理解を超える日本という国を解き明かそうとしているのです。これは今後の武士道研究に役立ちました。

仏トウルーズ大学

パリの農業祭を終えて、フランス南部のトウルーズ大学へ行きました。ここで第二外国語として日本語を学ぶ学生達と、武士道について話し合うためです。

日本語学科の教授が受け持つ授業90分間をいただき、出席学生50名全員に「武士道ということにどういうイメージを持っているか」を尋ねてみました。

回答は「サムライ、刀、自分を見つめるもの、律するもの、七人の侍のようなもの、生き方、考え方、決まりごと、規律、誇り、精神的なもの、戦うでなく人のために働く事、社会全体の規則、ラストサムライだ、武士の新しい関係、日本人の道徳、気遣い、日本人の価値観、生活の哲学、神道・儒教が混じったもの、明治の精神、戦士の誇り、厳格なもの、従うべき法則、世界に日本の価値を見せたかったから新渡戸が書いたのだろう、戦争に通じるもの、人に対する態度、仇討、ナイトの精神、到達したい分野 」

如何ですか。かなり武士道を分かっているような感じが致しませんか。特に「ラストサムライ」を観た人と尋ねると90%が手をあげたように、日本語を学んでいる学生達故なのか、武士道に対する関心は殊の外高いと思いました。

このほかに日本人の女子留学生から「フランスにいると、何かの時に、心の中でぶつかるものがあるが、それが武士道ではないかと思う」と発言したことが印象に残りました。

日本人は武士道を理解しているか

アメリカ人のスティーブン・ナッシュ著「日本人と武士道」(角川春樹事務所)に、「政治家であれ経営者であれ学生であれ、アメリカを訪れる日本人から新渡戸稲造の『武士道』のことを聞かされることはめったにない」とあり、日本人は新渡戸稲造の武士道を理解していないので、話題にしないのではないかと述べています。

また、北野タケシは竹田恒泰(明治天皇玄孫)との対談(日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか・PHP新書)で、「羅生門をはじめ、日本映画で表彰を受けた作品は、絶対に外国に媚を売らない作品ですよ。ときどき勘違いした監督が、紋付き羽織袴姿で外国に行って、ちょっと難しい話になったら『禅』や『武士道』を出せば、外国人を騙せると思っている。だからおいらは外国でインタビューを受けると、日本の監督で『禅』や『武士道』を出すやつは信用するな、何もわかってないんだと言っています」と語っています。

世界のタケシが述べ、アメリカ人も同様な見解ですから、日本人は武士道を理解していないというのが事実ではないでしょうか。

テレビドラマ「遺恨あり~明治13年最後の仇討」

2月26日にテレビ朝日系列で「遺恨あり~明治13年最後の仇討」が放映されました。

このドラマの原作は吉村昭「敵討」(新潮文庫)で、日本の最後の仇討といわれ、秋月藩(黒田長政が開いた黒田藩の分家で5万石、初代は黒田長興、場所は福岡県朝倉市秋月)で実際に起こった事件です。このテレビを観た人から以下の質問がありました。

「主役は臼井六郎ですが、山岡鉄舟が準主役のように扱われています。このドラマを観て仇討というのも武士道の美徳だったなと思いました。いまどき仇討など流行りませんが、日本人の仇討感覚が『死刑』を肯定しているように思いますが、武士道との関係について解説願います」と。

今月16日の山岡鉄舟研究会で「遺恨あり」を取り上げ、武士道と関連つけて考察いたしますが、日本人は「武士道」を正しく妥当に把握しておくことが重要と思います。以上。

投稿者 Master : 2011年03月06日 10:18

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