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2010年11月20日

フランスに学ぶブランド化戦略(後)

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年11月20日 フランスに学ぶブランド化戦略(後)

パリ農業祭の牡蠣審査会場に入る

前号ではパリ農業祭で、牡蠣審査会場に入ったところまでお伝えしました。このように農業祭の審査の様子をお伝えするのは、今まで誰も行っておらず、日本初のことからです。何故なら、日本では同様全国レベルの生産物審査会が存在していないからです。

さて、審査室に入って全体を見回しますと、牡蠣は17テーブルが審査席で、15のカテゴリーに分けています。

その区分けはブルターニュ地方の牡蠣は5カテゴリー、ノルマンディー地方は2カテゴリー、ロワール地方は2カテゴリー、ポワトゥー・シャラント地方は3カテゴリー、アキテーヌ地方(アルカッション)、地中海地方牡蠣、平牡蠣(フランス産の牡蠣・生産数は少ない)の15カテゴリーです。

全部を全般的に見るのは、返って審査実態がわかりにくいので、一つに絞ろうと14カテゴリーの地中海地方牡蠣テーブルに的を絞り、ここには四人の審査員がいて、そこの回りに立ちました。ここに絞った理由は、地中海の海が瀬戸内に近いと思ったわけです。但し海域の広さが全然違っていますが、何となく瀬戸内播磨灘が浮かぶからです。

10時になり最初は、白いガウン姿の若い女性が、最初の牡蠣を皿に盛って運んできました。数は12個。殻を開けられているものが6個、殻つきが6個。いずれも養殖業者自慢の牡蠣です。どこにも名前は書いてなく、誰のものか分からないようになっています。

実際の審査項目

いよいよ審査が始まりました。審査項目は以下のとおりで、各人に用紙が配られます。用紙には6項目のチェック内容が書かれていました。
① 殻の外見 ②身の見た目 ③匂い ④味 ⑤後味 ⑥貝の内側面

この項目について、それぞれ次の5ランク評価を行っていくのです。
① 不十分 ②並み ③良 ④上等 ⑤優秀

これが終わった後、全体的な点数評価をつけます。1から20点まで。最後にコメントを書き入れるのですが、これを6皿ごとに行うのであるから、大変な手間です。

四人がそれぞれ開けられた牡蠣を手に取り、また、開けられていない牡蠣をナイフで剥き、それぞれの方法で見極めを始めました。

実際の審査方法

殻の上下、蝶番の位置、この蝶番のバランスで自然ものか三倍体牡蠣かが分かるようです。三倍体牡蠣とは人口交配でそだてたもので、日本では殆ど見かけません。

さらに匂いをかぐため鼻に持っていく。開いている牡蠣の中身を手で触って弾力性を確認する。フォークで中身をすくって身の状態を確認し、貝柱の位置を見るなどします。

次に食べてみる。口の中に広がる味わいを確認するかのように噛みしめる。次に食べた殻の中側を手で触り、肌触りと色具合を見ます。

つまり、わずか10センチにも満たない牡蠣一つひとつに、これだけ慎重に四人が確認し、その結果をお互いに発言し合うのです。

例えば、これは野性的だ、自然な形がよい、味が強そうだ、色がよい、ヨウ度が強い、地中海らしい、牡蠣殻の独特の文様が濃い薄い、肉付きがよい、厚みがある、匂いが全くしない、これは腐っているので危ない、殻のところに穴があいて海水が入って死んでいるのだ、後味が良い等、全部は書ききれませんが、とにかく真面目に真剣に一つずつ確認し、それを表現しつつ、かつ、お互いの見解を確かめあい、それを審査表に書き込み、さらに、各人が持参した別のメモ用紙にも記録用として書いておきます。審査表は事務局に提出してしまうので、別用紙に記録しておかないと自分の見解がわからなくなるからです。

各テーブルを見回すと、男性が多いが女性も必ず各テーブルに一人か二人います。こういうところからもフランス社会を垣間見ることができます。女性の社会進出が進んでいるのだと思います。

最後に評価が決まる

このような牡蠣の審査、それを6皿続けるのです。途中で口にするのはミネラルウォーターとパンだけ。ひと皿に20分から25分掛けています。終わったのが12時少し前。約二時間要したわけです。

さすがに集中し、続けて6皿、つまり72個の牡蠣を四人で審査していると、審査員としての意見が概ね一致していくようです。

良いものと、そうでないものが明確になってくるのです。勿論、ここに出てくる牡蠣なのだから、地元では優れているものばかりですが、この場所で同時間帯に同一基準で審査すると優劣ははっきりしてきます。

6皿全部が終わった後、次はまとめに入ります。一人一人が金賞に値する皿の番号を述べ、その評価点を合計すると75点、二番目に運ばれてきた皿の牡蠣が、このテーブルでの金賞となりました。五番目の皿が73点で銀賞、これを全員で確認し審査は無事終了しました。

終ってホッとした審査員のところに、事務局の女性が、審査用紙を回収しながら、白ワインを一本置いていきます。なかなか気がきくなぁと全員で「お疲れ様」と乾杯して終了しました。

審査の結果は、数日後、コンクール物品ごとに会場に張り出されます。コンクールメダルは金、銀、銅の三つで、牡蠣部門は15のカテゴリーごとに与えられるのです。

審査会を経験してみて

以上が、農業祭での「牡蠣審査会」の様子です。このパリ農業祭には、ここ五年ほど毎年視察しています。今までは、一般参加者として会場内を歩き回るのみでした。

 今回、初めて農業祭運営の大きな柱である審査会の裏方を視察したわけですが、コンクールの結果は、該当品の評価として高く認識され、その地のブランドとして育成させ、定着させていくシステム、これがフランスを世界第一の観光客数にさせている源泉ではないかと認識した次第です。

 つまり、地域の産物を競い合って、レベルを高めあい、その結果としてコンテスト入賞品はその土地の自慢物として、自信をもって推奨物としていく。

 自分の土地からはこのような素晴らしい産物が生まれるのだ。だから、皆さん来てください。国が認めてメダルをくれたブランド品だから美味しいですよ、と自慢し、訪れる観光客に語りかけるのです。語りかけられた観光客は「そうですか。メダル品ですか。それで美味しいのか。お土産にしょう」ということで買い求め、自宅に戻ってお土産として配る際に、産地で聞いたブランド評価の内容を口にし、聞く方も国が公式に認定しているコンテストの入賞品だから、成程と頷くのです。

 これが150年近く、毎年繰り返されているのです。今では世界の関係者に知れ渡り、私のように毎年農業祭を見回って、その後フランス各地を回った時、その地の産物に入賞メダルがかかっていると「おめでとう」とそれを飲み食べることになっていきます。

 観光地の育成には、ハコモノづくりだけに執着するのでなく、著名人の訪問等のイベント的PRだけに特化するのでなく、専門性をもった日常的な相互研鑽交流活動、これは農業祭のような国主催のコンテストを意味しますが、これらがミックスした「総合観光力」が必要なのです。それを地道に150年近く続けているのがフランスの強みで、ここに世界一の観光客数維持の秘密があると判断したわけです。

日本はどうなのか

日本にこのような全国的な物品・産物が一堂に会したコンクールはありません。各地方、各県、各市町村で開催する事例は多くあるでしょうが、政府主催で全国区のものはなく、これはフランス以外の国でも同様と思います。

 日本は、現在「観光大国」を目指そうとしているわけで、その方向は正しく妥当ですが、そのためには日本の各地の観光地と、各地方の産物が世界で認識されることが重要だろうと思います。

 そのための仕組みつくりの一つとして、今回の農業祭審査会の実態を日本の関係者に参考にさせアドバイス願いたいと、2010年10月のパリで農業祭コンクール事務局長のフース氏に会い伝えたところ、日本における同じようなコンクールの実現にぜひ力をお貸ししたい、という力強い協力の申し出がありました。

日本の観光関連部門に所属している方、この申し出を真剣に検討されたい。ご希望の方から連絡を乞う。以上。

投稿者 Master : 2010年11月20日 04:56

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