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2010年11月06日

2010年11月5日 フランスに学ぶブランド化戦略(前)

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年11月5日 フランスに学ぶブランド化戦略(前)

童謡歌唱コンクール

 まず、山岡鉄舟研究会のメンバー高橋育郎氏の活躍を報告いたします。 
11月3日、五反田の「ゆうぽうと」で開催された「全国童謡歌唱コンクール・大人部門」でグランプリを受賞したのは愛知県豊田市の宮内麻里さんで、歌は高橋育郎氏作詞の「大きな木はいいな」でした。

高橋氏は著名な作詞家です。偶々10月の鉄舟会例会で「何故に童謡はグローバル化がなされないのか」というテーマで、縷々お話が展開され、その際に今回のコンクールの事も紹介されましたので、会場に伺ったのです。

 折角行ったのですから、舞台から三列目でじっくり童謡を楽しみましたが、グランプリの宮西さんが歌い終わった時「この人が獲得するだろう」と直感しました。

 その理由は、歌い始める前の紹介で「新しい歌詞を探していたところ『大きな木がいいな』に出会い、自分の心に深く入ってきた」とあり、彼女と歌詞の一体化が会場内に大きい波となって流れ、場内の拍手も一番多かったと感じたからです。

 この日の模様は11月28日(日)BS朝日で15時から放送されますので、ご関心ある方は是非ご覧いただきたいと思います。

 しかし、これだけの規模でコンクールを展開している日本の童謡が、世界では無名に近いということに驚きます。童謡を素晴らしい日本ブランドとして磨くべきでしょう。

日本磨きをすべき

さて、本題にはいりますが、先日、フランス人のジャーナリストから慰めとも、アドバイスともとれる忠告を受けました。
「フランスは昔からずっと低成長経済で失業率も高い。この実態に国民は慣れ親しんでいる。日本人はここ20年ばかり低迷しているが、そのうち慣れるよ。そんなことを気にするより、もっと日本磨きに邁進した方がよいと思うよ」と。

この発言にいたく共感しました。というのも、私は70年代から毎年しばしばフランスを訪れていますが、日本が高度経済成長を示した時代は「日本は蟻のように侵略してくる」と当時の仏首相が発言したように、日本の経済進出が欧州で強く警戒されていました。

だが、バブル崩壊後は、経済面と逆比例するかのように、日本文化・観光面での人気がじわじわと高まってきました。冒頭のフランス人ジャーナリストの発言は、その特長をもっと伸ばし、深める方策を検討した方がよいというアドバイスと理解をしたからです。

日本人気体験

日本人気を海外でしばしば実際に体験します。先月、フランス南部トウルーズ市郊外の中華レストランでの昼食時、中年夫婦がこちらのテーブルに来て「日本人ですか。日本旅行から戻ったところだ。素晴らしかった。もう一度直ぐに日本に行きたい」と絶賛の嵐。私はただただ笑顔で「メルシー」と頷くだけでした。

また、ジャンヌダルクが火あぶり死刑なったところで有名な、ノルマンディー地方・ルーアン市郊外の村、そこの公民館で開かれた「香水愛好家の集い」に出たところ、ここでも中年の夫婦から「日本人か。四カ月前に日本中をバスで回った。皆よかったが、特に高山は気にいった」と褒め称えられ、面目をほどこした次第です。このように外国で日本人気を直接聞くことが多々あります。

フランスは不便・不潔な国だが世界一の観光客数

ところで、フランスは失業率が高く、ストライキも多く、今回も年金支給年齢二歳延長法案に反対して全国的なストライキが発生し、交通手段が遮断された上に、タクシーも石油精製工場ストでガソリン不足のため稼働台数が少ない等、移動には大変困り、ようやく動いたTGV一等車の四人席は前の人と靴が触れるほどの狭さ、さらにトウルーズ市内はゴミの山であったように、決して快適・便利とは言えず、加えて、パリの街路にはいつも犬の糞が散乱して不潔、しかし、それでもこの国は世界一の観光客を集めています。

具体的実数では7,930万人(2008年)と断トツで、二位のアメリカを2,000万人程度離しています。対する日本は、フランス人から褒められても観光客が全く少ない。どうしてなのか。もしかしたら世界遺産の数の違いか、それとも他に理由があるのか。

世界遺産の数は関係なし

世界遺産の数はイタリアがトップで44か所(2009年)、33カ所のフランスより11か所も多いのですが、観光客数は第五位の4,273万人(2008年)ですから、フランスの約半分の実績に過ぎないのです。ということは世界遺産という優れた観光地があっても、必ずしも観光客数に結びつかないということであり、逆にいえば、世界遺産以外の根本的な集客要因がフランスにはあるはずと考えるのが妥当と思います。

文化・観光ブランドづくりが強さの秘訣

それは何か。結論的に言えば「文化・観光ブランドづくり」の巧みさではないかと思います。一国の強さを経済力とか、軍事力とか、科学力というようなことで評価する事例が多くみられますが、フランスはこれらと別次元の「ブランド力育成に優れている」というところにあるのではないかと実感します。

つまり、自然や街・歴史景観と各地で産出される物品をシステム化し、マッチングさせ、観光文化国家像を鮮明化させる政策がフランスの得意技なのです。

日本が観光大国になるためには、そのところを観光政策部門や観光地・産地が学び参考にし、国家としての仕組みづくりに取り入れていく必要があり大事だと思いますが、このブランド力構築の仕組みの一端を確認できる機会をこの春に得ました。

ブランド力構築の仕組みの一端を確認

それは、今年3月に開催されたパリインターナショナル農業祭(通称:農業祭)の運営事務局から、牡蠣部門の審査に参加するよう招待され、実際の審査実態をつぶさに見ることができたことから気づいたのですが、今回はその様子をお伝えすることで、フランスのブランド作り仕組みの一端を解明したいと思います。

農業祭とは

さて、この農業祭、パリ市民にとっては、春の代表的な楽しみ大イベントですが、日本人にとっては全く馴染みがありません。

そこで、まず、最初にパリインターナショナル農業祭の概要をお伝えします。
フランスでは、18世紀に発足した農業振興会による家畜コンクールに発端、1870年にパリで公式に全国農業コンクールとしたのが始まりで140年の歴史があり、現在、農産業関連ではフランス最大のイベントになっています。

また、各種のコンクールも動物のみから各地の特産物に拡大発展し、国の食品農業水産省管理下における公式コンクールとして、その公平さによって賞の価値が高く認識され、金賞・銀賞・銅賞は名誉として、該当品目のブランド価値評価となっています。

今年の農業祭

2010年の農業祭には、フランス22地方、海外県、及び17カ国が参加し、品評される生産物は、ワイン15000種、その他様々な生産物4000種で、開催9日間での入場者数は65万人、サルコジ大統領も訪れるフランスの重要戦略コンクールになっています。

審査会場に入る

牡蠣審査は農業祭の開催初日に実施され、当日の朝、9時半過ぎに審査する部屋に案内され、入り口で一人ひとり名札を確認の上入ります。部外者は立ち入り禁止です。ここで審査され金賞・銀賞をとれるかは、今年一年間の営業に大きく影響するからで、それだけここの品評会は歴史と伝統と権威があるのです。

この会場で審査されるのは、牡蠣と鱒等の燻製魚、それとポモーと呼ばれるブルターニュやノルマンディー地方で作られる食前酒です。牡蠣の審査会場の白い布で覆われたテーブルには、既に水とパンが人数分置かれ、各テーブルに番号が書かれ、審査員は出席名簿にサインします。

以上は、今年の9月に出版した「世界の牡蠣事情」第一章「パリ国際農業見本市」の内容です。日本の観光大国化という視点からご紹介しました。11月20日号に続く。以上。

投稿者 Master : 2010年11月06日 06:20

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