« 日本の観光大国化への提言(その一) | メイン | 2010年7月例会の実施結果 »

2010年08月20日

日本の観光大国化への提言(その二)

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年8月20日 日本の観光大国化への提言(その二)

前号に続いて日本の観光大国化への提言です。

パリから電話

 パリ在住の主婦から電話が度々あります。家内の長い友人ですが、今日は家内が旅行で留守でしたので、代わりに長電話受けました。
 この夏、パリは寒いくらいとのこと、8月15日は最高17度・最低14度、16日も同じ気温、17日は19度―16度、18日は20度―12度です。
 彼女は日本の暑さをよく知っています。というのも息子と娘が夏休みに日本に来たのです。

小平市の友人所有の空き家を拠点に、毎日、西武新宿線で新宿を通って東京見物、結果はすっかり東京の魅力の虜になり、パリに戻ってからも日本の暑さに参ったとは一切言わず、「もう一度日本に行きたい」と言い続けているそうです。

フランスの少年少女から東京を見ると、我々が見慣れている繁華街の新宿・渋谷・原宿のようなところはパリにはなく、魅力に溢れているのです。同様なことは他の国の人からもよく聞きます。東京の街中は世界の観光名所になっているのです。

そういえば、山岡鉄舟研究会で上野公園探索会をしましたが、公園内にも徳川将軍の墓がある寛永寺墓地内にも、外国人が大勢地図持って歩いていました。これは日本人がパリのモンバルナス墓地を訪ねるのと同じ感覚なのでしよう。

ノルウェーから日本を見ると

ノルウェー水産物輸出審議会日本事務所代表のハンス・ペター・ネス氏が、日本経済新聞で日本のイメージについて次のように述べています。(2010.7.26)

「ノルウェーの平均的なビジネスマンで日本の政治・経済、スポーツの話題を話せる人は少ない。日本へ
の興味の対象は、最新の話題やニュースといった時事的なものではなく、恒常的な、いわゆる日本的なもの。例えば食べ物、電化製品、車、伝統文化、マンガだ。

 ノルウェー人がとても良いイメージを持っているものとして、まず日本食がある。だれもが寿司を思い描き、多様な食文化と比べると知識が偏っているのだが、逆の見方をすれば、食に関するビジネスでのポテンシャルが大きいといえる。

 日本製品が海外で信頼を築いている理由として、質の高い電化製品と車の存在がある。電化製品では韓国勢が売り上げを伸ばそうともメード・イン・ジャパンに対するイメージが揺らぐことはなく、日本車の性能や品質、技術力の高さに魅力を感じ日本車メーカーをひいきにするノルウェー人も多い。

 近ごろ、急速に人気が高まった日本製品としてはマンガがある。子どもや若い人たちへの影響力の高さには驚くばかりだ。ある15歳の男の子は日本に行きたい理由として、マンガを挙げた。

 日本に対する好意的なイメージは大いに歓迎したい。興味がより深い知識への入り口となり、日本企業が製品やサービスを展開する有効なきっかけとなればよい」

日本の魅力

この内容は私が世界各国を頻繁に訪れ、その国の人々と話し合う中で感じる日本へのイメージと正に同じでして、これが日本への外国人の平均的な概念と考えてよいと思います。

一般的な日本人は、自国の政治や経済について、情けないとか、だらしないとか、元気ないといって悲憤慷慨している人たちが多く、先日もお会いした一部上場企業幹部も「日本は悲劇的だ」と発言していました。

だが、世界の人たちからの日本への関心は、そんな政治や経済のことではなく、日本人の生活に密着したモノに好意的な感覚を持っているのです。この事実を、しっかり日本人は確認しなければいけません。考えてみれば日本の魅力はいっぱいあります。

日本が持つモノで世界的なレベルで光彩を放っているものに、茶道、華道から始まり、工芸、織物、染色。最近では建築家が世界をリードし始め、さらには和歌、連歌、俳諧、古典文学の数々。次いで日本料理、日本家屋、日本の祭りとかの年中行事といった生活文化。まだあります。能、狂言、歌舞伎、文楽という舞台芸術。柔道とか剣道、空手、合気道、まだたくさんあるでしょう。

日本人の生活に密着していて、海外で全く知られていない事例を、敢えて挙げれば「童謡・唱歌」くらいではないでしょうか。子供時代の郷愁を誘う「童謡・唱歌」が世界に人々に受け入れられていないのは不思議な物語です。

日本は好印象の国

ユーロ大統領のファンロンバイ氏は俳句が趣味ということは有名ですし、パリには「SUZUKAKE NO KAI」という著名人で構成する日仏親睦団体があり、その一人のお宅に伺って、屋上の庭園を拝見したときには驚きました。2000年に二カ月に渡って北海道の礼文島、利尻島から沖縄の与那国島まで回って、日本の草花を採集し、それで屋上に日本庭園を造っていて、この手入れが最高の楽しみというのです。また、書道も好きで、書道展にも出品するほどの腕前です。

ドイツの各都市には「独日協会」があり、毎年一回持ち回りでドイツ全国大会を開いているほどです。何度かこの独日教会に参加しましたが、とにかく日本好きが集まっていて、日本のイメージは好印象で受け取られています。

一部上場企業幹部による「日本は悲劇的だ」という発言、これとはまったく異なるのが、世界から見る日本なのです。

レスター・サロー氏の見解に対して

ところで、日本人は新しいビジネス構築が下手だとマサチューセッツ工科大学名誉教授のレスター・サロー氏が以下のように述べています。(日経新聞2010.8.1)

「日本に必要なのは新しい企業だ。日本のほとんどの新興企業は、米占領下の第二次大戦直後に生まれた。2000年以降に誕生した企業をいくつ挙げられるか。米国では00年以降に誕生した企業が経済を下支えしている。米国文化の方が経済成長に適している。我々は産業主体の経済から知識主体の経済に移っている。ジョブズCEOやビル・ゲイツ氏、ウォルト・ディズニー氏がつくり出すような知識だ。人々は楽しいものには金を払う。今の日本にはあまり楽しいことがない」

 この発言は傾聴に値します。成程と思いますが、一部は的外れであるとも思います。例えば、前号で紹介したNYのイーストビレッジ地区の屋台村、「B級グルメ」を楽しみたいから大勢集まってくるのです。

日本社会には身近に楽しいことがたくさんある実例がNYの屋台村ですが、このようなことは既にブラジル・サンパウロでは昔から常識です。サンパウロの日本人街リベルダージ駅前の広場、ここは日曜日になると屋台がたくさん出ます。ヤキソバ、今川焼き、お好み焼き、焼き芋、天ぷらなど。観光客よりは地元サンパウロ住民の方が多く、広場を歩くのに苦労するほどの賑いです。「B級グルメ」はブラジルで昔から大人気となっていたのです。

システム化が課題

この「B級グルメ」、日本の各地で最近大人気だと、前号で岡山県日生町「カキオコ」の事例をお伝えし、海外でも同じく人気になってきつつあります。

しかし、ここで心配なのは、「B級グルメ」ブームを、このまま個々の民間業者に任せたままにしておくと、日本国内向け、日本人対象にだけで終わる可能性が高く、世界中に「B級グルメ」を発信できず、海外に大きく発信しないから、レスター・サロー氏は知り得ず「日本にはあまり楽しいことがない」と指摘受けることになるのです。つまり、日本の観光財産に引き上げられません。

既に日本食は世界で受け入れられ、次は「B級グルメ」まで海外で人気となりつつあるのですから、その魅力を海外へ発信し観光客を増やすこと、それを折角に観光庁があるのだから、国が乗り出して観光客誘引システム化策をつくるべきでしょう。

観光庁が予算化して進めた電信柱を地下に埋めることが、観光客誘致の目玉だという貧弱な発想ではダメだと思います。世界から見た日本の魅力実態を知れば策はいくつも考えられるのです。

しかし、策を考えようとするならば前提条件があります。思考方法の転換です。日本人が大得意な「日本から世界を見る」という思考でなく、「世界から日本を見る」という発想に転換しなければならず、これが観光庁の仕事ではないでしょうか。

日本の「普通」を外国に「魅力」として紹介するシステム確立、これが観光大国化への新しい策です。以上。

投稿者 Master : 2010年08月20日 10:42

コメント