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2010年08月20日

日本の観光大国化への提言(その一)

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年8月5日 日本の観光大国化への提言(その一)

蚵仔煎・オーアーチェン

世界には日本と異なる習慣が存在する。国が違えば生活習慣が異なるのは当然で、何も不思議ではないが、その違いを現地で体験すると、改めて驚くことが多い。
日本では牡蠣は秋口から春までの寒い時に多く食べ、スーパー店頭では夏場に牡蠣はおいていないのが当たり前である。

ところが、隣の台湾では牡蠣は夏場に食べるもの。台湾で牡蠣を食するサイクルは台風が基準となっている。台湾は太平洋と南シナ海・東シナ海・台湾海峡に囲まれている島なのでので、台風が毎年多く直撃する。従って、9月は海が大荒れになるので、牡蠣養殖作業はできない。

そこで台風が去った10月から3月まで種付けから養殖作業の期間となって、牡蠣を食べるのは4月から8月の間となる。このようにすべては台風という自然条件によって、春から夏場にかけて牡蠣を食べることになる。

ここが日本と大きく違うところだが、台湾環境条件に合致しており、なるほどと思いつつ、この暑い中、台湾へ「蚵仔煎・オーアーチェン」、ガイドブックに「小ぶりの牡蠣が入った屋台定番料理のオムレツ。甘辛のタレをかけて味わうもの」と書かれているが、実際には牡蠣のお好み焼きに該当するものを食べに行った。

まず、台湾で最も有名な牡蠣産地の、台湾海峡に沿った海岸・雲嘉南濱海国家風景区の東石牡蠣養殖場に行き、そこで漁師さんに船を出してもらい筏のところまで行き、海から引き揚げた牡蠣をビニール袋に入れ持ち帰って、宿泊する台南市の一流ホテルで蚵仔煎を作ってもらおうと依頼してみた。

因みに、このホテルは欧米式の階数表示である。17世紀中期のオランダ統治時代に台南に拠点を置いた関係で、日本の一階は地上階表示となっているが、そのホテルからそのような大衆的料理は扱わない、という丁重なお断りを受け、仕方なく一般大衆が食する下町地区にタクシーで向かって、海鮮レストラン永上海産碳(たん)烤(こう)という店に入った。この店はどこにもドアがなく、道路との境がよくわからない状態の店、隣も道路の向こう側の店も同様の地区で、当然に、地元の人の集まるところ。

ここに牡蠣を持ち込み、ガイドが紹興酒と屋台で買ってきた魚を煮込んだスープみたいなものも持ち込んで、蚵仔煎を料理してもらいたいと頼むのだから、こちらも相当の図々しさである。近くで爆竹が派手に鳴っていて、支払いはカード出来ず現金のみであったが、牡蠣のお好み焼きなら日本でもあるなぁと酔った頭で思いだした。

「カキオコ」

それは「カキオコ」である。牡蠣のお好み焼きを略すると「カキオコ」になり、それは岡山県備前市日生(ひなせ)町の「B級グルメ」だという。

「B級グルメ」とは何だろうと、台湾から戻って早速日生町の観光協会を訪れた。竹林沙多子さんが一人で頑張っている観光協会で「B級グルメ」お聞きすると、それは贅沢でなく安価で日常的に食される庶民的な飲食物とのことだと、ご教示受けた。

なるほどとようやく理解して、次にジューシーなカキの風味とおねえさんとの楽しい話が味わえるまち『日生』」と書かれたカキオコ店のマップをいただき、説明を受けていると、次第にカキオコへの期待が高まって、ちょうど昼時、お腹が鳴りだしたので、マップに記載されている「タマちゃん」に向かった。

JR日生駅の次の駅、寒河(そうご)近くに「タマちゃん」はあった。自宅を改装した店づくりでオープンして8年目。建築業から転身した両親と息子夫婦で経営している。道路に面した自宅スペースの前に「日生カキお好み焼き研究会」の幟が立っている。へえー牡蠣も研究会があるのかと思いつつ、店に入って早速にカキオコを注文。

すると、この店の息子らしき若き男性が、大きな鉄板に最初はサラダ油で、最後にオリーブ油を加えると加熱が高く味が締まるのがコツだと解説しながら、冷凍ものの日生特産の肉厚な牡蠣を中に入れて焼きだした。見ていると、一般的にお好み焼きは焼きながら上からフライ返しで抑えるが、ここでは抑えない。ファっとしたものにするためと、親父が婿なので抑えられないという意味もあると笑いながら。

その厚みのある表面に、自慢の自家製のソースと、アンデスから取り寄せた岩塩とで、半分ずつ味付けする。二つの味が味わえるから試してくださいという言葉に、期待のカキオコを食べてみた。一口食べてみて美味いと感じる。それも上品な味である。店舗づくりは田舎風だが、味は都会風だと評すると、息子はまたニコッと笑う。価格は900円。

実は、この日生町でカキオコがはじまってから、日はまだ浅い。平成13年(2001年)の冬、赤穂市から岡山市の県庁へ電車通勤しているひとりの人物が、偶然に日生で昔からの「カキお好み焼き」を食べたことをきっかけに、日生在住の通勤仲間や他地域の仲間に呼びかけて「カキオコ食べ歩き調査」を実施し、翌年の1月に「日生カキお好み焼き研究会(略称:カキオコ研)」を立ち上げ、日生町に活気を取り戻そうとはじめたのである。今では各地のB級グルメフェスタに参加するほどの知名度となり、観光協会の竹林さんに全国から問い合わせが来るほどの盛況さとなった。

これは日生町の海が所属する、播磨灘牡蠣を活かした地域起こし成功例であるが、このような事例は全国に数多くあるに違いないと、カキオコの経験で思った。

「B級グルメ」

そう思っていたところ、近所の自動車ディラーから連絡があり、ハガキで応募した賞品が当たったというので、受け取りに行くと埼玉県鳩ケ谷市の「焼うどんソース」を「B級グルメですが」と言いながら渡された。そこで早速、このソースをかけて食べてみると、ブルドックソースも真っ青というほどの美味さである。以後、この「焼うどんソース」を専ら愛用している。

 これで分かったことは日本全国各地に「B級グルメ」がたくさんあると推定できることで、日生町のパンフレットにも「姫路おでん」「高砂にくてん」「津山ホルモンうどん」「府中焼き」「出雲ぜんざい」等が掲載されている。

「B級グルメNYで人気A級」

これは日本国内だけのことだと思っていたら、「B級グルメNYで人気A級」(日経新聞2010.8.1)が掲載された。

内容は「7月中旬の週末、マンハッタン南東部のイーストビレッジ地区の一角に屋台村『ジャパンタウン』が出現した。並んだのは、お好み焼きやたこ焼き、焼き鳥、ラーメン、ギョーザなどを売る約40店。平均5ドルの日本食を目当てに、主催者の推定では5万人もの人々が集まった。あまりの混雑に警察が出動、入場を規制するほどだった。 『ピザみたいで好き』と割りばしでお好み焼きを食べる女性(22)。ニュージャージー州から友達とやってきたという高校生、トム・ヘイドンさん(16)は焼き鳥が好物だという。『日本のアニメも好き。日本に旅行するのが夢』と目を輝かせた。・・途中略・・

 日本の『ソフトパワー』とされるアニメやグルメ、ストリートファッションなどの情報はインターネットを通じて米国の若者らに時差なしで届く。日本への興味は、より生活に密着した『日常』に向かっている。
 日本政府観光局(JNTO、東京)の2009年の調査によると、日本を訪れた米国人観光客が訪日前に期待したこと(複数回答)は『日本の食事』が歴史的建造物などを抜き、初めて首位に浮上。すしやてんぷらだけでなく、おにぎり、そば、焼き鳥など庶民的な味への関心が高まっていることも明らかになった」

 この内容はよくわかる。筆者がNYに住む米国人親娘を荒川区町屋の普通の居酒屋へ連れて行ったところ、店に入る前は「今日は昼食が遅かったからあまり食べられない」と言っていたのに、実際に料理が運ばれてくると「こんなに美味い食べ物は初めて」と、次から次へと出されたものを全部食べてしまったことがあった。この時に、日本人にとっては普通の食べ物が、外国人には宝物になっていると実感した。日本の街中には、日本人は分かっていないが、外国人とって魅力的なものがたくさんあると感じたのである。

この続きは20日号。なお私が司会を担当する清話会主催シンポジウム「日本を観光大国化するためには」を9月14日(火)14時~16時30分、会 場  お茶の水ホテルジュラク2階「孔雀」で開催します。ご興味のある方は清和会にお申し込み願います。
http://ameblo.jp/seiwakaisenken/entry-10598689152.html 以上。

投稿者 Master : 2010年08月20日 10:34

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