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2010年06月06日

2010年6月5日 ギリシャ問題

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年6月5日 ギリシャ問題

企(つまだ)つ者は立たず、跨(また)ぐ者は行かず
 これは老子の言葉で、意味は「つまさきで立つ者は立ち尽くすことができず、大股で歩く者は長く歩くことができない。功を急いだり、人目に立つように自分を見せびらかすような人は、長続きしないし、成功はおぼつかない」。
 要するに、自分の実力以上に無理すると、息切れするという意味で、正に、これはギリシャに該当すると思っていますので、その理由を以下に述べたいと思います。

ギリシャの問題は予測できた
現在、月刊ベルダ誌で「世界よりみち紀行」(ペンネーム・南石堂)を連載しておりますが、ギリシャについて昨年2月号で以下のように書きました。
「欧州単一通貨であるユーロは、1999年1月に11カ国からスタートし、その2年後にギリシャが、続いてスロベニア、キプロス、マルタが導入し、今年元旦にスロバキアが加わりユーロ圏は16カ国になった。だが、ユーロ導入以後7年経つギリシャが、このように社会的安定を欠く実態とすれば、米ドルに代わってユーロが世界の基軸通貨になることは難しいだろう」と。
正に、このような危惧が当たりそうな状況です。今はユーロ売りが少し落ち着きましたが、今年前半の新聞記事をつぶさに追っていくと、EU金融当局、それはEU政府とECB(欧州中央銀行)や、独仏のEU強国政府を指しますが、これらが対策をとった直後に投機筋から売り込まれている状況が分かります。結果として、ユーロを今後の基軸通貨として認識判断し、保有した各国の中央銀行などは大損害を被っています。

何故予測できたか
 ギリシャには2008年3月に訪問しました。その時の印象が強烈で、これはEUユーロ圏の一員として問題だと感じたわけでして、それをいくつか紹介します。
① 空港からアテネのホテルまでタクシーで向かい、アテネオリンピック開催にあわせて整備した高速道路を快適に走った。だが、高速を降りた途端に酷い渋滞。運転手が大げさに手を上げ何か叫ぶその窓向こうに、窓拭きや物売りの若い男が大勢いる。これを見ておやっと思う。ヨーロッパ圏では珍しい。南アフリカ・ヨハネスブルグやインド・ムンバイでは普通の光景だが、ヨーロッパの国々で見かけない物売りだ。
② 次に気がついたのは、タクシーの運転手や信号で物売りしている若者たち、通りを歩いている人たち、その顔や体つきを見ていると、ギリシャに来たとは到底思えない感じだ。
この感覚は1989年11月に、初めてアテネに来た時も感じた。その時もひとりで訪れ、街中を歩いているうちに、今、ここアテネに住んでいる人たちは本当にギリシャ人なのか、という疑問を持った記憶が強く残っている。
古代ギリシャ人の彫刻は国立考古学博物館に行くとたくさん展示されているし、ギリシャ文明を義務教育で学んでいるので、古代ギリシャ人のイメージはしっかり脳に残っている。すばらしい理知的な瞳と顔立ちをしているブロンズ像でギリシャ人のイメージが固まっている。
だから、街中を歩いている人たちは、皆古代ギリシャ人のブロンズ像のようであることを期待し、その確認のためにアテネに来たようなものであるが、実際のアテネを歩いている人たちは、随分異なる。違った国に来た感じだ。
③ 空港から利用したタクシー、メーターがあるので安心し激しい渋滞の車中から、ゼウス神殿とパルテオン神殿に見とれていると、急に狭い路地に入って行き、路地から再び大通りに出るところの角にくると、「あれがホテルだ」と指差す。
大きな建物のホテル名を確認し、間違いないと思い、支払いをしようと思ってメーターをみると、数字は全く消えている。路地から大通りに出る角までのメーター金額は確か13.50ユーロだった。運転手にいくらだ、と聞くと28ユーロだという。一瞬、ホテルのボーイを呼んで、タクシー運転手に文句言ってもらおうと思ったが、これもアテネでの貴重な実体験と思い支払う。すると、25ユーロの領収書と、高速の2.70の領収書をこちらに渡してくる。もう領収書が手書きで用意されていたのだ。
④ ホテルに入り、改めてギリシャを地図上で見てみると、ヨーロッパの東南部、地中海のイオニア海とエーゲ海に挟まれたバルカン半島の南端に位置している。イオニア海の向こう側のイタリアとは海があり陸続きでない。だが、アルバニア、マケドニア、ブルガリアとは北方国境を接し、驚いたことにトルコと陸続きなのである。
   ギリシャはヨーロッパである、というイメージを持って訪れると妙な感覚になる。立地しているのはバルカン半島の突端、回りは東欧諸国とイスラムのトルコ、当然に近東諸国の影響を受けている。
   近東(Near East)とは、バルカン諸国、トルコ、シリア、エジプトなど旧オスマン帝国に対するヨーロッパでの呼称であって、これらの国々に囲まれているのであるから、ヨーロッパ的雰囲気というよりは、実際に見かける光景や食べ物は、バルカン・近東なのだ。
⑤ 夕食はバルカン・近東の雰囲気を持つ、観光客で一杯のプラカ地区で食事をし、ホテルに戻るべく、アクロポリスの丘を遠くに眺め、迷路のような細い路地裏を歩いて、大通りに戻り、交差点に立ち、そこにいる多勢のアテネの人たちを見ていると、再び、今のギリシャ人は本当に古代ギリシャ人の末裔なのであろうか、という疑問を強く持つ。
この疑問について、後日調べて解明しましたが、これを述べ出すと長いので次回として、次にアテネの主婦から送って来た最新の状況をお伝えします。

ギリシャからの便り
アテネに住む主婦から最新の状況連絡を受けました。
「ギリシャ経済は今大変で、最初は、たいしたことはないだろう。又ストライキでもすれば・・・などと高をくっていたギリシャ人も、ここへ来て、あせっています。
 とにかく、公務員だらけのギリシャですから・・・。共働きで学校の先生をしている人たちや、共働きで公務員をやっている人達、国営病院に勤めている人たちが賃金カットに一番怒っています。今まで、楽をしてお給料を貰っていたくせに・・・(笑)。
公務員以外の人たちにはそれほど影響はありませんが、やはり少しは賃金がカットされるようです。電気、水道、電話料金などは自分が使用した料金の2倍以上の税金が加算されていてびっくりします。たとえば自分が使った料金は50ユーロなのに100ユーロ以上もの税金、その他が勝手に付いてきて150ユーロ以上払わなければなりません。一体どうなっているんだと、怒鳴り込む人もいるそうですが、いくら怒鳴り込んでも国のすることには逆らえません。政府は町の統一もするそうです。小さな町は大きな町に合併されるようです。そうやって公務員の数を減らすつもりではないかと思います。
 ギリシャ人は今までストライキをすれば(特に公務員)、国が要求を呑みいれていたので、今回もストライキをすればいいと思っていたようですが、今回は国もそういうわけには行かず強制的にするしかないようです。
ここに来て、ギリシャ人は初めて国が要求を飲まないことが分かったようですが、まだまだ現実のものとは受け止めていないようです。今まで政府は選挙の票取りのためにでたらめな政治を行ってきた付けが一般市民(公務員以外)にも及んで来てこれからはギリシャは大変な生活を強いられると思います。ギリシャ人の悪いところはどうにかなる…と思っていることです。ストライキを続けているのがその証拠で、そうすれば賃金カットはできないと、まだまだ思っているようです。
今まで気楽に、好き勝手なことをして暮らしてきたギリシャ人にとって、今回の政策は大変なことで、これから先、ギリシャは一体どうなるのか、国民は不安になり始めました」

ギリシャのEU加盟は失敗だった
 EU内の経済的強者ドイツ・フランスに対し、明らかにギリシャは弱者です。これら国が一緒になると、ユーロ為替相場は参加国平均となるので、経済強国は割安で有利、弱国は割高で不利となり、結果としてギリシャは背伸び国家運営を行わざるを得ず、国内経済で歪みが生じます。自分の実力以上に無理すると息切れするよい事例です。以上。

投稿者 Master : 2010年06月06日 06:20

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