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2010年02月21日

2010年2月20日 日本の貧困率について

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年2月20日 日本の貧困率について

立場の違いから消費実態が異なる

内閣府から、2009年10月から12月のGDP速報値が発表されました。実質のGDP年率換算で4.6%とプラス成長、名目でも年率換算で0.9%とプラスになりました。プラス要因の大きな項目は輸出ですが、個人消費も実質でプラス(名目ではゼロ)となりましたので、改めて、この消費支出実態を考えてみたいと思います。と言いますのも、どうも立場の違いで判断が異なるのではないかと思われるからです。

例えば、現在最も人口ボリュームゾーンが多い団塊の世代、この人たちが若い時であった頃の消費行動は「若いので一般的に裕福でなかったから、モノへの所有、特に高額なモノを持つことへ憧れがあり、それを獲得するのが最高の自己実現手段」でしたので、この感覚を持ったまま今のゼロベース消費を見て「経済が低迷している」と判断するのではないでしょうか。
ところが、今の若い世代は「生まれた時からモノがあふれている環境で育ったため、モノの所有を自己実現とすることへはこだわりが薄く、モノの効用が薄れてしまっている状態」ではないかと推察します。ということは、バブル崩壊以後の経済低迷時代しか知らない若い人たちは、今が消費不況だとは、特に感じていないと思うのです。
また加えて、デフレ現状で価格が下がっていくので、ローンを組んでまで、今すぐに焦って高額なモノ、自動車等を買う必要性を、若い世代は感じない、ということは日本の若者が、デフレ時代を生きていく知恵を身につけているといえ、インフレ時代の生活から抜け出せない団塊世代よりも、よほど賢い消費者といえるのではないでしょうか。

スペインの新聞に出た日本の貧乏記事

今月の初め、スペインに滞在していた時、地元の人から次の新聞記事を見せられました。

(クリックで拡大)
新聞タイトルに「6人に1人の日本人が貧乏に苦しんでいる」とあり、これはカタルーニャ州の新聞ラ・バングアルディア紙の2009年10月22日付で、同紙はカタルーニャ地方で最も歴史のある保守系の新聞社です。
この写真、どこかの劇場のポスターの前で寝ている若い人で、貧乏実態を表現するために使ったのでしょうが、これを見たスペイン人は「日本は貧困国だ」と判断したでしょう。

貧困率の上昇

ここで使われた基資料は、実は日本の厚生労働省が昨年10月20日に発表したもので、海外に次のように伝達されました。
「【10月21日 AFP】厚生労働省が20日初公表した「相対的貧困率」で、日本国民の6人に1人近くが貧困状態で暮らしていることが明らかになった。2006年の貧困率は15.7%で先進国の中でも極めて高い水準。相対的貧困率は、全人口の可処分所得の中央値の半分未満しか所得がない人の割合。1997年は14.6%だった。長妻昭(Akira Nagatsuma)厚生労働相は同日会見し、日本の貧困率が、経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development、OECD)加盟国の中でも最悪レベルだと述べた。08年の世界的な金融危機に端を発した景気低迷を受けて、給与額が減少していることから、現在の貧困率はさらに悪化している可能性もある」
スペインの新聞に掲載されたのは、日本政府が「日本は貧困」と認定したからです。

収入は減っているか

そこで、実際に給与額は減っているのか。それを国税庁のホームページで公表されたデータから見てみました。(平成20年)
(1)給与所得者数は4,587 万人(対前年比1.0%増、45 万人の増加)であるが、その平均給与は430 万円(同1.7%減、76 千円の減少)となっている。
(2)これを男女別にみると、給与所得者数は男性2,782 万人(同0.0%減、0.1 万人の減
少)、女性1,806 万人(同2.6%増、45 万人の増加)で、
(3)その平均給与は男性533 万円(同1.8%減、97 千円の減少)、女性271 万円(同0.1%減、2 千円の減少)となっている。
という状況で、確かに収入は減ってはいますが、年間で男性が10万円弱減額ですから、極端に大きくは減っているとは思えません。

年齢階層別の平均給与

次に、若い世代の給与が少ないのではないかという視点から、国税庁データから平均給与を年齢階層別にみますと、確かに19歳以下が平均給与134万円、20歳から24歳までが248万円ですからかなり低い実態です。
しかし、年齢が上がって45歳から49歳ですと511万円、50歳から54歳では506万円と高くなっています。特に、男性では55 歳未満までは年齢が高くなるに従い高くなり、50~54 歳の階層では670 万円と最も高くなっています。この意味するところは、日本ではまだまだ年功序列制で給与が支払われている、ということです。

業種別給与

では、次に「業種別の平均給与」を見てみます。最も高いのは電気・ガス・熱供給・水道業の675 万円、次いで金融業,保険業の649 万円で、最も低いのは宿泊業,飲食サービス業の250 万円となっています。また、この宿泊業,飲食サービス業では、給与100万円以下が全体の24.8%、200万円以下が27.1%、この二つの階層で合計51.9%ですから、かなり低いというのが実感で、ここで気がつくのは、最近の飲食店料理メニューの単価ダウンであり、弁当がさらに安くなっているという事実で、このような業態で働く人は、パート・アルバイトか外国人でしょう。国税庁のデータ説明にも明確に、従業員とはパート、アルバイトを含むとあり、日本の貧困とは直接結びつかない感がします。

貧困率の計算方法

ここで厚生労働省の貧困率計算式を以下に図示しました。

(クリックで拡大)
この計算式は全体の50%以下の所得の人を貧困と定義するものです。ここが問題です。日本は既に見ましたように年功序列給与が実態ですから、年齢層が低く、給料が安い世代は、いずれ高くなっていきますし、加えて、アルバイト層が低くさせている実態ですから、この計算のみで貧困率が高いと決定づけるには無理があるように感じます。日本が貧困であるかどうかの検討判断は、もっと多角度から見た方が妥当でしょう。
しかし、確かに若い世代の消費行動は変わっていますから、マーケティングを変化させることが必要で、そのためには常に今の時流や、人々の意識を検討すべきでしょう。以上。
(3月5日のレターはパソコンが使えない地区への出張ですので休刊します)

【2010年3月のプログラム】

3月12日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
3月15日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
3月17日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2010年02月21日 17:13

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