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2010年01月06日

2010年1月5日 簡単に頷かない

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年1月5日 簡単に頷かない

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

石破茂氏の講演

昨年12月17日、自民党の政務調査会長である石破茂氏の講演を聞く機会がありました。テレビで見る石破氏のイメージより、実際の本人は物腰やわらかくて、内容は分かりやすく、話し方によどみなく、メモを一切見ないで、過去・現在のデータや人物名を正確に表現するのには感心いたしました。
おかげで最近の政治情勢がよく分かり、自民党内きっての安全保証通といわれるだけあって、沖縄の普天間基地問題への考え方も明確でよく分かり、日米同盟の重要性を再認識いたしましたが、何か大事なことを石破氏は漏らしているのではと感じました。

石破氏の講演に対するアンケート結果

講演会場は満員で、約200名以上がおられたと思います。講演後にアンケートを書いて事務局に出された結果(46名)は以下のとおり高い評価でした。
1.本日の講演会はいかがでしたか。
大変良かった31人 良かった12人 まあまあ3人 不満足0 非常に不満足 0
2.その理由
非常に解りやすく、わが国の課題を話された。 保守の姿が見えた。 わかりやすく、理解しやすかった。もっともっとTVに出て、国民へのPRを欠かさずに頼みます。 率直な考えが聴けた。心に染み入りました。 一度直接、石破氏の話を聴きたかった。大変よかった。頑張って下さい! ポイントがよくわかった。正直。報道だけではわからない側面が見えてきた。 趣旨に賛同できた。政治がわかりやすかった。真実の事項が明確になった。 石破氏の考えと自民党の現状がよくわかりました。熱意が感じられた。 タイムリーな話が多かった。 具体的に解説してくれた。

23年間石破氏は主要な政治家だった

石破氏は1986年衆院議員初当選以来、連続8期当選していて、23年間政治家であると、ご自分で何回も触れました。ということはバブル崩壊後の経済政策に与党自民党の一員として、また、主要閣僚として大きく関わってきたということです。
では、その自民党政治が招いた経済実態を、次ページの国債残高で示してみました。
図の通り、バブル崩壊以前の国債残高水準は、主要先進国とほぼ同じでしたが、その後急激に増加し、その結果、図には記載していませんが、2009年9月末の国債残高は820兆円となってしまい、これは過去10年で倍増、GDP比160%を超え、IMFでは2014年にGDP対比246% になるだろうと予測しています。


(クリックで拡大します)

このIMFの予測に石破氏も触れましたが、何か他人事のような発言でした。
日本経済が長期間低迷しており、膨大な国債残高を抱え、国民が日本の将来に不安感を持っていることは、すべての人に共通していることです。従って、それを解除させるまでとは言いませんが、将来見通しについて何らかの方向性・ビジョンを、石破氏が語ると思っていたのに発言されなかったこと、それが漏れていると感じたことなのです。

日本は非ケインズ効果に陥っている

戦後、日本政府がとり続けた経済政策は、一貫してケインズ政策でした。それをバブル崩壊後も同様で、返って激しく景気対策の名の下に大量の国債を発行してきました。
その結果は「時代の変化に適応力を欠く産業に労働力を釘付けにし、新しい時代に向けての産業構造の転換を遅らせてしまった」ことで、35兆円とも指摘されている今の需給ギャップとなっているのです。
この経済政策の問題点をいち早く指摘したのは、富田俊基氏(中央大学教授)で、1991年のことでした。日本は「非ケインズ効果に陥っている」という発表と、国会での意見陳述と各地での講演、私も次のように直接お聞きした記憶があります。
「国債残高が少ない間は、積極財政が景気を拡大するという効果がある。これは国民が将来の増税を意識しないので、個人消費をするからだ。
しかし、国債残高が高水準に達すると、更なる国債増発は車が壁にぶつかろうとしているのに、アクセルをふかすのと同じ現象を引き起こす。国は壁にぶつかるという心理的恐慌を国民に与え、将来の増税負担という心理状態にさせ、将来の可処分所得の現在価値が下落し、個人消費が抑制される。これが非ケインズ効果だ」
残念ながら、現状はこの指摘のとおりです。あまりにも膨大な国債残高という事態なのに、更なる国債の増発を実施するという経済政策は、ケインズ政策が意図することとは反対の効果で、個人消費は増えず、経済は縮小気味になっていくのです。
ですから、これを石破氏が理解していれば、このことに触れ、非ケインズ効果に陥っているが、今後はこういう経済政策で打開していく、と解説すべきであったのです。
だが、分かっていて敢えて発言しなかったとすれば、聴衆を無視したことになり、ご存じでないとしたら、政治家として大問題でしょう。

中国・上海にて

中国は2008年11月に総投資額4兆元(約60兆円)の景気刺激策を打ち出し、世界中を驚かせた効果は、一時落ち込んだ実質成長率が昨年7~9月期には8.9%に回復することで示しましたが、この実態状況を12月の上海で確認しました。
まず、クリスマスイヴに上海書城という上海一番の書店に入ると、村上春樹コーナーが広くとられていることに驚き、レジに並んでいる客が買い物籠に30冊から40冊入れていて、それも数人が同様の冊数であることにギョッとし、次に向かった南京東路の上海市第一食品では、特AA1級大連産干し海鼠が500g9,800元(14.7万円)に目を疑い、噂に聞いていた日本のリンゴ新世界が一個88元(1,320円)という価格の店内が、買い物客で溢れているすごさに、中国の強い消費意欲を実感したのです。
 加えて、タクシー乗るため歩いた南京路の200m、その僅かな時間に偽物売り、ポン引き、直接寄ってくる若い女性など10人から声掛けられ、吃驚仰天の連続でした。

中国の地方で感じたのは日本と経済背景が異なること

翌日の25日、上海万博会場の真ん中を通る高速道路で、浙江省の寧波まで走り、そこから強蛟鎮(チャンチンチャン)という昔風の海辺の小さな港町に行きました。上海のホテルを出たのが8時半、走った高速にはまだ一か所しかないという、一応きれいだが閑散としたサービスエリアで休憩し、到着したのが13時、4時間半かかりました。距離は上海から約400km。現地では輸出ブランド子供グッズ製造企業の成金風の豊かな顔した社長から、アウディ大型新車で、高速を降りてから強蛟鎮まで案内してもらいましたが、道路は舗装をしていない部分が多く、港も未整備で、これは今後の公共投資が大いに実施される余地があると感じ、これからも景気刺激策は有効だと思いました。
 中国はケインズ政策が有効に利く財政状態ですから、景気刺激策はダイレクトに成長へ結びつきます。対する日本は「非ケインズ効果に陥っている」のですから、中国とは異なる政策を展開すべきで、そのために我々が経済政策組み立てと推進について、簡単に頷かず、本質的な鋭い追及をしていくこと、それが今年最大の課題と考えます。以上。

【2010年1月のプログラム】

1月 8日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
1月18日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
1月20日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2010年01月06日 09:14

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