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2010年01月20日

2010年1月20日 日本の移民政策の課題

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年1月20日 日本の移民政策の課題

ブラジルの現在実態

今の世界でBRICsという言葉を知らない人はいないだろう。21世紀に入って、世界経済はBRICsに代表される新興国に牽引されて成長している。

その代表国は中国でありブラジルであり、世界経済の中で確かな存在感を示し始めている。特にブラジルは、金融危機の傷が比較的浅く、国内景気は消費主導で底打ちし、豊富な天然資源と、年々向上する工業生産力に支えられ、日米欧や中韓などが進出を競っている国である。ブラジル市場を制するものが、世界の新興市場を制する、そんな時代が到来する可能性が高いのではないかということが、昨年12月に訪問したサンパウロの街を歩いていると実感できる。

ブラジルの政治実態

その背景にあるのは、まず、政治の力である。ブラジルの2010年現在の大統領は、左派・労働党のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァで、2003年に「飢餓ゼロ」計画を打ち上げ、貧困家庭向けの食料援助や援助金制度などを推進した結果、これは日本の民主党が行おうとしている子供手当に通じる政策であるが、貧困家庭の生活水準改善が着実に進み、経済発展に取り残されていた内陸部へのインフラ整備も進めている。外交面では、南米統合へのリーダーシップも発揮し、2006年10月に行われた大統領選挙で、貧困層の圧倒的な支持を得て再選された。現在のブラジルは次図の成長ぶりである。
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ブラジルは内需中心で成長している

また、ブラジルの成長は次図の通り低所得層のウェイトを約10%減らし、その分を中間層の増加で進めている。つまり、貧富の格差を解消しつつ、成長しているのであり、これは中国とは大きく異なる実態であることを前提として理解したい。
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ビックイベントの開催

これに加えて、ブラジル成長の背景には「2009年10月2日に開催された国際オリンピック委員会(IOC)第121回総会で、16年の五輪がリオデジャネイロで開催されることが決定。南米大陸初の開催で、ブラジルは14年のサッカー・ワールドカップ、16年五輪と大規模イベントの開催が続く。オリンピックによる経済効果は大きい」がある。

日系三世から聞いたこと

ところで、サンパウロで夕食を一緒にした若い女性、彼女は日系三世だが、彼女から受けた質問、それが今でも強く印象に残っている。
「自分はイタリア・スペイン系のボーイフレンドと結婚する予定だが、親戚は皆日系人と結婚済みか、日系人を希望している。日本人は外国人が嫌いなのか」というもの。
「そんなことはない」と答えたが、内心忸怩たるものがあった。
1908年6月、ブラジル・サントス港に781家族が笠戸丸で着いて102年、現在、ブラジルには120万人の日系人を数えるが、そのすべての人ではないとしても、彼女から指摘される「日本人の内部に持っている本質」を意識せざるを得ないのは事実だろう。

オーストラリアの移民政策

現在、世界で移民先進国といえばオーストラリアだろう。慶応大学の竹中平蔵教授が日経新聞「経済教室2010年1月7日」で次のように述べている。
「いま世界では、オーストラリアの政策が注目を集めている。背景にあるのは明示的な成長戦略だ。ラッド首相は、現在2,200万人の人口を2035年に3,500万人に増やす計画を表明した」
これによると25年間で1,300万人増やすわけであるから、一年に52万人となる。現在のオーストラリア移民受け入れ数が、15万人であることを考えるとちょっと疑問だが、昨年11月20日のレターでご紹介したM君が市民権を確保しているように、オーストラリアは移民受け入れ先進国であることは間違いない。

日本の移民政策

一方、日本はどうなっているか。鳩山内閣は永住外国人に地方参政権を付与する法案を国会に提出する意向だが、民主党内や自民党にはまだ議論すべきという見解もある。このことの是非は今後としても、国内外の多くの識者が指摘するように、日本が直面する最大の課題は少子化による人口減である。
日本人口の2050年予測は、2009年対比20%減の10,170万人(国連人口基金予測)、この時点で65歳以上が4,000万人、14歳以下が1,500万人、半分以上の5,500万人が労働力から外れるので、経済を管理可能な水準で維持することが難しい。
その対策は、一つは家族政策としての「出産休暇や出産後の職場復帰体制の整備」であり、もう一つは移民政策としての「国境の開放」になるだろう。
ところが、現実の外国人受け入れ実態は、先日、上海で会った中国人を研修生名目で斡旋している企業幹部から聞くところによると、企業は安価な労働力としてのみ受け入れる傾向が強いという。
それも、中国の経済発展によって、大都市では日本に働きに行く人材はいなくなり、今や内陸部の奥深くまで採用に行くらしいが、実際に働く職場は、日本人が敬遠する深夜労働などが多く、当然に低賃金であるものの、本人たちは無駄使いせず、年間何十万と貯金し、中国に帰って、そのお金で家や車を買うという目的で来日するというが、まだ賃金格差が大きい場合は、こういう実態が続くであろう。
しかし、日本経済の低迷状態が長引けば、中国人を含めた外国人の出稼ぎは、経済成長している他国に行く可能性が強まり、日本には来なくなる危険性がある。
もう一つ大問題なのは、現実の日本へ帰化を希望する人々への対応が、非常に冷たいという評価が世界に定着していることで、日本にいる経済的メリットが少なくなると出稼ぎ受け入れ人数も急速に減る可能性が高い。
これらを考えれば、移民政策について真剣に検討すべきタイミングが来ていると思うが、その検討前提として、ブラジル日系人三世の彼女の発言は重要だ。
日本人がもつ外国人に対する感情論、表面から真っ当に発言できないが、日本人が日本人同士で結婚したがる本質、そのところの検討が避けて通れない大問題だ。これをどう解決するのか。それとも解決しないまま人口減を実現するだけになるのか。
移民政策を考えずに2050年を迎えることは恐ろしい。しかし、もっと怖いのは日本人の本質が変わらないことだとすると、その事態の時に、日本人はどういう行動に出るか。それが今から恐ろしい気がする。
ブラジル日系三世女性の発言は日本の未来への警告と受け止めた方がよいだろう。以上。

【2010年1月のプログラム】

1月8日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
1月18日(月)18:00 経営ゼミナール(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
1月20日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2010年01月20日 10:01

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