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2009年10月21日

2009年10月20日 環境条件にあわせる

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年10月20日 環境条件にあわせる

大分県別府駅前の交差点、一匹の猫がゆったりと渡っていて、名門デパートTOKIWAに入ってみますと、シーンと静まりかえり、店員だらけでした。だが、同じ別府市内の鉄輪地区のひょうたん温泉は、県外客と外国人で大盛況、さすがにミシュラン観光ガイド三ツ星の威力と思いました。

ホテルとひょうたん温泉を往復したタクシードライバー、市長が変わるたびに街のお祭り展開内容が変わるとぼやいていました。
時代はグローバル化、すごい速さで変化しています。環境変化にあわせているか、いないか。今号は環境条件にあわせようとしている外国都市事例をご紹介します。

タスマニアは環境島

「世界で一番空気と水のきれいな島。世界一ピュアな風に包まれ、欝蒼と生い茂った温帯雨林、太古の姿を残す動植物。歴史の漂う素朴な町、そこはオーストラリア最南端に浮かぶ島タスマニア。心の赴くまま静かに流れる時を過ごしませんか」という言葉に惹かれ、タスマニアへ行ってまいりました。
タスマニア島はオーストラリアの南東に位置しています。成田からまずシドニー空港に着き、持ち込み品の厳重検査を受けて乗り換え、タスマニアの州都ホバート空港に着きますと、またもや検疫官がいて、生もの食品の持ち込みを見張っているように、オーストラリアは、食べ物持ち込みに厳しい条件をつけていますが、その中でもさらに厳しいのがタスマニアです。
タスマニアは北海道の約80%の面積、人口は約50万人で北海道の9%、その上高い山がありませんから、広々とした景観がどこまでもつながっているところです。
ホバートで、まず、最初に訪ねたのが「タスマニア州第一次産業省水産局」で、ホテルを出ようとロビーを歩いて行くと「コンニチワ」とすごく明るい声で女性が声掛けしてきます。同行する現地の方の知り合いの人だと思い「お知り合いですか?」と尋ねますと「いいえ、知らない人です」との答えです。ホテル前道路を歩いていると、またもや「コンニチワ」です。タスマニアの人々は人情厚く親切で、道で地図を広げていると、必ず「どこへ行くのですか」と声掛けしてきます。これでこの地の人柄が分かりました。
水産局でタスマニアの漁業全般、水産業・養殖業の統計的な数字、漁獲割り当て・資源保護・今後育成すべき分野などの政策的な情報を入手した後、いただいた名刺のデザインを興味深く見ていると、坊主頭の担当官が説明してくれました。
上下の波線は海を表し、縦線はグリーンと森を表し、この二つに囲まれた中に野生動物タスマニアンデビルを描き、その下にスローガン「Explore the Possibilities」、直訳すると「可能性を探検する」だが、一言で述べれば「来てみたらわかる。来なくちゃ分からない」ということだ、と補足します。
この補足説明に納得しました。余計な宣伝はしない。自然環境を守っていることに絶対の自信を持っているので、訪れた人々がタスマニアの事実報告してくれ、それが宣伝になるのだ。つまり、地球環境問題が問われている今の時流に、完全に合致しているという自信なのです。タスマニア各地を回り、その事実を確認して戻ったところです。

パリは観光で持っている街

パリ市役所別館はオステルリッツ駅近くで、環境関連部門が集まっています。現在、パリ市役所に対する外部からの取材は、すべて広報を通すことになっていますが、広報を通すと取材拒否されることがあるし、面倒なので、何とか知り合いの縁を探して、パリ市の環境問題解決方向の実態を聞こうと、緑地環境管理本部の管理職を訪れました。
3階の管理職個室に入ると、髪を後ろに束ね、あごひげをきれいにカットした、50歳代の気さくな感じの柔らかい人が、机から立ち上がって手を差し出してきました。
まず、彼の最初の発言、それは「パリには工場がない」という言葉、これを聞いた瞬間、パリが理解でき、他都市との違いを納得できました。1980年までは工場が市内にあったが、全部郊外か外国に移転した。最後がシトロエン工場であったが、今は公園になっていると補足します。世界の大都市で工場が存在しないところはあるでしょうか。調べていないので断言できませんが、多分、他国の首都では必ず工場ひとつくらいはあると思います。工場を市内から排除すること、これがパリの行ってきた環境対策であり、その目的はパリ市の存在意義に通じるものであり、それを目指してパリをつくってきたのだということが、この工場がないという発言に凝縮しているのです。
また、交通対策も明快だと発言します。それは「なるべく車でパリに入らせない」ようにすることにつき、車排除する代替策は、バスとトラムと自転車の活用であり、その結果、CO2が少なくなり、街を歩く人に安全と健康を提供できることになる。
つまり、これがパリを訪れた観光客への最大のプレゼントになるというのです。フランスには年間、観光客が8,000万人訪れます。その首都であるパリには、企業の本社が多く、観光客も当然多いわけで、パリ市の人口は200万人ですが、パリ市にいる人の数は毎日1,000万人ですから、五倍の人が動いている街です。ここで観光客が支払うホテル代、飲食代、お土産にも当然19.6%の消費税がかかり、シャルル・ド・ゴール空港の免税手続きDetaxe窓口は、いつも人で溢れていますから、パリで高額品のお土産を買う人が、いかに多いかが分かります。
私のように免税手続きをしない、つまり、高額な買い物はしない者も多く、この人たちはホテル代、飲食代に19.6%だけ支払ったまま出国するので、パリ市は膨大な消費税で丸儲けでしょう。観光大国とは外国人から消費税を徴収する大国であるともいえます。
日本も観光大国を目指していますが、フランス並みになれば、財政赤字の軽減効果は大きいわけで、そのためにもパリの観光対策から学ぶことは多いと思いますし、パリの動きは今の時代の地球環境問題対策にも合致している事例と思います。

ニューヨークが挑戦する新しい環境対策

アメリカ・ニューヨーク・マンハッタンのスラム街としては、かつてはハーレムが有名で、犯罪と貧困に喘ぐ地域でしたが、1990年代に行った徹底的な治安改善政策により、環境が驚く程改善され、現在では街の再開発も進み、文化と経済のネオ・ハーレム・ルネサンス期に入っています。したがって、ニューヨーク(NY)市には貧しい人々が住む地区があっても、スラム街はない、と一般的には思われているのですが、今でもNY市にはスラム街が厳然と存在しています。それは、マンハッタンではない地区、イーストリバーを渡ったSOUTH BRONX(SB)地区です。
このSB地区、当然に単独行動では危険な地域であり、夜間はNY市民でも足を踏み入れない地区ですから、何らかの安全策を講じて歩かなければならないと思っていましたら「SUSTAINABLE SOUTH BRONX環境」(持続可能な南ブロンクスSSBx)という案内ツアーがあることを知りまして、一人10ドル支払うと、ボランティア活動しているメンバーが案内してくれるというので、申し込んでSBに向かいました。
このSB地区の失業者は全米9%の失業率に対し、27%の高失業率となっているように、歩いていると、道端からこちらを刺すような眼ざしが大勢います。カメラは大丈夫かとボランティアガイドの女性に聞きますと、私がいるから心配ないとの答えでしたが、タイミングを考えて写真を撮らねばならない地区です。
ガイドの彼女が語りました。ここの環境問題、自分で個人的に解決を図ろうとすればすぐできる。それはここから移住すること、この町から出て行けば解決するといいます。
しかし、それではハーレム改善と同じなってしまう。ハーレムのような解決はしたくない。昔のハーレムはここと同じだった。確かにハーレムは環境が変化したといわれている。犯罪は減り、住みやすくなったが、それは貧困層の人たちを消しただけだ。解決のために新しく計画されたコミュニティは白人中心であり、今まで住んでいた人を追い払う計画であった。そういう解決ではなく、ここに住んでいるコミュニティの人々の生活が向上するような進め方をしたいのだ、と情熱籠めて話してくれます。
さらに強調します。この地区を大事にする都市計画が必要だ。ソーラーパネル、グリーンベルト、野鳥の訪れ、また、この町に文化芸術を根付かせたい。今高校でリサイクルデザインを提唱している。リサイクル品を使用した新しいデザイン。マッカーサー助成金を受けてMIT工科大学の審査を受ける予定だと。
最後に彼女が胸に付けていたバッチをプレゼント受けました。「I GREENED THE GHETTO」(ゲットーをグリーン化する)。数年後のSOUTH BRONXに期待すると共に、住民自ら環境条件を変化させたいという時代の動きと思います。以上。

【11月のプログラム】

11月13日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
11月14日(土)18:30 山岡鉄舟研究会「生麦事件歴史散策研究会」
11月25日(水)18:00 経営ゼミナール(会場)銀行会館

投稿者 lefthand : 2009年10月21日 15:24

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