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2009年09月21日

2009年9月20日 トレンドで考える・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年9月20日 トレンドで考える・・・その二

前号の衆院選に続いて、今回は日本経済と米国経済のトレンドを考えてみます。

日本経済は回復するか

日本経済は果してL字型の底を横ばいする実態から、上昇軌道を描けるかということ、それをトレンドで考えてみたいと思います。まず、最近の日本経済の状況を見てみます。
●下落し続けていた鉱工業生産指数も6月は前年比で4か月連続上昇
●2009年4月から6月のGDP年率換算は2.3%と5四半期ぶりにプラス
●日経平均株価はバブル崩壊後の最安値2009年3月10日の7,054円、それが9月18日は10,370円、+3,316円、147%アップ
と、下げ止まりがみられるような状況です。だが、
●バブル期の日経平均株価は1989年12月29日38,915円が最高額で、その約4分の1に戻ったにすぎない
●また、日本の1990年代の10年間実質成長率はプラス0.8%であり
●2009年の実質経済成長率は、各予測期間で異なりますがマイナス3%から6%と見込まれる
●そうなると2002年から2007年まで2%前後の成長があったものの2008年度はマイナス3.3%、今年も大幅なマイナス見込みですから、結局、21世紀初頭の10年間はゼロ成長見込みとなる
つまり、日本経済は1990年から2009年までの20年間、ゼロ成長というトレンドですから、急によくなるわけがないと考えた方がよいと思います。

米国経済はインディアン・サマーか

米国経済は日本経済にとって最大の鍵です。小泉内閣時代の成長、02年から07年までプラスは、米国の過剰消費に支えられた世界景気上昇の波でなされ、これが金融危機によって大変化したのですから、米国経済の行方が最大関心事です。
この米国経済を一言でいえば、インディアン・サマーで終わるのではということです。
インディアン・サマー(Indian Summer)とは、枯れ葉が落ちはじめ、寒さが身にしみ始める晩秋に、突然よく晴れ上がった暖かな日がくることをいい、日本語では小春日和とも表現します。どうして「インディアン」という言葉がつくのかといいますと、インディアンたちが厳しい冬を迎えるため、この晴れた日を選んで冬支度をするからですが、今の米国経済はこのような一瞬の小春日和にいるのではないか、と思われるのです。

最悪期を脱した米国経済

最近の米国経済は、最悪期を脱し順調な回復だ、というのが一般的な見解です。
●3月9日、NYダウ平均株価は12年ぶりの安値(6,547ドル)を付けた
●4月9日、NYダウ平均株価は246ドルの大幅な上昇、8,000ドル台を回復
●4月10日オバマ大統領は「a glimmer of hope(かすかな希望の光)」と表現
●8月21日にバーナンキFRB議長は「大恐慌以来の深刻な危機が引き起こした景気後退はいま終局を迎えている」との見解を示す
●8月に入ってL字型の底が4~6月に終わり、景気は今夏に上向きに動き始めつつあるとの観測
●9月18日のNYダウ平均株価は9,820ドル、最安値から+3,273ドル上昇の150%アップ

米国経済の自立的回復は可能か

では、トレンドから考えて、今後、米国経済は自立的回復が可能でしょうか。
まず、基本的な経済の構造として、経済循環的な景気論でいう経済向上は「生産→所得→支出」ですから、そのトレンドストーリーを見てみます。
●最初は「生産」の上昇がまず必要です。「生産」が高まれば雇用や賃金が増加し、「所得」すなわち家計収入や企業収益が増えます
●そこで家計は消費、企業は設備投資といった「支出」を拡大させるので景気は上昇し、経済成長につながります
●ところが、このつながりプロセス、これが今回の金融危機によって米国経済に「構造的変化」を発生させたました
●米国経済の主役はGDPの7割を占める個人消費で、この消費に「変化」が起これば、生産そして所得を通じて経済全体に「変化」が波及します
●それはサブプライムローン問題の発生で、金融機関は住宅関連融資を抑制し、住宅需要が増えないので、住宅価格が下落しました
●その下落が加速し、さらにサブプライム禍が拡大し、家計は借金の返済を迫られまれ、それは消費減となり、その分を返済へ回します
●これは実質的な「家計貯蓄率の上昇」であって、個人消費の減退となります
●「支出」(家計消費)が減少すると、企業の「生産」(企業の売上高・生産)が下がり、企業の損益分岐点が悪化し、企業は雇用削減、賃金カットに踏み切り、設備投資減に向かいます
●これは「所得」、すなわち家計収入と企業収益を減少させ、所得減少がさらなる消費減退を誘引しGDP成長を阻害させることになります

家計貯蓄率と大学新卒就職難

米国全体のGDP成長が下がりますと、中所得層の人々も所得減に追い込まれますから、プライムローン返済にも問題が発生し始め、これがさらなる「家計貯蓄率」の引き上げと「消費の減退」となって、GDP成長を下げさせることになります。
その家計貯蓄率実態は、2008年8月に1.7%、10月に2.9%と、極めて低かったのですが、12月に4.7%に上昇、2009年5月には6.2%にまでに高まって、さらに今後も家計貯蓄率は緩やかに上昇すると予測され、経済に影響を与えてきます。
その影響は大学新卒就職難として現れてきました。2009年6月の卒業時点で就職が決まっているのは20%、同時期の2008年は26%、2007年は51%でしたから大幅な悪化です。
就職難の対策は大学院へ進学することですが、米国の大学授業料は高く、すでに多額の借金を抱えているので、大学院へは恵まれた人のみとなり、就職できない新卒生はボランティア活動や起業やアルバイトに向かいます。だが、このアルバイトはもともと10代の仕事で、そこから奪うことになるのです。

米国は財政支出を継続できるか

2009年4~6月に世界景気は「底入れ」し、ようやく景気に回復基調を感じ始めたという一般見解の背景を整理してみると次の三つでしょう。
●一つ目はL字型に直撃されて企業が在庫調整に一斉傾注し今春にそれが一段落した
●二つ目は各国が世界的ニューデール政策の掛け声のもと、前代未聞の金融安定化策や金融緩和策をはじめ、財政大出動にまい進した
●三つ目は成長余力のある中国など新興国の経済がいち早く復元力を見せ、今後に期待を持たせつつある
この中で最大の懸念は、二つ目の対策が継続されるかということです。米国は大幅財政赤字国ですから、これからも財政大出動にまい進するのであれば、海外からの資金調達か国内貯蓄で賄うことになります。
海外資金を引き付けるには長期金利の上昇が不可避で、これは成長を下げる可能性があります。そこで国内貯蓄の増加を図ろうとすると、消費が抑制されることにつながり、結果としてGDP成長減になっていきます。
もう一つの大問題は、米国の金融拡張の制約です。金融危機の根本原因がウォール・ストリートの金融拡張方式、すなわち過大レバレッジ(テコ)手法と金融工学的リスク拡散手法にあったことは明らかで、ここしばらく「大火事後」の整理・修復に取り組む必要があって、まだ21世紀の新しい金融モデルは霧の中ですから、かつてのような金融で経済成長させるのは困難と考えられます。
トレンドから見た米国経済の自律的回復は厳しいので、日本経済成長も難しい時代です。では、このような経済環境下で、どういう対応策が考えられるか。それは次号です。以上。

【10月のプログラム】

10月 9日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
10月18日(日)    経営ゼミナール「ミシュラン温泉訪問研究会
10月21日(水)18:30 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2009年09月21日 09:24

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