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2009年06月06日

2009年6月5日 経済は一気に簡単に一方向には動かない

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年6月5日 経済は一気に簡単に一方向には動かない

株価上昇
世界各国の株価が上昇しています。2009年3月(底値・安値)時点と比較した6月4日の株価は以下のとおりです。

 2009年3月底安値2009年6月4日 上昇幅上昇率
NYダウ6,469(3/6)8,7502,281135%
日経平均7,021(3/10)9,6682,647138%
DAX(独)3,666(3/6)5,0641,398138%
FTSE(英)3,512(3/3)4,386874125%
上海総合 2,071(3/3)2,767696134%
韓国総合 1,018(3/2)1.378360135%

上昇率を見ますと、主要国の株価は全てNYダウと連動していて、常にアメリカ経済の動向で世界株価が動いていることが分かります。また、この三カ月、大幅上昇した背景には、オバマ政権への信認度があり、更に、GMの連邦破産法11条の適用申請を機に、金融、自動車と続いた政府関与によるアメリカ経済の危機管理が一息つき、景気回復も見込まれ、アメリカ経済がV字型回復するという見解が専門家から出始めました。

基軸通貨ドルの信認が揺らぐ

しかし、アメリカ経済の先行きを危惧する専門家も多く、その要点を並べてみます。

  1. 大手金融機関6社の1~3月期決算が126億ドルの黒字となったが、これは次の2と3のような粉飾的会計処理で計上されたものである。
  2. 時価評価主義が改められ「市場で価格がつかない金融商品などは、理論価値または満期での償還価格で評価可能」となり、この結果、金融機関は未確定の含み損を明らかにしないですむので利益がかさ上げされた。
  3. 「負債評価益」を認めた。これは企業の負債である社債などの時価が下落した場合、企業から債権者への支払い義務も減少したとみなし、その分を利益に計上した。企業の信用が下がり、社債の時価が下がれば下がるほど、利益が積み上がることになる。
  4. 1,000億ドル以上の資産を持つ金融機関に資産査定(ストレステスト)を行った結果、合計5,992億ドルの損失が見込まれ、この程度の金額では「投資家と一般市民にかなりの安心感をあたえた」とバーナンキFRB議長が述べた。だが、IMFが4月に発表した米国の金融機関が抱える損失は4.5倍の27,000億ドルであり、金額がケタ違いであって、ストレステストは操作されているのではないかという疑問がある。
  5. 3月にアメリカ人の消費意欲をアンケート調査した結果(米アリックスパートナーズ)、貯蓄率が14%との回答であり、以前は0%だった。つまり、貯蓄が増える分消費は減るわけで、仮に貯蓄率が10%上がれば、GDPは10%減で、1兆ドル以上のGDP減額となる。
  6. ということは消費が伸びないのだから、早期に景気回復はできず、加えて、政府の財政悪化もあり「アメリカも失われた10年に陥るリスクがある」(クルーグマン・プリンストン大学教授・ノーベル賞経済学受賞者)と指摘されている。
  7. また、アメリカは日本の不良債権処理を支えた家計のゆとりがないのだから、経済対策に必要な資金としての国債増発引き受けは海外からとなって、これは国債金利に上昇の圧力がかかることになり、基軸通貨としてのドルの信認に懸念がでてくる。

従って、アメリカのパワーが減退していくという見方が専門家から主張されています。

預金封鎖本の結果はどうだったか

このようにアメリカ経済に対し、相反する見解が専門家の間で議論されています。
ここで少し前のことになりますが、日本で大騒ぎした預金封鎖について振り返ってみたいと思います。
2003年から2005年頃、小泉首相の時代でしたが、書店に「預金封鎖」「老人税」(副島隆彦著)、「日本国破産・五編」(浅井隆著)などの本が大量に並び、それらを読んだある主婦から真顔で「日本は大丈夫でしょうか。貯金が政府にとられてしまうのでは。タンス預金に切り替えた方がよいか」という相談を当時受けたことがありました。
 かつて日本では実際に預金封鎖が昭和21年に行われました。今でもこの法律が抹消されずに残っていることを、国会図書館に行って確認したと、ある専門家から聞いたことがあります。つまり、今でもやろうと思えば法制上可能だというのです。
では預金封鎖とは何かですが、預金を封鎖することによって、各人の財産を把握し、その財産に対して税金をかけることを意味します。日本の個人金融資産が1,500兆円といわれていますので、仮に50%の財産税をかけると750兆円となって、これを実行すれば政府の赤字国債残高は相当額減り、これで財政状態を一気に改善できるのです。
2004年9月出版の「老人税」で副島隆彦氏は「アメリカ政府の財政赤字を端に発するドル暴落が発生し、その混乱防止のため日米が連携し金融緊急措置令を発し、一気に預金封鎖を行う。その時期は2005年から2~3年のうちだ」と書いています。
しかし、既に日本の不良債権処理が終わって、今は新たに発生したアメリカ発の金融危機からの経済対策で毎日騒がしく、一方、預金封鎖の声は全く消え、実施されずに無事今でも1,500兆円は残っています。物事は識者・専門家と称する人物が喧伝するように、簡単にはならないということを意味すると思います。

アメリカの底力

現在、世界で圧倒的地位を占めているのは、アメリカであることは疑問の余地がありません。そのパワーの第一は圧倒的な「軍事力」、第二はGDP世界トップである「経済力」、第三はオバマ大統領を登場させた「政治力」、この三つが際立っています。
今回の金融危機による経済危機混乱に際し、オバマ大統領が就任一ヶ月でGDPに対してほぼ4%にあたる「大規模不況対策予算」をまとめあげた手腕。それと、今回のGMに対する政府保有という国有化外科手術政策に対して、投資家や経営者から信頼を得始め、それが最近の世界株式相場の上昇となっていることを考えますと、やはりアメリカの持つ「政治力」は強く、今回の危機タイミングにオバマ大統領という人物を、登場させた底力を改めて感じます。世界は「米国主導の一極体制」がまだ続いているのです。

物事は簡単ではない

だが、いくらオバマ大統領に象徴される「政治力」がアメリカの強みといっても、物事には限度があって、一気の解決には進まないでしょう。時間が必要です。
解決への最大の課題は住宅価格です。住宅価格が上昇すると、個人は自分の所有する住宅の資産価値が増えたことになり、所得を消費に回すことが行われるからです。
逆にいえば、アメリカの景気が個人消費主導で成長していた時は、必ず住宅ブームが伴っていたのです。住宅価格の動向を見れば、その後の消費動向がわかり、ひいては、世界経済の先行きまで占うことができることになります。
しかし、サブプライムローン問題から、住宅価格はインフレからデフレになりました。これがいつ回復するか。それが不透明です。ですから、こういうアメリカ経済成長の基盤背景を考えてみれば、景気が一気にV字型回復は難しいと思えます。
だが一方、株価には景気の先行きを見極めるという原理原則があって、いかなる優れた経済学者よりも先行予知能力があるという過去経験則によれば、景気の先行きは明るいとも考えられます。

注意したいこと

要するに今は判断が難しいタイミングです。景気がV字型回復するのか、まだまだ混迷が長く続くのか、それぞれ専門家は各立場で主張しますが、預金封鎖を唱えた専門家達の失敗を参考にすれば、物事は人が考えるようなストーリーで、一気に簡単に一方向には動かないということです。
ですから、今後の経済状況を注意深くウオッチングすることが必要ですが、気をつけたいのはディリバティブという金です。これが儲けを求めて通貨や国債・証券へ、また様々な商品の間を動き回ってかき回しましますから、その行き先を見続けることです。もう一つ大事なことは、肩書に引かれて専門家の主張を鵜呑みにしないことです。以上。

【6月のプログラム】

6月12日(金)16時   渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
6月15日(月)18時経営ゼミナール例会(会場)皇居和田蔵門前銀行会館

6月14日(日)13時 山岡鉄舟研究会(特別例会)靖国神社参拝と散策会

投稿者 lefthand : 2009年06月06日 20:53

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