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2009年05月26日

2009年5月例会報告

経営ゼミナール例会
2009年5月18日
『丸の内再開発から見る大都市街づくりの方向性』
 三菱地所 都市計画事業室 副室長 遊佐謙太郎氏
 大國道夫・都市・建築総合研究所 代表取締役 大國道夫氏

5月18日(月)、第351回例会が執り行われましたので、報告いたします。
今回は、東京駅を中心とする大手町・丸の内・有楽町地区の再開発の事例を聞き、大都市のまちづくりを学びました。

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ご発表くださったのは、三菱地所株式会社 都市計画事業室副室長の遊佐謙太郎氏と、大國道夫・都市・建築総合研究所 代表取締役の大國道夫氏。
遊佐氏は、大手町・丸の内・有楽町地区、略して大丸有地区(以下、大丸有地区と表記します)の再開発を官民一体となってデザインすることに奔走されておられ、大國氏は大丸有地区の再開発のグランドデザインを描いたご経験を生かして、世界各国の都市開発の事例を調査しておられます。
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遊佐謙太郎氏(右)と大國道夫氏(左)

今回は、大丸有地区の再開発の現状と、世界の都市開発の事例をご紹介いただきながら、東京駅周辺の再開発の方向性を考える会となりました。

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遊佐謙太郎氏

大丸有地区のまちづくりシステム
大丸有地区は、明治時代から今まで大きく分けて3回の開発が行われてきました。
・第1次開発…明治〜昭和戦前(赤煉瓦、旧丸ビル)
・第2次開発…昭和30〜40年代(31mビル)
・第3次開発…1995〜現在(高層ビル)
その中で、今回行われております第3次開発は、前の2回の開発と大きく異なるところがあります。それは、前の2回が民間中心の開発であったのに対し、今回は地権者からなる協議会、行政、民間企業などが協調して地区全体の方向性を話し合い、足並みを揃えて開発を行っているということです。

大丸有エリアの概要
大丸有エリアの概要を列挙します。
・面積…約120ha(南北に約1.7km、東西に約400〜800m)
・約100棟の建物、床面積690ha
・就業人口…約24万人、約4,000社
・総売上高…約120兆円(日本のGDPの約24%を占める)
・鉄道利用者…約93万人/日(20路線・13駅)

まちづくりガイドライン
大丸有地区の再開発は、公民協調組織「大丸有地区再開発推進協議会」が主体となって運営されています。
大丸有地区再開発推進協議会は、1988年に設立され、現在は96の地権者などからなる会員によって組織されています。
協議会によって1994年、「まちづくり基本協定」が策定されました。
1)新たな都心景観の形成
2)国際業務センターの形成
3)快適な都心空間の形成
4)総合的・一体的まちづくり
5)社会的貢献
6)公民協調のまちづくり
7)まちづくり推進システムの構築

協議会の基本協定に基づき、地区の再開発をする際のガイドラインがつくられました。
再開発推進協議会に、千代田区、東京都、JR東日本も加わり、「まちづくり懇談会」が設けられ、再開発を行う際のルールが決められたのです。それが、「まちづくりガイドライン」です。
ガイドラインは主に次の項目から成っています。
1)ガイドラインの位置づけ
2)大丸有地区の将来像
3)まちづくりのルール
4)まちづくりの手法
5)推進方策
民間の再開発や公的な空間整備は、このガイドラインに沿ったものである必要があり、これに沿っていないと建て替えはできない、というくらいのものです。

では、このガイドラインの内容についていくつかの具体例を見てみましょう。

全体の街並形成
ガイドラインでは、大丸有地区を「ゾーン」「軸」「拠点」に分け、それぞれの景観整備を行っておられます。
・4つのゾーン…大手町、丸の内、有楽町、八重洲
・7つの軸…東西南北に走る通り
・4つの拠点…鉄道駅を中心として

スカイライン(高さ景観)の形成
1)東西方向
皇居からすり鉢状のラインを描くようにビルの高さを形成する。
皇居の低いラインから、だんだん高くなっていく緩やかなカーブを描くようなビルの配置。
2)南北方向
拠点とその他でひな壇状にビルの高さを形成する。
拠点は200m程度、その他は150m程度に高さを揃える。

遊佐氏資料より(クリックで拡大します)

街並〜人の動線形成
1)丸の内、有楽町地区
低層部の上に高層棟を乗せ、低層の街並が連続するように形成する。
2)大手町地区
高層棟と敷地内の外部空地が連続するように形成する。

遊佐氏資料より(クリックで拡大します)

サイン
地下通路などの標識を、一般来街者にもわかりやすいように統一性をもたせる。

ライティング
ビル上部のライティングの色調に地区全体としての共通性や一体性を持たせる。
色、明るさなど細かく規定されている。景観としての統一感や品格が保たれるよう工夫されている。また、拠点となるビルと周りのビルとの色識別など、アクセントをつける配慮も行われている。

ビルの復元
大丸有地区の再開発には、歴史あるビルの復元事業も含まれています。
1)旧三菱一号館
有楽町地区。三菱一号美術館として復元。オリジナルはジョサイア・コンドル設計。1894年竣工。

遊佐氏資料より(クリックで拡大します)

2)東京駅丸の内側
丸の内地区。2012年春竣工予定。
今回のお話をお聞きして、最も心躍ったのがこの東京駅丸の内側の再開発でした。
赤煉瓦の駅舎が復活し、現在道路になっている駅前はすべて広場になるそうです。そこから行幸通りにかけ、緑豊かな直線の歩道が広がり、皇居へと続いていきます。その姿はとても美しく、まさに「日本の顔」と呼ぶに相応しい景観になるのではないかと期待しています。

遊佐氏資料より(クリックで拡大します)

その他の取り組み
1)地域冷暖房…個別熱源方式に比べ約20%のCO2削減。
2)風の道…東京湾からの海風と、皇居からの滲み出し冷風の通り道を形成。
晴海通り、行幸通り、日本橋川沿いの3カ所で、2度程度低い風が通る。
3)ヒートアイランド対策…行幸通りでの緑化、散水、噴霧など。
4)緑のネットワーク…緑化。
5)イベントの運営。
6)丸の内シャトルの運営。
7)野球大会の運営。
8)丸の内ウォークガイド…大丸有地区のOB/OGによる、歴史文化などをテーマとした一般向けガイドツアー。
9)東京ミレナリオの運営…東京駅再開発竣工後、復活の予定。
10)東京駅周辺防災管理。

まとめ
大丸有地区の再開発は、地権者全体の参加+公民協調+NPOなどによる運営という、バラバラに行われていたものを一体としたまちづくりを行っておられるところに、最大の特長があるといえます。
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これらは従来とても難しいものであったように思います。利害が異なるさまざまな立場の方々を、主導的に引っぱっておられる遊佐氏のご努力に感服すると同時に、遊佐氏をはじめとする協議会の熱意あるリーダーシップのおかげで東京駅が美しく生まれ変わることを、とても嬉しく感じることができました。

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大國道夫氏

続いて、大國氏のご発表です。
大國氏は、大丸有地区の再開発事業にあたり、世界各国の都市開発の現状を調査し、それらのさまざまな事例をもとに、当地区の再開発の方向性を決める役割を担ってこられました。
大國氏は、大丸有地区再開発の特長は、建築上の諸問題(容積率、高さ規制など)を、それぞれの異なる立場の人間が力を合わせて協議し、まちづくりを行っていることだと語っておられます。そして、これは現在も、そしてこれからも続くダイナミックなものであると述べておられます。

大國氏が目指す都市開発の姿は、「持続可能な都市への改造」という言葉に象徴されているように思います。
先進諸国、特にヨーロッパでは、都市間の開発競争が激化しているのだそうです。その中で、これからは「環境」「高齢化」への対応が必要とされています。それが、持続可能な都市ということなのです。そのために、各国の都市ではさまざまな特長を持った開発が行われています。


それでは、大國氏が調査してこられた、世界の都市開発の現状を、資料に基づいてご紹介していきます。

イギリス・ロンドン
■ドックランズ
新市街地ドックランズの再開発では、シーザーペリー氏の設計によるアメリカ型の超高層オフィスビルなどの集積が進み、シティーと結ぶ鉄道も完成し街が成熟期に入っている。
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ドックランズ

■パタノスター地区
旧市街地のセントポール寺院に隣接したパタノスター地区では、長年かけて低層の伝統的デザインによる開発が完了した。
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パタノスター地区

■シティー
金融街シティーでは、これまでとまったく違った新しい超高層オフィスビル・ガーキンビルが建設された。さらに、ピラミッド型の超高層型のオフィスビルや、伝統的デザインをモチーフにしたオフィスビルが建設中である。
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シティー

フランス・パリ
■ラ・デファンス
フランス政府は1958年に計画に着手した。地区の開発を実施したのは国と地方自治体によるラ・デファンス地区整備公社(E.P.A.D.)である。
ラ・デファンス地区は、ルーブル宮殿から発し、コンコルド広場、凱旋門を通り郊外へ延びていくパリの歴史軸の延長線上に位置する。
パリ市内ではあまり見られない大型施設や超高層ビルが集積している。
パリ市内では景観保護や伝統的な建築物の保護のため、そのような施設を建設することが難しい。
※しかし、旧市街地にも新しいビルが建設され始めている。
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ラ・デファンス

イタリア・ナポリ
■ナポリ新都心
ナポリ市の中心に位置する歴史地区は、深刻な交通渋滞、大気汚染問題を抱えている。
その問題から少しでも解放され、歴史地区の本来の都市機能である、住居・文化・観光に適した地区に回復するために、ナポリ中央駅に隣接した110haの敷地に、官公庁や大企業のオフィスビルを移転させ、居住空間をも含んだ新都心を計画・建設させることになった。
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ナポリ新都心

ドイツ・ベルリン
■ポツダム広場
1989年にベルリンの壁が崩壊した。
ベルリン市はこの地域を四分割し、それぞれを開発するデベロッパーに売却した。
4つの地区のうち最大のものは、ダイムラー・ベンツが担当した(ダイムラー・クライスラー・アレアール、もしくはダイムラー・シティ)。
レンゾ・ピアノによって基本計画が立てられ、個々のビルはこの基本計画に沿って、それぞれさまざまな建築家の設計で建てられた。
二番目に広い地区はソニーが担当し、ヨーロッパ本社を建設した。ヘルムート・ヤーンによる、印象的でガラスと鉄からできた軽快な一枚岩のソニーセンターは、ベルリンにおける近代建築の最高峰のひとつだとみなされている。
※レンゾ・ピアノの基本計画は、大丸有地区再開発の参考にされたそうです。
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ポツダム広場 ソニーセンター

スペイン
■ビルバオ
ビルバオ・メトロポリー30によるビルバオ地区の再生戦略プランの立案・推進機構と、Ria2000(住宅公団のような組織)によるアバンドイラ地区、アメソラ地区再開発。
アバンドイラ地区にはグッゲンハイム美術館が建設され、現在シーザーペリー設計の超高層オフィスビルが建設中である。
アメソラ地区では、地下ネットワークと地上の活用が進められた。
※ アメソラ駅にフタをするような格好で地下化し、その上に公園と住宅を造り、その売却益でさらに開発を進めるという手法がとられています。
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アメソラ駅

■マドリッド
マドリッドM30環状高速道路改造と、マンサナレス川の水辺空間整備。
マドリッド市内を走る、延長約35kmの環状道路M30は、交通量の増加に伴い渋滞の慢性化、騒音、排気ガスによる周辺環境の悪化、市街地の分断などが問題となった。
その解決に向けて、マドリッド市および民間の共同出資の事業体である「Madrid Calle 30」が設立された。
また、マドリッド市街地を貫流する唯一の河川であるマンサナレス川は、M30路線で囲まれており、高速の地下化を契機に、親水、景観、自然環境に配慮されたマンサナレス川の水辺空間整備のための取り組みが「Projecto Pio」として計画された。
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マンサナレス川


以上、大國氏の資料より引用させていただきました。

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まちづくりの経緯を、大丸有地区、また、世界の都市開発の現状から眺めてみますと、いかに全体のグランドデザインがしっかり策定されていなければならないかが分かるように思います。そして、それには、異なる立場の人びとが力を合わせ、方向性をすり合わせていくことがとても重要なのです。
その意味で、大丸有地区の、公民協調の組織作りがいかに大事なことであったかをあらためて思い知ることができました。そして、皆が一致協力して当地区のガイドラインを作成されたおかげで、2012年の東京駅丸の内側の素晴らしい景観ができつつあるのだと感じた、今回の例会でした。

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遊佐様、大國様、大変お忙しい中のご講演、誠にありがとうございました。
また、活発な質疑で交流を深められた参加者の皆様、ありがとうございました。

(事務局 田中達也・記)

投稿者 lefthand : 2009年05月26日 21:03

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