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2009年03月21日

2009年3月20日 苦しいからこそ未来への「はずみ」を考える

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年3月20日 苦しいからこそ未来への「はずみ」を考える

金は世界を映す出す鏡

米連邦準備理事会(FRB)は、3月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、長期国債の買い取りなどを含む追加の金融緩和策を発表したところ、外国為替市場でドルが下落し、ニューヨーク金先物相場は時間外取引で4月物が一時前日比37.2ドル高の1トロイオンス(約31グラム)954.0ドルという大幅高となりました。

ちょうど一年前の3月も、ニューヨーク金先物相場で1,000ドル超えしましたが、金は周期的な動きを示すものなのでしょうか。
金はどうも違うようです。趣味の世界だった金貨が、昨年10月から12月にかけて突然売れ始め、世界の金貨需要が前年同期比3倍の67.9トンに達しました。一人当たりなら数十グラムに過ぎない、庶民の現物買いが積み重なって上がったのです。
金価格の高まりは、世界に潜むリスクの裏返しともいえます。金の絶対的価値は昔から変わっていなく、変わった方は世界であり、市場であり、それをつくり出している人間たちで、その変化が、ある時は買いとなり、ある時は売り、金の相対的価値を変えていっているのです。「金は世界を映し出す鏡」と思います。

アメリカ経済

公的支援で破綻を回避した米保険大手AIG幹部へ、高額賞与が支払いされていたことについて批判が渦巻き、共和党のグラスリー議員は「日本の例にならいAIGの幹部が米国民の前で頭を下げ謝り、辞任か自殺すれば私の気持ちも幾分晴れる」と発言し、オバマ大統領も記者会見で怒っていることを表明し、とうとう支払った金額に対して高率の税金をかけるようですが、すべてこの問題もアメリカ発の金融危機が招いたことです。
今回の金融危機が始まるわずか一ヶ月前の2007年7月、シティグループの当時の会長が「曲が流れる以上、踊らなければいけない」と発言しましたが、これは「いずれ限界がくることは分かってはいるが、まだ降りられない」という特異で危うい心理でありながら、目前のマネーゲームに狂奔した姿を示しています。
おかげで金融危機以後、何でもありの経済対策が打ち続けられていますが、開いた大穴をふさぐ「はどめ」対策の有効策を打ち出し得ないままです。
ノーベル経済学賞学者のクルーグマン米プリンストン大教授からは「欧米の財政政策は不十分で、失望している」と、アメリカやEUの景気対策を鋭く批判し、さらに、矛先はオバマ大統領にも向かい「この経済危機に対するオバマ政権の対応は、90年代の日本にあまりにも似ている。オバマ政権は後手に回っている」と厳しい見解です。
共和党グラスリー議員もクルーグマン教授も、いずれも日本を例えにしているところが、日本人としては気になるところですが、日本しか参考になる前例がないのでしょう。

需給ギャップ

クルーグマン教授は続けて「アメリカの議会予算局による予測では、3年後には、米国経済の生産能力と実際の生産高に2兆9,000億ドル(280兆円)の差が生じる」と警告を発していますが、これは需給ギャップ、それは需要にあたる実際のGDPと、供給にあたる企業の持つ生産設備や労働力によって生み出す潜在GDPとの差で、これがマイナスになっていると述べているのです。
日本の需給ギャップについては、2008年10月から12月はマイナス4.1%であると内閣府が発表し、金額では20兆円とみています。また、2009年1月から3月期ではマイナス6.9%、金額は36兆円(三菱UFJ証券景気循環研究所)と試算し、BNPパリバ証券は2010年にはマイナス10.3%となり、年間でほぼ50兆円の需要不足が続くとみています。
同様の見解は野口悠紀雄氏(早稲田大学教授)も同じで、「輸出の減少だけでもGDPの5%に相当する25兆円、設備投資も考慮に入れれば、GDP 10%分の50兆円が、有効需要の落ち込みとして、日本経済を襲う」と予測しています。

ソウルでの話題

硬い内容が続きましたので、話題を変えてソウルで聞いたことをいくつかお伝えします。

●韓国では3月危機説が盛んにいわれている。韓国の金利が約4%程度であるのに対し、日本の金利はゼロ%。そこで日本から金を借りて不動産投資した人が多い。ところが、ウォン為替レートの急落により、円が実質的に高くなって、その決済が3月に集中している状況から危機が来るだろうと。これだけ為替が急落するとは予想を超えていたのである。

●韓国では若者の失業率が非常に高い。そこで言われているジョークが「38歳までは安心して働きなさい。45歳は定年の年だ。56歳まで働くのは泥棒だ」。意味は、若い人の仕事が少ないので、働いている年寄りは若者に譲れということ。

●韓国も少子化である。それも儒教の影響か男の子を欲しがる傾向で、女の子の出生が少ない。学校のクラスでも明らかに女子がすくない。結果として男性があまっていて、結婚相手として外国人が増えている。ベトナム、フィリピンなどだが、子供が小学校の先生から「成績が悪いと外国人のお嫁さんしかいない」といわれ、家に帰ってきて「僕は外国人のお嫁さんは嫌だから一生懸命勉強する」と発言したという。真面目な話である。

●今、ソウルで流行っているジョークがある。韓国では子供を留学させることが多く、その場合母親が留学先について行くことが多く、残った父親は1年に一回子供に会いに行くが、これを「雁の親」という。しかし、今は不景気で「ペンギン親」となってしまった。1年に一回も会えない。飛べないという意味である。

●韓国の教育熱は世界一といわれている。そこで有名塾が位置している所が、地価が高いことになる。争って有名塾のある地区に引っ越すからである。

●韓国では最高額紙幣となる5万ウォン札が6月に発行される。今の最高額紙幣の1万ウォン札は発行から36年。物価上昇で財布がかさばるなど不便が指摘されていた。5万ウォン札の図案が公開された。表の肖像には詩や絵画など幅広い才能を発揮した朝鮮時代の女性芸術家、申師任堂(シンサイムダン)が描かれている。
ただし、同時に発行が予定された10万ウォン札は、図案に使う古地図に日本と領有権を争う竹島(韓国名・独島)が韓国になっていないので中止が決まった。
政府は「高額紙幣が物価上昇を招く懸念がある」などと説明しているが、領土問題が真の原因との見方が根強い。

何も考えられない

ソウルでガイドしてくれた50歳の女性。子供は長女が高校3年、長男が中学三年の二人。教育費として月に15万ウォン、今のレートで10万円だが、去年のレートでは15万円だから大変で、今は長女が大学に入って卒業し就職、長男が大学に入るまでの5年間、子供のことだけで頭がいっぱい、自分の未来など一切考えられない、と眉間にしわを寄せて真剣に何回もいいました。
黙って聞いていましたが、世界経済と同じではないかと心の中で思いました。
日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、3月13日・14日にロンドン近郊で開催されましたが、金融危機後の世界経済のあるべき姿を論議し、そのシナリオの延長戦として、世界経済を上向かせる「はずみ」処方箋を考えるのではなく、決議されたのは「非伝統的な手法を含む、あらゆる金融政策を活用する」でした。とにかく今の実体経済の悪化を止めることしか頭にないようです。アメリカ経済の原動力であり大問題の「過剰消費」を疑問視する本質的な議論はなかったのでしょう。

苦しい時ほど未来への「はずみ」を考える

苦しい時に苦しいと思うのは当たり前です。しかし、苦しいからこそ、その中で未来への「はずみ」処方箋を見つけだし、そこへ向かって明るい展望を持ちつつ、現実の苦しさの中で対応していく。このアドバイスにガイドは頷きました。世界経済も同じです。以上。

【4月のプログラム】

4月10日(金)16時   渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
4月17日(金)14時 温泉フォーラム研究会(会場)上野・東京文化会館
4月20日(月)    経営ゼミナール例会 「増富の湯」日帰り現場見学

【ジョン万次郎のご子孫を招いての特別講演会】
★ジョン万次郎講演会★ 4月15日(水)18:30 上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2009年03月21日 20:28

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