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2009年02月06日

2009年2月5日 日本経済新聞を読みたくない

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年2月5日 日本経済新聞を読みたくない

ある大学で

昨年末から日本経済は急激に悪化しています。一月はこの関係で、金融危機絡みの講演をする機会が多くなりました。先日も都内のある大学の経営学部が開催している勉強会でお話ししました。当然、世界経済と日本経済の実情について触れることになり、その結果は、厳しい数字が並ぶ内容となりました。

勿論、中には明るい企業もあるわけで、すべての企業と人々が経済困難化しているわけではありませんが、トータルで判断すれば、世界も日本も日を追うごとに経済実体は悪くなっています。この事実を日本経済新聞が報道し、多くの人はこれを読み、また、この情報を分析しお伝えしますから、経済危機に対する見解は、勉強会参加一同が一致します。
講演が終わり、休憩時間になったとき、一人のまだ若き女性経営者が走ってきて「もう日経新聞はみたくない」と叫ぶように言いました。経済悪化数字が並ぶ報道は読みたくないというのです。そこまで人の気持ちは追い込まれているのかと、改めて驚きました。

経営者は日本が世界で最も悲観的

世界の中堅企業で「2009年の景気動向を最も悲観しているのは日本の経営者だ」という調査結果が発表されました。
調査したのは、国際会計事務所グループのグラント・ソントンです。世界36カ国の中堅企業、日本の場合は従業員が100人から750人の非上場企業ですが、これらの経営者を対象に昨年10月、11月に7,200人(日本は300人)に行った調査です。
調査方法は、景況感を良いと答えた人の割合から、悪いと答えた人の割合を引いたDI数値で各国を比較したものです。
日本の経営者の回答結果は、DI数値で-(マイナス)85、日本の次はタイの-63、フランスの-60でした。逆に高かったのはインドの+83、ブラジルの+50です。
日本の回答結果に対し「危機意識が強く、先行きを厳しく考える傾向があるためではないか」と、調査機関関係者がコメントしていますが、そのとおりと思います。

どうしてブラジル経営者はプラス思考か

ブラジルのルラ大統領への国民支持率は84%と、過去最高になったという世論調査結果が報道されました。(2009.2.5日経新聞) 同大統領が就任した直後の03年支持率83.6%を上回ったのです。日本の麻生首相と全く異なる実態ですが、これがブラジルの今を示していると思います。
ご存じのとおり、ブラジルは1970年代後半に経済が低迷し、同時に深刻な高インフレに悩まされ、80年代にかけてクライスラーや石川島播磨(現・IHI)など多数の外国企業が引き上げ、先進国からの負債も増大する苦しい経済状況でした。
しかし、03年にルラ大統領が「飢餓ゼロ」計画を打ち上げ当選し、貧困家庭向けの食料援助や援助金制度などを推進した結果、貧困家庭の生活水準改善が着実に進み、加えて、経済発展に取り残された内陸部へのインフラ整備も進め、06年に貧困層の圧倒的な支持を得て再選されました。
今回、ルラ大統領が過去最高の国民支持率となった理由を、金融危機でも「ブラジルでは生活実感が極端に悪化していないことが、高支持率の背景である」(日経記事)と分析していますが、実はもうひとつ大事な要素があります。
それはブラジル人の国民性です。ブラジルは人種が世界で最も混淆している国で、ポルトガル人とインディオの接点に黒人が加わり、さらに、東洋系のモンゴロイドを含めたあらゆる人種間の融合によって形成された結果「明るい・くよくよしない」国民性であることはよく知られています。07年10月に訪れたサンパウロで「ブラジル人に躁はいても、鬱はいない」と現地の方が断言しましたが、この国民性が、世界の経営者景況感調査結果+50となった本当の理由と思います。日本人とは反対側に属する国民性です。

日本の実質GDP

下図は日本の実質GDP成長率(前年対比)の推移です。2008年に急減しました。


(クリックで拡大します)

視点を変えて、2008年日本の実質GDPを月別前月比で見てみますと、08年11月は-2.3%、12月も-2.5%と大きくマイナスとなり、10月の-0.3%、9月の-0.5%に対し急激に悪化しています。この要因は輸出が11月-18.8%、12月-9.2%に落ち込んだことと設備投資の不振です。昨年末から急速に実体経済が悪化していることがこれでも証明されます。(日本経済センターデータ)
次に、四半期ごとの実質GDPを前年同期比で見てみても、08年1月~3月期が+1.4%、4月~6月期も+0.7%であったものが、7月~9月期では-0.5%、10月~12月期は-3.4%ですから経済急悪化は事実です。(日本総合研究所データ)

日本の個人消費

ところが、個人消費の前年同期比を見てみますと、違った姿が浮かんできます。
08年1月~3月期が+1.6%、4月~6月期+0.3%、7月~9月期+0.5%、10月~12月期+0.2%と、個人消費は未だにマイナスになっていないのです。善戦していることが明らかです。(日本総合研究所データ)
確かに日本経済は大きく悪化した結果、企業の生産動向は激しく落ち込み、全体がマイナス成長となりましたが、比較して個人消費は日用品などが中心ですから、安定需要がある分だけ振れ幅を比べると少ないのです。そのことを個人消費データが証明しています。
「もう日経新聞はみたくない」と叫んだ女性経営者の生産活動は停滞したと思いますが、多分、ご本人の日用品などの買い物は、それほど減らしていないのではないでしょうか。

ドイツ人経営者から

DHLジャパン社長のギュンタ・ツォーン氏が次のように述べています。
「日本は他国より痛みが少なく、この不況からいち早く抜け出せると思っている。それは、日本の国内経済規模が巨大で、個人消費がGDPの成長に寄与しており、私の母国ドイツに比べると輸出に頼りきりでない。(輸出対GDP日本15%、ドイツ39% 前図)
さらに、日本はGDPのより多くを研究開発に投資し続けている。(日本がGDP比3%強に対してドイツは2%台)また、日本には全体の福祉を維持しようという価値観もある。よほど深刻な状況に陥ったとき以外は、短期的な利益を優先して将来の可能性をつぶすような形での研究費や人件費を削ることはないだろう。
もっとも日本が今後、他国と同様、困難な道をいっとき歩まなくてはならないことも確かだ。ただ、チャンスと捉えることで、1~2年のうちに日本は危機を乗り越えると確信している」(2009.1.27 日経新聞) ドイツ人の方が日本を客観視しているのです。

今こそ明るく

約6年間続いた「実感なき好景気」を「根拠なく楽観視」した人々が、今度は「根拠なき悲観」から「恐怖心理ショック不況」に入り込んでいるのではないでしょうか。以上。

投稿者 lefthand : 2009年02月06日 09:48

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