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2009年02月24日

2009年2月例会報告

経営ゼミナール例会
2009年2月16日
『地域との連携が温泉業界賦活化の鍵』
NPO法人健康と温泉フォーラム常任理事 合田純人氏

経営ゼミナール第348回例会が行われましたのでご報告いたします。

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今回は、『地域との連携が温泉業界賦活化の鍵』と題して、NPO法人健康と温泉フォーラム常任理事の合田純人氏にご発表いただきました。

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合田氏は、温泉の研究に関わること20数年、温泉を医療、化学、薬理の側面から研究を重ね、ご所属のNPO法人を通じて啓蒙活動を続けてこられました。
今回は、温泉業界の現状から、温泉業界が抱える課題をいかに打開していくかの示唆をいただきました。

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合田純人氏(左)と山本紀久雄代表(右)

合田氏のご講演の前に、山本代表から時流講話をお話しいたしました。
現在、日本は世界的な金融不況のあおりを受け、不景気真っ只中であるとの報道がなされ、私たちの不安感をあおっている感があります。しかし、これは主に外需の不振によるものであることは、YAMAMOTOレター2月20日号に明らかです。
YAMAMOTOレター2月20日号
対して、内需はほとんど変わらず、むしろ微増の状態です。
内需を喚起することこそ、日本が元気になるためのひとつの方策であるのです。温泉業界はまさに内需産業です。温泉業界の活性化は、内需の喚起にこそ活路が見出せるのではないか。山本代表の投げかけに、合田氏はどのように応えられたのでしょうか。

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基本に戻る

全国の温泉地を見てこられた合田氏の見解は、日本において地域と温泉との連携は大変難しいということでした。そして、地域と温泉が連携して成功している例はほとんどない、とも付け加えられました。
では、どうすればよいのでしょうか。
基本に戻ること。
合田氏が提示された温泉業界賦活化の鍵は、この言葉でした。
温泉というものは、もともとどうであったのか。どう利用されていたのか。それが、時代時代で変わってきた原因は何であったのか。こういうことを振り返ることによって、これからあるべき温泉の姿が見えてくるのではないか。そして、経営的側面から見た温泉ばかりでなく生活の中で温泉がどう位置づけられるかを見出すことができるか。このことが、温泉業界賦活化の鍵と感じました。

温泉地について

そのためには、まず温泉地について知らねばなりません。
ますは、合田氏から、温泉地について解説いただいた事項を整理してみます。

(1)温泉地とは
日本には温泉地が3,221カ所あるそうです(2007年現在)。これは現在も年間数十カ所ずつ増加しているそうです。
最近20年で43%増加しています。

(2)温泉地の定義
日本における温泉地の定義は、温泉が湧出し、そこに宿泊施設が1カ所でも整っている場所を言います。例えば、熱海はいくつもの源泉と旅館などが立ち並んでいますが、1カ所としてカウントされます。このカウント方法で3,221カ所もあるのですから大変な数です。

(3)温泉地宿泊年間総数
1億2,000万泊。国民全員含めて、日本人は年に1回は温泉に行っていることになります。
最近20年で10%減少しています。

(4)温泉地の利用形態
温泉地の利用形態としては、大きく分けて次の3つがあります。
1.休養…疲労回復など
2.保養…健康増進、生活習慣病予防など
3.療養…相補医療、代替医療として

これらのニーズを満たす要素として、温泉地が持つものとして次のことを忘れてはなりません。
●温泉地=温泉+環境、自然、文化
これらの相補関係があって初めて、上記のニーズを満たすことができるのではないでしょうか。

温泉地の形態の変遷

温泉地の形態はどのように変化してきたのでしょうか。
湯治という言葉があります。主として療養のため温泉地に赴き、3週間程度の長い期間逗留し、温泉に浸かり怪我や病気を治し、各地から訪れてきた人々と交流し、心身の癒しを求めるのが湯治です。
日本の温泉地はその発祥から長い間、湯治場として栄えてきた歴史を持っています。
しかし、この形態は戦後激しく変化しました。
合田氏の資料から、その変遷を転載します。


(クリックして拡大します)

温泉地の形態は社会のニーズに合わせて大きく変化していきました。
そして今、温泉地に訪れる人々のニーズは変化しようとしています。
温泉地はこれからどのように変化していけばよいのでしょうか。

温泉と地域の連携は可能か

温泉と地域の連携は可能なのでしょうか。
冒頭に記しましたように、合田氏は、日本において、温泉業界と地域との連携はとても難しいとの見解を寄せられました。
その原因のひとつとして、温泉地の旅館の形態が挙げられます。
日本の温泉地は、旅館(ホテル)内にカラオケ、バー、飲食店、遊戯施設などが何でも揃っているため、宿泊客が温泉街に出る必要がないケースが多く見られます。このことが、地域との連携を難しくしている原因のひとつだと、合田氏は指摘します。
しかし一方、地域を巻き込んで、温泉地全体をひとつのブランドとして特色づくりをする試みも行われています。これらが成功事例として結論づけられるようになるのは、まだ少し時間がかかりそうです。

また、官民が協力し、温泉医療の基地としての温泉地づくりも始められようとしています。鳥取県・三朝温泉は、岡山大学付属三朝医療センターと共同で、三朝温泉を、医療を核とした温泉地と位置づけ、その整備が行われています。

その他、温泉施設の利用の現状を、合田氏の資料の中から転載します。


(クリックして拡大します)

日本の温泉地発展は実現可能か?

日本人は温泉好きです。
このことは、あまり異論を差し挟む余地はないように思います。
前述しましたが、統計上、日本人は全員、年に1泊は温泉地に赴いています。
しかし、翻って考えますと、私たちは温泉地で1泊することを当たり前と考えています。
実はこのことが、現在の温泉地利用形態の大いなる問題なのです。
なぜ1泊なのか。2泊〜3泊といった連泊をしなくなってしまったのか。
歴史的に見れば、数百年もの間連泊が基本であった温泉を、つい数十年のうちに1泊スタイルに変えてしまったのです。
「温泉地に連泊するようになれば、温泉の本当の価値がわかるようになる」
合田氏はこう語られました。
さらに、現在、温泉旅館自身が1泊のスタイルに合わせた接客を行っており、食事や部屋の豪華さを競うばかりで、温泉はあって当たり前で、温泉そのものはおろそかにされているのが現実であると、合田氏は語ります。

温泉地発展のための提言として、次のことが挙げられました。
●温泉業界…温泉を真面目に大事にし、温泉をどう活用するかを真剣に考えてほしい
●利用者側…自分の健康増進などに温泉を活用すること、そのために連泊してほしい

業界側、利用者側、両者が、温泉の失われた価値を再評価して欲しいというのが、合田氏の願いです。

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内需拡大から温泉地活性化策を考える

質疑応答も、皆さんから大変活発な意見が交わされました。
その中で、経済学の観点からあるひとつの提案がなされました。
現在、定額給付金の公布が政府によって議論されています。
このような、公的な内需活性化策をうまく利用し、温泉地の活性化に活かしたらどうかというものです。
参加された経済アナリストの方によれば、定額給付金の導入を、国民は冷ややかに見ている向きがありますが、これは、消費を喚起するという意味において絶大な効果があると予測されるのだそうです。
今回支払われる定額給付金のような少額の給付金は、貯蓄に回るよりも消費に回る公算が高く、給付金が、国民の消費を促すきっかけになりうるということなのです。
この給付金を、各自治体が地元の温泉地利用のクーポン券として発行すれば、温泉地利用に消費され、かつ、国民は温泉保養を行うことにつながるというわけです。
給付金は一人あたりは少額ですが、仮に一人2万円とすれば、4人家族であれば8万円の経費が捻出できるのですから、それに多少の出費を加算して温泉旅行が楽しめることになるのです。
このような取り組みを一例として、国民にお金を使ってもらうきっかけ作りが大変重要で、それが内需拡大につながるのだという提言をいただきました。

このような行政を巻き込む施策の提言を、適切な部署に、継続的に、行っていただきたい。それが温泉地活性化のひとつの活路であり、地域連携のきっかけにもなるのではないでしょうか。
そのために、合田氏のようなお立場の方に、是非ともこれらの提言を継続的に発し続けていただきたい。
山本代表から激励の言葉をお贈りして、閉会とさせていただきました。

(事務局 田中達也・記)

投稿者 lefthand : 2009年02月24日 08:21

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