« 12月例会の感想 | メイン | 2009年2月例会の予告 »

2008年12月20日

2008年12月20日 気持を不景気にしない

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄

2008年12月20日 気持を不景気にしない

好景気と不景気の区別

知り合いの税理士さんから連絡がきました。
「私は、単純に株や不動産が上がっているときは好景気。下がっているときは不景気だと思っています。汗をかいて稼いだお金は使わないが、株などで臨時の収入があれば、儲けた人は思いきった消費をするからです。アメリカは、株が悪い時は不動産がよいという具合に、過去には必ず株か不動産のどちらかが上がるように政策をしてきました。ところが、今度だけはうまくいかないのです」 簡単明確でよくわかります。

マクロにだまされるな

再び、同じ税理士さんから連絡がありました。
「どんな好景気の時でも精々6~7割の企業だけが好業績で、全てが好景気になるわけでない。一方、不景気でも3~4割の企業は好景気を維持している。その差は3~4割にしか過ぎない。不況業種といわれているところでも、長年の経験でいいますと、実はいい会社が結構あります。自動車・家電メーカーのように、世界的にシェアが高い会社は、好不況の波に左右されますが、中小企業はどうでしょうか?
一般的に好不況の影響があるほどシェアが高くないので、世間の景気と個々の企業業績は、あまり相関関係がないのが事実です」

データで確認してみると

日経新聞の「核心」(2008年12月8日)で、論説委員の平田育夫氏が、今回の金融危機から、アメリカが保護主義政策をとれば世界中が迷惑すると述べ「最も困るのは外需依存度が高い日本」と断定しています。
保護主義に対する見解には同調しますが、ここで問題なのは「外需依存度が高い日本」という判断です。そこで、外需依存度が本当に日本は高いのか、それをデータで確認してみたいと思います。
まず「外需」とは何でしょう。それは海外の需要のことですから、輸出額のことになりますので、外需依存度とはGDPに占める輸出額の比率ということになります。
そこで、日本の「輸出対GDP比率」を調べてみますと、2006年が15%です。2007年で16%です。
次に、2006年の同データによる主要国を見てみますと、アメリカが8%と低い他は、イギリス19%、ドイツは39%、中国と韓国は37%となっています。
日本の外需依存度はアメリカに次ぐ低さなのです。ということは日本を世界の主要国と比較すると外需依存度が高くないのですから、逆に内需依存型国家ということになってしまいます。このところが、昔から内需を増やせと言われ続けている背景なのです。
日経新聞論説委員の断定はおかしいということになります。

非正規社員解雇問題

次に、今問題となっている非正規社員解雇問題です。
これも日経新聞の報道(2008年12月11日・きしむ雇用)をみますと、事例として建設機械大手のコマツをあげています。
今回コマツは、金融危機後の未曽有の世界需要減少に対応するため、1,500人規模の非正規社員を解雇するとのことです。コマツが海外展開を加速し始めた2003年当時、非正規の期間社員はわずか数十人でした。しかし、新興国のインフラ投資需要の波に乗って、08年までの5年間で約2,000人に膨らんだのですが、それを一気に500人程度までに減らすのです。
また、このように世界各地の需要減に対応して、スピード生産調整を始めたのは、トヨタ、ホンダなどの自動車メーカーからで、部品メーカーを含めれば数万人程度の非正規社員が職を失う見通しだと解説しています。
つまり、今大問題となっている非正規社員解雇問題は、輸出産業に属する企業、それは外需依存の高い企業に集中しているのです。
世界的金融危機は外需依存企業を直撃したことが分かります。

いざなみ景気を思い出すと

いざなみ景気とは、2002年2月から2007年10月までの69ヶ月間に見られた好景気(正式名称、詳細な景気拡大時期は未定)のことです。
名称の由来は、古事記に記された「いざなぎ・いざなみ」による国生みの伝説からで、過去の「いざなぎ景気」よりも上回る記録的な好景気によることから、名称化されたのですが、この「いざなみ景気」は一部企業に好景気の恩恵が集中したことと、2%前後の低い経済成長であったため、史上空前の長い好景気期間の割に「豊かさを感じなかった」というのが特徴といわれています。
そのとおりで、景気のよかったのは一部企業で、その企業とは「海外需要で稼いだ」ところなのです。先ほどのコマツの事例でも、非正規社員は海外展開が進むことで、人員を急速に増やしてきており、その増やしたタイミングは「いざなみ景気」に該当しています。
ということは、外需に関係しない国内一般の企業は、内需だけですからもともと好景気とは関係なかったことになります。
つまり、外需で潤った企業は、前述したようにGDPの16%程度であり、これに当てはまらないGDPの84%の需要をあてに経営していた企業は、ずっと「いざなみ景気」の中でも低成長下にいたということになります。
結局、日本経済は外需依存企業と内需依存企業に分かれていて、金融危機が発生するまでは、外需依存企業の好決算によって、日本の経済成長率が支えられていたのですから、百年に一度というべき未曽有の事態になれば、当然に日本全体の経済成長率は「いざなみ景気」以前に戻ります。
いざなみ景気は2002年2月から始まったその前の年、2001年のGDP実質経済成長率はマイナス0.8%でしたから、当然にマイナス成長になると思います。
何ら不思議でも何でもない現象になるだけです。

再び税理士さんから

景気が悪いといわれていますが、夜の忘年会は盛んなようですし、先日、秋葉原のヨドバシカメラに行き、レジの女性に忙しいですか、と聞いてみますと「先ほどまで大変でした。ブラジルから団体客がきて、その人たちが日本の化粧品を大量に買ったので」と教えてくれました。電気関係の店だと思っていましたら、化粧品もお酒も扱っているのです。
そこで、また税理士さんからご連絡が来ましたのでご案内します。
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという有名な言葉がありますが、普通は歴史にも経験にも学ばないのが人間です。懲りない人々というのでしょうか。また、置かれている状況も過去とは違いますものね。
前のバブル崩壊を経験した大先輩に『当時、どうでしたか?』と聞いたことがあります。その答えは『あの時は飲まず食わずだったからな・・・。今は贅沢だもんね』という答えでした。
ですから、昔に比べれば経済のベースが格段に違います。前向きにいえば、その経済ベース下の不況であるという事実も考えてください」

気持を不景気にさせないこと

勿論、世界経済の後退が長引けば、外需産業から内需産業へと影響が出てきます。当然です。しかし、内需産業企業はもともと長期に低迷していたのですから、苦しさが増えるかもしれませんが、今までの状態がまだまだ続くのだと考えれば、基調は今まで通りです。
そのところを整理し理解しないと、マスコミ報道が伝える外需産業による不景気ブームに左右され、強い危機感を抱き「気持を不景気」させてしまいます。それが大問題なのです。年末から正月は気持ちを「プラス発想」にし、新年度への期待を考える事です。以上。

【1月のプログラム】
1月09日(金)16:00 渋谷山本時流塾/東邦地形社ビル会議室
1月14日(水)18:30 山岡鉄舟研究会/上野・東京文化会館
1月16日(金)14:00 温泉フォーラム研究会/上野・東京文化会館
1月19日(月)18:00 経営ゼミナール例会/皇居和田蔵門前銀行会館

投稿者 lefthand : 2008年12月20日 20:24

コメント