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2008年11月06日

2008年11月5日 学んで時に之を習う(論語)

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年11月5日 学んで時に之を習う(論語)

オバマの勝利

サンフランシスコは民主党の街です。11月4日の夜、オバマ新米大統領が決まると、ダウンタウンの中心ユニオンスクウエアでは、車が一斉にクラクションを鳴らし、人々が集まり、勝利を祝福していました。ホテルロビーの大型テレビ前でも、演説に聞き入り、拍手し、喜びを表していましたが、新大統領の前途には多くの大問題が横たわっていて、そのひとつが、アメリカが直面する財政問題です。下の写真はそれらを示しています。

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借金時計

ニューヨークの繁華街タイムズスクウエアには「借金時計」があります。
これは1989年に不動産業者が寄付したもので、アメリカの公的債務の金額を示しているものです。19年前に作ったときは5兆ドル(500兆円)の借金額、それがとうとう金額を表示する桁数がなくなって、このたび左隅の$表示のところに1を組み込む応急措置をしました。ということは10兆ドル(1000兆円)を超えたということになります。下段の数字は国民一人当たりの借金額です。
日本も大変な借金国ですから、アメリカのことは他人事ではありませんが、今回の金融危機克服のために、公的資金を投入する結果は、さらに借金が増えます。オバマ新大統領が、問題を起こした既存の政治体制をどのように改革するのか、期待と心配が交錯します。

アメリカには他国を巻き込むすごさがある

今回の金融危機は、熟知されているようにサブプライムローンからです。信用力の低い個人向けの住宅融資を積極的に展開したところに、不動産バブルがはじけ、今回の騒動が始まりました。
今になってみれば愚かな住宅貸付行為だったと、世界中から非難されていますが、この事態になるまでには背景があります。それはアメリカが金融を中心にすえた国づくりをしてきたことと、これをアメリカが世界経済に組み込ませたということです。
アメリカには、他国に影響を及ぼし、世界中を運命共同体にもっていくというすごさがあります。したがって、アメリカで発生する出来事は他人事ではないのです。

金融経済の歴史

ここでアメリカの金融について、簡単に歴史を振り返ってみたいと思います。

(1)まず、始まりは1980年代。
ご記憶の方も多いと思いますが、1987年に「ウォール街」という映画が話題になりました。主演はマイケル・ダグラスです。映画の内容はインサイダー取引にかかわるもので、マイケル・ダグラスは逮捕されるというストーリーですが、これには実在のモデルがいました。それはマイケル・ミルケンです。
マイケル・ミルケン(Michael Milken)1946年生まれですが、学生時代からジャンクボンドといわれる「焦付きリスク高めの高利回り債権」への投資で成功し、ウォール街に進出、ナンバーワンの投資銀行をつくったのですが、1989年にインサイダー取引や、他の脱税幇助罪で禁固刑に服しました。今は出所しアドバイザー業務をしていますが、彼の実績がアメリカ80年代金融の実態を表しています。
 
(2)次は90年代。
90年代はジョージ・ソロス(George Soros)に代表されます。1930年生まれで、今でも活躍していますが、1992年9月のポンド危機で、100億ドル以上のポンド空売りを行なったことで名を挙げたように、ヘッジファンドで巨額の利益を上げ、1997年のアジア通貨危機では、マレーシア首相マハティールが、ソロスを名指しで非難したことでも有名な人物で、90年代のアメリカ金融実態の内容を表しています。

(3)その次は2000年代。
ここまでは、アメリカが得意とする金融工学を駆使したもので、いろいろ異論はあるかとは思いますが、それなりに理論化された金融取引として根拠がありました。
しかし、今回のサブプライムローンは、金融工学というレベルよりは、今まで住宅を望んでも夢だった低所得層に、家を持たせるために貸し込みをしたもので、そこに不動産バブルが崩壊し、加えて、これをCDS(クレジット・デォルト・スワップ)という債権保証システムに組み込ませ、それも優良債権と混ぜ合わせ、世界中に売り込んだ結果、世界経済の混乱に拍車をかけ、大規模金融企業の倒産にまでに陥らせたのです。

アメリカ人の借金生活

2006年ですから、今から2年前になりますが、ニューヨーク在住の日本人女性と食事した際の会話が記憶に残っています。一人は映画の研究者で大学を卒業し大学院に学ぶ30代。もう一人は日本の某テレビの現地法人に勤めていて、離婚してフィレンツェとセベリアへ休暇とって行ってきたばかりの二人です。
この二人の共通点は「収入の全部を使い切る」という生活態度であることです。その理由として挙げたのが2001.9.11のアメリカ同時多発テロ事件です。あれ以来ニューヨークで働いている人の気持ちに変化がおき、人生にはいつ何が起きるかわからない、明日はわからない、だから今をエンジョイする、という気持ちが強くなって、結果として収入の全部を使ってしまう生活になって、貯金は全くしなくなった、というのです。また加えて、これは出身国籍を問わず、これがアメリカ人の一般的な傾向だと言い切りました。
これを聞いたときは驚きました。一般的な日本人にはちょっと信じられない暮らし方です。だが、その後もアメリカのテレビ報道などで見ると、確かに貯金はしないで借金生活を平然と行うのが普通とのことであり、今回、大統領選の激戦州であるオハイオ州のアクロンに行き、長距離をタクシーに乗ったので、その運転手と雑談しながら、さりげなく尋ねてみると「アメリカ人は平均一人当たり1.3万ドル(130万円)のカード支払い残がある」と明るく発言します。これについて別の人にも確認してみましたが事実らしいのです。つまり、これは借金で、日本の消費者ローンに当たると思いますが、国民の平均額がこれですから、国家全体ではすごい借金額になります。

今回の金融危機は予測できたこと

このような借金体質に馴染んだ国民に、それもサブプライムローンとして低所得層対象に展開すれば、大受けする反面、いずれ返済不可能になることはわかっていたはずです。
また、これを承知の上で世界中が経済成長を謳歌していたかと思うと、本質的な怖さを感じます。根本にアメリカ国民が持つ借金生活体質、そこに真の問題起因があります。

学んで時に之を習う(論語)

論語の言葉です。学んだことはそのままにしておかず、それを今後に実践する必要性を述べたものです。今回のアメリカ発の金融問題から学ぶとすれば、アメリカ人の借金習癖を「チェンジ」させることであり、そのためには根本的な価値観の「チェンジ」をアメリカ人に求めていかねばなりません。オバマ新大統領の仕事は価値観を変化させることによって実現するであろう、新しい国家像を具体的に提示することではないでしょうか。以上。


【今月のプログラム】
 11月14日(金)16:00〜 渋谷山本時流塾
          〈会場〉東邦地形社ビル会議室(渋谷)
 11月17日(月)18:00〜 経営ゼミナール例会
          〈会場〉皇居和田蔵門前・銀行会館(東京駅)
 11月29日(土)13:00〜 山岡鉄舟全国フォーラム
          〈会場〉明治神宮・至誠館会議室(原宿)

投稿者 lefthand : 2008年11月06日 23:43

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