« 2008年9月5日 ネット化でヒトはバカになるのか? | メイン | 「『円通貨』はどこに行くべきか・・・経済アナリスト・北川宏廸氏」 »

2008年09月20日

2008年9月20日 文明と文化の衝突

文化×環境×経済 山本紀久雄
2008年9月20日 文明と文化の衝突

旧中山道の大ケヤキ

京浜東北線与野駅東口近く、旧中山道の交差点真ん中に、一本の大ケヤキがあります。江戸時代には、この大ケヤキ下に、関東六国の山々が見渡せるという「六国見」の立場茶屋があり、旅人が一休みする名所でした。今でも地元の人々、つまり、私を含む交差点を通る人たちは、この大ケヤキを誇りに思い、いつも敬愛の眼差しで見上げます。

また、大ケヤキの根元には、春夏秋冬、その季節の花が小奇麗に咲いていて、幹にリボンがかけられているようなイメージを与えています。さらに、この交差点では、ゴミがなく、タバコの吸殻もなく、清潔に路上が保たれていることも、大ケヤキ交差点の魅力となっています。誰かが花を咲かせ、道路を綺麗に掃除してくれているのです。

誰か。それは、交差点に面しているビル一階の床屋さんご夫婦です。このご夫婦が、樹齢数百年という大年寄りとなった大ケヤキを見守り、交差点の路上整備をいつもしてくれているのです。

先日、そのご夫婦から質問を受けました。「このケヤキは大丈夫でしょうか」と。質問の意味は「与野駅前再開発によって伐り倒されるのではないか」という心配で、市政に詳しい人を知っていたら聞いてほしいという依頼です。

駅前再開発 

早速、市関連福祉施設で評議委員会があった時、会長の大物市会議員に尋ねてみました。

確かに再開発計画はありました。というより、もうずいぶん前からの課題で、いろいろ問題があって今まで進んでいなかったものが、ようやく来年春を目途に再開発計画を作り、市民に提示されることになっているとのこと。

さて、心配の大ケヤキ、文化財的な意味合いがあるので残したいが、すでに幹の中は半分空洞化して、もう寿命も長くなく、何かのタイミングで倒れる危険もあるので、伐りたいとの意向です。

ただし、伐るにしても地元の人とジックリ相談したいので、大ケヤキ委員会を作り、多くの方の意見をお聞きし、なるべく遺伝子を遺すような文化的対応を図りたいということでした。

そこで早速、床屋さんご夫婦に報告したところ「そうですか。そうだろうなぁ。再開発だから仕方ないなぁ・・・。もう少しだからケヤキを大事にしてあげないと・・・」と、肩を落としながら、小さな声でつぶやくのが精一杯でした。

交差点を毎日通る一人としても、大ケヤキが消えるのは残念ですが、問題の多いままとなっている駅前が再開発され、整備されるという、いわばこの地区一帯の改革変化ということも大事です。

例えれば、駅前再開発は文明の潮流変化であり、大ケヤキは文明潮流によって変化させられていく文化遺産ということでしょうか。

米国金融の急変化
 
昨年8月のサブプライムローン問題表面化から一年、問題は落ち着くどころか、ますます混迷の事態となってきました。9月に入って20日までの動きを振り返ってみますと、米金融当局が経営難に陥った金融機関の処理に追われたことを示しています。

9月7日 経営難に陥っていた住宅金融公社、ファニーメイとフレディマックの二社を政府の管理下に置く
と発表
 15日 米証券四位のリーマン・ブラザーズが破綻
     バンク・オブ・アメリカが米証券三位メルリリンチ買収で合意
 16日 米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を米政府とFRBが救済に踏み切

 17日 株式の空売り規制の強化を発表
 18日 日米欧の主要銀行と協調してドル資金供給で合意
 19日 米政府が不良債権の買い取りを含む総合的な金融安定化策に乗り出す

救済、破綻、そして救済・・・当局の方針は揺れ動き、世界各国の株価は乱高下しました。

市場が米政府に対応を迫る21世紀型の危機管理です。

世界全体への影響  

このように米国の金融危機は、世界の経済に逆風を巻き起こします。

 「米金融危機による実体経済への悪影響は、まだ一、二合目にすぎない。米国の家計部門が過剰債務の圧縮に走るため、米経済は五年近くゼロ成長の低迷が続き、世界経済は2%程度の成長に鈍化する」(三菱UFJ証券・水野和夫氏)という見解もあり、2007年に5%近い成長だった世界経済が、一気に2%にダウンすれば、日本を含めてグローバル化した世界経済は大きく影響を受けることになります。
   
日本経済   

日本経済はご承知の通り、2002年2月から緩やかな景気回復過程に入って、2006年11月に60年代後半の戦後最長「いざなぎ景気(57カ月)」を超えた今回の「新いざなぎ景気」は、70カ月弱(約6年弱)続き、GDP成長率は2003年度から2006年度まで4年連続で2%台に乗せ、復調ぶりを示しました。

だが、昨秋「屈折」し景気停滞局面となり、2007年度は1.6%に減速、2008年度については、政府は1.3%と見込んでいますが、4月から6月期実績がマイナス0.6%となったので、さらに悪化する可能性がある、というのが一般的見通しです。

つまり、簡単に結論付けすれば、2000年ごろから続いた世界規模の高成長によって、日本経済も順調に伸びてきたものが、世界全体がおかしくなってきて、それと同じ傾向になったのです。

外需によって成長し、外需で低迷するのです。

文化潮流が変化しているのではないか  

外需によって日本経済が変動するということは、日本だけの現象でしょうか。そうではありません。これは世界中同様なのです。まさに世界の経済はグローバル化という一体化になっているのですが、かつてこのような事態は存在したことがあったでしょうか。これは、世界が初めて迎えた事態です。 

また、ついこの間まで「デカップリング論」がもてはやされていました。「デカップリング論」とは、米国経済が停滞しても、新興国経済が成長するので、世界全体は問題なく成長していくというもので、多くの識者が喧伝したものです。

しかし、米国経済がサブプライムローン問題で躓くと、あっという間に世界は同時停滞化に向かおうとしている実態、これは明らかに「デカップリング論」は時期尚早の議論だったということになります。

このように経済専門家の予測を超える何かのもの、それは過去と異なる新しいうねりであり、大きな流れであり、世界の文明潮流ともいえるものが、世界の底流にうごめき始めているような気がしてなりません。

日本独自の潮流

そこで、世界の文明潮流が脈動し始めている、という理解に立って、もう一度日本を見つめてみれば、そこに日本独自の大きな潮流変化が、事実として浮かび上がってきます。

それは人口です。人口推計が見直され、2050年の日本人口は約8900万人(低位推計)と予測され、これと同じ人口をたどってみれば1955年(昭和30年)であり、石原都知事の「太陽の季節」が大ベストセラーになった年、人口は8927万人でした。

つまり、戦後60年を経て2006年に12,700万人に増えた人口が、44年かけて約50年前の昔に戻っていくのです。回帰するとも言ってよいと思います。

明らかに、日本は高度成長や大阪万博、東京オリンピックに象徴される「躁の時代」を終え、バブル崩壊後10年の低迷期を経て、「欝の時代」文化になっていきます。

どう対応するか

このように、我々が今まで生活してきた文化スタイルは、外部要因としての文明潮流で変えさせられていく事態となっています。しかもその変化原点は長期潮流にあるのですから、対応策を簡略に組み立て、手軽に結論付けしてはいけないと思います。

中山道交差点に位置する江戸時代からの大ケヤキ問題は、文化を遺しながらその適切な対応策を地元民が考えることです。同様に、世界の文明潮流と日本独自の人口減によって生じる文化との衝突は、一人ひとりが責任もって考えるべきことです。以上。

投稿者 Master : 2008年09月20日 12:08

コメント