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2008年05月06日

2008年5月5日 本気

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年5月5日 本気

イオンとマルエツ

2008年2月期スーパー業界の決算発表があり、話題となっているのはイオンとマルエツです。イオンの低迷、マルエツの好調Ⅴ字型回復です。
イオンはご存知の通り小売業最強のスーパーで、売上高は7%増の5兆1673億円ですが、営業利益は1560億円(売上高比3%)と前期比18%減になりました。また、5兆円もの売上に対し、当期純利益はたったの439億円(売上高比0.8%)ですから、黒字決算にするために相当無理していると推測できます。

一方、イオンが33.2%の株式を所有するマルエツ、売上高は3355億円で2.6%増、営業利益は75億円(売上高比2.2%)と前期比29%増、純利益は47億円(売上高比1.4%)で前期比33.6%の増益です。対比的な業績ですので、対策も対比的です。

イオンは主力の総合スーパーの約四分の一を閉鎖、または業態転換する方針に変換、つまり、国内市場は縮小、海外事業は拡大という戦略ですが、結局、旧態依然とした店作り展開を失敗と認め、大規模なリストラに踏み切ったのです。

マルエツは2年前の2006年2月期、上場以来初の営業赤字に転落し、そこから改革を始めました。改革の第一は社長の交代です。新たに就任した生え抜きの高橋惠三社長、方針は「開かれた経営」ですが、実行したことはお客の声を聞く「店長への直行便」、社長から社員へ呼びかける「予算達成メール」、仕入先を増やして強化した「生鮮食品の強化」、結局、「お客の要望に徹底的に応える」ことで、首都圏という肥沃な市場を開拓し、16ヶ月連続の既存店増収という快挙を遂げ、「絵に描いたようなⅤ字回復」を示しました。

高橋社長は「よそ者、若者、ばか者をつくる」と宣言。新しい発想を持つよそ者、何をも恐れない若者、徹底して物事をやり遂げるばか者、これを「本気」で進めています。

最近お会いした女性経営者

「本気」といえば、ここ一ヶ月の間にお会いした三人の女性経営者、それぞれ業種が異なりますが、共通しているのは「市場と本気で対応」していることです。

①ニューヨーク(NY)のY社長

最初は、私がいつもお世話になっていて、先週もお会いした企画調査企業の日本人社長です。既にNYに26年住み、ご主人はフランス系のアメリカ人で副社長。事務所は国連本部の近くで、住んでいるコンドミニアムも国連本部前で、ヤンキースの松井選手が住んでいるところの隣です。業績は順調で、起業当初に抱えた多額の借入金も完済し、上げ潮路線に乗っているので、発言はいつも前向きです。

ご存知の通りNYは世界経済・金融の中心地として一攫千金の野望が渦巻き、訪れた人の感覚を刺激する街、あらゆる言語が飛び通う「100の国籍」を持つ街ですから、ここで企画・調査の仕事を展開するためには、世界各地の言語に対応するスタッフが必要となります。そこで社員10人の共通言語は英語ですが、全員を異なる人種で構成し、それぞれ得意な出身国の言語能力でお客との対応を図っています。

従来、NYは「人種のるつぼ」と呼ばれてきましたが、今では「サラダボウル」というのが定説です。その意味は、異民族の人々がNYという同じ地域に所属してはいるが、そこでは常に「民族の違い」が発生するので、相互に限定した距離関係をもって暮らし、前号でも触れましたが「どうしても理解できない矛盾」がある結果、何か「ひやりとした人間感覚」が横たわっているのがNYだというのです。

この中で企業経営するということ、それは単一民族の日本とは明らかに異なります。常に対立が社内に発生します。これをどうするか。それが最大の課題で、この克服が最大の経営ノウハウで、これにY社長は見事な手腕を発揮しています。

例えば、日本隣国出身に多い常に怒り狂う人物には、「わめきタイム」を週一回設定し、思う存分自己主張させることで、社内の日常の穏やかさを守り、「ミュージカルや野球観戦」などの社員慰安的なイベントの実施、これは若き頃東京で体験した日本企業経験を活かしているのですが、それらを駆使して全員のコミュニケーションづくりを図って、社内の「和」を保ちつつ、世界中から異なる言語で依頼される市場に対応できる体制を確保しています。

勿論、これだけではありませんがグローバル世界の典型である、NYの「サラダボウル」感覚を、社内でなるべく調整・克服していくこと、これに「本気」で立ち向かっていることが、NYで成功した基本であると推測しています。

②㈱TEI(ツーリズム・エッセンシャルズ)の三橋滋子社長
 
三橋滋子社長から先日ジックリお話をお聞きする機会がありました。また、日経新聞の「人間発見」に、4月7日から5回に渡って連載されましたから、ご存知の方もあると思いますが、社団法人日本添乗サービス協会専務理事も兼ねておられるように、空港などでパッケージ客を世話する添乗員、その90%が派遣社員であるように、このビジネスを発案、推進してきた方です。
 
最初に起業した1973年の添乗員は10名、それが今では協会加盟53社で1万3千名という業界に育て上げました。
 三橋社長は日本航空の15期生の客室乗務員でしたが、お子様の育児で退職、子育てが一段落した34歳のときに、添乗業務を請け負うというアイディアを浮かべ起業したのです。
 
発想の原点は主婦時代、同期生とよく自分たちの経験やスキルを活かす道はないか話し合っている中から、旅行会社とのパイプ役になるビジネス構想を持ったことからです。
 
その後多くの危機や苦労が続いたことは「人間発見」に述べられていますが、日経新聞を読んでみて感じたことは、三橋社長から直接伺った内容、それは手許のメモに残っているものと微妙にニュアンスが異なっていることです。

何か中心ポイントがずれていると感じます。聞き手の受け止め方の違いといってしまえばそれまでですが、「人間発見」に書かれていなく、私のメモに重要と二重丸したものに「市場との対応力」があります。
三橋社長は何度も「お客からの問い合わせから仕事を発見する」と発言しました。相手の話を聞くこと、相手の話の中にビジネスニーズがあり、市場は奪うものでなく創りあげるもので「仕事の中から仕事を見つける」と述べたのです。

これが「人間発見」では強調されていないこと、それは今後、日経新聞の読み方について考えさせられることに通じますが、いずれにしても三橋社長は「市場と本気で対応」した結果が今日の成功を導いたのです。

③㈱クレアの町田典子社長
 
町田社長には、私が代表しております「経営ゼミナール」4月例会でご発表いただきました。社団法人ニュービジネス協議会・アントレープレナー大賞を受賞され、八王子商工会議所初の女性政策委員に選任されているように、外食業界では著名な経営者です。
 
ご発表の内容は経営ゼミナールHPのワンポイントレッスンで「ゼロからのスタート、経営ポリシーは強い志」として掲載したものを、以下ご紹介いたします。

「お客は多様な価値観の集団であり、首都圏という密集した地域に集積していると捉えれば、買いまわり、食べ歩きの範囲は都市交通の至便な立地条件に、多様な店舗を設置していくことになります。

㈱クレアは現在、日本全体人口の27%が集積している首都圏に、24タイプ、70店舗を擁しています。明らかに一人のお客は、多様な好みで行動すると捉えているのです。

『今日は体に優しい和食をとりたい』『たまにはステーキの味を楽しみたい』『イタリアンもいいなぁ』『超多忙だから立ち食いソバですますか』『待ち合わせは東京駅前のオアゾのカフェで』『それともハイセンスな六本木ヒルズにするか』。

これらの多様な行動をとる人々に対応するためには、多くのタイプ店舗構成となり、結果的に24タイプ、70店舗の経営展開が必然となるのです。

しかし、一般的に考えますと、多様な店舗展開は経営全体のコンセプトに問題を発生させることが予測されますが、そうならないのが㈱クレアなのです。

その根本的な要因は『町田社長のリーダーシップ』にあります。町田社長のもつ強い志・想いが、多様・多店舗のベスト経営を実現させているのです。

経営ゼミナール終了後の懇親会は、『丸の内OAZO』丸善書店4階に展開している『M&C Cafe』で、町田社長を囲んで現場見学をいたしました。

そこで町田社長からいただいた色紙には次のように書かれていました。

『本気』  本気ですれば    大抵のことができる
       本気ですれば    何でもおもしろい
       本気でしていると  誰かが助けてくれる            
以上。

投稿者 Master : 2008年05月06日 08:58

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