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2008年02月21日

2008年2月20日 エジプト・一言で語れない

環境×文化×経済 山本紀久雄

2008年2月20日 エジプト・一言で語れない


カイロの街

ルクソールから乗ったエジプトエアーから見る地上は、一面茶色の砂漠です。

国土の96%が砂漠で、残りの4%の土地に7130万人(2006年)が住んでいて、特に、首都カイロを核とする大カイロ圏には、約2000万人(構成比28%)が集中しています。

人口集中の結果は、道路の渋滞ということになります。カイロ空港からホテルに向かった道路、渋滞と信号無視の世界が続きます。誰も信号、つまり、交通ルールを守らないのです。というより信号がないのです。あっても真ん中の黄色が点滅しているだけで、そこでは一応警官が手信号で交通整理をしていますが、人はかまわずに車と車の間を巧に泳ぎ、交差点・道路を横断します。実際に、これを真似してみたところ、結構できるもので自分ながら感心しましたが、排気ガスがすごく、当然ですが健康にはよくありません。知人から、エジプトの平均寿命は短い(70.1歳・2002年度)のは何故か。それは水が悪いからではないか、ということを確認してくれと依頼されましたが、こういう排気ガスが充満している環境では、いろいろ要因が重なって、平均寿命に影響していると思います。それを示すようにエジプト大使館ホームページでは、乳幼児死亡率が高い理由として呼吸器感染症と下痢症を挙げています。

さらに、人口集中の結果は、失業率の高さを生み、貧困層がギザのピラミットの近くの「死者の町」、つまり、墓地にまで住み着く結果となっているのです。


アスワン・ハイダムによる環境問題

ナイル川上流のアスワン・ハイダム建設について、エジプト博士の早稲田大学・吉村作治教授が、以下のように述べています。

 「このアスワン・ハイダムのお陰でアスワンより下流に氾濫が起きなくなって、エチオピアやケニアから流れてくる肥沃な土砂が運ばれなくなった。そのために土地が痩せて、化学肥料を入れなければならなくなった。なおかつ約六十メートルも水位が上がり、そのため地下水の水位も上がって、遺跡やその他が塩害に苦しむようになった。また、地中海の河口の所にプランクトンが湧かなくなったり、ダムによって広大なナセル湖ができたために蒸発した水分が雲となり、雨が降りやすくなるなど、いろいろな弊害が出てきている。ナセル大統領は、アスワン・ハイダムを造ることが国を裕福にする唯一の方法だと考えたのだろうが、歴史というのは大変冷酷であり、こういった結果をもたらしてしまったわけである」(ピラミット文明・ナイルの旅)

このことの証明が日経新聞(2007年12月31日)の報道です。

「三大ピラミッドやスフィンクスで知られるエジプトの首都カイロ郊外ギザの古代遺跡群周辺で地下水位が年々上昇し、一部で地上に水があふれて遺跡が浸水、ピラミッド建設に当たった労働者や貴族らが暮らした街の遺跡『ピラミッドタウン』の発掘作業に深刻な影響が出ていることが分かった」

アスワン・ハイダムは、古代エジプト人の「ナイルの賜」文明に反したのでしょうか。

ホテルで

渋滞の中、13時過ぎにホテルに着きました。ホテルは高さ142m、716室と巨大建物です。部屋に入って、インターネットLAN回線でつなげてみると問題なく、ホッとしてボーイにチップ渡し、さて、メールしようと受発信するとエラーとなり、インターネットもつながらなくなりました。そこで電話してネット係りに来てもらい、いろいろ操作してもダメです。一緒にビジネスセンターに行ってくれというので行くと、そこの担当者が6時過ぎに開通するので待っていてくれといいます。

仕方ないので、ホテル内をウオッチングし、外にミネラルウォーターを買いに出ましたが、どこにも店らしき姿なく、排気ガスがすごいので、すぐに部屋に戻り、まだ6時前でしたが、念のためインターネットを試してみたらつながります。

しかし、一週間宿泊した後半の2日間は、地中海に配置している回線の故障で、完全にインターネットが使えなくなりました。カイロ全体が不通なのだと、地元の人が語りますが、このようなトラブルはよくあるのか、ちょっと不思議な社会であると感じます。

着いた日の夕食は、一階レストランに行きました。エジプトはイスラム教なので酒類は禁止のはずですが、エジプト産のワインがあるというのでグラスワインを飲みました。結構いけます。食事が終わり、支払伝票を確認しましたら、グラスワインの金額が倍に印字されています。それをウェイトレス指摘しますと、走ってどこかに行き、戻ったときはチーフらしき蝶ネクタイがついてきて「この価格にはサービス料が加わっている」といいます。そこで、伝票の合計欄下に別項目で書かれているサービス料12%を「これは何だ」と手で示しますと、黙って引き下がり、しばらくすると減額した伝票を持ってきて「訂正しました」といいます。イスラム社会はちょっと難しいと感じます。

ムバラク大統領

何人かのエジプト人に聞いてみますと、ムバラク大統領の評判はいたって悪いようです。その理由は、政権が長期間になりすぎていることです。サダト大統領が1981年10月に暗殺され、そのときに就任してから27年間、年齢は80歳になろうとしています。本来、憲法で任期6年、二期までという規定がありましたが、その終了時に任期規定を条項修正した上に、2005年に行われた5選目の選挙では、国民や海外から不正疑惑を問われましたが、結局、当選し事実上の終身大統領となっているのです。

このまま行けば、後任大統領には息子がなるだろうと、地元の人が語り、今の政治は貧しい人を豊かにさせない政策を採っていると指摘します。

国民が豊かになって余裕が出ると、政治に関心を持つことで、現政権への批判が強くなるので、貧乏社会にしているのだ、という声が多くあります。

この声には、まさかと思いますが、そういうことが国民の間で語られているという事実、そこにエジプト社会の深い闇があるように感じます。


日本人に対する意識

書店で買った、ぬりえブックの出版社を訪ねました。アポイント取らず直接訪問するという荒業です。渋滞で全然車が動かず、ここで事故が発生し、怪我や急病になっても、これでは救急車も入れず、命の保証がないだろうと考えていると、ようやく出版社に着きました。立派なビルです。カイロの中心地で、エジプト考古学博物館の近く、エジプトテレビの隣です。玄関ホールから、エレベーターの前に立つと、ガードマンがどこに行くのかと聞いてきます。通訳が「日本からぬりえの研究者が来て、社長に会いたい」といいますと簡単に通してくました。

エレベーターで上がり、薄暗い廊下を歩き、窓にぶつかる右側のドアが開いているので顔を出しますと、女性が入れという手招きをします。中では大きなデスクに年配の女性が座り、その前の女性と何か打ち合わせしていたようです。

大きなデスクの女性が、大声で電話しながら「何の用事ですか」聞きますので、ぬりえの調査をしていて、本屋で貴社のぬりえを買い、その住所をみて訪ねて来ました。いろいろ教えてもらいたいと、名刺を差し出しますと、まぁ座れという仕草をしてくれます。遠慮なく座りますと、「何か飲みますか」と聞いてくれます。折角ですから紅茶をお願いしながら、デスクの女性が渡してくれた名刺をみますと、何と社長です。

また、この企業は大きそうなので、創業以来何年ですか、と聞きますと118年だといい、当社はアラブ世界で一番大きい出版社だと補足します。大企業なのです。しかし、こういう大企業にアポイントなしで来て、社長と直接会えることに驚くと同時に、そういうことができる社会であると言う事実に、エジプトの新しい一面を感じます。

この企業が扱っているジャンルはすべての分野。政治、経済、文学、科学、法律、歴史、アート、子ども・・・。印刷はこのビルの中と、もうひとつ向こう側のビルの中で行って、アラブ世界各国の36の書店系列に卸していると説明受けます。手土産代わりに、「ぬりえの心理」英文版を贈呈すると、漢字でサインしろといい、ページをめくりながら、こういう本を出したかったとお世辞かどうか分かりませんが、至って好意的で、 日本人だからだと思います。エジプトでは日本が高く評価されています。


他国理解は難しいのですが、特にアラブ社会は難しいと感じたエジプトでした。以上。

投稿者 staff : 2008年02月21日 11:36

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