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2007年10月05日

2007年10月5日 集中と継続

環境×文化×経済 山本紀久雄

2007年10月5日 集中と継続

カレーショップが増えている

9月のインド・ムンバイ滞在では、毎日カレーを食べました。ホテルの朝食はカレー中心のバイキング、昼食もインド料理店に行けばカレー、招待されたインド人家庭でも当然にカレーですから、カレーの嫌いな人はインドは難しいでしょう。

日本でインドカレーといえば新宿中村屋です。戦前インドから亡命してきたビハリ・ボースが、中村屋の娘の相馬俊子と結婚し、新メニューとしてインドカリーを取り入れ「中村屋のカリーは恋と革命の味」と評判を呼びました。

ところで、このところカレーショップの市場規模が広がり、2006年度は730億円、これは4年間で15%の成長、店舗数は20%増です。(日経新聞2007.9.27)


CoCo壱番屋

カレー専門店の日本最大は1122店舗の「CoCo壱番屋」です。この店の味を試してみようと新宿西口店に入ってみました。西口ガードに近いところですが、入ると元気の良い挨拶が気持ちよく迎えてくれます。「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」という社是が実行されています。野菜カレー650円を食べました。味は「グッド」。カレーにはうるさいを自認していますが満足味です。

CoCo壱番屋は中国にも進出し、カレーなど食べない習慣だった中国人に受け入れられ、上海に展開している7店舗のうち、6店舗が過去最高の売上実績を示したという経営は見事なものです。

2007年5月期の売り上げは369億円、前期比8.3%増、経常利益は36億円、前期比8.6%増、売上高経常利益率9.8%、東証一部上場企業で株価は2300円前後で推移しています。

このCoCo壱番屋創業者の宗次徳二氏に、先日お話を聞くことができました。

非常に穏やかな微笑を浮かべる宗次氏は59歳。捨て子として孤児院で育てられ、3歳で養父母に引き取られましたが、養父が競輪に狂い、財産を無くし、ホームレスすれすれの生活を送ったと淡々と語り、今はCoCo壱番屋の経営は後継者に譲り、名古屋で定員310席、地上7階のコンサートホール「宗次ホール」のオーナーで、創業者利益を基に社会還元事業をしています。

宗次氏が創業した時、それは25歳でしたが、その時から53歳まで、一人の友人も作らず、スナックもクラブにも行かず、一年間の労働時間は5600時間超、一日あたり

15時間を超えた経営集中力。朝3時に起床し、全国から送られてくるアンケートハガキに一枚一枚目を通し改善を進めてきた継続性。その驚異的な集中と継続がカレーショップを一部上場企業に育てたのです。

宗次氏ほど凄まじい努力は稀としても、物事を成功させようとするならば、ある期間「徹底的に集中し継続する」いうことが絶対のセオリーであると思います。

サブプライムローン

米国発のサブプライムローン問題、「今のところ米国と独仏英という主要先進国にとどまって『グローバル危機』にはなっていない」(日経新聞本社主幹・岡部直明氏2007.

10.1)という見解ですが、日本株式は大幅下落し、損害をこうむった人が大勢でました。そのことをグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)前議長は講演で次のように述べ、日本を含む世界市場に直接間接に影響を与えていると表明しました。

「日本の金融市場は米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連取引そのものでは打撃を受けなかったが、欧米市場でサプライム関連損失を抱えた投資家が日本株を売却したため株式相場が急落した」(日経新聞2007.10.2)

ところで、これだけ大問題となったサブプライムローン、発生するまで問題指摘はなされていたのでしょうか。世の中には優秀な経済分析専門家が多々います。この人たちは問題発生前にどのような見解だったのでしようか。

大和證券の野間口毅氏は「サブプライムローンの残高は住宅ローン全体の一割程度だから、過度の懸念は不要」(2007.5.9)、日本総合研究所の湯元健治氏は「残高ベースでのサブプライムのウェートは13%程度であり、影響は限定的に止まる公算」(2007.5.23)と、両氏から直接お聞きしましたが、結果は大問題となりました。

特に、湯元健治氏は、今回の福田内閣改造に伴って、内閣府審議官(政策担当)に就任したほどの日本でも著名な経済アナリストですが、こういう優秀だと評価されている人物でも、サブプライムローン問題を軽視していたのです。つまり、経済予測は当たらなかったのです。


社会は巨大なヌエ

考えてみれば、経済予測は当たらないのが普通です。そのことをお茶の水大学教授の土屋賢二氏は次のように述べています。

「経済現象に影響を及ぼす要因は、素人考えでも、選挙結果、異常気象、災害、感染症の流行、主要国の政変、国際紛争、テロ、有力政治家の死、画期的発明、証券取引所のコンピューターの異常発生、阪神の優勝など、数え切れない。これらをすべて考慮することは不可能である。正確な予想ができるはずがない」(日経新聞2007.9.6)

巨大なヌエを相手に予測しようとしているのですから、天気予報の場合と異なります。天気予報はデータを網羅して、高速処理すれば予測の精度は上がると思います。だが、経済予測の場合は、仮にすべての要因を計算に入れることができたとしても、精度は決定的に上がることはないと思います。現実の社会が発生させる経済は、非常に複雑で巨大すぎるのです。さらに、天気予報になく、経済予測にある要件は「人間の関与」です。人間が下す決断というのは、本質的に気まぐれで予測不可能なものです。人間の気まぐれな行動を考慮しなくてはいけないということは、最初から無理な相談なのです。その無理な相談を経済アナリストはある条件下で予測していくのですから、当たらないのが当たり前なのです。さらに、土屋賢二氏は次のように述べています。

「経済学者は予測を求められたらこう答えたいのだろう。天変地異も政変も国際紛争も起こらず、有力な投資家やファンドが予想通りの行動をし、石油価格が安定し、冷夏にならず、わたしが計算間違いをしておらず、かつ、この予想が外れなければ、六割の確率で円高に推移するかもしれない」と。

いくら湯元健治氏が内閣府審議官(政策担当)に就任するほど有能でも、巨大なヌエ相手と、人間の気まぐれな行動を相手にしているのですから、当てるのは無理な相談です。


徘徊する巨大なマネー

加えて経済予測を難しくしているは、運用先を求めて徘徊する巨大なマネー集団です。錬金術のように金が金を生むことを期待し、現代の錬金術師たちが国境を越え、合理性のみの基準で動き回っていくという実態です。

グリーンスパン前議長が解説したように、「欧米市場でサプライム関連損失を抱えた投資家が日本株を売却した」というマネタリー経済の合理性で「日本株式は暴落した」のです。つまり、我々が所有している日本株式価格が、該当企業の業績に関係なく動かされていくのであって、そこには国家が介入する余地もなく、情報としての時差なき「一つのマネー世界」が動いていくのですから、日本経済という視点から様々な要件を材料として分析しても、株価予測は当たらない確率が高いのです。国境なく存在する「マネー市場」が現実の株価をつくっていくのです。


必要なことは集中と継続

社会は巨大なヌエであり、そこに巨額のマネーが徘徊し、ユダヤ陰謀説、フリーメイソン策謀説、ロックフェラー支配説などの諸説紛々が入り交じって議論百出、それらで問題をさらに難くしています。何が真実なのか明確でないのです。

だがしかし、我々は生きる一人の人間として、経営する一つの企業として、どのような問題が発生しても、経済予測が当たらなくても、陰謀・策謀・支配説が流布されても、毎日の生活と経営を進めていかねばならないのです。社会が、経済が、マネーが起こす荒々しい大変化に惑わされず、目的達成という結果に結びつけることが必要です。

そのためには何が必要か。その答えはCoCo壱番屋創業者の宗次徳二氏が教えてくれます。定めた目的達成の目処が立つまで、ある期間「徹底的に集中し継続する」という努力が絶対要件です。その過程を経ない人生と経営は成功に結びつかないと思います。以上。

投稿者 staff : 2007年10月05日 10:03

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