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2007年08月21日

2007年8月20日 流されない

環境×文化×経済 山本紀久雄

2007年8月20日 流されない


終戦記念日

8月15日の終戦記念日も猛暑でした。昨年の関東地区気温は28度でしたから、今年は一段と暑さが堪えます。
この日になると、いつも「あの戦争はなぜ始めたのか」と思います。圧倒的な軍事物量格差があることを、最初から分かっていたのですから、専門家が日米両国の力関係を分析すれば、終戦記念日の結果は簡単に予測しえたはずですし、当然、それを行っていました。

今年の2月9日(金)衆議院予算委員会で、前防衛庁長官の石破茂さんが猪瀬直樹著『日本人はなぜ戦争をしたか――昭和16年夏の敗戦』という本を取り上げ、以下のように発言したことを3月20日レターでご紹介しました。
 「なぜ『昭和20年夏の敗戦』ではなくて『昭和16年夏の敗戦』なのか、ということであります。昭和16年4月1日に、いまのキャピトル東急ホテルのあたり、首相官邸の近くですね、当時の近衛内閣でありますが、総力戦研究所という研究所をつくりました。そこにはありとあらゆる官庁の30代の秀才、あるいは軍人、あるいはマスコミ、学者、36名が集められて、『もし日米戦わばどのような結果になるか、自由に研究せよ』というテーマが与えられた。8月に結論が出た。緒戦は勝つであろう。しかしながら、やがて国力、物量の差、それが明らかになって、最終的にはソビエトの参戦、こういうかたちでこの戦争は必ず負ける。よって日米は決して戦ってはならない。という結論が出て、8月27日に当時の近衛内閣、閣僚の前でその結果が発表されたが、東条陸軍大臣によって拒否されたのであります」

草の根の軍国主義

客観的立場から冷静に分析した結果「日本は負ける」という結論。その通りになったわけで、一人の陸軍大臣の反発でこの結論が「流された」というところ、そこに、また、疑問を持ち続けていたところ、7月末に出版された「草の根の軍国主義」(佐藤忠男著 平凡社)がその疑問を解明してくれました。佐藤氏は1930年生まれ。終戦時は少年兵でした。その当時の日本社会について、映画評論家としての鋭い視点から次のように結論化しています。
「戦争開始当時の日本の雰囲気は、軍部の抑圧で息詰まるものだったというは少し違う。あのころは『鬼畜米英』に打ち勝つという目標に向かって、社会が和気あいあいとすらしていた」と述べ、「戦争を始めることも、終えることも、本気で考えていたのだろうか」と問いかけ、「あいまいな『気分』がその時どきの判断を左右してしまう国民性、そして『途方もないほどの従順さ』が軍国主義を押し広げていった」と指摘し、さらに、「真珠湾攻撃を忠臣蔵の松の廊下刃傷事件に重ね『意地悪な相手に一太刀浴びせたという気分』が明らかに国民の間にあった」という忠臣蔵史観でのまとめは秀逸で、成る程と思いました。

クリスピー・クリーム・ドーナツ
連日続いた猛暑が一転した8月18日、新宿に行きました。新宿サザンテラス口を出て、子供連れの親子や若い男女が通りを行き交うなかを歩いていきますと、大勢の人が立ち並んでいるところに遭遇しました。この店だけに人が群がっているのです。
昨年12月にオープンした、アメリカの「クリスピー・クリーム・ドーナツ」日本一号店です。1937年にアメリカ・ノースカロライナ州の小さなドーナツ店から始まって、今や世界11カ国、約400店に成長しています。
この一号店、人の群がりは店頭だけではありません。1時間20分待ちと書かれた表示板の向こうの角を曲がった陸橋の上、そこでも並んでいるのです。離れていますからちょっと見には分かりませんが、合わせて150人くらいでしょう。ジッと立ち待っているのです。
少し涼しくなったといっても30度です。木陰もない外ですから大変です。しかし、この気象条件下で、ただドーナツを買うために待つのですから、それにはそれなりの理由があるだろうと思います。例えば、飛びぬけて美味いとか・・・。
この店の評判は一月ごろから聞いていました。しかし、今回まで新宿店までいけず、ようやく味を試すことが出来ると思ったわけですが、1時間20分炎天下で待つのは大変ですからあきらめました。だが、このドーナツの味見は5月のニューヨークで経験済みです。
ニューヨークで泊まった42丁目のホテルから、朝食代わりに食べてみようと、朝9時、33丁目のペンシルバニア・ステーションまで歩き、ここはマデイソンスクウェアガーデンの地下ですが、ここに「クリスピー・クリーム・ドーナツ」店があります。
この店で、ドーナツ3個とコーヒー一杯で4.02ドル、通勤客が発車時間を待つフロアの椅子に座って食べてみました。さて、期待の味はどうか・・・。
結果は、不味くはありませんが、甘さが強く残る感覚で、特別の味とは思えません。また、店の前は忙しく通り過ぎる人ばかりで、買っている人は見かけません。新宿の店とは大違いです。ニューヨーク在住の複数人にお聞きしますと、この店は、どこにでもあるので珍しくなく、それほど美味いとは思わない、という見解です。新宿の群がりはどうしてでしょうか。

オーシャンズ13
フランク・シナトラと、彼の芸人仲間の共演で生まれた映画「オーシャンと11人の仲間」(60年)の遊び心を、引き継いで生まれたリメイク作に続編がでました。「オーシャンズ13」です。早速、観にいきました。
今回は、ラスベガスに新築オープンするカジノ付きホテル「バンク」を世界最高と認定させ、受賞の証しのダイヤを増やしたいホテル王を破滅させるストーリーです。カジノのセキュリティを破るのに停電、地震、女誑し、様々な手を使う芸の細かさの一つ一つを、これが映画だと言わんばかりに映像で見せてくれるので、終わってスカッと爽快感が残りますが、この中に登場する背景シーンにビックリしました。それは、いかに日本ブームが広がっているかという事実確認です。
カジノオープンセレモニーとして、大相撲の取り組みを土俵上で展開させ、和太鼓も登場し、日本酒「久保田」での乾杯、それも日本語でカンパイと一斉に言わせる芸の細かさ、さらに、資金調達の助っ人を迎え椅子に案内し、何か飲みますかと聞くと「煎茶か玄米茶」と日本語で言わせるところ、この他にもまだまだ日本を取り入れているシーンが多くあります。
ハリウッドのトップスターが演じる華と、観客サービスを徹底させた最新人気映画が、ここまで日本ブームを意識した内容で展開していること、これは確かにアメリカや世界中で日本ブームがすごいことを物語っていると再認識できました。
さらに、日本では有り触れて、珍しくもない普通の居酒屋やラーメン店頭に、人が群がっている事実をニューヨークで確認していますが、これらの実態は、世界的な日本ブーム化現象が背景に存在しているからだと思います。
一方、アメリカでは誰も並んでいない「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が日本では長蛇の列になるという事実、これをどのように理解するか、そのところに新しい疑問が浮かんできました。日本でそれほどアメリカブームが発生しているのかという疑問です。

朝青龍

大相撲横綱の朝青龍が、本場所二場所出場禁止処分を受け、この状況は格好のマスコミ報道騒動になっています。出場禁止処分を受けた理由は明白です。夏の巡業を体調問題で断った、つまり、大相撲会社の一大イベントに参加できないほどの体なのに、モンゴルのサッカー場で溌剌とした笑顔で走り回り興じている姿がテレビで放映されたから、さすがの相撲協会も怒り、今回の処分になったのです。横綱としての品格を欠く態度が、これまで何回も非難されていたことも背景にあると思います。
マスコミ報道騒ぎが始まった当初、何人かに、この話題を出してみました。すると答えは決まって「朝青龍の病気は本当か。仮病ではないのか」というものでした。最初はマスコミの関心が病気の真否に重点が置かれていたので、その報道を素直に受けた発言でした。
実は、この反応にギョッとしました。あまりに報道どおりの発言だったからです。
朝青龍がどうしてそのような事態に追い込まれたのか、という本質的な心理要因について関心を持つのではなく、マスコミ報道が関心持って伝えていること、それに合わせて自らもそこに関心を寄せるという実態、この姿にギョッとしたのです。

流されない

「草の根の軍国主義」佐藤忠男氏の「あいまいな『気分』がその時どきの判断を左右してしまう国民性、そして『途方もないほどの従順さ』が軍国主義を押し広げていった」という「流される」日本人が持つ心理的特性への問題指摘。終戦記念日に再認識いたしました。以上。

投稿者 staff : 2007年08月21日 15:34

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