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2007年09月07日

2007年9月5日 哲学を持つ

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年9月5日 哲学を持つ

無意識選択
ある科学者の研究によると、人間は一日に3000回超の意思決定選択をしていますが、本人が明確に意識して判断しているのは、わずか4~5回で、それ以外はすべて無意識で判断しているそうです。また、量子論の学説に「多世界解釈」という理論があり、ある選択をする際に、Aを選んだ世界、Bを選んだ世界がそれぞれ存在し、その選択を重ねるたびに、そこから無数の世界に広がっていくといいます。つまり、自分が選ばなかった世界が無数に存在しており、自分が選んで生きていく世界は、その中のたった一つに過ぎないそうです。ですから、無数の世界から、自分にとって最も良い選択をするためには、一つひとつの意思決定選択を大事にすべきであり、それが無意識化で行うものであっても、妥当な選択をできるような体制を脳の中に構築しておくことが必要になります。

白い恋人
インド・ムンバイにバンコック経由で行くことになり、成田空港でチェックイン時に、バンコック乗り継ぎ時間帯のラウンジ利用を訊ねますと、JALのさくらラウンジがあるから利用してくださいという返事でした。
バンコックに着き、さくらラウンジに行きますと、入口にクローズと書いてあり利用できません。仕方ないので、乗り継ぐキャセイ・パシフィックのラウンジに行き利用しました。当然、このような利用方法になるだろうと訊ねたのですが、JALのカウンターでの回答は異なっていました。大したことはない細かいことですが、少し気になりつつ機中で持参したAgoraアゴラ、これはJALカード会員に送られてくる月刊誌ですが、何気なく読み進んで行き、一瞬、ため息が大きく出るページに出会いました。
それは、実力経営者が推奨する本の紹介記事「旅への一冊」で、経営者の業績を紹介し、その業績の背景としての人物像と、経営者が推奨する本と結びつける編集になっており、なかなか面白いので読んでいますが、この8月号は何と「白い恋人」チョコレートの石屋製菓㈱の石水勲元社長が登場し「徳川家康」(山岡荘八著)を取り上げているのです。
周知のとおり石屋製菓㈱は「白い恋人」の賞味期限違反で摘発を受け、その違反を長期間にわたって継続していたことを石水勲元社長は承知していました。つまり、改竄を指示していた事実から、一気に著名「白い恋人」ブランドは壊滅的状態になりました。
しかし、アゴラ記事で石水勲元社長は「座右の銘は努力。目の前の競争や戦いばかりに勢力を傾注していると、こちらにもダメージが生じる。将来の安定を考えて体制をつくりあげた『徳川家康』を読み深めていくと、会社の将来展望や若い世代への権限委譲などについて、実に含蓄のある一冊になっていると思います」と述べています。
誠にご尤もな見解ですが、これと今回の事件をどう説明するかということ、さらに、このような石水勲元社長を結果的に選択してしまったJALのセンス、それが大問題です。
勿論、取材したタイミングは数ヶ月前ですから、当然に今回の事件は発生しておりません。ですから、JAL側は情報がなかったのだから「仕方ない」と思うかもしれません。
だが、ここで指摘したいのは、偶然にせよ、結果的に賞味期限違反という、消費者の信頼を裏切る経営行動をしていた人物を、立派な経営者と判断してしまった、という事実です。このように結果的に妥当な選択をできなかった背景要因が、JALの内部に潜在していると感じ、これがJALの各部門で表象化しているような気がしてなりません。

予測は当たらない

歴史的惨敗に終わった参院選を、総括する報告書が自民党内から出ました。敗因として年金記録漏れ問題などに加え、安倍首相の「国民の側でなく、永田町の政治家の側に立っているイメージが持たれた」政治姿勢を指摘し、今後の課題として「国民の目線に沿った政権運営が求められる」と異例とも言える首相に批判的な内容です。
また、日経新聞「核心」のコラムニスト田勢康弘氏からは「首相自身がまず、敗北はおのれの指導者としての決断、指導力、うつろな言葉にもあるということを自覚しなければならない」と厳しく、今回の改造でも回復は難しいという見解です。
しかし、この参院選の結果を事前に専門家はどう予測していたでしょうか。一週間前の報道機関による事前予測では今回の惨敗を予測していましたが、このタイミングより前の専門家見解、例えば白鴎大学教授の福岡正行氏から直接聞いた(5/10)のは「参院選は基本的に引き分けだ」と言い、選挙後に「国民新党をどう取り込むか」の戦いなるというものでした。結果は大きく異なりました。
専門家の見解の予測誤差は選挙だけではありません。経済についても同様です。日本総合研究所の湯元健治氏は「中国のバブル崩壊が今年は起こらないという前提で考えれば、まず、安定的な経済が続く」「安倍政権は景気回復を更に強め、成長力を高めていく成長路線を打ち出している」(5/23)と話しましたが、その後の米国サブプライムローン問題から発生した、世界的な大変動は予測しておりませんでした。

世界は考え方が異なる

インド・ムンバイの中心街は一人歩きしても心配ありません。南アフリカ・ヨハネスブルグとは全く違います。多くの人が街中を出歩き、人と車の多さに圧倒されますが、その中に豊かさを感じます。勿論、田舎に行けば貧困層がいますし、ムンバイにも世界最大というスラム街がありますが、一般人が歩き生活するところでは、物量多く豊かさが溢れています。また、街中でのファッションは、Tシャツとジーンズにスニーカー、手には携帯電話、カフェでくつろぎ、ミュージックもロック、このムンバイの実態は世界的に共通しているものです。このグローバル化をアメリカ発の「マクドナリゼーション」と言いますが、これはインターネットでも同じであり、プロバイダー上位企業はアメリカ資本が上位を占めていますので、客観的な事実に基づいて情報が伝えられていると思いたいのですが、実は、そこには、無意識、あるいは意識的なマインドコントロールが、グローバル化という名のもとに行われているのが実際です。
このように衣食住で世界画一化が進み、情報操作によって、世界中が同一の考え方になりつつあると考えやすいのですが、インドの実態をみるとそれぞれの考え方は大きく異なっていることを感じます。それもそのはずで、インドは3000年の歴史を持つ国であり、隣国の中国も長い歴史があり、ヨーロッパも中東諸国も同様で、これらの国々はそれぞれ全く異なる価値観を持っていますから、日本人の価値観だけでは理解できないのです。
つまり、行動は同じように見えるのですが、その背景に存在する価値観は国によって大きく異なっているのです。

考えない日本人
世界では常に想像できない出来事が発生する。このことを強く認識すべきと思います。JALもまさか「白い恋人」の賞味期限違反摘発が発生するとは思わなかったでしょう。安倍首相も事前に厳しいとは思いつつも、ここまで惨敗するとは考えず、参院選に臨んだのでしょう。ムンバイについた日、隣のアーンドラ・プラデーシュ州の州都ハイダラーバードで爆弾テロ事件が発生し多くの人が亡くなりました。
世界の人々の価値観が異なるからこそ、世界中で毎日のようにテロ事件や騒動が発生します。その結果、事前に考えた予測とは異なる結果が発生し、そこから新たなる対応をとることが必要になります。つまり、現実に適応する考える力が要求されているのです。
前回のレターでお伝えした「草の根の軍国主義」(佐藤忠男著 平凡社)の日本人は「あいまいな『気分』がその時どきの判断を左右してしまう国民性、そして『途方もないほどの従順さ』が軍国主義を押し広げていった」と指摘されている事実があるのですから、特に、日本人は考える力について再認識が必要と思います。
神戸女学院大学の内田樹教授は、最近の「あっと驚くような学力の新入生」が多く、このままでは「国民総六歳児化の道」に進むと危惧しています。大学生がこのような実態になったのは、日本人が総じて「考えない結果」から生まれたものと思います。

哲学を持つ

行動のためには意思決定選択が大事であり、妥当な選択をできるような体制を脳の中に構築することが必要です。そのためには「哲学を持つべき」と思います。哲学とは何か。これは難しく考えずに「疑う心を持つことだ」と外交評論家の磯村尚徳氏が主張しています。衣食住と情報が世界画一化した中、今、改めて、重視すべき指摘と思います。以上。

投稿者 staff : 2007年09月07日 09:29

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