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2006年11月21日

2006年11月20日 格差社会

環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年11月20日 格差社会

米中間選挙結果

11月9日のアメリカ中間選挙について、世界中の人が高い関心を持ち見つめ、民主党の勝利とブッシュ大統領・共和党敗北を全世界で確認し合いました。
一国の選挙結果について、どうしてこのように世界中が関心を持つのでしょうか。日本の総選挙についても、このように世界中で高い関心を呼ぶでしょうか。ある程度の関心事項として取り上げられると思いますが、アメリカの選挙結果とは格段の差があります。これは日本が特殊でなく、アメリカ以外の国に共通している状況と思います。アメリカだけが特別なのです。世界中でアメリカへの関心が、異常に高いのです。

アメリカは旧ソ連との冷戦状態を勝ち抜いて、今や一国だけの超大国として世界に君臨しています。政治、軍事、経済、文化、すべての分野において抜きん出た力を世界に及ぼしています。このアメリカのブッシュ大統領が、2001年9月11日に発生した同時多発ニューヨークテロを機に「テロとの戦い」を標榜し、アフガニスタン攻撃、イラク戦争へと突き進んだ結果、アフガニスタンもイラクも治安は一向に安定せず、返ってテロ危険は世界各地に広がっています。出口の見えないアメリカの戦い方に、世界の人々の不安がつのっているのが現実の姿です。
日本やイギリス、オーストラリアのような、アメリカとの同盟国は、ブッシュ大統領の「テロとの戦い」に共同歩調を採って、イラク駐留へと行動しました。これに対し、日本では「ブッシュ大統領の言いなりだ」「アメリカべったり」だという批判的見解や、一国のみとの同盟関係を楯に戦争への全面協力はいかがなものか、という意見が多々ありますが、このような意見対立は日本独自のものではなく、世界中の国々で一様に議論され、結果的にアメリカを敵視する国もあれば、運命をともにしようとする国になっているのが現実です。それにしてもテロは9.11で、選挙は11.9というのも面白いものです。

アメリカに対する気持

そのアメリカを、2001年9月11日以後各国がどのように見ているか、その実態を毎日新聞が特集として04年4月から06年3月まで、同紙第一面に掲載した内容を、この度「脱米潮流」として出版しました。
世界の様々な国では、アメリカを好きな人もいれば、嫌いな人もいます。当然です。しかし、この「脱米潮流」を読んでみますと、アメリカへの好き嫌い感情が、その国の政府が採っている政治情勢、つまり、アメリカ敵視政策国であっても、同盟国であっても、一般国民の多くの感情は全く同様である、という現実を伝えていることに驚きます。つまり、自由なアメリカにあこがれ、アメリカに行きたいという気持で一致しているのです。
例えば、イラン。アメリカは核開発、人権、テロ支援の各問題でイランへの圧力を強めています。それに対しイラン政府は強く反発し、アメリカからの圧力が強ければ強いほど、イラン国内では反米保守派が活気づいて「アメリカは敵だ」という声が高まる一方のように感じていますし、日頃の報道からそのように理解しています。
ところが、毎日新聞記者とテヘランの若い男性との会話は次のとおりなのです。
「アメリカはイランを攻撃するのか?」とイラン人男性、「大丈夫。アメリカにイランを攻撃する余裕はない」と記者の回答、「なら、イランは当分、このままということか」と肩を落とした。今、イランの若者にはこの男性のように、状況が変わるならアメリカによる攻撃さえ「期待」するような感情さえ芽生えているという。この男性はイスラム革命(1979)の年に生まれました。イランでは革命後の世代が人口の三分の二を超え、王政を打倒した革命の熱気は過去のものとなっていて、革命後に誕生したイスラム支配は自由を制限しいたことで、国民の支持獲得に失敗し、若者や女性を中心に「変化」を求める傾向が強い、とも書かれています。また、04年の総選挙で大量の改革派議員の立候補が認められず、国民は政治の自由さえ奪われ、若者たちの絶望感は、多くが留学先にアメリカを希望するなど、「自由」を標榜する国への過度のあこがれを生み、その国からの「攻撃」を「期待」するといったゆがんだ感情につながっている、と分析しています。

隣の中国の実態についても、意外な事実が書かれています。中国では90年代から指導部が愛国教育を強化してきた結果、新しい形の民族主義が台頭するようになって、国内の政治体制や指導者への批判が禁じられた状況の中で、アメリカや日本などの外の「敵」に矛先を集中する傾向があり、「新民族主義」などと呼ばれています。この動きは「実際には政府幹部の腐敗や貧富の格差」に不満を抱く国民が「愛国」という看板を掲げて暴走するケースを生み出し、中国そのものにとって危険な存在になってきているようです。
それを証明するのが99年の北大西洋条約機構(NATO)の軍機がユーゴスラビア中国大使館誤爆事件に対し、愛国教育を受けた学生が反米感情を燃え上がらせ、各地で大規模なデモを起こし、これは官製デモとの見方がありましたが、最後は指導部が収束にてこずるほど激しいものになり、「新民族主義」の台頭として注目を集めました。
しかし、このデモで中心的な役割を果たした学生の多くはその後、アメリカに留学しているのです。最近の学生は「アメリカ覇権主義反対」を叫びながら、アメリカ留学を目指して必死で英語を勉強している。これは笑い話でなく現実の姿なのだと伝えています。
また、北京五輪(08年)や上海万博(10年)に向け、タクシー運転手から役人まで英語の勉強を半ば義務づけられていて、学習人口はアメリカの人口3億人を遥かに超す
4.5億人に達していると言い、この結果の先には「国民意識に革命的な変化」が起きるかもしれない可能性さえも指摘しています。つまり、英語を勉強するということは、アメリカ社会をより知っていくことにつながり、それは自国の「一党支配体制」という矛盾に気づくということになっていくだろうと予測されるからです。
アメリカを敵視している代表的なイランと、一定の距離を置いている中国がこのような実態ですから、他の国は当然の如く、一般の人々がアメリカに持つ感情は好意的な事実を「脱米潮流」が伝えています。そのことを意外と思いつつも、成る程と納得します。

超格差社会

もう一冊ご紹介します。「アメリカの真実・小林由美著 日経BP社」です。今のアメリカは四つの階層に明確に分かれていると分析しています。
まずトップに「特権階級」として、400世帯前後いるとされている純資産10億ドル(1200億円)以上の超金持ちと、5000世帯強と推測される純資産1億ドル
(120億円)以上の金持ちがいます。
次に「プロフッショナル層」として純資産1千万ドル(12億円)以上の富裕層と、純資産200万ドル(24,000万円)以上で、且つ年間所得20万ドル(2400万円)以上のアッパーミドル層で、この層は高級を稼ぎ出すための、高度な専門的スキルやノウハウ、メンタリティを持っている人たちです。以上の二階層500万世帯前後は、全米
11,000万世帯の5%ですが、ここに全米の富の60%が集中していて、経済的に安心して暮らしていけるのは、この5%の金持ちだけだと断定しています。
三階層目は「貧困層」ですが、ここで疑問をもつのは、かつての中産階級はどこに行ったかですが、アメリカの中産階級は70年代以降、国力が相対的に低下する過程で、徐々に二分されてきて、一部は高度な専門的スキルやノウハウを磨いて「プロフッショナル層」へステップアップしたが、しかし、大半は「貧困層」に移ってしまい、その理由は製造業の衰退で、レイオフされたがステップアップできなかったためであり、これはマイケル・ムーア監督映画「ロジャー&ミー」にあるとおりと述べています。
最下級層は「落ちこぼれ層」で、四人家族で年間世帯所得23,100ドル(280万円)以下と、スラムや南部諸州に集中している黒人やヒスパニック、インディアンと、海外からの難民と密入国した違法移民で、この層が全人口の25%から30%占めています。

ニート・フリーターへの見解

アメリカの公立小学校では、まず、話すための英語から学びだします。移民が多いので話し言葉から入るのです。日本は入学時に既に日本語を話せるから文字から入ります。ですから、アメリカの公立学校のレベルは低く、ここで学ぶ「落ちこぼれ層」は決してエリート大学には行けず、最下級層から脱皮できないというのが現実で、格差社会は解決できないのです。しかし、今日本で問題となっているニートやフリーター格差問題は、アメリカとは全く違い、自らがキャリア開発しないからその立場にいるのであって、その背景にキャリアを会社から与えられるものと考える甘さがあり、その感覚を許している日本人の他人任せ解決姿勢を、厳しく問題視しているこの本の指摘を、成る程と思います。以上。

投稿者 Master : 2006年11月21日 12:29

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